【完結済】敗者の街 ― Requiem to the past ―

譚月遊生季

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第1章 Rain of Hail

31. title: a certain sinner’s memory

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「愛しているわ、カミーユ」
「僕もだよ」

 嘘つき。

「あなたが一番素敵よ」
「そっか、嬉しいな」

 嘘つき。

「あなたは、とても素晴らしい人ね」
「君も、とても魅力的だよ」

 嘘つき。

 君が好きだったのは、僕じゃないよ。
 君が愛したのは、僕の作品Sang。僕自身じゃない。

 あなたが愛したのは、わたしじゃないわ。
 あなたが見ていたのはずっと、ずっとずっとずうっと……あなたの芸術に惹かれたエレーヌわたし



 永遠に、許さない。逃がさないわ。
 描き続ければいい。気が狂ってもあなたは描き続ける。
 それを、望んだのはあなたよ。



「……カミーユ、ボクは確かに協力者だ。だからこそ、伝える義務がある」

 知ってるよ、サワ。

「キミに取り憑いてる霊は、ノエルとボク、そして「我が友」……3人だけだ。もう1人なんて、ボクには感じられない」

 ……分かってる。それでも、いるんだよ。

「エレーヌの声が聞こえるというのなら、きっと、それは幻聴。ゆっくり休みなさいな。そうしたらいつか消えるわ!」

 ……エレーヌは、いるんだよ。
 そこで、僕を見ているんだ。

 彼女は決して僕を逃がしはしない。
 彼女がいる限り、僕は、芸術から逃げられはしない。

「カミーユ。それはね、エレーヌじゃないよ」

 …………彼女は、エレーヌは、

 僕を誑かした悪魔であり、僕を導いた女神であり、僕の、罪そのものだ。

『カミーユ。最も愛し、憎んだ男。あなたは神も悪魔も信じなかったわね。なら、救われる手立てもないわ。ずっと「Sang」に苦しめられればいい。永久に呪ってやる!死ぬまで芸術に囚われてしまえ!!』

 ……ノートに書き殴られた呪詛。
 その呪いこそ、最高の祝福だよ、エレーヌ。

「…………そう。貴方は、愛されていたかったのね」

 刻一刻と消えていく、彼女の声、姿、記憶。

 だから、描いた。君の姿を、忘れないうちに。
 愛しい寝顔あくまも、心を切り刻む死に顔めがみも!

 さあ、また会いに来て。
 背後から抱きしめて、そして、ナイフを首に突きつけて、

 ──あなたとなんか、出会わなければ良かったわ

 僕の心を、何度も何度も何度も何度も殺して……!
 それが、「Sang」の糧になる。その苦痛が、その悦楽が、僕を狂わせる。その刹那に、その深層に、至上の美が確かに……!!

「……エレーヌは、もういないよ」

 ……そんなこと、僕が一番知ってるさ。
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