【完結済】敗者の街 ― Requiem to the past ―

譚月遊生季

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第4章 Save and Live

55. 交差

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「……そうかい。キース、死んだんだね」

 電話先で、彼女は大きくため息をついた。

「そんなに仲良かったとも思ってないけど……バカだねぇ、あいつ」

 僅かに声を震わせ、サーラはしばらく押し黙っていた。



 ロバートは根源とやらを探していたけど、事態はそういう問題でもなさそうだ。
 積もった負の感情、その場を作りあげた複数人の意思、維持したい、または利用したいという思惑……もろもろ絡み合った結果が、あの現象。
 そんなのを解決したいってんなら、こっちはこっちで人手がいる。いや、俺はあっちには行かねぇけど。……何もできるわけないし。

「……しっかし、妙だね。いくらなんでも都合よくあたしに繋がりすぎだよ」
「俺んとこのインターネットに何か潜んでるのは……まあ、知ってます」
「そうかい。なら、変化がありゃ連絡するよ」

 電話が切れる。
 キーボードが音を奏でることなく、画面に文字が浮かび上がる。
 ぽつり、ぽつりと、テキストデータに書き込まれる文字。



 ねえさん
 会いたい



 怨念たちに混ざった、純粋な思い。

『アンジェロか?お前』

 おっかなびっくり、書き込んでみる。



 そう
 おまえに殺された



 ちょっと待て、俺は誰も殺してねぇぞ。
 ……もしかして小説で……?いやいや、童話作家だぞ、俺。

『人違いだろ』



 たぶん
 だから、見てた



『顔が似てる……とか?』

 ああ、また、あの人か。
 ……また、クソ兄貴の方か。
  あの野郎は俺のことなんか眼中に無いくせに、俺から確かに多くを奪っていく人だった。……そうやってあの人もぼろぼろに傷つけて、泣かせて、……壊したんだ。



 たぶん
 ごめんな



『……お前、助け呼んでくれたのか』



 うん
 あと、会いたかった
 とうさんと、ねえさんと、友達に



 俺は、会いたくなかったよ。
 ロバートにも、カミーユにも、ブライアンにも。……兄さんにも。
 会いたくなかったよ。……本当はもう、現実を見るの自体が嫌だった。



 ロッド、暇だったからいろいろ読んだ
 おまえの話、わかりやすい



『対象年齢が10歳とかだしな』



 おれ、読み書きは苦手
 助かる



 認められたくて、書いてただけだっつの。
 兄貴より、姉貴より、誰かに……いや、あの人に、見て欲しかっただけだ。



 泣くなよ
 友達
 なってやろうか?



 ……俺は、友達なんか、……友達なんか……

 柔らかくて、困ったように控えめな笑顔を思い出した。自分ばっかりに頼るなよ、と、呆れたようにデコピンしたあの人が望んだのは……いつまでも虚勢で取り繕ったまま立ち直れない俺だろうか。




『メル友から、なら』
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