世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく 〜ROOTS(ルーツ)〜

いぬは

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Case 05:Good and Evil

27:幽霊も色々たいへんです

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「藤宮、もう少し離れろよ!」

「イヤですよ。いいじゃないですか、女の子に抱きつかれるなんて。先輩、嬉しくないんですか?」

「はぁ……」

 今がどんな状況かと言うと、黒髪ロングの幽霊の向かいのベンチに座る俺、俺の腕にしがみつく藤宮、それをスマホで撮影中のブッチ。まあ、こんな感じのカオスな状況だ。
 ……SNSに上げるつもりなら没収な。

「なあ、ここの運営会社から“不気味な声にスタッフが怖がって仕事にならない”って苦情が出てるんだが?」

 幽霊に俺たちがなぜ来たのかを説明する。

「そんなこと言ったってぇ、私は勝手に連れられて来たわけだしぃ」

「どういうことだ?」

「もともと私は、ある“呪物タレント”が集めてた人形に取り憑いてたのよ。それを、このお化け屋敷の“雰囲気に合うから”って理由で、勝手に飾られて“チョベリバ”って感じよ」

「な、なるほど……それは、災難だったな」

「でしょ~? それにここの先輩霊、ルールとかにうるさいんですよね」

「……じゃあ、その人形をどこかに移せば、お前も一緒にいなくなるのか?」

「まあ、そうなんだけどぉ……どうせなら“成仏”させてほしいかな。
 ――先輩、怖いし。“配属ガチャ失敗”ってやつ?」

「はぁ、わかったよ。聞いてみる」

「ほんと? やった~!」

 そう言って抱きついてこようとする女霊の動きを、念動で止める。

 隣の藤宮はミョルニルを構え女霊を睨んでいる……。
 オカルト好きなくせに、どんだけビビってんだよ。

「もう、ちょっとくらい良いじゃない」

 いや、霊に抱きつかれるとか遠慮する。

 俺は、SweepではなくROOTSに連絡を入れる。
 事件が“怪異”だと判明した場合は、ROOTSに連絡する手筈になっているからだ。

「いま、連絡して除霊師を手配した。本当に除霊していいんだな?」

「ええ、いいわ」

「遊園地の経営者に話せば、元の場所に戻れるかもしれないぞ?」

「だって、ここの幽霊屋敷に来るのってカップルばっかなのよ。それでSNS用に二人で写真撮ったりして楽しそうにしてるのよ。それ見てたら、私なにやってんだろって思っちゃったんだよねぇ」

「ま、まあ……幽霊にもいろいろ悩みがあるんだな……」

 その後、手配した除霊師によって、女の霊は静かに成仏していった。
 去り際に――「彼女さんを大切にね」なんて、勘違いも甚だしい言葉を残して。


 ◇◆◇


「初依頼ご苦労さま。――初仕事で“当たり”を引くなんて、さすが噂どおりね」

 ……絶対、ろくな噂じゃないよな。
 この調子だと、毎回当たりを引くなんて事態が起こりそうで不安しかないんだが。

「一応、“変な声”の原因は“地下室のボイラーの振動でパイプが共鳴してた”ってことにしておきましたけど、大丈夫ですか?」

「ええ、それで構わないわ」

「なんとか、最初の依頼を無事にこなせてホッとしました」

「今後もよろしくね」
 そう言って星乃社長は微笑む。

「そうだ、急な話で悪いんだけど――来週、会社の創業感謝パーティーがあるの。あなたたちも招待するわね」

「え、俺たちも創業感謝パーティーにですか?」

「ええ。今回のパーティーは外部向けじゃなくて、関係者向けだから、気軽に参加してくれればいいわ。それに、ちょっとした“余興”もあるから――あなたたちはただ楽しんでちょうだい」

 創業パーティー、か……。
 なかなか経験でききるものではないし、少し楽しみだな。


 ◇◆◇


 俺はいま、アパートの前でパーティーの迎えを待っている。
 普段は着ないスーツなんて着てるから、そわそわして落ち着かない。

 隣には、いつものラフな格好とは違い――
 黒のタキシードに、緑の蝶ネクタイでお洒落に決めたブッチが立っている。

 今回のパーティーは、事情を知っている関係者だけの集まりらしく、ブッチも“普通に”参加OKだ。

「なあ、ブッチ。パーティーとか行ったことあるか?」

「ないクワッ」

「……だよなぁ」

 二人して、しばらく黙り込む。
 夜風が少し冷たくて、余計に落ち着かない。

 やばい。緊張してきた!

 そのとき、アパートの前に黒塗りの高級車がゆっくりと止まった。
 ボンネットの先には、妖精のようなマスコットが光を反射してきらりと輝く。

 ぼんやり眺めていると、運転手がドアを開けてくれるので乗り込む。

「し、失礼します……」

 車内は全て革張りで、柔らかな照明が灯っている。
 車の価値はわからないが、間違いなく“庶民には縁のない世界”の代物だった。
 
 俺たちが乗り込むと、車が静かに動き出す。
 窓の外では、同じアパートの住人たちが、物珍しそうにこちらを覗いていて少し恥ずかしい。

 車は大通りに出て、二十分ほど走ったところで止まる。

 運転手が降りて扉を開けると――。
 黒のブラウスにグレーのワンピース、シルバーの太めのヒール。
 少しぎこちない足取りで、藤宮が乗り込んできた。

「あ、先輩、ブッチ君こんばんは! 何ですかこの車! すごいですね!」

「ああ、俺もこんなの乗るの初めてだ」

 二人と一匹で今日のパーティーについて話しているうちに、車は目的地に到着する。
 パーティー会場はホテルのホールを貸し切って行われていた。

 受付を済ませて会場に入る。天井からは巨大なシャンデリアが光を放ち、円卓の上には軽食とシャンパンが整然と並んでいる。

 招待客たちは全員フォーマルな装いで、テレビでよく見るパーティーそのものの雰囲気だった。
 すでに歓談が始まっており、奥には星乃社長が来賓たちと話している姿が見える。

「先輩……なんか緊張してきました」

「ああ、俺もだ」

「何だお前たち食わないのクワッ?」

 ――ブッチは皿に料理を取り分け、すでにパーティーを楽しんでいるようだ。

「失礼ですが、そちらは……カッパかな?」

 近づいてきた老紳士に声を掛けられた。

「見りゃわかんだろ! カッパ舐めてんのクワッ!」

「ちょ、ブッチ! すみません、口癖みたいなものなので……悪気はないんです。たぶん」

 無礼な物言いのブッチの代わりに、俺が慌てて頭を下げる。

「お前は初対面のやつに、いきなり“お前は人間か?”なんて言われたらどう思うクワッ!」

 ……まあ、言い分はわからなくもないけどな。

「これは失礼しました。配慮が足りなかったのはこちらです。申し訳ない」

 そう言って、逆に謝られてしまった。
 どうやら気を悪くしていないようでよかった。

「カッパと一緒にいるということは……あなたたちが噂の“期待の新人”ですかな?」

「え? 俺たちのこと、知ってるんですか?」

「“ミョルニル事件”では大活躍だったとか。一度お会いしてみたかったんですよ」

 ……結局、出勤停止になったけどな。

「おや、それが例の“ミョルニル”ですか。――美しいお嬢さんに、お似合いですね」

 老紳士の視線が、藤宮の腕に光るミョルニルに向く。

「あ、ありがとうございます! 先輩、今“美しいお嬢さん”って言われましたよ!」

 ……嬉しいのはわかるけど、完全に社交辞令だからな。
 老紳士はそれを見てニコニコと微笑んでいる。

「それでは、私はこのへんで。有名なお二方とカッパ殿にお会いできて光栄でした」

 そう言って、老紳士は軽く一礼し、他の招待客の方へと歩いていった。

 ――しばらくすると、会場のライトがゆっくりと落ち、ざわめきが静まっていく。
 天井のシャンデリアの光が消え、代わりに舞台中央へと一本のスポットライトが当たる。

 その光の中に、Sweepの社長・星乃が姿を現す。

 白いドレスに銀のアクセサリーを纏い、凛とした立ち姿でマイクの前に立つその姿は、まるで舞台女優のようだ。

「――皆さま、本日はお忙しい中、Sweep創業パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます」

 その一言で、パーティーが始まった。
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