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Case 05:Good and Evil
28:かんなぎの歌声
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会場には、豪華な食事が次々と運ばれ、歓談が始まっていた。
俺たちのところにも次々と人が挨拶に来て、正直、食事どころじゃない。
お目当てはやっぱり――藤宮の腕に輝く“ミョルニル”だ。
「これが、例の停電事件の“キューブ”ですか?」「少し触らせてもらっても?」
そんな質問攻めに、藤宮は嬉しそうに対応している。
一方のブッチも意外と人気で、名刺を差し出されては――
「会社のマスコットとしてバーチャルデビューしませんか!」
「企業コラボとか興味ありませんか?」
なんて言われていた。
本人もまんざらじゃない様子だ。
ブッチが見えるってことは、あの人たちも能力者ってことかな?
ちなみに俺はというと……
「ほほう、キミが“巻き込まれ体質の神楽”氏かい? 少し触ってもいいかな?」
「むひょー! 今度、吾輩の研究ラボに招待するがね!」
などと、怪しげな面々に囲まれている最中だ。
見た目からして、“呪術師”や“魔術師”っぽい格好の人……
中には明らかに研究者っぽい人間まで混ざっていた。
いや、なんでみんな俺に触りたがるんだよ……呪物や研究対象扱いかよ!
すると、司会のアナウンスが入り、会場のざわめきが一瞬静まった。
『――続きまして、本日の特別ゲストをご紹介いたします!』
再び、照明がゆっくりと落ちていく。
舞台にスポットライトが当たり、そこに一人の女性が現れた。
その瞬間、会場のあちこちから小さな歓声が上がる。
「あれって……確かアイドルの、鏡見 茜(かがみ あかね)だよな?」
「おっ、ゲームオタクの先輩でも“あかりん”は知ってたんですね」
地味にディスりを混ぜながら、藤宮が得意げに説明する。
「あかりんって、最近“見えるアイドル”なんて言われてるんですよ!」
「なるほど。じゃあ、あれはやっぱり……」
俺は、舞台の上で鏡見の後ろをトコトコと歩く“白いキツネ”に目を向ける。
ふわりと尾を揺らし、金色の瞳がこちらを向く。
すると、鏡見がまるで合図を受けたように、こちらを振り返ってニコッと微笑む。
(……今、目が合ったよな? いや、自意識過剰か?)
「せ、先輩! あかりんがこっち見て笑いましたよ! 後でサインとか貰えますかね!?」
藤宮はテンション爆上がりだ。
一方のブッチはというと、腕を組んでじっと舞台を睨んでいる。
「どした、ブッチ。まさか“あかりん推し”とかじゃ――」
「違うクワッ! あの白いキツネ、今こっち見て“鼻で笑った”クワッ!」
「は? いや、ちらっと見ただけだろ。気にしすぎだ」
その時、星乃社長がマイクを握り、鏡見の紹介を始めた。
会場の照明が再び落ち、スポットライトが彼女に当たる。
長い黒髪はライトに照らせれ輝き、肌は白雪のようだ。
「皆さま、本日の特別ゲスト――鏡見 茜さんです!」
拍手と歓声が湧き起こり、鏡見がゆっくりと頭を下げる。
そしてマイクを手に取り、柔らかく微笑んで口を開いた。
「今日はSweet創業をお祝いできて光栄です。心をこめて歌わせていただきますね」
BGMが流れ、彼女が歌い始める。
透き通るような歌声がホールいっぱいに響いた。
その歌声にみんなが魅了されている中、数人の人物は鏡見の隣に佇む“キツネ”に視線を向けているように見える。
その中には、さっきブッチに声を掛けていた人たちもいる。
やっぱり、能力者にしか見えてないみたいだな。
会場全体が、しんと静まり返っていく。
誰もが彼女の歌に聴き入っている――というより、“心酔している”ようだ。
……きれいな歌声だけど、何かがおかしい。――なんだこの違和感?
隣の藤宮は興奮はしてるようだけど、他の客とは違い心酔しているという感じは受けない。
ただ、腕にはめたミョルニルが、ぼんやりと光を放っている。
「あいつ、力を使ってるクワッ」
「力?」
「微弱だけど……たぶん“魅了系”クワッ!」
「はぁ? 会場のみんなを力で魅了してるっていうのか?」
そう言いつつも、俺の全身にはさっきからピリピリッと痺れる感覚はある。
……本当なのか?
舞台で歌う鏡見を見て、次にキツネを見る。
その刹那。白い毛並みがふわりと揺れ、金色の瞳が――わずかに細まる。
……笑った? 今のは確実に目が合った!
その瞬間、全身の肌が粟立つ。恐怖というより――以前ダイダラ事件で出会った市杵嶋姫の気配と似た感覚。
やがて歌が終わると、会場の照明がふっと明るくなる。
拍手の中、鏡見は軽く息を整え、マイクを手に取った。
「ありがとうございます。いまの曲は、次にリリースする新曲です。もし気に入っていただけたら――ぜひ応援してくださいね」
そう言って、にこりと笑う。営業トークも抜かりない。
だが、次の瞬間――彼女の表情が少しだけ真剣なものに変わった。
「それから……先ほど“私の能力”を、少しだけ使わせていただきました」
会場がざわつく。
招待客の何人かが顔を見合わせるのが見えた。
「今使ったのは、“言霊”を歌に乗せて魅了する能力です。でも、ご安心ください――効果は一時的なものですから」
静寂の後、どこからともなく拍手が湧き上がり、やがてホール全体に広がっていく。
「いやぁ、さすが“かんなぎ”の家系。すっかり魅了されてしまいましたな」
「私も一気にファンになってしまいましたよ」
周囲から感嘆の声が次々と上がる中――
俺の中には、言葉にできない“引っかかり”が残っていた。
(……今のは本当に“一時的”なのか?)
その後、会場は再び歓談ムードに戻る。
鏡見もさっきまで舞台にいたとは思えないほど自然に、招待客の輪に溶け込んでいた。
「先輩、先輩。あかりんにサインもらいに行きましょうよ!」
「いや、俺は……」
断ろうとした時、背後から柔らかな声がかかった。
「あら、私のサインはいりませんか? 少し悲しいです」
振り向くと、そこには鏡見 茜がいた。
すねたような微笑みを浮かべながら、手には飲み物のグラス。
その足元には、あの“白いキツネ”が静かに寄り添っている。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「ふふっ、冗談です。――鈴が気にしてたから、話してみたかったんです」
「鈴?」
「この子です」
そう言って鏡見は、白いキツネを抱き上げる。
その毛並みが照明を反射して、白く輝く。
「鈴(すず)じゃ」
……喋った。
「鈴ちゃんっていうんだぁ」
藤宮が目を輝かせながら笑う。
「なぜか、お主とそこの娘から――かすかに“神力”を感じるのじゃが。なぜじゃ、答えよ」
その金色の瞳が、じっと俺と藤宮を見据える。
人混みの中なのに、威圧のようなものを感じる。
「もう、鈴、いきなり失礼じゃない!」
鏡見が慌ててなだめる。
俺は苦笑いしながら、ダイダラ事件のあらましを簡単に話した。
鏡見は興味深そうに聞いていたが――“鈴”のほうは、最後まで一言も喋らず、ただ静かに俺たちを見つめていた。
「……なるほど、相分かった」
やがて鈴がそう呟き、満足げに頷いた。
「ごめんなさい。いつもは素直ないい子なんですけど……たまに、こんな感じになるんです」
鏡見が少し困ったように笑う。
「いや、大丈夫。こっちにも扱いの難しいヤツがいるからな」
そう言ってブッチを見ると――
「なんで、おれっちを見るクワッ! 舐めてんのクワッ!」
案の定、声を荒げるブッチ。
その様子に、鏡見は口元を押さえてクスクスと笑い、鈴は「フンッ」と鼻を鳴らした。
その後、藤宮がサインをおねだりしたり、ミョルニルを紹介している。
その光景を、何気なく眺めていた俺に――鈴が、ぽつりと話しかけてきた。
「……なにやら、胸騒ぎがするのじゃ」
おいおい、変なフラグ立てんなよ!
――その時だった。
天井のシャンデリアが、甲高い悲鳴のような音を立てて砕け散る。
光の破片が宙に舞い、会場が一瞬スローモーションのように静止する。
そして、遅れて響く悲鳴。
それが、新たな事件の幕開けの――合図だった。
俺たちのところにも次々と人が挨拶に来て、正直、食事どころじゃない。
お目当てはやっぱり――藤宮の腕に輝く“ミョルニル”だ。
「これが、例の停電事件の“キューブ”ですか?」「少し触らせてもらっても?」
そんな質問攻めに、藤宮は嬉しそうに対応している。
一方のブッチも意外と人気で、名刺を差し出されては――
「会社のマスコットとしてバーチャルデビューしませんか!」
「企業コラボとか興味ありませんか?」
なんて言われていた。
本人もまんざらじゃない様子だ。
ブッチが見えるってことは、あの人たちも能力者ってことかな?
ちなみに俺はというと……
「ほほう、キミが“巻き込まれ体質の神楽”氏かい? 少し触ってもいいかな?」
「むひょー! 今度、吾輩の研究ラボに招待するがね!」
などと、怪しげな面々に囲まれている最中だ。
見た目からして、“呪術師”や“魔術師”っぽい格好の人……
中には明らかに研究者っぽい人間まで混ざっていた。
いや、なんでみんな俺に触りたがるんだよ……呪物や研究対象扱いかよ!
すると、司会のアナウンスが入り、会場のざわめきが一瞬静まった。
『――続きまして、本日の特別ゲストをご紹介いたします!』
再び、照明がゆっくりと落ちていく。
舞台にスポットライトが当たり、そこに一人の女性が現れた。
その瞬間、会場のあちこちから小さな歓声が上がる。
「あれって……確かアイドルの、鏡見 茜(かがみ あかね)だよな?」
「おっ、ゲームオタクの先輩でも“あかりん”は知ってたんですね」
地味にディスりを混ぜながら、藤宮が得意げに説明する。
「あかりんって、最近“見えるアイドル”なんて言われてるんですよ!」
「なるほど。じゃあ、あれはやっぱり……」
俺は、舞台の上で鏡見の後ろをトコトコと歩く“白いキツネ”に目を向ける。
ふわりと尾を揺らし、金色の瞳がこちらを向く。
すると、鏡見がまるで合図を受けたように、こちらを振り返ってニコッと微笑む。
(……今、目が合ったよな? いや、自意識過剰か?)
「せ、先輩! あかりんがこっち見て笑いましたよ! 後でサインとか貰えますかね!?」
藤宮はテンション爆上がりだ。
一方のブッチはというと、腕を組んでじっと舞台を睨んでいる。
「どした、ブッチ。まさか“あかりん推し”とかじゃ――」
「違うクワッ! あの白いキツネ、今こっち見て“鼻で笑った”クワッ!」
「は? いや、ちらっと見ただけだろ。気にしすぎだ」
その時、星乃社長がマイクを握り、鏡見の紹介を始めた。
会場の照明が再び落ち、スポットライトが彼女に当たる。
長い黒髪はライトに照らせれ輝き、肌は白雪のようだ。
「皆さま、本日の特別ゲスト――鏡見 茜さんです!」
拍手と歓声が湧き起こり、鏡見がゆっくりと頭を下げる。
そしてマイクを手に取り、柔らかく微笑んで口を開いた。
「今日はSweet創業をお祝いできて光栄です。心をこめて歌わせていただきますね」
BGMが流れ、彼女が歌い始める。
透き通るような歌声がホールいっぱいに響いた。
その歌声にみんなが魅了されている中、数人の人物は鏡見の隣に佇む“キツネ”に視線を向けているように見える。
その中には、さっきブッチに声を掛けていた人たちもいる。
やっぱり、能力者にしか見えてないみたいだな。
会場全体が、しんと静まり返っていく。
誰もが彼女の歌に聴き入っている――というより、“心酔している”ようだ。
……きれいな歌声だけど、何かがおかしい。――なんだこの違和感?
隣の藤宮は興奮はしてるようだけど、他の客とは違い心酔しているという感じは受けない。
ただ、腕にはめたミョルニルが、ぼんやりと光を放っている。
「あいつ、力を使ってるクワッ」
「力?」
「微弱だけど……たぶん“魅了系”クワッ!」
「はぁ? 会場のみんなを力で魅了してるっていうのか?」
そう言いつつも、俺の全身にはさっきからピリピリッと痺れる感覚はある。
……本当なのか?
舞台で歌う鏡見を見て、次にキツネを見る。
その刹那。白い毛並みがふわりと揺れ、金色の瞳が――わずかに細まる。
……笑った? 今のは確実に目が合った!
その瞬間、全身の肌が粟立つ。恐怖というより――以前ダイダラ事件で出会った市杵嶋姫の気配と似た感覚。
やがて歌が終わると、会場の照明がふっと明るくなる。
拍手の中、鏡見は軽く息を整え、マイクを手に取った。
「ありがとうございます。いまの曲は、次にリリースする新曲です。もし気に入っていただけたら――ぜひ応援してくださいね」
そう言って、にこりと笑う。営業トークも抜かりない。
だが、次の瞬間――彼女の表情が少しだけ真剣なものに変わった。
「それから……先ほど“私の能力”を、少しだけ使わせていただきました」
会場がざわつく。
招待客の何人かが顔を見合わせるのが見えた。
「今使ったのは、“言霊”を歌に乗せて魅了する能力です。でも、ご安心ください――効果は一時的なものですから」
静寂の後、どこからともなく拍手が湧き上がり、やがてホール全体に広がっていく。
「いやぁ、さすが“かんなぎ”の家系。すっかり魅了されてしまいましたな」
「私も一気にファンになってしまいましたよ」
周囲から感嘆の声が次々と上がる中――
俺の中には、言葉にできない“引っかかり”が残っていた。
(……今のは本当に“一時的”なのか?)
その後、会場は再び歓談ムードに戻る。
鏡見もさっきまで舞台にいたとは思えないほど自然に、招待客の輪に溶け込んでいた。
「先輩、先輩。あかりんにサインもらいに行きましょうよ!」
「いや、俺は……」
断ろうとした時、背後から柔らかな声がかかった。
「あら、私のサインはいりませんか? 少し悲しいです」
振り向くと、そこには鏡見 茜がいた。
すねたような微笑みを浮かべながら、手には飲み物のグラス。
その足元には、あの“白いキツネ”が静かに寄り添っている。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「ふふっ、冗談です。――鈴が気にしてたから、話してみたかったんです」
「鈴?」
「この子です」
そう言って鏡見は、白いキツネを抱き上げる。
その毛並みが照明を反射して、白く輝く。
「鈴(すず)じゃ」
……喋った。
「鈴ちゃんっていうんだぁ」
藤宮が目を輝かせながら笑う。
「なぜか、お主とそこの娘から――かすかに“神力”を感じるのじゃが。なぜじゃ、答えよ」
その金色の瞳が、じっと俺と藤宮を見据える。
人混みの中なのに、威圧のようなものを感じる。
「もう、鈴、いきなり失礼じゃない!」
鏡見が慌ててなだめる。
俺は苦笑いしながら、ダイダラ事件のあらましを簡単に話した。
鏡見は興味深そうに聞いていたが――“鈴”のほうは、最後まで一言も喋らず、ただ静かに俺たちを見つめていた。
「……なるほど、相分かった」
やがて鈴がそう呟き、満足げに頷いた。
「ごめんなさい。いつもは素直ないい子なんですけど……たまに、こんな感じになるんです」
鏡見が少し困ったように笑う。
「いや、大丈夫。こっちにも扱いの難しいヤツがいるからな」
そう言ってブッチを見ると――
「なんで、おれっちを見るクワッ! 舐めてんのクワッ!」
案の定、声を荒げるブッチ。
その様子に、鏡見は口元を押さえてクスクスと笑い、鈴は「フンッ」と鼻を鳴らした。
その後、藤宮がサインをおねだりしたり、ミョルニルを紹介している。
その光景を、何気なく眺めていた俺に――鈴が、ぽつりと話しかけてきた。
「……なにやら、胸騒ぎがするのじゃ」
おいおい、変なフラグ立てんなよ!
――その時だった。
天井のシャンデリアが、甲高い悲鳴のような音を立てて砕け散る。
光の破片が宙に舞い、会場が一瞬スローモーションのように静止する。
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