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Case 05:Good and Evil
29:駄目なものは駄目なんです!
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「藤宮、そっちのやつを頼む!」
「りょ、了解!」
幽霊が苦手な藤宮もなんとか頑張ってるな。
「しかし、何匹いるんだ、キリがないぞ!」
今、俺たちは――大混乱に陥った会場で“幽霊”と戦っている。
さっきまで歓談していた会場は、今や阿鼻叫喚。
宙を漂う半透明の影たちが、悲鳴を上げる招待客を次々と掴み上げては――キャッチボールのように投げ合っている。
テーブルクロスが宙に舞い、ワイングラスが砕け散る。
床下から顔を覗かせた幽霊が、テーブルに隠れていた客を驚かせては高笑いしていた。
「なんなんだよ、こいつら! ただ怖がらせて遊んでるだけじゃねぇか!」
「ええ……目的がわからないわ! 本当にただの嫌がらせなの?」
俺の隣では、星乃社長が招待客を庇いながら身をかがめている。
ドレスの裾が汚れても気にする様子もなく、冷静に状況を分析している。
すると、星乃社長の後ろに隠れていた鏡見が話しかけてきた。
「神楽さん、少しの間――私に霊たちを近づけさせないようにしてもらえますか?」
「どうした。なにか、いい方法があるのか?」
「ええ。“邪”を払ってみます」
「邪を払う? ……わかった。まかせておけ!」
そう言って俺は、鏡見を守るように前に立つ。
すると、鏡見は静かに目を閉じ、胸の前で両手を掲げた。
次の瞬間――鈴の音が、空気を震わせる。
――シャリン。
――シャリン。
――シャリン……。
どこからともなく響くその音が、会場に響き渡る。
冷たい霧のようなものが舞い降り、揺らめくシャンデリアの光が幻想的にきらめく。
鈴が鳴るたびに、霊たちは顔を歪め、ひとつ、またひとつと――溶けるように消えていく。
やがて、あれほど暴れていた影たちはすべて霧散し、会場には静寂だけが残った。
――シャリン……。
誰もが息をするのを忘れたように、その場に立ち尽くす。
静まり返った会場に響く鈴の音は、やがて歓声と拍手によって掻き消える。
◇◆◇
会場の後片付けを、ホールスタッフたちが慌ただしく行っている。
砕け散ったガラスの音がまだどこかで響き、焦げた照明の匂いがわずかに残っていた。
大きな損害はシャンデリア一つ――騒ぎの規模にしては、奇跡的に少ない。
負傷者も、逃げる際に転んだり、ぶつかったりした打撲程度で済んでいた。
大惨事にはならなかった。それだけでも、ほっと胸を撫で下ろす。
「大変なことになりましたね」
後片付けを見守りながら呟く。
「そうね。でも結果的に被害も大したことはなかったし、招待客からも“今後の活躍に期待している”なんて、逆に励ましの言葉をたくさんもらったわ」
「怪異の脅威を身近に感じて、危機意識が高まったんですかね」
「ええ。――言葉で聞くのと、実際に“見る”のとでは、やっぱり違うのよ」
星乃社長は、遠くに残ったガラス片を見つめながら静かに言った。
その決意のこもった横顔は、責任を背負う者の表情だと感じた。
「それで、早速で悪いんだけど……」
「犯人の捜索ですね」
「ええ、お願いできるかしら?」
「もちろんです」
こうして、俺はSweepからの“二つ目の依頼”を引き受けた。
正式な依頼は星乃社長からROOTSに出しておくと言われ、俺はさっそく調査に取りかかる。
「先輩、どこから調べます?」
「そうだな、確か招待客の中に霊媒師がいたはずだ。まずはその人に話を聞いてみるか」
藤宮の問いに答え、ブッチに情報を調べてもらう。
霊媒師の事務所は、パーティー会場だったホテルから数分の場所にあった。
電話でアポを取り、俺たちは事務所を訪ねる。
“霊媒師の事務所”なんていうから、どんな事務所かと思ったが、見た目はごく普通のオフィスという感じだ。
「漠然とした質問で申し訳ないんですが、今回の霊について何か気づいた点などはありませんか?」
俺の質問に、スーツ姿の霊媒師は少し考え込んでから話し出す。
「そうですね……まず、幽霊が“集団行動”をとること自体が、そもそもあり得ません。明らかに不自然です」
「つまり、今回は異例だと?」
「ええ。考えられるのは――“幽霊を操る何者か”が背後にいるということです。そして、おそらく犯人は複数人」
“複数”という言葉に、俺と藤宮は思わず顔を見合わせた。
「その根拠は?」
「まず数です。あの規模の幽霊を一度に操るには、相当な使い手でなければ不可能。
ですが、やっていたことはあまりに幼稚で、目的も不明瞭……“ただ騒ぎを起こして楽しんでいるだけの素人”。そんな印象を受けました」
霊媒師としての経験が、そう感じさせるのだろう。
「それに――現場で感じた“波長”がバラバラだったんです。幽霊と交信する際に感じ取る、周波数のようなものです」
「つまり、その周波数が一致していなかったから、操っていた者が複数人だと……?」
「はい。そして少なくとも――五人以上」
その言葉には、確信めいた響きがあった。
その後も詳しく話を聞き、礼を言って事務所を後にする。
「さて、どうするかな。やっぱり……あそこに行くしかないか」
「ほ、本当に行くんですか? 私、お腹が痛くなってきました」
藤宮が急にそんな事を言い出す。
「はぁ……オカルト好きなのに、なんで幽霊が駄目なんだよ」
「駄目なものは、駄目なんです!」
「鬼頭さんも言ってたろ。幽霊はいわゆる“精霊の一種”だって。ホラー映画の見すぎなんじゃないか?」
「じゃあ先輩は、幽霊怖くないんですか?」
「そりゃ怖いさ。だけど……能力に目覚めてから、そのへんの感覚がちょっと鈍いっていうか」
「ズルいです! ミーちゃん、私も何とかならない?」
藤宮の腕にはまるミョルニルが、困ったようにチカチカと点滅した。
俺は苦笑しながら首を横に振る。
「じゃあ――夜になったら行くぞ。“霊園”」
霊媒師いわく、幽霊とコンタクトを取るならやっぱり“墓場が一番”らしい。
藤宮の絶望した顔を横目に、俺は歩き出す。
◇◆◇
――日はすでに傾き、空は茜から群青へと変わり始めていた。
夜の霊園へ向かうには、ちょうどいい時間だ。
「うぅぅぅ……」
藤宮が俺の腕にしがみつき、不気味な声を発している。
「その声やめろよ、こっちが怖いんだが!」
「はぁ、こりゃ役に立ちそうにないクワッ」
ブッチも呆れ顔でぼやく。
「お腹痛いって言ったじゃないですか!」
「そんな都合よく痛くなってたまるか! ちょっと前までホテルのスイーツ食ってただろ!」
「それとこれは別ですよ……」
まったく、別腹みたいに言うなよ……。
「りょ、了解!」
幽霊が苦手な藤宮もなんとか頑張ってるな。
「しかし、何匹いるんだ、キリがないぞ!」
今、俺たちは――大混乱に陥った会場で“幽霊”と戦っている。
さっきまで歓談していた会場は、今や阿鼻叫喚。
宙を漂う半透明の影たちが、悲鳴を上げる招待客を次々と掴み上げては――キャッチボールのように投げ合っている。
テーブルクロスが宙に舞い、ワイングラスが砕け散る。
床下から顔を覗かせた幽霊が、テーブルに隠れていた客を驚かせては高笑いしていた。
「なんなんだよ、こいつら! ただ怖がらせて遊んでるだけじゃねぇか!」
「ええ……目的がわからないわ! 本当にただの嫌がらせなの?」
俺の隣では、星乃社長が招待客を庇いながら身をかがめている。
ドレスの裾が汚れても気にする様子もなく、冷静に状況を分析している。
すると、星乃社長の後ろに隠れていた鏡見が話しかけてきた。
「神楽さん、少しの間――私に霊たちを近づけさせないようにしてもらえますか?」
「どうした。なにか、いい方法があるのか?」
「ええ。“邪”を払ってみます」
「邪を払う? ……わかった。まかせておけ!」
そう言って俺は、鏡見を守るように前に立つ。
すると、鏡見は静かに目を閉じ、胸の前で両手を掲げた。
次の瞬間――鈴の音が、空気を震わせる。
――シャリン。
――シャリン。
――シャリン……。
どこからともなく響くその音が、会場に響き渡る。
冷たい霧のようなものが舞い降り、揺らめくシャンデリアの光が幻想的にきらめく。
鈴が鳴るたびに、霊たちは顔を歪め、ひとつ、またひとつと――溶けるように消えていく。
やがて、あれほど暴れていた影たちはすべて霧散し、会場には静寂だけが残った。
――シャリン……。
誰もが息をするのを忘れたように、その場に立ち尽くす。
静まり返った会場に響く鈴の音は、やがて歓声と拍手によって掻き消える。
◇◆◇
会場の後片付けを、ホールスタッフたちが慌ただしく行っている。
砕け散ったガラスの音がまだどこかで響き、焦げた照明の匂いがわずかに残っていた。
大きな損害はシャンデリア一つ――騒ぎの規模にしては、奇跡的に少ない。
負傷者も、逃げる際に転んだり、ぶつかったりした打撲程度で済んでいた。
大惨事にはならなかった。それだけでも、ほっと胸を撫で下ろす。
「大変なことになりましたね」
後片付けを見守りながら呟く。
「そうね。でも結果的に被害も大したことはなかったし、招待客からも“今後の活躍に期待している”なんて、逆に励ましの言葉をたくさんもらったわ」
「怪異の脅威を身近に感じて、危機意識が高まったんですかね」
「ええ。――言葉で聞くのと、実際に“見る”のとでは、やっぱり違うのよ」
星乃社長は、遠くに残ったガラス片を見つめながら静かに言った。
その決意のこもった横顔は、責任を背負う者の表情だと感じた。
「それで、早速で悪いんだけど……」
「犯人の捜索ですね」
「ええ、お願いできるかしら?」
「もちろんです」
こうして、俺はSweepからの“二つ目の依頼”を引き受けた。
正式な依頼は星乃社長からROOTSに出しておくと言われ、俺はさっそく調査に取りかかる。
「先輩、どこから調べます?」
「そうだな、確か招待客の中に霊媒師がいたはずだ。まずはその人に話を聞いてみるか」
藤宮の問いに答え、ブッチに情報を調べてもらう。
霊媒師の事務所は、パーティー会場だったホテルから数分の場所にあった。
電話でアポを取り、俺たちは事務所を訪ねる。
“霊媒師の事務所”なんていうから、どんな事務所かと思ったが、見た目はごく普通のオフィスという感じだ。
「漠然とした質問で申し訳ないんですが、今回の霊について何か気づいた点などはありませんか?」
俺の質問に、スーツ姿の霊媒師は少し考え込んでから話し出す。
「そうですね……まず、幽霊が“集団行動”をとること自体が、そもそもあり得ません。明らかに不自然です」
「つまり、今回は異例だと?」
「ええ。考えられるのは――“幽霊を操る何者か”が背後にいるということです。そして、おそらく犯人は複数人」
“複数”という言葉に、俺と藤宮は思わず顔を見合わせた。
「その根拠は?」
「まず数です。あの規模の幽霊を一度に操るには、相当な使い手でなければ不可能。
ですが、やっていたことはあまりに幼稚で、目的も不明瞭……“ただ騒ぎを起こして楽しんでいるだけの素人”。そんな印象を受けました」
霊媒師としての経験が、そう感じさせるのだろう。
「それに――現場で感じた“波長”がバラバラだったんです。幽霊と交信する際に感じ取る、周波数のようなものです」
「つまり、その周波数が一致していなかったから、操っていた者が複数人だと……?」
「はい。そして少なくとも――五人以上」
その言葉には、確信めいた響きがあった。
その後も詳しく話を聞き、礼を言って事務所を後にする。
「さて、どうするかな。やっぱり……あそこに行くしかないか」
「ほ、本当に行くんですか? 私、お腹が痛くなってきました」
藤宮が急にそんな事を言い出す。
「はぁ……オカルト好きなのに、なんで幽霊が駄目なんだよ」
「駄目なものは、駄目なんです!」
「鬼頭さんも言ってたろ。幽霊はいわゆる“精霊の一種”だって。ホラー映画の見すぎなんじゃないか?」
「じゃあ先輩は、幽霊怖くないんですか?」
「そりゃ怖いさ。だけど……能力に目覚めてから、そのへんの感覚がちょっと鈍いっていうか」
「ズルいです! ミーちゃん、私も何とかならない?」
藤宮の腕にはまるミョルニルが、困ったようにチカチカと点滅した。
俺は苦笑しながら首を横に振る。
「じゃあ――夜になったら行くぞ。“霊園”」
霊媒師いわく、幽霊とコンタクトを取るならやっぱり“墓場が一番”らしい。
藤宮の絶望した顔を横目に、俺は歩き出す。
◇◆◇
――日はすでに傾き、空は茜から群青へと変わり始めていた。
夜の霊園へ向かうには、ちょうどいい時間だ。
「うぅぅぅ……」
藤宮が俺の腕にしがみつき、不気味な声を発している。
「その声やめろよ、こっちが怖いんだが!」
「はぁ、こりゃ役に立ちそうにないクワッ」
ブッチも呆れ顔でぼやく。
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