在りし日をこの手に

2升5合

文字の大きさ
7 / 41
明日を生き残る為に

空気は薄く、意志は受け継がれる。

しおりを挟む
その日空からは水が落ちてきた、12時を過ぎたはずなのに空はまだ暗い…こんな日は気が滅入る。

「息がし辛いな、この世の中は」

 どんよりとした厚い雲を睨みつけ、誰かが呟いた。マスクを付け直し深く呼吸を正す。

 その誰かは人ではなかった。人なら息苦しい時、呼吸の邪魔をするマスクなんてつけないからだ。
 そのが手をかざすと、すかさず蔦の腰掛けが生えた。

「草原は刈り取られ、森はビルに変わった。酸素は薄くなり、気温は高まる。人間とは我々の害獣だとはよく言ったモノだ。」

 何かが腰をかけ、地球を眺めているとまたかがそのモノにひざまづいた。

、この最近孵化したての兄弟がすぐ枯れてしまいます。」

 現れた者は人生の全てを経験してきた様な老体であった。しかし、それでも腰掛けるモノに対しては深く深く頭を下げている。

「末端はどうでもいい、アイツらは生まれて朽ちるだけでも意味がある。いや、それが生きる意味なのだ。それよりゼウス、私の半身はどうした。まだ見つからないのか?」

 ゼウス、老体の名はゼウスだった。

「その事なのですが、なにぶん頭数が足りず手掛かりすら掴めないのです。」

 ゼウスは震えていた、母の望みに答えられないことで叱責を受けるのではないかと。しかし、母は違った。ゼウスをそっと抱きしめたのだ。

「構わん、見つける事は私の願いだ。我らプラントの種族の為ではない。」

「母…君」

 ゼウスは涙を堪えていた。この寛大さを全身で感じる為に。
 浸る刹那、ゼウスに嫌な感覚が全身に走る。

「やはり、奴らか…葉にも満たぬ先端どもでは生まれても生きながらえることができない。なんども、なんども、我が子たちが死ぬ…これでは悲しみが増すだけだ。」

 天を仰ぎ、哀しむ。この行為に種族の差はなかった。

「私のは全員目覚めたのだろう。の筆頭であるお前達が率いて人間を滅ぼし、私の半身を見つけるのだ。」

「失礼ですが母君、時期尚早かと。まだに連絡が取れておりませぬ。それにも協調性が足りません。今の状態だと一度で滅ぼすことは出来ません。」

 老体ゼウスは長々と反戦の主張をした、人は弱いが何度も復興の機会を与えるとその度に雑草の様に駆除するのが面倒になると。

 その言葉で母は冷静さを取り戻した。彼女も知っているのだ、その滅亡の失態が現在に繋がっていると。

「ならば人類には猶予を与えよう。我々が動くのは私が現世に慣れるまでにゼウス、アグニ、ノアで私の半身を手に入れるのだ。」

「了解致しました」

 老体が返事をすると同時に、その空間は太陽に覆われたかの様に白に包まれ、その後思い出したかのように轟音が鳴り響く。
 老体はそこにいなかった。

「いずれ…太古の、全てが平等に与えられた緑色の世界を…あの在りし日を、この手に・・・・・・・・・・

─その日、清潔で真っ白だった部屋は黒く染まっていた。別れを惜しむ声が聞こえる。

「コイツは、同期だった。同じ訓練をしていつも競い合うように飯を食っていた。死ぬなら同じ時だと思っていた。」

 木の箱に寄り添う様に跪く男がつぶやいた。今は、先の作戦で亡くなった者の葬儀が行われているのだ。

(先輩…)

 秘密裏の組織と言えど、仲間の死を弔わないはずは無い。そして、この死んだ男に庇われた神木蓮も同じく俯いていた。

「なぁあんたが神木蓮か?」

「はい、そうです。」

 蓮に話しかけたのは先程、棺の横で嘆いていた同期の男だった。

「アイツの最後はどうだった、立派だったか?」

「はい。倉木先輩は、状況を直ぐに把握してそして敵に一矢報いた後に…」

「そうか。後輩も庇って、一矢報いて…」

 男は悲しそうで、それでも何処か微笑んだ。蓮はその様子に謝ろうとした、しかしその瞬間に同期の男は胸元を掴んだのだ。

「お前が謝るな。アイツの死の意味が無くなる。俺たちはこうやって思いを託し、託されてきたんだ。お前はアイツの想いも持って人を救うんだ…」

 彼は涙を流していた。それは友を失った悲痛の意味だろう。

「はい…勿論です」

 俺に、もう一人分の生きる意味ができた。いや先輩が受け継いできたモノを含めると、もっと多くの人の為に生きなければならなくなったのだろう。
 いずれ俺がこの意志を人に渡すことも…
いや、まだ俺は預けてくれた人に報いていない。そんな事を考える意味はない。
 生きなければ、生きて人を救わなければ。  
 俺は拳を固く握っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...