在りし日をこの手に

2升5合

文字の大きさ
11 / 41
明日を生き残る為に

何故お前は戦う。

しおりを挟む
「君が神木蓮か病み上がりで呼び出してすまないね。」

「いえ、葉子隊長に完治されたので平気です。」

「彼女と楽しくやれてるみたいで良かったよ。」

「(楽しく?)」


 今回、神の子であるノアと接触をしたと言うことで新たに情報を得ていないか確認するために呼び出された。
 目の前の男はこのHRIの所長である片麻大地へんまだいちだ。初見の雰囲気は普通の成人男性と言った感じだ。何文ここに来てから、天竹さん然り葉子隊長然り、とても癖の強い人しか会ったことがないから紳士的な落ち着いた佇まいというのを珍しく感じてしまう。

「それじゃあ、君が見たノアの姿から教えてくれるかな」

「はい」

 ノアと名乗った生き物は、ショートアップの青い髪とそれと同じ様に蒼い瞳をした若い女性の見た目をしていた。服装は量産型?ゴスロリ揶揄される様な派手な格好をしていて背筋がまっすぐ伸びていた。

「玲衣君の報告通りだね。それじゃあ次は雰囲気はどうだった?」

 ノアは初め、見た目とは乖離が生じる様な大和撫子と言う様な丁寧な感じがした。しかし話をする中で暴れる様な、荒っぽい口調になったのを覚えている。

「点数を測られたかい?」

「はい、確か最後は41点と言われました。」

 俺が答えると大地所長はハハッと笑う。

「そうかい、そうかい。アイツから合格点を貰うとは随分と気に入られちゃったね」

「???」

 訳が分からず困惑する俺にその説明をしてくれる。

「実は神の子の中でノアだけは何度か接触したことがあるんだ。確か前回は玲衣君だったね。」

 なるほど、2人が因縁ありげに対話をしていたのは一度会っていたからなのか。

「その時は14点と言われていたよ。人間の試験では満点ばっかだった玲衣君はそれで腹が立って、『私が倒す』なんて柄にもないこと言ってさ」

「そ、そうですか…」

 ノアは敵だ。それなのに、ここまで対話が出来るなら人を失わない方法もあるんじゃないか?

「神木蓮。今、戦うことを躊躇したかい?会話ができる相手なら穏便に済ませることもできるんじゃないかって」

「いえ!そんな事はありません!」

 今、所長からは初見に感じた人の良さは感じない。鷹の様に俯瞰する態度で冷たく見つめられ、萎縮した俺の体温が下がっていく感じがする。

「およそ4万6千人。のち内訳、植物硬化病4万、プラントの襲撃による被害者6千人。これは過去400年の記録だが、増加の割合はこの3年で大幅に増え今後数年で指数関数的に増加するかも知れない。」

 冷たい雰囲気に、別な感情を見つけた。所長は怒っていたのだ。

「これは終末の開花ラグナロクでの被害を除いた死亡者数だ。会話が通じても意味がない。特に幹部、神の子達は人間の絶滅を望んでいるのだから。」

 だから戦うしかないんだ。HRI俺達は。

「我々は皆、個々の目的を持ち戦う。家族を守る為、友を、人類を守る為。お前は何故戦う。神木蓮。」

─『人類の底力を知れ!!』

 懸命に戦った4万6千分の1の男の言葉を思い出した。

「俺には力があるから…守れる力があるから戦います。」

「それは強く生まれた者としての責任感か?」

「勿論です。俺に力があるなら、もう目の前で無惨に殺される人達を見殺しにしない。」

 片麻所長から怒りが感じれなくなった。代わりに驚いているように見える。

「そうか…意地の悪い質問をして悪かった。君は思ってたよりだったんだね。」

「…?」

「その調子で力を高めなさい。きっと君は人類を救うことができる。」

 固い表情を崩し笑みを浮かべる片麻所長。きっと素はこっちなのだろう。

「あと、葉子くんや紫苑のイジメが悪化したときは私に言いなさい。ある程度は改善出来るはずだ。」

「本当ですか!」

「彼女らの上司は私だからね。…って、どうして泣くんだ。そんなに辛かったのか?」

 俺はその優しさに胸を打たれた。

「(この人について行こう。)」

──
湿地帯の奥深く、雷鳴が走る。

「母君、から報告です。敵組織にて半身を持つであろう男を見つけたとのこと。まだ部分的にですが、開花の兆候があるとの事です。」

「そうか、ノアあの子が。長子ゼウス末子ノアは頼りになるわね。」

 老人は母が背を向けているのを良いことに喜びに身を捩らせる。

「母君の全盛を待ち望んでおりますゆえ…」

「ふふ、そうね。貴方達の為にも早く回復しないと。」

「それでは母君、私もノアと共に奪還に動きます。」
 
「ええ、いってらっしゃい。」

 雷が辺りを照らす。

──
 日本の何処か、廃れた工場に雷が落ちる。白髪の老体は何処からともなく現れ、埃の被った大型の機械の間をすり抜け奥へ進む。


「お前はここが好きじゃのう」

 錆びれたオイル缶の上に似合わないくらい綺麗な青髪の少女が座っている。

「僕がここのヒトを殺したからね。所有権は僕のさ。」

「バアルは?」

「HRIの本部見つけるとかで下水に入ったよー、馬鹿だね。」

「適当にするじゃないぞ。俺達は母君に期待されているんじゃからのう。」

 ゼウスのトゲのある口調にノアがムッとする。
 
「僕だって真面目さ。ただ僕が得意なのは大規模な攻撃選別であって、敵を炙り出すことじゃない。人に任せれるから多様性が生まれて、選別が出来るんだ。」

「その調子だから玲衣を殺せないんじゃ」

「それとこれは話が違うだろ!今ドキ流行んないよマザコン老人なんてジャンル!」

「何だと…!……この、量産型め!」

「はーん!言い淀んじゃって、僕が可愛くてごめんね~」

 2人の間に殺意が生まれた。

 日本内陸某所、突然の大雨・雷警報が発表される。

「いかんいかん。貴様も殺気を消さんかい。奴らに見つかったら面倒じゃからのう」

「…」

 雷雲は次第に東北部へと流れていった。

「本当に、HRIは何処から来てるんだか。何だっけアイツ、三年前アグニ兄ちゃんを追い詰めた女。その女さえ居なければ、暴れ回って神木蓮を炙り出すのも簡単なのに。」

「天竹紫音、じゃったか。忌まわしい。アグニとは連絡は取れずじまいで戦力は減るわ、全力は出せないわで、本当に人類の要じゃのう。」

 フレームが歪んでいる窓に苦戦しながらも、バン!と勢いよく開ける。工場から外に強い風が流れる。

 靡く青髪を覗けば曇りの空も青空に見えてくる。

「また家族団欒したいね。」

「そうじゃな。」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...