在りし日をこの手に

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日本防衛編

この世でもっとも硬い岩石。

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─ドシン!ドシン!

 集中砲火をものともせず、サイクロプスは一歩一歩侵略を続ける。ヤツの歩いた跡は綺麗に均され、このペースなら1時間後にはこの山も平らになるかもしれない。

「火器は効かない。なら、次は能力者の出番だな。玲衣!行けるか!!」

「行けます。」

 撃退の最速チャート。それが氷室玲衣の能力にある。彼女の能力は凍らせること。

──

「ニンゲンか…1人でワレニ立ち向オウとは、愚か也!!」

 サイクロプスは目の前に現れた小さき人間、玲衣に警戒なぞしなかった。

「貴方の主人のお陰で、貴方を殺せるわ。」

 玲衣は一歩を進める。足元に氷の板が発現する。
 二歩目、氷板はサイクロプスに向けて急激な成長を見せる。
 三歩目、異変に気付いたサイクロプスだったがもう遅い。

 2人の距離は玲衣が手で触れれる距離にまで詰められた。

「動けないでしょう?」

「バ、馬鹿ナ?!」

 20メートルの氷塊の完成だ。動けなくなったサイクロプス、増援の来るまでの間玲衣は銃火器の一切を貫通させなかったボディーの正体を観察した。

「これは…岩?」

 黒色の皮膚は月のクレーターの様に凹凸があり、所々光る鉱物が目視できた。

「フフフ、ハハハ!!!ワレのシンタイは無敵ノ岩石也!!人如きが貫ける代物ではないワ!!」

「そう…」

 面倒くさい。玲衣はそれしか思っていない。だが、相手は拘束されて動けない状況。幾らでもやりようはある。

「ところで、学がない貴方はとある自然現象が岩石を砕く事があるってこと知ってるかしら?」
 
「フン!何があってもワレの身体は砕ケン!!」

「…」

 玲衣が行うのは氷結。ただし今までのモノとは異なる。ヤツの体表に染みた水を凍らせるのだ。

─ミシミシ…

 サイクロプスは自慢の肉体に情けない音が響くことに気付いた。

「水は凍ると膨張する。」

「マさか?!」

 ゴリィ!!

 肩が砕ける。左腕は地面に落下した。普通は何万年もかけて行われる岩の形態変化。それをものの数秒で完遂させたのだ。

「次はどこがいい?」

 サイクロプスは初めて恐怖した。唯一の心の拠り所である強固なボディが木っ端微塵になるのだ。それは氷のようにサイクロプスの心を染み割る勢いだった。

「…頭蓋。」

「すぐ死ぬのね。」

「ただし、キサマの頭蓋だがな!!!」

 サイクロプスの右肩からガタガタと、歯車が動く音がする。

「トルクを上げるぞ!!ニンゲン!」

「?!」

 玲衣は手負の獣の恐ろしさを知っていた。この勢い、この巨人は何かをしでかす気なのだ。
 そうはさせない。反射的にトドメを刺すべく能力を行使、しようとした。

─バリィン!

 盛大な爆発音と共に氷の拘束が砕けた。相手に隙を与えぬよう最大まで硬度を上げた氷塊が砕けた。

「癒瘡木という男に会うまで取っておくつもりだったが、仕方ない。短期戦で終わらせる。」

 異様な身体は大きく変化していた。言うなれば離散パージ。20メートルの巨体は縮小し半分以下にまで減る。

 身を守らなければ、玲衣がそう思う頃には奴は視界から消えていた。俊敏性が大きく向上していたのだ。

「遅い!」

 玲衣の背後に蹴りが迫る。それだけはかろうじて理解し、最短の防壁を玲衣は作るが激しく前方に飛ばされた。

「お前、ノア様が言っていたニンゲンだな。氷室玲衣。この戦いで最も気を付けるべきニンゲンだ。」

「ッ!ノア…!」

「なるほど私怨だったか。」

 手負の獣には素早い処置を。サイクロプスはトドメを刺そうと拳を上げた。

 玲衣の肉体への衝撃は未だ治る気配はない。霞む視界でも誇りは失わんと必死に相手を睨みつける。

 拳は加速して落ちる。

「?!何者だ。」

 しかし、既の所で拳は受け止められた。両者の間に割り入る存在が居たのだ。

「玲衣は氷の上滑って行くからさ追いつくのに時間かかっちまったぜ。んで、コイツが先見達を殺した巨人か。」

「キサマ、癒瘡木か!」

「神木蓮。お前を倒す者だ。」

 サイクロプスは気付く。目の前に現れた男の異質な気迫に。それは一度だけ経験したことがある。遠い昔に神の子達が敬うという存在を一目見た時だ。
 一言で表すなら、『格が違う。』
 だが、そこまで思ってサイクロプスは矛盾を抱いた。実際には蓮という雄より自分の方が強いのに、なぜ恐れてしまうのか。
 訳がわからない。だから、壊すことを選んだ。

「潰れろオオオオ!!」

 背は縮んだとは言え、未だ10メートル近くある。その巨体の本気の拳、普通の人間ならば受けれるはずがない。

「?!」

 だが神木蓮は常人ではない。

「やっぱり、癒瘡木隊長の拳は重いな。こんなヤツより何倍も痛かったよ。」

 次は俺の番だ。蓮は拳を固める。

「フンッ!ニンゲンの攻撃なんぞ、この我のボディには効かん!」

──ドガンッ!!!

 おおよそ人間の拳が衝突した音ではなかった。交通事故、蓮の渾身の右ストレートは凄まじい威力だった。

「欠けた?!」

「俺、結構頭にキてるんだよ。仲間は殺されるわ、玲衣は傷つけられるわで。」

「ヒッ!」

 ダメージは大してなかったサイクロプスだが、蓮の出す鬼人の様な殺気に遂に逃走を計る。

「逃がさないわ。」

 氷がサイクロプスの足を掴み、転ばせる。

「オンナァ!!」

 激昂する巨人。前ほどの威圧感はない。ヤツはすでに脱兎だ。

『第二現着、作戦を開始する。』

 蓮のイヤーカフに聴き慣れた声が聞こえた。

「先輩!!」

「よく足止めした!あとは俺らが掘削・・してやんよォ!!」

 原始的なピッケル片手に2メートル近い巨漢がサイクロプスを囲う。
 火花が散った。

「もう何なんだオマエらは!!!そう簡単に砕ける身体じゃないんだぞ!」

 泣き言を屈強な漢達は聞き入れない。黙々と削り続ける。

「む、見つけたぞ!!!核だ!」

 腹を割ったど真ん中、真紅の光球を1人が見つけた。それは巨体を動かすには充分すぎる程のエネルギーを感じる大きさ。ヒトが2人は入れる大きさだ。

「やめろ!割るなァ!」

 その焦りから、隊員は核はこれだと確信する。

─ピッケルの鎌先・・がサイクロプスの魂を砕く。

 もう、うるさい声はしなくなった。

「にしても、蓮もだいぶ動けるようになったな。木をバネにして横に飛ぶなんて俺達にゃ出来ねーよ。」

「先輩達より速く動けますから!」

「言うねぇー!」

 敵の亡骸を前に警戒を解く一行、しかし1人だけ胸騒ぎの原因に気づいた者がいた。

「蓮…!まだ終わってない!!」

 玲衣だけは、気付いた。それは元姉妹だったからなのか。状況証拠はあった。

 煩く鳴るプラントの警告音。未だ大きい。以前、ノアと対面した時はこれ程までに感じなかった。明確な殺意の差か、それでも勘が否定する。

『奴は想像以上に近くにいる。』

「ソイツから離れて!!!」

 蓮を含めた、第二の面々は気付かなかった。背後にしたサイクロプスの核から手が出てきたことに。

「やっぱり、オマエを真っ先に殺すべきだった。」

─ゾワッッ!!!

 全員が防御行動を取った。ある者は全力で飛び、ある者は太い両腕を悪寒のする方に固めた。

 だが、間に合わなかった。

──第二小隊の面々は屈指の戦闘員だ。それは経験や、鍛錬の賜物による。彼らが半径2メートル以内のプラントに気付かぬ事は初心のとき以外は無かった。

 断言する。警戒は解いていたが、誰も油断はしていなかった。彼らは特殊な力を持たない。故に、身近に迫るプラントの警告音を聞く事はない。

─ドンッ!

「え?」

 蓮は突き飛ばされていた。それは奇しくも蓮に植え付けられた最悪の記憶が再び発芽する原因となる。

『あの時も、気付けなかった。』

「先輩イィィィィ!!」

 ウォーターフォール。蓮の前に特大の滝が現れた。それは無惨にも先輩達を飲み込んだ。

「あ、あぁ…嘘だ。そんなはず…」

「サイクロプス。君は優秀な方舟・・だったよ。君の犠牲、私は忘れない。また、10万年後に循環の先で姉弟になってくれ。」

 天へ手をかざすノア。拳を握ると、玲衣と蓮の前に立ちはだかる。

「選択を授ける。ボクは神の子ノア、選択の神である。」

 髪型はロングとショートで違えど、その顔は玲衣と瓜二つだった。











 




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