ギリシャ神話における略奪婚のその後。

真守 輪

文字の大きさ
10 / 11

少年愛的な……

しおりを挟む
 年長者が美少年を愛するという行為は、古代からギリシャでもローマでもよくあることだ。
 ただ、それを目の前で見たのは初めてだった。
 アーレスは、ほっそりとした長身の美丈夫だが、さらに縦にも横にもハーデスは大きい。
 ハーデスに抱きすくめられて、もはやアーレスはなすがままだ。
 体を小刻みに震わせ、息も絶え絶えというさまだ。
 好奇心と嫉妬が、胸の奥でせめぎ合う。

 いや、いやいや。
 これは、夫の不貞行為だ。
 やっぱり、母に言いつけてやるべきか。
 もうこうなったら離婚してやる。二度と冥府には帰ってやらない。
 考えているうちに、だんだんと怒りがわいてくる。
 その前に、こいつらまとめて、殴ってやらなきゃ、腹の虫が収まらない。



 鬱屈した気分が、怒りに変わるにつれて、胸がドキドキしてきた。
 興奮のあまり呼吸もままならない。我ながら怪しげな息遣いをしながら、あたしが男たちの間に割り込もうとしたとき、いきなりハーデスは、アーレスを突き飛ばした。

 赤い液体が飛ぶ。……血?
 あたしは、怒りを忘れて茫然とその場に立ちすくんでしまった。
 勢いよく放り出されたアーレスは、地面に転がりながら、鮮血をまき散らしている。
 あせって、駆け寄ろうとしたが、ハーデスがあたしの腕をつかむ。
 アーレスは右耳のあたりを押さえた。
 その血は、どうやら耳から溢れているらしい。
 今の状況についていけないあたしにハーデスは、ゆっくりと微笑んだ。

「ちょっと、先ほどのオペラを気取ってみたんですよ」
「……え、オペラ? ……少年愛パイデラスティア的なものじゃなくて?」
 我ながら、間の抜けたセリフ。
 とっさに思い浮かんだのがそれしかなかった。
「誰がホモだ。痛いってんだよ。あんたら夫婦して凶暴だな!」
 耳から、ものすごい血を流しながらアーレスが怒鳴る。ハッキリ言って怖い。
 出血は激しいが、耳そのものは無事らしい。
 ちゃんと形がそのまま残っている。
 噛み千切られたわけじゃなさそう。



 ハーデスは、あたしのほうを向いて、にこやかに答えた。
「あなた、やっぱり、眠っていましたね。これは、シチリアでの決闘申込みの流儀です」
 そう言われてみれば、さっきのオペラでそんなシーンがあったのかもしれない……ほとんど寝ていたので、記憶はおぼろげだ。
「け、決闘?」
「まあ、わたしと彼とでは、力の差は歴然としています。結果は、あのオペラと同じですけどね」

「あぁん? 何、言ってやがる!!」
 ハーデスの言葉に、血まみれのアーレスが反応する。
 マフィア……というより、ガラの悪いチンピラが、どこかのIT企業の社長に絡んでいるようにしか見えない状況だ。
 その間も、噛まれた耳からは血が止まっていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

郷守の巫女、夜明けの嫁入り

春ノ抹茶
キャラ文芸
「私の妻となり、暁の里に来ていただけませんか?」 「​はい。───はい?」 東の果ての“占い娘”の噂を聞きつけ、彗月と名乗る美しい男が、村娘・紬の元にやってきた。 「古来より現世に住まう、人ならざるものの存在を、“あやかし”と言います。」 「暁の里は、あやかしと人間とが共存している、唯一の里なのです。」 近年、暁の里の結界が弱まっている。 結界を修復し、里を守ることが出来るのは、“郷守の巫女”ただ一人だけ。 郷守の巫女たる魂を持って生まれた紬は、その運命を受け入れて、彗月の手を取ることを決めた。 暁の里に降り立てば、そこには異様な日常がある。 あやかしと人間が当たり前のように言葉を交わし、共に笑い合っている。 里の案内人は扇子を広げ、紬を歓迎するのであった。 「さあ、足を踏み入れたが始まり!」 「此処は、人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」 「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」 「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」 「​──ようこそ、暁の里へ!」

処理中です...