異世界転生者の図書館暮らし2 おもてなし七選

パナマ

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5 おもてなし開催

5-3. おもてなし開催

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顔を上げると、螺旋階段の通路口にジキタリスと紹介された女性が立っていた。

「私の庭へご案内いしますわ」
ソゴゥは雑誌を閉じ、女性のもとへ近寄る。
「庭ですか?」
「ええ、付いて来てください。それとも迷子にならないよう、手を繋ぎましょうか?」
冗談ともつかない様子で、ジキタリスが黒い手袋の手を差し出す。
「いえ、大丈夫です、見失わないようについて行きますから」
「あら、遠慮しないで、大丈夫ちゃんと触れることが出来ますのよ」
ジキタリスの指が、ソゴゥの頬に触れる。
ここにいる亡者が触れるタイプのやつだということは、もう知っている。
ソゴゥは彼女の手に自分の手を重ね、自分の唇のところまで持っていきキスをする。
こうすると、相手はそれ以上揶揄カラカってこないか、あるいは逃げることを経験則から知っている。
だが、ジキタリスは逃げも戸惑いもせず、ソゴゥの胸にモタれ掛かって来る。ただし、その顔は馬の骨のマスクに覆われていて、大変不気味だが。

「ここで、こうしていてもいいのだけれど、私の育てた花たちを貴方にもぜひ見てもらいたいわ」
「お供しましょう」
「うふふ、こっちよ、もう少し私に近寄って」
白く長い絹糸の様な髪を翻し、ジキタリスは書架の中から、一冊の本を傾ける。
書架が回転し、壁の反対側へと回転扉に押し出された先が、建物二階部分の高さの外、つまり今は床も何もない空中に放り出され、落下している。

ああ、これまた水没パターンだ。
既に諦観テイカンするソゴゥの落下先に、来るときに見た池がある。
池に落ちたのはソゴゥ一人で、ジキタリスは浮遊しながらソゴゥのもとへ、ゆっくりとやって来る。
池から上がったソゴゥはジキタリスの肩を掴んで、反対側を向かせる。
「ちょっと失礼」
彼女が向こうを向いている間に、シャツを脱いで、力の限り絞ってから羽織る。
もはや、文句を言うという選択肢を放棄し、毒の魔女という罪名を持った彼女が手招きする方へついて行く。
公園の様な庭の通路を、建物を回り込んで裏側へと進んでいく。奥の庭には植木の迷路があり、その下を潜る煉瓦レンガのトンネルの道を行く。トンネル内は暗く、トンネルの端から射す光だけが光源となっている。
トンネルを抜けると、見渡す限り咲き誇る花が大地を赤紫色に染めていた。

「どうです、見事でしょう? もっと近くで見てください」
ジキタリスがソゴゥの手を取って、花の中へと誘う。
「これだけ、見事に咲かせられるのは、きっと私だけですわ。このお花はとても、魔力を欲しがるのです。水や光、温度、そういった管理はそれほど大変ではないの。それこそ雑草のように、どんな環境でも大丈夫、でも魔力を同時に与えてあげないと、こうまでは育たないのですよ」
ソゴゥは屈んで、足元の花を観察する。
いつもなら、ガイドと呼ばれるイグドラシルの蔵書を閲覧できる魔法書で、花の名前を調べたりするところだが、そうするまでもなく、ソゴゥはこの花が何かを知っていた。
この世界で最も危険な植物の一つである、夢幻花だ。
名前はハカナく美しいイメージだが、毒性は強く、葉やクキや根っこ、それに花や実と手折った時にニジみ出る汁、それら全てにそれぞれ種類の違う毒を含んでいる。
経口摂取ケイコウセッシュすれば、痙攣ケイレンや、嘔吐オウト、精神障害を引き起こすが、乾燥させてから、火であぶり臭気を取り込むことで動悸ドウキ麻痺マヒ、発汗作用の他に、覚醒や興奮作用があり、精製されて麻薬として利用される。
茎から染み出る汁は、少量でも目に入れば失明し、皮膚につけば焼けタダれる。
夢幻花の群生地を通る小動物が命を落とすことから、「小動物の墓」という別名もある。
ジキタリスは、険しい顔をしているソゴゥの前にしゃがんで、覗き込むように小首を傾げる。

「その様子だと、これが何の花か知っているのね?」
「夢幻花だな」
「そう、そんな素敵な名前なのね。みんなこれのせいで、痛かったのに、苦しかったのに。これのせいで、みんな死んじゃったのに・・・・・・」
「ジキタリス!」
ふらついて倒れ込んできたと思い受け止めた彼女の体は、そのまま意思を持ってし掛かってきた。夢幻花を下敷きに、ソゴゥは仰向けに倒れ込む。
目の前には馬の骨と、白い空が見える。
地面にいとめられた態勢を何とかしようと藻掻モガくが、まるで振りほどけない。
「うふふふ、動かないで、動いては駄目よ、貴方の顔が、草の汁で焼けてしまう。ただ、香りを楽しんで、ずっと眠って、目を覚まさないで、怖い現実へと戻って来ないで、きっとその方が幸せだから。ほら、息を、もっと吸い込んで」
頭を押さえつけてくる彼女の手首を掴む。
目が回る。

耳元で、パチパチと何かが爆ぜる音がする。
視界が一気に赤に染まる。
赤い炎が、一面の夢幻花を焼き払う。
これでもう、花を育てなくて済む。そう思っていた。
自分がいた薬花工場が全てだと思っていた。ここさえ焼け落ちてしまえば、この悪夢は終わるのだと。だが、結局私たちは、別の畑へと送られただけだった。
そこは、元居た畑よりももっと劣悪な環境だった。
私達は、花へ魔力を送り、防具もなく花のみ取り作業を強いられた。私達の手足は焼けタダれ、ワラの敷かれた狭い小屋で、痛みでまともに眠ることもできず、朝が来れば、また薬花の収穫に駆り出された。
それでもまだ、魔力の多い私は、優遇されていた。眠るところも、食事も他の子供たちより、ずっと良かった。私は自分の食事を持って、他の小屋へ行った。
前にいた畑でずっと一緒だった、友人のところへ。
彼は何処からか連れてきた幼い子供を、小屋のスミに隠してカクマい、ただでさえ少ない食事を分け与えていた。
その子は、黄色い瞳をしていた。澄んだ綺麗な目だった。
ただ、右側はクボみだけがあり、あるべき場所に目がなかった。その代わり、頬骨ホオボネの下に目があって、その目には二つの黄色い瞳があった。
変わっているけど、綺麗だと、宝物を自慢するように彼は、その子を見せてくれた。
私も、綺麗だと思った、そして哀しいとも。
ここへ連れてこられる子供には、彼女の様な残酷なアトがある子供が多かった。手足が本来あるべき場所になかったり、首が二つある者もいた。
ここを仕切る大人たちと私だけが、本来の形を備えていた。
いや、私もまた彼らとは違っていた。おそらく私は。
ここは、前の薬花工場よりもっとスサんでいた。大人たちは、乾燥した薬花を吸って、狂ったような声を上げ、暴力を振るい、子供たちの命を奪った。
壊れた道具を始末するように、命が失われていく。

ここも燃やしてしまおう。
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