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5 おもてなし開催
5-6. おもてなし開催
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ある時、飛行竜で運ばれてきた檻に赤子がいた。
こんな小さな命にまで、祖国の毒牙が及んでいることに絶望した。
赤子の顔には、瞳が三つあった。左に一つ、右の頬に二つ。
ああ、この子はきっと助からない。こんな小さな赤子がどうやって生きていくことが出来るだろう。
同胞たちの死体の山の中で、俺は知識として知っていた魔法陣を血の海となった大地に刻み、膝をついて祈った。悪魔にだ。
赤い光が大地に奔り、真っ黒な悪魔が姿を見せたときは嬉しかった。
「ここに転がるクソどもの魂と、俺の魂を付けてやる、この赤子の命を守れ」
既にボロボロで、もう戦うこともできない身体を持て余していた。
最期ぐらい、何かの役に立ちたいと願った。
悪魔がその条件を飲んだのを最後に、意識が遠のいた。
俺がこの世界で最後に見たのは、悪魔の赤い瞳だった。
「いや、本当に大丈夫かよ」
「大丈夫なわけないだろ!」
「なんでいきなりキレてんだ、もう今日の襲撃は終わった。お前のおかげで、今日は早く済んだ、部屋に帰ってもいいぞ」
「部屋まで送り届けろや! おもてなしは、お客様を部屋に無事届けるまでだ」
疲れただけで、腰が抜けていたわけではないのだが、オレグにファイアーマンズキャリーで部屋に運ばれた。
「おや、どうかなさったのですか?」
「疲れたんだろ」
部屋にいた悪魔にオレグが言い、ソファーにソゴゥを下す。
棚の上にいた魔獣を見つけ、オレグは魔獣をひと撫でして部屋を出ていく。
「もう今日のところは、終了で良くない?」
悪魔が、ソゴゥが寝そべるソファーの前に丸テーブルを移動させてきて、紅茶とお菓子を運んで来る。
「実はもう、サハルさんが来られて、おもてなしの準備をされておりますよ」
「え?」
爆音と共に床が抜けて、ソファーごとワンフロア分を落下した。
着地の衝撃で、背中を強打して息が詰まる。
見上げると、ソファーの大きさ分崩れて空いた穴から、悪魔がこちらを見下ろしていた。
衝撃で声が出せず、ただ見上げていると、上の階から、お茶とお菓子が乗った丸テーブルがゆっくりと降りてくる。
悪魔が魔法で下したテーブルの向こうに、クマの被り物を被った幼い少女が、椅子に腰かけていた。
「どうです、驚かれましたかな」
(声が出ない)
「あれ、どうされました?」
ヒューヒューと、喉から掠れた音を発てるだけのソゴゥを不思議そうに見て、サハルが首を傾げる。
悪魔が上から降りてきて、ソゴゥの顔を覗き込む。
「声が出ないようですね」
ソゴゥの背中に治癒魔法をあて、萎縮した筋肉と神経がもとに戻る。
深呼吸を繰り返してから、ソゴゥは向かいのクマ頭少女に言う。
「もう二度としないで」
「え?」
「生身のエルフが受け身を取らず、ワンフロア落下したら死ぬから。もう二度としないで」
「こりゃあどうも済みませんねえ、亡霊となって長いものですから、うっかりしとりましたわ。おもてなしと言われて、それならサプライズがいいと思いましてね、張り切り過ぎたようですわい、ガハハハ」
ソゴゥは悪魔を睨みつける。
ストレスが限界に近かった。
男ばかりの末っ子で、兄達には体格や力で劣るため、腹が立つことをされても我慢してやり過ごす事が多いが、だからと言ってやり返さないわけではない。
大概は、飛び掛かって相手の頭に噛みつく。兄弟の喧嘩で、髪を掴むのと噛みつきは反則とされていたが、ソゴゥは容赦なく噛む。
ソゴゥが最高潮にイライラしているときは、尖った犬歯を見せ始めるので、兄達のちょっかいはそこで止む。
ソゴゥは犬歯を見せ、悪魔を見つめる。
何故か悪魔は両手を上げている。勘のいい奴だ。
「俺の魔法ロックを解除しろ」
「それをしたら、皆さんのおもてなしの醍醐味がなくなるではありませんか。もう少しお付き合いください」
「いやだ」
「分かりました、では明日、必ず戻しますので、今日のところはこのままでお願いします」
「本当だな、約束を破るなよ」
「ええ、私は、約束は守りますよ。必ず」
ソゴゥは悪魔を一瞥し、クマ頭の少女に向き直った。
「いやあ、私の発破解体の腕を見ていただきたくてね、寸分の狂いもなく建物を倒壊させるのが得意なんですわ、まあ、晩年は爆弾魔などと呼ばれて、指名手配されとりましたがね、ガハハハ」
完全におっさん。おっさんが入っている。晩年とか言っているし。
体は少女だが、あの被り物を外した際、恐ろしい光景を目にすることになるかもしれない。
ソゴゥは青くなりながら、クマの目の奥を疑心に満ち満ちた目で覗き込む。
「それにしても、脱いでも、脱いでも、何故かこのクマの被り物を被っているんですわ。視界も悪いし、頭も重いしで、なんでしょうな? はあ、かなわん」
爆弾魔ことサハルがクマの被り物を取ろうと、両手を首周辺の被り物の縁を掴んで持ち上げようとするのを、ソゴゥは身を乗り出してサハルの腕を掴み止める。
「いやいやいや、それは被っておいた方がいいですって!」
カルミアの指輪の嵌った手でサハルに触れ、視界が一気に変わる。
よれよれの役人服を着た男が、地図上に危険個所に印を付け、上司と思しき者に熱く報告をしている。
「首都圏だけでも百二十の建物と十六か所の橋、これらは築年数と耐久年数、補修工事の有無から計算し、いつ倒壊してもおかしくない状態だとわかっています。そのうち、倒壊した際の影響度が高いものが六十か所、近隣に民家や、人が集まる場所があり、早急に手を打たないと危険です。こんなものを放置していてはなりません」
「そうは言っても、予算が出んよ、国は戦争にしか金を出さん。注意喚起が関の山だな」
「地雷を放置しているようなものですよ、橋があれば、いくら通行禁止札を立てても人は渡ってしまうものです」
「そんなのは、自業自得だろう。とにかく、予算はない。ここの部署だって、いつ全員前線に送られるか分からないんだ、目立つことはしてくれるな」
「しかし」
話途中で席を立つ上司を、男は呆然と見送る。
何か方法はないか、人が立ち入ることを恐れるような、それこそ地雷や不発弾があると偽看板を出して、人を遠ざけるか。
娘の具合が良くないという連絡があった。
とりあえず、今日は家に早めに帰り、明日また対策を考えよう。
橋は渡るな、高架橋も駄目だ。戦争が始まってから、それらは一度も補修も撤去もされず、老朽化が進んだまま放置されている。
妻には、毎日のように言い聞かせていたことだ。
その日、娘の容態が急変し、軍用の魔鉱車両がひっきりなしに通過して渡ることのできない幹線道路の先にある病院に行くため、妻は娘を背負い幹線道路の上を渡る高架橋を渡った。
高架橋は崩落した。
妻と娘は地面に落下すると同時に、軍用車にひかれた。
残っていた高架橋の階段部分に、娘が常に手にしていたクマのぬいぐるみが落ちていた。
こんな小さな命にまで、祖国の毒牙が及んでいることに絶望した。
赤子の顔には、瞳が三つあった。左に一つ、右の頬に二つ。
ああ、この子はきっと助からない。こんな小さな赤子がどうやって生きていくことが出来るだろう。
同胞たちの死体の山の中で、俺は知識として知っていた魔法陣を血の海となった大地に刻み、膝をついて祈った。悪魔にだ。
赤い光が大地に奔り、真っ黒な悪魔が姿を見せたときは嬉しかった。
「ここに転がるクソどもの魂と、俺の魂を付けてやる、この赤子の命を守れ」
既にボロボロで、もう戦うこともできない身体を持て余していた。
最期ぐらい、何かの役に立ちたいと願った。
悪魔がその条件を飲んだのを最後に、意識が遠のいた。
俺がこの世界で最後に見たのは、悪魔の赤い瞳だった。
「いや、本当に大丈夫かよ」
「大丈夫なわけないだろ!」
「なんでいきなりキレてんだ、もう今日の襲撃は終わった。お前のおかげで、今日は早く済んだ、部屋に帰ってもいいぞ」
「部屋まで送り届けろや! おもてなしは、お客様を部屋に無事届けるまでだ」
疲れただけで、腰が抜けていたわけではないのだが、オレグにファイアーマンズキャリーで部屋に運ばれた。
「おや、どうかなさったのですか?」
「疲れたんだろ」
部屋にいた悪魔にオレグが言い、ソファーにソゴゥを下す。
棚の上にいた魔獣を見つけ、オレグは魔獣をひと撫でして部屋を出ていく。
「もう今日のところは、終了で良くない?」
悪魔が、ソゴゥが寝そべるソファーの前に丸テーブルを移動させてきて、紅茶とお菓子を運んで来る。
「実はもう、サハルさんが来られて、おもてなしの準備をされておりますよ」
「え?」
爆音と共に床が抜けて、ソファーごとワンフロア分を落下した。
着地の衝撃で、背中を強打して息が詰まる。
見上げると、ソファーの大きさ分崩れて空いた穴から、悪魔がこちらを見下ろしていた。
衝撃で声が出せず、ただ見上げていると、上の階から、お茶とお菓子が乗った丸テーブルがゆっくりと降りてくる。
悪魔が魔法で下したテーブルの向こうに、クマの被り物を被った幼い少女が、椅子に腰かけていた。
「どうです、驚かれましたかな」
(声が出ない)
「あれ、どうされました?」
ヒューヒューと、喉から掠れた音を発てるだけのソゴゥを不思議そうに見て、サハルが首を傾げる。
悪魔が上から降りてきて、ソゴゥの顔を覗き込む。
「声が出ないようですね」
ソゴゥの背中に治癒魔法をあて、萎縮した筋肉と神経がもとに戻る。
深呼吸を繰り返してから、ソゴゥは向かいのクマ頭少女に言う。
「もう二度としないで」
「え?」
「生身のエルフが受け身を取らず、ワンフロア落下したら死ぬから。もう二度としないで」
「こりゃあどうも済みませんねえ、亡霊となって長いものですから、うっかりしとりましたわ。おもてなしと言われて、それならサプライズがいいと思いましてね、張り切り過ぎたようですわい、ガハハハ」
ソゴゥは悪魔を睨みつける。
ストレスが限界に近かった。
男ばかりの末っ子で、兄達には体格や力で劣るため、腹が立つことをされても我慢してやり過ごす事が多いが、だからと言ってやり返さないわけではない。
大概は、飛び掛かって相手の頭に噛みつく。兄弟の喧嘩で、髪を掴むのと噛みつきは反則とされていたが、ソゴゥは容赦なく噛む。
ソゴゥが最高潮にイライラしているときは、尖った犬歯を見せ始めるので、兄達のちょっかいはそこで止む。
ソゴゥは犬歯を見せ、悪魔を見つめる。
何故か悪魔は両手を上げている。勘のいい奴だ。
「俺の魔法ロックを解除しろ」
「それをしたら、皆さんのおもてなしの醍醐味がなくなるではありませんか。もう少しお付き合いください」
「いやだ」
「分かりました、では明日、必ず戻しますので、今日のところはこのままでお願いします」
「本当だな、約束を破るなよ」
「ええ、私は、約束は守りますよ。必ず」
ソゴゥは悪魔を一瞥し、クマ頭の少女に向き直った。
「いやあ、私の発破解体の腕を見ていただきたくてね、寸分の狂いもなく建物を倒壊させるのが得意なんですわ、まあ、晩年は爆弾魔などと呼ばれて、指名手配されとりましたがね、ガハハハ」
完全におっさん。おっさんが入っている。晩年とか言っているし。
体は少女だが、あの被り物を外した際、恐ろしい光景を目にすることになるかもしれない。
ソゴゥは青くなりながら、クマの目の奥を疑心に満ち満ちた目で覗き込む。
「それにしても、脱いでも、脱いでも、何故かこのクマの被り物を被っているんですわ。視界も悪いし、頭も重いしで、なんでしょうな? はあ、かなわん」
爆弾魔ことサハルがクマの被り物を取ろうと、両手を首周辺の被り物の縁を掴んで持ち上げようとするのを、ソゴゥは身を乗り出してサハルの腕を掴み止める。
「いやいやいや、それは被っておいた方がいいですって!」
カルミアの指輪の嵌った手でサハルに触れ、視界が一気に変わる。
よれよれの役人服を着た男が、地図上に危険個所に印を付け、上司と思しき者に熱く報告をしている。
「首都圏だけでも百二十の建物と十六か所の橋、これらは築年数と耐久年数、補修工事の有無から計算し、いつ倒壊してもおかしくない状態だとわかっています。そのうち、倒壊した際の影響度が高いものが六十か所、近隣に民家や、人が集まる場所があり、早急に手を打たないと危険です。こんなものを放置していてはなりません」
「そうは言っても、予算が出んよ、国は戦争にしか金を出さん。注意喚起が関の山だな」
「地雷を放置しているようなものですよ、橋があれば、いくら通行禁止札を立てても人は渡ってしまうものです」
「そんなのは、自業自得だろう。とにかく、予算はない。ここの部署だって、いつ全員前線に送られるか分からないんだ、目立つことはしてくれるな」
「しかし」
話途中で席を立つ上司を、男は呆然と見送る。
何か方法はないか、人が立ち入ることを恐れるような、それこそ地雷や不発弾があると偽看板を出して、人を遠ざけるか。
娘の具合が良くないという連絡があった。
とりあえず、今日は家に早めに帰り、明日また対策を考えよう。
橋は渡るな、高架橋も駄目だ。戦争が始まってから、それらは一度も補修も撤去もされず、老朽化が進んだまま放置されている。
妻には、毎日のように言い聞かせていたことだ。
その日、娘の容態が急変し、軍用の魔鉱車両がひっきりなしに通過して渡ることのできない幹線道路の先にある病院に行くため、妻は娘を背負い幹線道路の上を渡る高架橋を渡った。
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