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7 終章 加護の森と百鬼夜行・改
7-5. 終章 加護の森と百鬼夜行・改
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「不思議な味だな」
「祖国のお茶です」
それきり会話のない二人の元へ、着替えを終えたソゴゥが戻る。
「え、静止画?」
ソゴゥはヨルの隣に座り、微動だにしない二人を交互に見て言う。
「早速だけど、この地に棲息している蛟が龍になろうとしていてね、やたらと周辺に加護をまき散らしていて困っているんだよ。この地には、極東より受け入れた人間が暮らしていて、彼らに影響が出ないように、ゼフィランサス王とも相談して、ウッパラに来てもらったんだ」
「そうだったのですね」
「彼らを他の地に移すことも考えたんだけど、やっと慣れてきた場所をまた移動してもらうのも精神的な負担となるだろうし、それにこの十三領ほど信のおける場所は、俺は他に知らないんでね。だから、蛟を何とかしたくて」
「大量放出をされている蛟の加護を、抑えてもらうよう伝えること、または、加護を抑える方法が見つかればいいのですね」
「そうなんだよ、この加護っていう現象がかなりレアで、その性質が解明されていないから、蛟の方に何かしら働きかけて、止めてもらうより方法がないというのが現状だな。俺もイグドラシルで蛟の事を色々と調べてみたんだけど、知力は高いようだが、実際に言葉を操れるかはわからなかった。ウッパラの目から見て、蛟の仕草などから感情が見て取れたらと思って」
「わかりました」
ウッパラとは明日蛟のところへ行くことにし、夜は屋敷近くの森を切り開いて作られた十三領民となった人間の村から帰ってきたヨドゥバシーとカデンを含めてウッパラの歓迎会となった。
翌日、カデンは村に、ヨドゥバシーはカデンに借りた怪鳥のトリタケにウッパラを乗せて、ソゴゥ達と蛟のところへと行くことになった。
蛟のいる百メートルほどの岸壁を垂直に落ちる滝の下へ降る。
「今日みたいに天気のいい日は、岩の辺りにいるんだけど、えーっと、あ、あそこ!」
ヨドゥバシーが滝つぼの池の中央にある岩場を指さす。
岩に顎をのせた巨大な蛟がいた。白い蛇にも、蜥蜴にも似たその生き物が、微睡んでいる。
瞬膜があるので、どちらかというと蜥蜴寄りだ。
半人半蛇のウッパラは人間の声帯の他にも発声器官をもち、空気を振動させて蛟に向かって空砲を撃つ。
激しい滝の轟音の中で微睡んでいた蛟が、岩から顔を持ち上げてこちらを見る。
「おお、こっちを見たぞ」
ヨドゥバシーが興奮して、ソゴゥの背中を叩く。
蛟がカカカカカッと口を、猫のクラッキングのように鳴らして反応した。
ソゴゥは視界を切り替えて、念のため逃走用のマーキングを行う。
「ウッパラさん、蛟が何て言ったか分かりますか?」
ヨドゥバシーが、ウッパラに尋ねる。
「いえ、すみません。ただ威嚇音ではないようです。もどかしさを感じているときに、我々もああいった声を発てることがあります」
「龍になりたくても、なれないといったところか」
ヨルが言う。ソゴゥは通常の視界に切り替えて蛟を観察する。
「なあ、あいつ弱ってないか?」
「私もそう思います。『もどかしい』は、ヨルさんが仰られたように、欲求に対する達成できない不満もありますが、体の不調により、不便を感じているときも該当します」
「怪我か体調不良で、加護が駄々洩れなのかもしれないな、体全体が見えたらいいんだけど」
蛟の首から下が水の中のため確認できず、ソゴゥは言った。
「俺が治癒魔法を試すよ」
「近寄るのは危険だって、蛟の腹の中から飲み込まれたヨドを瞬間移動で救出する羽目になりそうでこえーよ。丸呑みならいいけど、咀嚼されたら救出後にモザイク掛かるわ」
「でしたら、私が歌で蛟を眠らせましょうか?」
「ウッパラさん、是非お願いします」
「俺たちは、耳を塞いでおいた方がいい?」
「いえ、指向性があるので、私の正面に立たなければ大丈夫です。不安なようでしたら、私の後ろにいてください」
ヨドゥバシーとソゴゥとヨルは、ウッパラの少し後ろに下がり、ウッパラは蛟に向かって頤を下げて、歌によって蛟の体を動かす信号を阻害し、強制的に気を失わせることに成功した。
蛟は上げていた顔を岩に戻し、瞬膜を閉じて動かなくなった。
ヨドゥバシーが治癒魔法に専念できるよう、ヨルがヨドゥバシーを抱えて蛟の元に飛ぶ。
ソゴゥとウッパラは池の縁で待ち、その様子を見ている。
ヨドゥバシーが蛟へと手をかざすと、治癒魔法の白い泡が水面下にある蛟の体の方へとどんどん沈んでいく。
蛟の不調がどういった種類のものかは分からないが、あの泡が発生し続けているというのは、やはり治癒が必要な状態だったという事だろう。
ソゴゥはそう思い、ヨドゥバシーの手元と、蛟の様子を観察する。
しばらくして、ヨドゥバシーの手から治癒魔法の泡が出なくなると、ヨルはすぐにその場を離脱して、こちらへとヨドゥバシーを抱えて飛んで来る。
「どうだった?」
「もう大丈夫だよ、体全体が怪我と疲労でボロボロだったが、何とかなった。何かと争ったというような傷ではないけど、全身を何かに打ち付けて出来た打撲のような症状が伝わってきた」
「龍になろうとして、飛翔に失敗したのではないでしょうか?」
「だとしたら、何度も繰り返し失敗して、この崖に体をぶつけて弱っていたってことかな?」ソゴゥは切り立つ断崖の滝口を見上げる。
「傷が癒えたとしても、また失敗するであろうな、龍となるための霊力が芯から漏れている」
「どういうこと?」
「失敗を繰り返すあまり、飛翔の核となる体力や魔力以外の力が抜けてしまっているのだ」
「自信を失って、成功するイメージがつかめないでいるうちに、飛翔するための力を失っているってこと?」
「たぶん、あの怪我の状態は、数百どころではない回数を繰り返しているんだと思うな。それこそ、気が遠くなるほど挑戦して、体が動かなくなって、心が弱ってしまったんだろう」
ヨドゥバシーが言う。
「もうすぐ、蛟が目を覚まします」
「心は俺でも治せない」
「自信を付けさせてやればいいのか」
ソゴゥは瞬間移動する際と同様に、立体映像を作成するときの視界に切り替え、イメージを目の前の空間に組み立て、魔力を持ってそれを現実に展開する。
滝壺から、白い蛟が顔を出し、大きな声でひと鳴きした。
その声に池の岩に顎をのせて眠っていた蛟が目を開け、滝壺に自分とそっくりな個体が今まさに、瀑布を浴びて顔を出すのを確認した。
ソゴゥは蛟の視線が思惑通り立体映像をとらえたと見るや、蛟を勢いよく滝をグングンと遡らせ、滝口を通過してさらに上昇させて光り輝かせて、黄金に輝く龍へと変化させた。
「祖国のお茶です」
それきり会話のない二人の元へ、着替えを終えたソゴゥが戻る。
「え、静止画?」
ソゴゥはヨルの隣に座り、微動だにしない二人を交互に見て言う。
「早速だけど、この地に棲息している蛟が龍になろうとしていてね、やたらと周辺に加護をまき散らしていて困っているんだよ。この地には、極東より受け入れた人間が暮らしていて、彼らに影響が出ないように、ゼフィランサス王とも相談して、ウッパラに来てもらったんだ」
「そうだったのですね」
「彼らを他の地に移すことも考えたんだけど、やっと慣れてきた場所をまた移動してもらうのも精神的な負担となるだろうし、それにこの十三領ほど信のおける場所は、俺は他に知らないんでね。だから、蛟を何とかしたくて」
「大量放出をされている蛟の加護を、抑えてもらうよう伝えること、または、加護を抑える方法が見つかればいいのですね」
「そうなんだよ、この加護っていう現象がかなりレアで、その性質が解明されていないから、蛟の方に何かしら働きかけて、止めてもらうより方法がないというのが現状だな。俺もイグドラシルで蛟の事を色々と調べてみたんだけど、知力は高いようだが、実際に言葉を操れるかはわからなかった。ウッパラの目から見て、蛟の仕草などから感情が見て取れたらと思って」
「わかりました」
ウッパラとは明日蛟のところへ行くことにし、夜は屋敷近くの森を切り開いて作られた十三領民となった人間の村から帰ってきたヨドゥバシーとカデンを含めてウッパラの歓迎会となった。
翌日、カデンは村に、ヨドゥバシーはカデンに借りた怪鳥のトリタケにウッパラを乗せて、ソゴゥ達と蛟のところへと行くことになった。
蛟のいる百メートルほどの岸壁を垂直に落ちる滝の下へ降る。
「今日みたいに天気のいい日は、岩の辺りにいるんだけど、えーっと、あ、あそこ!」
ヨドゥバシーが滝つぼの池の中央にある岩場を指さす。
岩に顎をのせた巨大な蛟がいた。白い蛇にも、蜥蜴にも似たその生き物が、微睡んでいる。
瞬膜があるので、どちらかというと蜥蜴寄りだ。
半人半蛇のウッパラは人間の声帯の他にも発声器官をもち、空気を振動させて蛟に向かって空砲を撃つ。
激しい滝の轟音の中で微睡んでいた蛟が、岩から顔を持ち上げてこちらを見る。
「おお、こっちを見たぞ」
ヨドゥバシーが興奮して、ソゴゥの背中を叩く。
蛟がカカカカカッと口を、猫のクラッキングのように鳴らして反応した。
ソゴゥは視界を切り替えて、念のため逃走用のマーキングを行う。
「ウッパラさん、蛟が何て言ったか分かりますか?」
ヨドゥバシーが、ウッパラに尋ねる。
「いえ、すみません。ただ威嚇音ではないようです。もどかしさを感じているときに、我々もああいった声を発てることがあります」
「龍になりたくても、なれないといったところか」
ヨルが言う。ソゴゥは通常の視界に切り替えて蛟を観察する。
「なあ、あいつ弱ってないか?」
「私もそう思います。『もどかしい』は、ヨルさんが仰られたように、欲求に対する達成できない不満もありますが、体の不調により、不便を感じているときも該当します」
「怪我か体調不良で、加護が駄々洩れなのかもしれないな、体全体が見えたらいいんだけど」
蛟の首から下が水の中のため確認できず、ソゴゥは言った。
「俺が治癒魔法を試すよ」
「近寄るのは危険だって、蛟の腹の中から飲み込まれたヨドを瞬間移動で救出する羽目になりそうでこえーよ。丸呑みならいいけど、咀嚼されたら救出後にモザイク掛かるわ」
「でしたら、私が歌で蛟を眠らせましょうか?」
「ウッパラさん、是非お願いします」
「俺たちは、耳を塞いでおいた方がいい?」
「いえ、指向性があるので、私の正面に立たなければ大丈夫です。不安なようでしたら、私の後ろにいてください」
ヨドゥバシーとソゴゥとヨルは、ウッパラの少し後ろに下がり、ウッパラは蛟に向かって頤を下げて、歌によって蛟の体を動かす信号を阻害し、強制的に気を失わせることに成功した。
蛟は上げていた顔を岩に戻し、瞬膜を閉じて動かなくなった。
ヨドゥバシーが治癒魔法に専念できるよう、ヨルがヨドゥバシーを抱えて蛟の元に飛ぶ。
ソゴゥとウッパラは池の縁で待ち、その様子を見ている。
ヨドゥバシーが蛟へと手をかざすと、治癒魔法の白い泡が水面下にある蛟の体の方へとどんどん沈んでいく。
蛟の不調がどういった種類のものかは分からないが、あの泡が発生し続けているというのは、やはり治癒が必要な状態だったという事だろう。
ソゴゥはそう思い、ヨドゥバシーの手元と、蛟の様子を観察する。
しばらくして、ヨドゥバシーの手から治癒魔法の泡が出なくなると、ヨルはすぐにその場を離脱して、こちらへとヨドゥバシーを抱えて飛んで来る。
「どうだった?」
「もう大丈夫だよ、体全体が怪我と疲労でボロボロだったが、何とかなった。何かと争ったというような傷ではないけど、全身を何かに打ち付けて出来た打撲のような症状が伝わってきた」
「龍になろうとして、飛翔に失敗したのではないでしょうか?」
「だとしたら、何度も繰り返し失敗して、この崖に体をぶつけて弱っていたってことかな?」ソゴゥは切り立つ断崖の滝口を見上げる。
「傷が癒えたとしても、また失敗するであろうな、龍となるための霊力が芯から漏れている」
「どういうこと?」
「失敗を繰り返すあまり、飛翔の核となる体力や魔力以外の力が抜けてしまっているのだ」
「自信を失って、成功するイメージがつかめないでいるうちに、飛翔するための力を失っているってこと?」
「たぶん、あの怪我の状態は、数百どころではない回数を繰り返しているんだと思うな。それこそ、気が遠くなるほど挑戦して、体が動かなくなって、心が弱ってしまったんだろう」
ヨドゥバシーが言う。
「もうすぐ、蛟が目を覚まします」
「心は俺でも治せない」
「自信を付けさせてやればいいのか」
ソゴゥは瞬間移動する際と同様に、立体映像を作成するときの視界に切り替え、イメージを目の前の空間に組み立て、魔力を持ってそれを現実に展開する。
滝壺から、白い蛟が顔を出し、大きな声でひと鳴きした。
その声に池の岩に顎をのせて眠っていた蛟が目を開け、滝壺に自分とそっくりな個体が今まさに、瀑布を浴びて顔を出すのを確認した。
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