7 / 46
2 エルフの国と生贄の山
2- 4.エルフの国と生贄の山
しおりを挟む
歯ぎしりも、寝言もない一人部屋の静かな朝、二日目。
大人エルフたちの引率で、パレードを見に行く日。
いくつかのグループ毎にトラムに乗ってこのエルフの国、イグドラム国のセイヴ港に向かう。
最初にこの国の海を見たときの感動といったら。
三日月型の湾に、透き通った遠浅のエメラルドグリーンとパライバトルマリンの織り成す美しい色彩。
湾を形成する岩は黒く、崖から海に突き出した場所に、巨大な巻き貝のようなフォルムの、桟橋に直結した迎賓館がある。
有機的でいて、未来都市の建造物を彷彿とさせるような建物だ。
ここへ年に一度、海王種の一国、ニルヤカナヤ国の一団が物々交換と近況報告に、海の中からやって来る日が今日だ。
沖に巨大な島が出現し、そこから、色とりどり巨大魚にのった海洋人が続々とやって来る。トビウオが並走して道を作り、華やかな魚には貴魚人が、スタイリッシュで機動力が高そうな魚には、武魚人が乗っている。そして、高身長なエルフをして、どの海洋人も見上げるほど大きい。
風に揺れる赤や青の飾りヒレ、虹色に輝く鱗、原色の力強い迸る生命力に満ちたその体躯は、淡い色彩が多いエルフの人々を圧倒する。
まるでリアル夢の国(海サイド)のショーを見ているようだ。
俺は毎年園の子供たちのために確保された、観覧用のお迎え席で、一団が海門広場に集まっていく様子を二トゥリーとミトゥコッシーの腕にしがみついて見ていた。
「そう興奮しなさんなって」
俺を宥めるミッツ。
「そりゃあ無理よ、俺もドキドキが止まらん。見てみい、あれは服を着とるんか?」
「ニッチ、お前、目の付け所がクソじゃ」
「お前こそ、さっきから下向いて、鼻押さえとるのはなんでなん? それよりも、我らの可愛い弟を見習わんかい、母上がおるかもゆうて、熱心に探しよる」
「ソゴゥ、流石にここからは、あの壇上におる人の顔までは見えんやろ」
俺はミッツを見上げ、少し首を傾けて「んー」と曖昧に応え、また、王族席に目を戻した。
エルフの視力は個体差が大きらしく、俺には人の顔もそこそこ見える。
母さんがあそこにいれば、俺は絶対に見つける自信がある。だが、いまこの場に出てきている王侯貴族、高官などの中には母さんはいなかった。
海洋人たちも一応全員確認してはいるが、確認するまでもなく、全く違う。
互いの国の代表の挨拶を終え、来賓は桟橋から上陸してそのまま迎賓館へと入国していくが、午後には歓迎式典があるので、観覧客はその場で、買ってきた昼食をとったり、港付近にの飲食店へ繰り出す。
園の子供たちは、引率の先生たちと、毎年決まった二階建てのレストランを借り切って、一階と、二階におよそ、七十人ずつ分かれて昼食をとる。
このレストランで出されるのは、毎年決まってこの店の看板メニューのブイヤベースに似た魚介類のスープと、前世に一度食べたことがあるヤギのチーズに似たクセの強いチーズのパイ、バケットと魚のフリット、それとワインが出る。
アルコールは十二歳以上で保護者同伴なら、飲むことができるし、園でも時折、アルコールの嗜み方を学ぶために出される。いかんせん、双子の前には、赤いワインが用意されているが、俺にはない。
「ひとくち~、ひとくち~」
「いかん、あと三年我慢せい」
「このチーズのパイを胃に流し込むのには、その液体が必要なんだって、本で読んだ」
「ソゴゥは、毎年パイを制するのに一苦労しよるのう」
「ソゴゥ、何て本に書いてあったん?」
「人間が書いた『エルフの食文化』って本」
俺はこのレストランに来るのも、毎年楽しみにしている。みんなで外出できるというのもあるし、このレストランの雰囲気も、園の先生方や当番の子供ではない人が給仕をしてくれるのも新鮮で楽しい。
ワインを飲むともっと楽しいはず。
ニッチに頭を抑え込まれ、ワイングラスに手が届かない。仕方なく、ノンアルの甘いシードルのようなものを我慢して飲む。
ミッツの隣の幼い子が、モジモジとし出したので、ミッツが「俺、トイレ行くけど、一緒に行こうか?」と自分のついでに連れて行ってあげるよと話しかける。
ミッツのそういうところ、俺は好き。
先生達は、十四人ごとに五つあるテーブルとは別に、十数人で固まって食事をしている。
先生に付いてきてもらうのは、ちょっと恥ずかしかったのだろう。
俺たちのいる二階には、オスティオス園長もいる。オスティオス園長は俺がいる方に、必ずいる気がする。
園で最高の実力があるだけでなく、イグドラム国で五本の指に入る魔導士なのだそうだ。
顔は怖いけど、めちゃくちゃ優しい。顔は怖いけど。あとしゃべり方も若干高慢だけど、面倒見がよくて、涙もろいというギャップがある。
ミッツが子供と手を繋いで席を立って暫くして、ニッチが、急にテーブルに突っ伏した。
いきなりのことで、体を支えることも皿を避けてやることもできなかった。
「ぐあああ、頭が、痛てえ!」
カトラリーが高い音を立てて転がり、頭を押さえて苦しがる様子に、救護ができる先生を呼ぼうと、椅子から立ち上がると同時に「先生! 先生!」と泣きながら、ミッツと一緒に一階のトイレに行った子供が一人で上がってきた。
オスティオス園長と数人の先生が子供の脇をすり抜けて一階に駆け下り、俺が母さんって呼んでしまったペル・マム先生が、泣いていた子供のもとにヒザをついて、何があったのか尋ねた。
「みんなが、死んじゃった」
大人エルフたちの引率で、パレードを見に行く日。
いくつかのグループ毎にトラムに乗ってこのエルフの国、イグドラム国のセイヴ港に向かう。
最初にこの国の海を見たときの感動といったら。
三日月型の湾に、透き通った遠浅のエメラルドグリーンとパライバトルマリンの織り成す美しい色彩。
湾を形成する岩は黒く、崖から海に突き出した場所に、巨大な巻き貝のようなフォルムの、桟橋に直結した迎賓館がある。
有機的でいて、未来都市の建造物を彷彿とさせるような建物だ。
ここへ年に一度、海王種の一国、ニルヤカナヤ国の一団が物々交換と近況報告に、海の中からやって来る日が今日だ。
沖に巨大な島が出現し、そこから、色とりどり巨大魚にのった海洋人が続々とやって来る。トビウオが並走して道を作り、華やかな魚には貴魚人が、スタイリッシュで機動力が高そうな魚には、武魚人が乗っている。そして、高身長なエルフをして、どの海洋人も見上げるほど大きい。
風に揺れる赤や青の飾りヒレ、虹色に輝く鱗、原色の力強い迸る生命力に満ちたその体躯は、淡い色彩が多いエルフの人々を圧倒する。
まるでリアル夢の国(海サイド)のショーを見ているようだ。
俺は毎年園の子供たちのために確保された、観覧用のお迎え席で、一団が海門広場に集まっていく様子を二トゥリーとミトゥコッシーの腕にしがみついて見ていた。
「そう興奮しなさんなって」
俺を宥めるミッツ。
「そりゃあ無理よ、俺もドキドキが止まらん。見てみい、あれは服を着とるんか?」
「ニッチ、お前、目の付け所がクソじゃ」
「お前こそ、さっきから下向いて、鼻押さえとるのはなんでなん? それよりも、我らの可愛い弟を見習わんかい、母上がおるかもゆうて、熱心に探しよる」
「ソゴゥ、流石にここからは、あの壇上におる人の顔までは見えんやろ」
俺はミッツを見上げ、少し首を傾けて「んー」と曖昧に応え、また、王族席に目を戻した。
エルフの視力は個体差が大きらしく、俺には人の顔もそこそこ見える。
母さんがあそこにいれば、俺は絶対に見つける自信がある。だが、いまこの場に出てきている王侯貴族、高官などの中には母さんはいなかった。
海洋人たちも一応全員確認してはいるが、確認するまでもなく、全く違う。
互いの国の代表の挨拶を終え、来賓は桟橋から上陸してそのまま迎賓館へと入国していくが、午後には歓迎式典があるので、観覧客はその場で、買ってきた昼食をとったり、港付近にの飲食店へ繰り出す。
園の子供たちは、引率の先生たちと、毎年決まった二階建てのレストランを借り切って、一階と、二階におよそ、七十人ずつ分かれて昼食をとる。
このレストランで出されるのは、毎年決まってこの店の看板メニューのブイヤベースに似た魚介類のスープと、前世に一度食べたことがあるヤギのチーズに似たクセの強いチーズのパイ、バケットと魚のフリット、それとワインが出る。
アルコールは十二歳以上で保護者同伴なら、飲むことができるし、園でも時折、アルコールの嗜み方を学ぶために出される。いかんせん、双子の前には、赤いワインが用意されているが、俺にはない。
「ひとくち~、ひとくち~」
「いかん、あと三年我慢せい」
「このチーズのパイを胃に流し込むのには、その液体が必要なんだって、本で読んだ」
「ソゴゥは、毎年パイを制するのに一苦労しよるのう」
「ソゴゥ、何て本に書いてあったん?」
「人間が書いた『エルフの食文化』って本」
俺はこのレストランに来るのも、毎年楽しみにしている。みんなで外出できるというのもあるし、このレストランの雰囲気も、園の先生方や当番の子供ではない人が給仕をしてくれるのも新鮮で楽しい。
ワインを飲むともっと楽しいはず。
ニッチに頭を抑え込まれ、ワイングラスに手が届かない。仕方なく、ノンアルの甘いシードルのようなものを我慢して飲む。
ミッツの隣の幼い子が、モジモジとし出したので、ミッツが「俺、トイレ行くけど、一緒に行こうか?」と自分のついでに連れて行ってあげるよと話しかける。
ミッツのそういうところ、俺は好き。
先生達は、十四人ごとに五つあるテーブルとは別に、十数人で固まって食事をしている。
先生に付いてきてもらうのは、ちょっと恥ずかしかったのだろう。
俺たちのいる二階には、オスティオス園長もいる。オスティオス園長は俺がいる方に、必ずいる気がする。
園で最高の実力があるだけでなく、イグドラム国で五本の指に入る魔導士なのだそうだ。
顔は怖いけど、めちゃくちゃ優しい。顔は怖いけど。あとしゃべり方も若干高慢だけど、面倒見がよくて、涙もろいというギャップがある。
ミッツが子供と手を繋いで席を立って暫くして、ニッチが、急にテーブルに突っ伏した。
いきなりのことで、体を支えることも皿を避けてやることもできなかった。
「ぐあああ、頭が、痛てえ!」
カトラリーが高い音を立てて転がり、頭を押さえて苦しがる様子に、救護ができる先生を呼ぼうと、椅子から立ち上がると同時に「先生! 先生!」と泣きながら、ミッツと一緒に一階のトイレに行った子供が一人で上がってきた。
オスティオス園長と数人の先生が子供の脇をすり抜けて一階に駆け下り、俺が母さんって呼んでしまったペル・マム先生が、泣いていた子供のもとにヒザをついて、何があったのか尋ねた。
「みんなが、死んじゃった」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる