異世界転生者の図書館暮らし3 モフモフのレシピ 神鳥の羽と龍の鱗の悪魔仕立て

パナマ

文字の大きさ
27 / 42
6 旧サジタリアス城の戦い

6-1. 旧サジタリアス城の戦い

しおりを挟む
飛行竜で第九領の中心街まで行き、そこから馬車でイヲンに向かう。
第七領手前の竜舎から第七領を突っ切った方が、距離的にはイヲンに近いのだが、途中の山岳地帯を超えることを考慮すると、平野を行くこのコースの方が早いだろうと言う判断だった。
第九領の中心街とイヲンの中間地点にある街で一泊し、イヲンヘは予定通り翌日の昼に到着した。
イヲンの街に着くと、御者席にいるヴィント・トーラスが、馬車の中にいるイセトゥアンに街全体に緞帳ドンチョウのように重い空気が垂れ下がっていると告げた。
エルフは空気や水、土壌などが汚染された環境下では、聖なる性が邪悪へ傾き、ダークエルフのように攻撃的で、知性の低い生物に退化する恐れがある。

「これだけ、空気に邪気が入り混じっていたら、住んでいる者達の思考にも影響がでているかもしれませんね」
「そんなにか? 俺には分からなかったが」
「隊長たちはまず気付かないと思いますよ。ただ、私もトーラス家の端くれ、空気に関することなら自信があります」
「彼は、金糸雀カナリアのように、繊細な感覚をお持ちのようだ」
「彼の一族は、風属性の魔法を得意としております」
イセトゥアンがカルラ王子に、ヴィントを紹介する。
「そういえば、私はガルダ王をお見かけしたことがございます。あの時の感動を、いつかガルトマーン王国の方にお伝えしたいと思っていたのです」
ヴィントの言葉に、ソゴゥは変な声を上げそうになったのを咳でごまかし、目を瞑ることで動揺を隠した。
「ほう、いつ王を見掛けたのですか?」
カルラ王子がヴィントに尋ねる。
太歳タイサイを討伐されるご勇姿を、遠くから拝見致しました。あの光景は一生忘れることはありません。真っ赤な炎を纏って戦われるお姿は、まさに神鳥と言った戦の神のようであり、私の中の強さの象徴はまさしくガルダ王となりました」
そこに、御者席でヴィントの隣にいたブロンも加わり、ガルダ王を褒めちぎる会話が続き、ソゴゥは指をギュっと組んで、目を決して開けず、向かいのカルラ王子とは目を合わせないようにしていた。
空気の振動を感じ、カルラ王子が笑っていることが伝わって来る。
ソゴゥは片目だけ開けて、イセトゥアンを見る。
部下を窘めろと、目で促すが、イセトゥアンは眠気と戦っているような顔をしている。
こんな時、ヨル以外にも意思を飛ばせたらと思う。
あと、王子の護衛中に眠くなってるんじゃねえ、シバキ倒すぞ。
馬車は街の中央でセアノサスを下ろし、セアノサスは小さな図書館へと一人で向かった。
ドナー男爵の屋敷は、街の中央から離れた場所にある。
イヲンの街は坂が多く、ドナー男爵邸は市街が見渡せる高台にあり、屋敷の外観は質素で、内装も節度のある品を保っていた。
男爵と男爵夫人が揃って、カルラ王子と第一司書のソゴゥ、それとブロン・サジタリアスを出迎え、応接室へと案内し、護衛役がそれに続く。
ソゴゥは不躾にならない程度に、屋敷内を観察する。
ブロンは久しぶりの妹と、義理の弟のドナー男爵をみて「まるで別人だ」という言葉を飲み込んだ。
カルラ王子がブロンの様子を横目に見て、片眉を上げる。
開放感のある孤を描く天井までの大きなガラス窓の部屋に通され、色とりどり花が飾られた大きなテーブルにそれぞれが着く。
片側の壁には、旧サジタリアス城の最盛期が描かれ、片側は街並みが見渡せる窓となっている。壁は青のタイルで、高価な造りだが、土地の産業である陶器を紹介する意味で、華美にゼイを凝らしたというより、宣伝を兼ねていると考えられる。
サジタリアス家の砂色の髪とは違い、ドナー男爵は黄色に近い明るい髪色をしており、オールバックにして、後ろで一つにまとめている。瞳の色も、髪色と同じで、その目は隣にいるブロンテと同様に、やや澱んでいるように、ソゴゥには感じられた。
「このような田舎町の我が領地へ、天上の方々にお越しいただき、誠に恐悦至極に存じます。心より歓迎いたします。どうぞ、ゆっくりなさってください」
すでに、門扉で紹介を済ませており、ドナー男爵は歓迎の辞句を重ねた。
「急な申し出に対応いただき感謝する。私は、イグドラム国を回り、見分を広め各地の産業や環境を自国に紹介したいと考え、こちらのブロン・サジタリアス氏の紹介のもと、こちらへと伺わせていただいたのです」
カルラ王子が話した来訪の目的は、事前に打ち合わせていたもので、ブロンが頷く。
「左様でございましたか、大変光栄でございます」
「私は、カルラ王子の案内役ですが、この後は一旦小さな図書館の方へ参ります。カルラ王子滞在中は、私もこちらに滞在させていただきたいが、よろしいでしょうか?」
「もちろんでございます、第一司書様がお泊りになったとあれば、末代までの自慢となります。是非とも」
お茶と御菓子、軽食が用意され、暫くはブロンがブロンテに近況を聞いたり、カルラ王子がドナー男爵に地域の産業について尋ねたりしていた。
「ブロンテ、何か変わったことはないか? 困ったことがあったら遠慮せず頼ってくれていいんだぞ」
ブロンテとドナー男爵と顔を見合わせる。
「困ったことなんてないわ、兄様。ちょっと食費が掛かるくらいで」
「食費?」
「ええ、子供が一気に増えましたの」
「子供が出来たのか?」
「ええ、沢山増えましたわ、皆を養っていかなくてはならないので、今まで参加してこなかったパーティーにも積極的に参加して、イヲンの産業を紹介しておりますわ。でも、私と男爵でなんとかなりますもの、ねえ、貴方」
「そうです、私達ならやっていけますので、ご心配には及びません、ブロン様」
「子供は今どこに?」
「子供たちは、ええと、ああそうだわ、奥の部屋に・・・・・・」
「子供たちを紹介してくれないのかい?」
「子供たちは、寝付いたばかりですので、また明日には」
「そうか、無理を言った」
「ところで、ドナー男爵、奥方は大変お美しい。私にも妻がおり、いつも美容を気にしているのですが、奥方、何か秘訣がおありになるのでしたら、是非参考までに教えていただきたい」
カルラ王子が切り出す。
「いえ、特別何かをしているわけではございません。それに、私はどこにでもいるただのエルフでございますわ」
カルラ王子はブロンテを真っ直ぐ見つめる。
ブロンテの目は濁っているが、言葉に嘘はないようだった。
「なるほど、何となくわかりました」
その言葉は、ブロンテではなくソゴゥに向けられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【第一部完結】転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!

DAI
ファンタジー
【第一部完結!】 99回のさよならを越えた、究極の『ただいま』 99回転生した最強エルフは、のんびり暮らしたいだけなのに――なぜか家族が増えていく。 99回も転生したエルフの魔法使いフィーネは、 もう世界を救うことにも、英雄になることにも飽きていた。 今世の望みはただひとつ。 ――森の奥の丸太小屋で、静かにのんびり暮らすこと。 しかしその願いは、 **前世が日本人の少女・リリィ(12歳)**を拾ったことで、あっさり崩れ去る。 女神の力を秘めた転生少女、 水竜の神・ハク、 精霊神アイリス、 訳ありの戦士たち、 さらには―― 猫だと思って連れ帰ったら王女だった少女まで加わり、 丸太小屋はいつの間にか“大所帯”に!? 一方その裏で、 魔神教は「女神の魂」と「特別な血」を狙い、 世界を揺るがす陰謀を進めていた。 のんびり暮らしたいだけなのに、 なぜか神々と魔王と魔神教に囲まれていくエルフ。 「……面倒くさい」 そう呟きながらも、 大切な家族を守るためなら―― 99回分の経験と最強の魔法で、容赦はしない。 これは、 最強だけど戦いたくないエルフと、 転生1回目の少女、 そして増え続ける“家族”が紡ぐ、 癒しと激闘の異世界スローライフファンタジー。 ◽️第二部はこちらから https://www.alphapolis.co.jp/novel/664600893/865028992

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...