異世界転生者の図書館暮らし3 モフモフのレシピ 神鳥の羽と龍の鱗の悪魔仕立て

パナマ

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6 旧サジタリアス城の戦い

6-2. 旧サジタリアス城の戦い

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「そういえば、この街に吸血鬼が出るとの噂を耳にしたのですが」
ソゴゥが尋ねる。
「そうなのです」
男爵は深刻そうな表情で、やや身を乗り出して言う。
「王宮騎士の方々がご一緒なので、大丈夫かとは思いますが、夜は決して窓をお開けにならないようにお願いします。まあ、ここへは吸血鬼が現れたことはないのですが、街では毎日のように吸血鬼の目撃が後を絶たず、人々が不安に怯えているのでございます」
「それはそれは」
カルラ王子はあまり興味がない様子で応える。
ソゴゥとしては、次男が取り逃がした例の吸血鬼の可能性を考慮し、少しでも情報を集めたいと思い、質問を続ける。
「人死には出たのでしょうか?」
「いえ、まだそういった報告は上がっておりませんが、だからと言って放っておくわけにもいきませんので、民間の吸血鬼の捕獲退治の専門チームを雇って、討伐にあたっております」
「そうでしたか」
「罠を仕掛けて吸血鬼が現れるのを待っているようですが、今のところ成果については報告が入ってきておりません」
「吸血鬼にもクラスがありますが、最上位にも対応できるチームなのでしょうか?」
「そこまでは確認しておりませんでした。ただ、彼らはかなりの実績があることは確認できております。それに、吸血鬼に対して非常な執着があるようでして、このイヲンへも吸血鬼騒動の噂を聞いて訪れ、討伐の許可を得に私の元へと訪れたのです。そこで、雇う代わりに、街の住人に被害を出さない事、活動期間を設けることを条件として、討伐の許可を出しております」
「そのチームは全員エルフでしたか?」
「ええ、間違いなく。自ら騒ぎを起こしておいて、これを収めにくる、マッチポンプを危惧されておられるのですね?」
「それもありますが、稀に、日の光の下でも活動できる、純血からしたら、吸血鬼のなり損ないともとれる眷属が、吸血鬼に恨みを抱き憎んでいるように見せかけて、崇拝していたりすると聞きます。そういう者達が、通常に生活しているエルフに、どういった接触をしてくるのか予想できないので、注意しておいた方が良いと考えました」
「なるほど」
ソゴゥはカルラ王子に目を向け、「私はそろそろ」と声を掛ける。
カルラ王子が頷くのを見て、ソゴゥは「着いて早々ですが、私は小さな図書館の方へ向かいます」と立ちあがる。
ヨルがソゴゥに続き、ヴィントが「馬車で送りましょうか?」と尋ねる。
「大丈夫、最速で行くから」
「承知しました」
ソゴゥの最速は、瞬間移動である。

ソゴゥはドナー男爵の屋敷を出ると、丘の上から街を見下ろした。
煉瓦造りの美しい街並みを見渡す。
ヴィントが言う、空気の重苦しさを感じることは出来ず、髪を撫でていく風は心地よかった。
この街では、子供たちが行方不明となり、そのことを身内が理解していないという異常な事態が起きている。
それに加え、ここ最近の吸血鬼騒動と、少し前には近くの森で樹精霊が消失している。
ここには何かある。
それと、カルラ王子が気にしている何かは、この街と関係があるのだろうか。
ソゴゥは街の一番高い建物の屋上をマーキングして、その場所に瞬間移動した。
そこから、更に人目のない地上に移動し、街の人波に紛れる。
以前がどうだったか知らないソゴゥは、街や人々の様子について変化を感じることができないが、ただやはり王都セイヴの街を行き交う者よりも、覇気がない印象を受ける。
何か、目的もなく彷徨い歩いているような。
街の中心地から、目的の小さな図書館へ向かって歩く。
旧サジタリアス城は観光名所となっているため、街には土産物屋がちらほら見える。
噴水広場の向こうに、小さな図書館の建物が見えてくる。神社や教会のないイグドラム国においては、小さな図書館が、知恵を求めるエルフの信仰の場となっているため、その外観はどこか非日常的で、荘厳な雰囲気がある。
ふと、ソゴゥは街の者達のような澱んだ眼をしていない水辺で遊ぶ母娘に目を向けた。
小さな少女と目が合うと、少女がわっと興奮して両手を上げて「王子様!!」と大きな声を上げた。
丁度、小さな図書館から、ソゴゥに気付いたセアノサスがこちらに出迎えに来ており、ソゴゥはセアノサスに片手を上げる。
「夜の王子様だ!!」
「館長・・・・・・」
ソゴゥは身に覚えがありませんとばかりに両手を上げて、光速で首を振る。
「お兄ちゃん、王子様だよね? お目目は黒いけど」
「僕は、王子様ではないですよ。その、夜の王子様ってどんな人なのかな?」
「えっとねえ、お掃除をしてくれるんだよ。夜に窓を開けておくと、飛んでき、病気を治してくれたの、それにお母さんの、モヤモヤも治ったんだもん。」
「モヤモヤ?」
少女の母親が、恐縮しつつもソゴゥの顔を凝視しながら言う。
「ええ、このところ、物忘れというか何か意識がはっきりしないことが多くて、でも、あの方が来てから、意識がはっきりとして、視界が晴れた気がします。モヤモヤしていた時は、自分の状態も良く分かっておりませんでした。それと、治療法が見つからないとされていた体質まで改善されておりました、私にとっては救世主様です」
「つまりその方は、治癒魔法を施すボランティア活動をされている方なのでしょうか?」
セアノサスが母親に尋ねる。
母親はソゴゥへと顔を向け、何故か頬を赤らめながら「あの」と、ソゴゥに話しかける。
「貴方は、その、吸血鬼様ではないのですよね?」
「は?」と、セアノサスとソゴゥの声が上がる。
「こちらは、イグドラシルの館長をされておられる、ソゴゥ様です」と、セアノサスが憤然と答える。
「僕は、エルフですね、このような見た目で恐縮ですが、吸血鬼とは無関係です。つまり、その病気を治したというのは、僕に似た吸血鬼ということですね?」
「そうなのです、とても美しい吸血鬼で、そしてとてもいい匂いがしました。瞳は赤く、黒く短い髪、容姿については、その、司書様とそっくりでした」
「私も見たんだよ! 窓から飛んでいくとき、手を振ってくれたの。黒い羽が、赤くキラキラ光っていてね、あっという間にお空に消えちゃった」
「その吸血鬼、何か言っていましたか?」
「血を分けて欲しいと、あと、家の掃除をすると。シモベ達がそうしないと家に入れてくれないのだと仰っておられましたね。私は、その時は意識がはっきりしていなかったので、掃除をしてくれるのなら、少しくらい血を分けてあげようという気になりましたが、後から考えると、通常なら絶対に悲鳴を上げていました。けれど、結果、とても感謝しています。私の他にも、王子様に病気を治してもらった方がおり、皆感謝していました」
「んー、悪い吸血鬼じゃなかったのか」
「しかし、血を搾取していくというのはどうにも受け入れ難いですが」
「王子様は男の人の血は吸わないんだって、友達のお姉さんが、王子様から聞いたって。彼氏の病気を治して欲しいから、彼氏の血を吸ってってお願いしたら、絶対に嫌だって。男の血はカビみたいな味がするから」
「カビ・・・・・・」
セアノサスとソゴゥが微妙な顔をする。
俺たちの血って、カビみたいな何かなんだ。
ソゴゥは母娘に話を聞いたお礼を言い別れると、小さな図書館へと向かった。
セアノサスは母娘に、館長は吸血鬼ではないと釘を刺していた。
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