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第5話
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朝目が覚めたとき、俺たちの目の前に飛び込んできたのは騎士たちの姿だった。けれどその雰囲気は俺たちを歓迎しているようには見えなかった。
「貴様ら人間の身なりをしているが、悪魔の手先か。最近起こっている襲撃事件の残党がまだこんなところで呑気に残っていたとはな」
「おいちょっと待ってくれ! 俺たちはただの人間だ! 決して裏切ったりなんかは......」
「ええいうるさい。全員を捕らえろ! 抵抗するなら生死は問わん」
俺はシミルのバッグを手に取り下がることしかできなかった。バキリアとシミルはその場を離れなかった。
「いいの? ここで私の手錠を解いても?」
「あなたはいい悪魔です。ここで逃げたとしても、私は構いません」
「ふふっ、面白いこと言うわね。けどその願いはパスするわ。ちょっと面倒な用ができちゃったみたいだし」
「氷凛・薔薇!」
彼女の氷は兵士の半数を閉じ込め、隊長を驚かせた様子だった。やっぱり俺ぐらいの能力の方が普通で、あいつらがおかしいんだろ。そうとわかれば俺はなんだか恥ずかしくない気がした。
バキリアは逃走を試みた兵士を捕らえ、片手に炎を出した。まさか......
「人間はパスしたいけど、実験がてらにやってみるか」
俺の予感は的中した。彼女は火だるまの男を召喚し、なぜかそれを隊長に押し付けた。
「たいちょぉおおおー!」
「寄るな、馬鹿者! 馬が動揺するだろうがっ!」
「あーやっぱ自我が残ったかー。前にやったときもそうだったんだよなー。おまけに解除が効かないことも......あ、なんでもない」
いやなんでもないじゃないだろ。今の言葉だけで十分すぎるほどにお前の、バキリア・ボルベスタの恐ろしさは伝わった。
絶対に俺は実験台にならないようシミルにお願いしておこう。そうでないといつかさっきの奴みたいにされたらたまらないからな。
「グリムロック。あとよろしく」
彼女は石と苔の俺たちの3倍はあるであろう巨人にそう命令し、俺の元に合流した。巨人は兵士に近づき、つまようじのような剣の攻撃を簡単に弾き兵士たちを投げ飛ばした。バキリアがなぜか味方として心強かった。
「どうどう? これが私の能力、“禁忌召喚士”の力。どこかの誰かさんと違って人を支配していることに向いているわけ。アンタは支配されるために生まれてきたのよ」
ふざけるなと言いたいところだが、この身体は寝ようが寝まいが体調に変化が見られない。一度もオールをしたことがないからよくわからないが、きっとスーパー何とか人状態と呼ぶべきかもしれない。
グリムロックは隊長を残し姿を消した。いや消させた。その方が都合がいいのは言うまでもない。何より悪魔を信頼するというのも変な話だからな。
「アンタ、王都のやつ? ずいぶんと弱いみたいだけど、本当に私達を倒せると思ったの?」
「ひいいぃ! ご勘弁を! 我々は身辺警護を任されているだけで......」
いいわけチックだが、嘘を言っているようには見えなかった。
「ふーん。じゃあ王都まで案内してよ。そしたら解放してあげるからさ」
「わかった。だが、そこの凍らされた兵士も含め全員を解放してからだ。死してもなお体の火が収まらない部下も含めてな」
王都の者だからか、その顔はいたって真剣だった。決して曇りのないその顔に俺は心を動かされかけたが、バキリアはそんなことをお構いなしに語るのは知っていた。
「命令できる状況? アンタらが勝負を仕掛けなければこんなことにはならなかった。この戦いを始めたのも、戦力を見誤ったのもアンタ。責任を取るのはアンタの仕事よ。いつまでも動物みたいなこと言ってんじゃないわよ」
悪魔、というより教訓者に近かった。何より俺がその言葉を素直に受け入れていた。同時に彼女になんだか謝罪の感情が芽生えていた。
「バキリアさん、どうしてもダメですか?」
「……わかったわよ。アンタの好きにしなさい」
「はい、ありがとうございますバキリアさん」
「別に私は何もしてないけどね」
彼女はシミルの上目遣いに耐えられなかったようで、簡単に折れてくれた。ひょっとするとこれが彼女にとっての弱点につながるかもしれないな。ひとまず今度使ってみよう。そしたら俺にも素直に話すようになるかもしれない。
とはいえ嘘満載ではたまったもんじゃないが。
シミルが兵士を解放したのと同時に、俺たちは王都へと歩き出す。念のために俺たちは一番安全な最後尾を歩くことにした。
「意外だな。俺はあの隊長以外は全員殺すかと思っていた」
「敵を増やしてもいいことなんて1つもないのよ。むしろ味方を増やしておけば、いざというときでも何とかなったりするものだし」
優しさ、とは少し違うか。世界は残酷だ。特にここでは満足に人生を送って死ねるものなどそうそういないのだろうな。
「お前のことを少し勘違いしていたようだな。さっきは助かったよ、ありがとう」
シミルのようにはいかないのはわかっている。だが、俺は自分の考えを信じたい。あのとき俺が思った気持ちは間違いじゃないはずだ。
「別に......私はアンタが死なないとわかってるから、契約の元にそうしただけ。感謝の言葉なんて必要ないわ」
そのとき彼女の浮かべた笑顔は不思議なことに俺にとって一番似合っている彼女の姿だと心から思った。
「倫也さん、そのスキルネームのことですけど......」
「あ、ああ......悪かったな。俺もお前の能力を少しバカにしたみたいで、気分が悪くてな。氷薔薇だったか? 悪くないんじゃないか?」
俺がどうこう言う必要なんてなかったんだ。彼女にも彼女なりの好きなものがあり、嫌いなものがあるんだ。その違いをとやかく言うほど俺は頑固者ではない。
「そうですか。その......倫也さんの能力、傍観者でしたっけ? カッコいいと思いますよ」
お世辞にもほどがある。俺は彼女の言葉を彼女を撫でることで止めた。彼女はそれを受け入れ俺に笑顔を見せた。
が、兵士たちはそんな俺たちとは正反対の表情をしていた。そんなに異種族と仲の良いことが悪いのか? まぁバキリアとはそこまで親しいわけでなく、あくまで交渉関係だが。
「お前って王都かどこかに喧嘩を売ったのか?」
「全員が私のような考えではないってことよ。自らの存在を知らしめるために、人間を襲うこともないわけじゃないわ。そういう意味では誤解されているともとれるけど、よくある話でしょ? 疑わしきは罰せよ、よ」
彼女の意見を反対したかった。だが、彼女は俺にとっては良い悪魔であるだけで、彼らにとっては友の敵、という見方に変わるのかもしれない。世界は残酷なんだ。
「お前、これが終わったらどこに向かうつもりなんだ?」
「さぁどうかな。特に行きたいところもないし、空をふわふわ飛んで面白そうな能力を使うのがいたら、戦うかもね」
「なら俺たちと一緒に来ないか?」
彼女の顔は驚きよりむしろ俺を小馬鹿にした顔だった。そんなことはわかっている。こんな言葉を放とうとした俺が一番驚いているんだ。
だができることなら俺は誰も敵に回したくない。全員を味方にしようってことじゃない。争いを消したいんだ。それが俺の望むべき世界の形だ。
「アンタ、何考えてんのかわかってんの? 悪魔と行動を共にするってことは、あんたも他の人間に狙われるってことなのよ? その意味がわかってる?」
「ああわかってるさ。それにいろんな意味で言えば俺もお前と同じ異種族だからな」
「ハァ? それってどういう......」
「せっかくの話を邪魔して悪いが、貴様らの旅はここで終わりだ」
俺たちの視線には剣を突き付けられたシミルの姿が映った。さすがのバキリアも行動を起こそうとはしなかった。が、突然辺りは煙幕に包まれ俺は誰かに持ち上げられた。漆黒色の羽が視界を覆った。
「なんとか逃げ出せたわね。ところで、何であいつらあの子を狙ったの?」
「わからない。シミルの言葉、傍観者で俺の能力を把握できたせいかもしれないな。そういう意味ではシミルは一番子供で人質にはぴったりだからな」
「なんとなくだけど彼女には何か秘密があるんじゃない?」
「どうしてそんなことがわかる?」
「悪魔の勘よ」
絶対に当たるはずがない。そう思いつつも俺たちは王都へ裏側から侵入することにした。シミル。お前も俺の仲間だからな。
「貴様ら人間の身なりをしているが、悪魔の手先か。最近起こっている襲撃事件の残党がまだこんなところで呑気に残っていたとはな」
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彼女の氷は兵士の半数を閉じ込め、隊長を驚かせた様子だった。やっぱり俺ぐらいの能力の方が普通で、あいつらがおかしいんだろ。そうとわかれば俺はなんだか恥ずかしくない気がした。
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俺の予感は的中した。彼女は火だるまの男を召喚し、なぜかそれを隊長に押し付けた。
「たいちょぉおおおー!」
「寄るな、馬鹿者! 馬が動揺するだろうがっ!」
「あーやっぱ自我が残ったかー。前にやったときもそうだったんだよなー。おまけに解除が効かないことも......あ、なんでもない」
いやなんでもないじゃないだろ。今の言葉だけで十分すぎるほどにお前の、バキリア・ボルベスタの恐ろしさは伝わった。
絶対に俺は実験台にならないようシミルにお願いしておこう。そうでないといつかさっきの奴みたいにされたらたまらないからな。
「グリムロック。あとよろしく」
彼女は石と苔の俺たちの3倍はあるであろう巨人にそう命令し、俺の元に合流した。巨人は兵士に近づき、つまようじのような剣の攻撃を簡単に弾き兵士たちを投げ飛ばした。バキリアがなぜか味方として心強かった。
「どうどう? これが私の能力、“禁忌召喚士”の力。どこかの誰かさんと違って人を支配していることに向いているわけ。アンタは支配されるために生まれてきたのよ」
ふざけるなと言いたいところだが、この身体は寝ようが寝まいが体調に変化が見られない。一度もオールをしたことがないからよくわからないが、きっとスーパー何とか人状態と呼ぶべきかもしれない。
グリムロックは隊長を残し姿を消した。いや消させた。その方が都合がいいのは言うまでもない。何より悪魔を信頼するというのも変な話だからな。
「アンタ、王都のやつ? ずいぶんと弱いみたいだけど、本当に私達を倒せると思ったの?」
「ひいいぃ! ご勘弁を! 我々は身辺警護を任されているだけで......」
いいわけチックだが、嘘を言っているようには見えなかった。
「ふーん。じゃあ王都まで案内してよ。そしたら解放してあげるからさ」
「わかった。だが、そこの凍らされた兵士も含め全員を解放してからだ。死してもなお体の火が収まらない部下も含めてな」
王都の者だからか、その顔はいたって真剣だった。決して曇りのないその顔に俺は心を動かされかけたが、バキリアはそんなことをお構いなしに語るのは知っていた。
「命令できる状況? アンタらが勝負を仕掛けなければこんなことにはならなかった。この戦いを始めたのも、戦力を見誤ったのもアンタ。責任を取るのはアンタの仕事よ。いつまでも動物みたいなこと言ってんじゃないわよ」
悪魔、というより教訓者に近かった。何より俺がその言葉を素直に受け入れていた。同時に彼女になんだか謝罪の感情が芽生えていた。
「バキリアさん、どうしてもダメですか?」
「……わかったわよ。アンタの好きにしなさい」
「はい、ありがとうございますバキリアさん」
「別に私は何もしてないけどね」
彼女はシミルの上目遣いに耐えられなかったようで、簡単に折れてくれた。ひょっとするとこれが彼女にとっての弱点につながるかもしれないな。ひとまず今度使ってみよう。そしたら俺にも素直に話すようになるかもしれない。
とはいえ嘘満載ではたまったもんじゃないが。
シミルが兵士を解放したのと同時に、俺たちは王都へと歩き出す。念のために俺たちは一番安全な最後尾を歩くことにした。
「意外だな。俺はあの隊長以外は全員殺すかと思っていた」
「敵を増やしてもいいことなんて1つもないのよ。むしろ味方を増やしておけば、いざというときでも何とかなったりするものだし」
優しさ、とは少し違うか。世界は残酷だ。特にここでは満足に人生を送って死ねるものなどそうそういないのだろうな。
「お前のことを少し勘違いしていたようだな。さっきは助かったよ、ありがとう」
シミルのようにはいかないのはわかっている。だが、俺は自分の考えを信じたい。あのとき俺が思った気持ちは間違いじゃないはずだ。
「別に......私はアンタが死なないとわかってるから、契約の元にそうしただけ。感謝の言葉なんて必要ないわ」
そのとき彼女の浮かべた笑顔は不思議なことに俺にとって一番似合っている彼女の姿だと心から思った。
「倫也さん、そのスキルネームのことですけど......」
「あ、ああ......悪かったな。俺もお前の能力を少しバカにしたみたいで、気分が悪くてな。氷薔薇だったか? 悪くないんじゃないか?」
俺がどうこう言う必要なんてなかったんだ。彼女にも彼女なりの好きなものがあり、嫌いなものがあるんだ。その違いをとやかく言うほど俺は頑固者ではない。
「そうですか。その......倫也さんの能力、傍観者でしたっけ? カッコいいと思いますよ」
お世辞にもほどがある。俺は彼女の言葉を彼女を撫でることで止めた。彼女はそれを受け入れ俺に笑顔を見せた。
が、兵士たちはそんな俺たちとは正反対の表情をしていた。そんなに異種族と仲の良いことが悪いのか? まぁバキリアとはそこまで親しいわけでなく、あくまで交渉関係だが。
「お前って王都かどこかに喧嘩を売ったのか?」
「全員が私のような考えではないってことよ。自らの存在を知らしめるために、人間を襲うこともないわけじゃないわ。そういう意味では誤解されているともとれるけど、よくある話でしょ? 疑わしきは罰せよ、よ」
彼女の意見を反対したかった。だが、彼女は俺にとっては良い悪魔であるだけで、彼らにとっては友の敵、という見方に変わるのかもしれない。世界は残酷なんだ。
「お前、これが終わったらどこに向かうつもりなんだ?」
「さぁどうかな。特に行きたいところもないし、空をふわふわ飛んで面白そうな能力を使うのがいたら、戦うかもね」
「なら俺たちと一緒に来ないか?」
彼女の顔は驚きよりむしろ俺を小馬鹿にした顔だった。そんなことはわかっている。こんな言葉を放とうとした俺が一番驚いているんだ。
だができることなら俺は誰も敵に回したくない。全員を味方にしようってことじゃない。争いを消したいんだ。それが俺の望むべき世界の形だ。
「アンタ、何考えてんのかわかってんの? 悪魔と行動を共にするってことは、あんたも他の人間に狙われるってことなのよ? その意味がわかってる?」
「ああわかってるさ。それにいろんな意味で言えば俺もお前と同じ異種族だからな」
「ハァ? それってどういう......」
「せっかくの話を邪魔して悪いが、貴様らの旅はここで終わりだ」
俺たちの視線には剣を突き付けられたシミルの姿が映った。さすがのバキリアも行動を起こそうとはしなかった。が、突然辺りは煙幕に包まれ俺は誰かに持ち上げられた。漆黒色の羽が視界を覆った。
「なんとか逃げ出せたわね。ところで、何であいつらあの子を狙ったの?」
「わからない。シミルの言葉、傍観者で俺の能力を把握できたせいかもしれないな。そういう意味ではシミルは一番子供で人質にはぴったりだからな」
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