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2.〈ラプラスの悪魔〉
7 ゲーム
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浅川の家は、僕の家から自転車で二十分くらいのところにある一軒家だった。
インターホンを押そうとしてやめて、押そうとしてやめて、を何回から繰り返していると、
「早く入って来なさーい!」
と頭上から威勢の良い声が降ってきた。
玄関の敷居をまたぐとどこからか花の香りが漂ってきて、なぜかくらくらした。女子の家に上がるのはもちろん初めての経験だ。靴を脱ぐことすら躊躇ってしまう。
「早く早く! もう準備できてるから早くやろうよ!」
右腕をがっしと抱え込まれた時には、心臓麻痺で死ぬかと思った。玄関に漂う花の香りと、浅川の匂いが入り混じって僕の意識は完全にダメになってしまった。浅川に引きずられるまま、わけもわからず階段を昇り、二階の部屋のうちの一室に入るとそこは絵に描いたような女の子の部屋――というわけでもなかった。
「これでも片付けたんだよ?」
確かに、僕の部屋よりは片付いている。しかし、いつもきちんとしていて先生からの信頼も厚い浅川の部屋ですと言われると少し違和感があるのも事実だった。とはいえ、その部屋が醸し出す弛緩した空気は、緊張に襲われている僕の心を幾分かは救ってくれた。
ベッドの上に鎮座し、並々ならぬ存在感を醸し出している巨大なパンダのクッションを見ていると、
「ちっちゃい頃からのお気に入り。いつもこの子と一緒に寝るの」
と浅川は身体で挟み込むようにパンダのクッションを抱きかかえた。浅川の部屋が内包する女の子らしさの大部分を担っていそうなパンダだった。
「じゃあ、始めるよ! 勝負だ!」
浅川のゲームの実力は、一言で表現すると「圧倒的」だった。
僕が「プロゲーマーの方ですか?」と冗談めかして言うと、「うーん、もうちょっと上手くならないと無理かなぁ」とガチっぽい答えが返ってきて戦慄した。
僕もこのゲームをやったことないわけではなかったが、僕程度では到底浅川の相手にはなりそうになかったので、早々に諦めて浅川のプレイを後ろから眺めることにした。浅川が操るキャラクターの流麗な動きを見ているだけで、魔法を見ているような気持ちになった。
「見てるだけでいいの?」
「うん。浅川のプレイを見てるだけで十分楽しい」
浅川はちょっと俯き、僕の隣に身体を寄せてきた。浅川からはどこか甘酸っぱい匂いがしていて、また頭がくらくらした。ショートパンツからのぞく太ももはやけに白く輝いている。もうどうにかなってしまいそうだった。
「ゲームって楽しい?」
「楽しい」
僕の中の何かをごまかすために吐き出した質問に、間髪入れずに帰ってきた答え。
「ゲームって、やったらやっただけ結果が出るでしょ? そういうのが楽しい」
「そうかな」
浅川の言葉はいまいちピンと来なかった。
「掛けた時間とか、積み上げた経験値は裏切らないじゃん。経験値が溜まればレベルアップするし。そういうのって現実にはないでしょ? 積み重ねた努力は裏切るし、どれだけ尽くしたって愛想つかされる時はある」
「世知辛いね」
「そ。生きづらいよね、現実は」
近くのコンビニで調達したおにぎりやサンドイッチを頬張りながら、「じゃあ、沢村くんも一緒にやれるゲームやろうよ」ということで、サイコロを振って日本全国の不動産を買い漁るゲームを始めた。これなら勝負になるかと思ったが、浅川はこのゲームでも容赦がなかった。
「大丈夫! このゲーム簡単に逆転できるから!」
太陽に向かって咲く花のような浅川を見ているだけで、ゲームの中で何百億円も借金を抱えているにも関わらずとても幸せな気持ちになれた。欲を言えば、もう少し手加減してくれてもいいと思うんだけど。
「そう言えばさ」
「うん?」
浅川はくるくる回るサイコロの目押しをしようとしていたのか、親の仇か何かを見るような目つきで画面を凝視していた。僕は皿に乗せられたスナック菓子を頬張りながら何気なく訊いた。
「親御さんはいつ帰ってくるの?」
「今日は帰ってこないよ」
盛大にむせた。
口の中で粉々になったスナック菓子が気道に入って、まるでこの世の終わりみたいに咳込んでしまった。
「ちょっとちょっと、大丈夫?」
すみません、大丈夫じゃないです。
「お母さんとその彼氏、今日から旅行に行くって言ってたから、少なくとも明日にならないと帰ってこないと思う」
「初耳なんですが!?」
「にしし。まあ、言ってなかったからね。だからさ、今日は何時まででも遊べるよ。何だったら泊まっていってくれてもいいし」
あまりにも刺激の強すぎる単語に卒倒しそうになってしまった。
「あーあ、今日はこの家に一人かあー。誰かそばにいてくれたら、心強いんだけどなあー?」
ちらちらとわざとらしい視線を向けてくる浅川。見たことのない彼女の目にかなり戸惑いながら、
「それは……でも、やっぱりまずいよ」
「どうして?」
「間違いがあったら、よくないし」
「間違いって?」
笑顔で小首を傾げる浅川。テレビからは能天気なBGMが流れ続けている。
「わたしたちは〈ラパン〉に選ばれてるんだよ? わたしにとっての沢村くんは、この世界にいる誰よりも間違いのない相手だと思うけど?」
「それは、確かに、そうだけど」
「でしょ? だから、気にしない気にしない」
よっ、と可愛い声を上げて浅川は画面の中のサイコロを振る。出た目の数は目的地までのマス目とぴったりの数で、派手なファンファーレが鳴る。
「やったぁー!」
無邪気に喜ぶ浅川の横顔に、また胸が高鳴った。
あの窓から走る浅川を見た時と同じだ。
胸に手を当てなくても、どくどくと脈打つリズムを如実に感じた。いまだかつて経験したことがないほど、感情が高まっていく。頬は熱くなり、手元はおぼつかなくなり、口の中がカラカラに乾いていく。倒れ込んでしまいそうなのに、不思議と不快な感じはしなかった。
間違いのない相手――それは、僕にとっても同じだ。
何せ、僕らは〈ラパン〉に選ばれているのだ。
浅川にとっての僕は『間違いがない』ように、僕にとっての浅川もまた『間違いがない』。未来の全てを見通す全知全能の神から祝福を受けたようなものだ。
なぜか浅川の手に視線が吸い寄せられる。
機敏な動きでコントローラーを操る浅川の白い手。
あの雪の日に触れた、柔らかな手だ。
もう一度ふれあえたら、どんなに幸せな気持ちになれるだろうか。
「どうしたの?」
浅川はゆっくりとコントローラーを床に置いた。その目で見つめられるだけで、体温が二、三度上昇するんじゃないかと思った。
「さわりたいの?」
僕を試すような声だった。
試されているのは何なのか、知りたいと思った。
「いいよ」
僕にはもはや、その声の意味すらとれなかった。
床にだらりと伸ばされた白い手に向かって、ゆっくりと手を伸ばしていく。部屋の中に流れる空気が、全て僕と浅川の吐息で埋め尽くされているみたいだった。耳を澄ませば、互いの鼓動すら感じ取れたかもしれない。
あと数センチ、三、二、一―――
――樹。
――おれは、この家を出て行く。
その忌まわしい声が蘇ったのはなぜなのか、僕には今でもわからない。
ただその声はこれ以上ないタイミングで挿入された、静かな雰囲気をぶち壊しにするデスメタルのように、僕の心を千々に乱していった。
触れかけた手は、僕の意思とは全く無関係に止まり、花が萎れていくように力なく床に落ちる。
「どうしたの?」
さっきと同じ言葉だったが、そこには明らかな疑問の色が滲んでいた。
「ト、トイレ!」
逃げ出す以外の選択肢は、その時の僕には存在しなかった。
動転した思考を散らかしたまま、浅川の部屋を飛び出し、一段抜かしで階段を駆け下りた。玄関の脇にあるトイレに駆け込み、便器に腰をおろしたところでようやく一息ついた。
「なんなんだよ……」
あの男はどこまで僕を邪魔すれば気が済むんだ。あの声が蘇りさえしなければ僕は――そこまで考えて、ふと心が急速に冷える。
蘇りさえしなければ、僕は浅川に何をしていた?
浅川に触れようとしていた時、僕の頭にあったものは一体何だった?
わからなかった。
脳裏に浮かんだイメージには一様に霧がかかっていて、生半可な風ではとても吹き払えそうになかった。
その時、リビングから物音がした。
浅川が降りてきたんだ。
用を足してもいないのに水を流し、慌てて立ち上がった。
あまり長い間トイレにいると、余計な心配をさせてしまうかもしれない。ただでさえ微妙な空気に耐えかねて逃げてきたのだから、せめて気分くらいは切り替えよう、きっとお菓子の補充に降りてきたのだろうし――
そんなことを思いながら、何気なくリビングの扉を開けた。
「あさか……わ?」
そこにいたのは、少し年上の男女だった。
僕の頭がおかしくなってしまったのでなければ、開いた扉の隙間から見えたのは、向き合って抱き締め合った二人が、今まさに互いの唇と唇を合わせようとした瞬間だった。
扉が開くと、二人が同時にこちらを見た。
刹那、二人は弾けるように離れ、酸欠になった金魚みたいに口をパクパクさせた。
「なになにー? どしたの沢村くん?」
軽い足取りで二階から降りてきた浅川も、扉の敷居を跨いだ瞬間、はたと静止した。
時間の流れがせき止められてしまったかのように、誰も動かない。永遠のような沈黙を破ったのは、浅川の絶叫だった。
「ちょっと何やってんのお母さん――――――――ッ!!」
僕の見間違いでなければ、その女性は浅川の絶叫の最中、ちろりと赤い舌を出していたのだった。
インターホンを押そうとしてやめて、押そうとしてやめて、を何回から繰り返していると、
「早く入って来なさーい!」
と頭上から威勢の良い声が降ってきた。
玄関の敷居をまたぐとどこからか花の香りが漂ってきて、なぜかくらくらした。女子の家に上がるのはもちろん初めての経験だ。靴を脱ぐことすら躊躇ってしまう。
「早く早く! もう準備できてるから早くやろうよ!」
右腕をがっしと抱え込まれた時には、心臓麻痺で死ぬかと思った。玄関に漂う花の香りと、浅川の匂いが入り混じって僕の意識は完全にダメになってしまった。浅川に引きずられるまま、わけもわからず階段を昇り、二階の部屋のうちの一室に入るとそこは絵に描いたような女の子の部屋――というわけでもなかった。
「これでも片付けたんだよ?」
確かに、僕の部屋よりは片付いている。しかし、いつもきちんとしていて先生からの信頼も厚い浅川の部屋ですと言われると少し違和感があるのも事実だった。とはいえ、その部屋が醸し出す弛緩した空気は、緊張に襲われている僕の心を幾分かは救ってくれた。
ベッドの上に鎮座し、並々ならぬ存在感を醸し出している巨大なパンダのクッションを見ていると、
「ちっちゃい頃からのお気に入り。いつもこの子と一緒に寝るの」
と浅川は身体で挟み込むようにパンダのクッションを抱きかかえた。浅川の部屋が内包する女の子らしさの大部分を担っていそうなパンダだった。
「じゃあ、始めるよ! 勝負だ!」
浅川のゲームの実力は、一言で表現すると「圧倒的」だった。
僕が「プロゲーマーの方ですか?」と冗談めかして言うと、「うーん、もうちょっと上手くならないと無理かなぁ」とガチっぽい答えが返ってきて戦慄した。
僕もこのゲームをやったことないわけではなかったが、僕程度では到底浅川の相手にはなりそうになかったので、早々に諦めて浅川のプレイを後ろから眺めることにした。浅川が操るキャラクターの流麗な動きを見ているだけで、魔法を見ているような気持ちになった。
「見てるだけでいいの?」
「うん。浅川のプレイを見てるだけで十分楽しい」
浅川はちょっと俯き、僕の隣に身体を寄せてきた。浅川からはどこか甘酸っぱい匂いがしていて、また頭がくらくらした。ショートパンツからのぞく太ももはやけに白く輝いている。もうどうにかなってしまいそうだった。
「ゲームって楽しい?」
「楽しい」
僕の中の何かをごまかすために吐き出した質問に、間髪入れずに帰ってきた答え。
「ゲームって、やったらやっただけ結果が出るでしょ? そういうのが楽しい」
「そうかな」
浅川の言葉はいまいちピンと来なかった。
「掛けた時間とか、積み上げた経験値は裏切らないじゃん。経験値が溜まればレベルアップするし。そういうのって現実にはないでしょ? 積み重ねた努力は裏切るし、どれだけ尽くしたって愛想つかされる時はある」
「世知辛いね」
「そ。生きづらいよね、現実は」
近くのコンビニで調達したおにぎりやサンドイッチを頬張りながら、「じゃあ、沢村くんも一緒にやれるゲームやろうよ」ということで、サイコロを振って日本全国の不動産を買い漁るゲームを始めた。これなら勝負になるかと思ったが、浅川はこのゲームでも容赦がなかった。
「大丈夫! このゲーム簡単に逆転できるから!」
太陽に向かって咲く花のような浅川を見ているだけで、ゲームの中で何百億円も借金を抱えているにも関わらずとても幸せな気持ちになれた。欲を言えば、もう少し手加減してくれてもいいと思うんだけど。
「そう言えばさ」
「うん?」
浅川はくるくる回るサイコロの目押しをしようとしていたのか、親の仇か何かを見るような目つきで画面を凝視していた。僕は皿に乗せられたスナック菓子を頬張りながら何気なく訊いた。
「親御さんはいつ帰ってくるの?」
「今日は帰ってこないよ」
盛大にむせた。
口の中で粉々になったスナック菓子が気道に入って、まるでこの世の終わりみたいに咳込んでしまった。
「ちょっとちょっと、大丈夫?」
すみません、大丈夫じゃないです。
「お母さんとその彼氏、今日から旅行に行くって言ってたから、少なくとも明日にならないと帰ってこないと思う」
「初耳なんですが!?」
「にしし。まあ、言ってなかったからね。だからさ、今日は何時まででも遊べるよ。何だったら泊まっていってくれてもいいし」
あまりにも刺激の強すぎる単語に卒倒しそうになってしまった。
「あーあ、今日はこの家に一人かあー。誰かそばにいてくれたら、心強いんだけどなあー?」
ちらちらとわざとらしい視線を向けてくる浅川。見たことのない彼女の目にかなり戸惑いながら、
「それは……でも、やっぱりまずいよ」
「どうして?」
「間違いがあったら、よくないし」
「間違いって?」
笑顔で小首を傾げる浅川。テレビからは能天気なBGMが流れ続けている。
「わたしたちは〈ラパン〉に選ばれてるんだよ? わたしにとっての沢村くんは、この世界にいる誰よりも間違いのない相手だと思うけど?」
「それは、確かに、そうだけど」
「でしょ? だから、気にしない気にしない」
よっ、と可愛い声を上げて浅川は画面の中のサイコロを振る。出た目の数は目的地までのマス目とぴったりの数で、派手なファンファーレが鳴る。
「やったぁー!」
無邪気に喜ぶ浅川の横顔に、また胸が高鳴った。
あの窓から走る浅川を見た時と同じだ。
胸に手を当てなくても、どくどくと脈打つリズムを如実に感じた。いまだかつて経験したことがないほど、感情が高まっていく。頬は熱くなり、手元はおぼつかなくなり、口の中がカラカラに乾いていく。倒れ込んでしまいそうなのに、不思議と不快な感じはしなかった。
間違いのない相手――それは、僕にとっても同じだ。
何せ、僕らは〈ラパン〉に選ばれているのだ。
浅川にとっての僕は『間違いがない』ように、僕にとっての浅川もまた『間違いがない』。未来の全てを見通す全知全能の神から祝福を受けたようなものだ。
なぜか浅川の手に視線が吸い寄せられる。
機敏な動きでコントローラーを操る浅川の白い手。
あの雪の日に触れた、柔らかな手だ。
もう一度ふれあえたら、どんなに幸せな気持ちになれるだろうか。
「どうしたの?」
浅川はゆっくりとコントローラーを床に置いた。その目で見つめられるだけで、体温が二、三度上昇するんじゃないかと思った。
「さわりたいの?」
僕を試すような声だった。
試されているのは何なのか、知りたいと思った。
「いいよ」
僕にはもはや、その声の意味すらとれなかった。
床にだらりと伸ばされた白い手に向かって、ゆっくりと手を伸ばしていく。部屋の中に流れる空気が、全て僕と浅川の吐息で埋め尽くされているみたいだった。耳を澄ませば、互いの鼓動すら感じ取れたかもしれない。
あと数センチ、三、二、一―――
――樹。
――おれは、この家を出て行く。
その忌まわしい声が蘇ったのはなぜなのか、僕には今でもわからない。
ただその声はこれ以上ないタイミングで挿入された、静かな雰囲気をぶち壊しにするデスメタルのように、僕の心を千々に乱していった。
触れかけた手は、僕の意思とは全く無関係に止まり、花が萎れていくように力なく床に落ちる。
「どうしたの?」
さっきと同じ言葉だったが、そこには明らかな疑問の色が滲んでいた。
「ト、トイレ!」
逃げ出す以外の選択肢は、その時の僕には存在しなかった。
動転した思考を散らかしたまま、浅川の部屋を飛び出し、一段抜かしで階段を駆け下りた。玄関の脇にあるトイレに駆け込み、便器に腰をおろしたところでようやく一息ついた。
「なんなんだよ……」
あの男はどこまで僕を邪魔すれば気が済むんだ。あの声が蘇りさえしなければ僕は――そこまで考えて、ふと心が急速に冷える。
蘇りさえしなければ、僕は浅川に何をしていた?
浅川に触れようとしていた時、僕の頭にあったものは一体何だった?
わからなかった。
脳裏に浮かんだイメージには一様に霧がかかっていて、生半可な風ではとても吹き払えそうになかった。
その時、リビングから物音がした。
浅川が降りてきたんだ。
用を足してもいないのに水を流し、慌てて立ち上がった。
あまり長い間トイレにいると、余計な心配をさせてしまうかもしれない。ただでさえ微妙な空気に耐えかねて逃げてきたのだから、せめて気分くらいは切り替えよう、きっとお菓子の補充に降りてきたのだろうし――
そんなことを思いながら、何気なくリビングの扉を開けた。
「あさか……わ?」
そこにいたのは、少し年上の男女だった。
僕の頭がおかしくなってしまったのでなければ、開いた扉の隙間から見えたのは、向き合って抱き締め合った二人が、今まさに互いの唇と唇を合わせようとした瞬間だった。
扉が開くと、二人が同時にこちらを見た。
刹那、二人は弾けるように離れ、酸欠になった金魚みたいに口をパクパクさせた。
「なになにー? どしたの沢村くん?」
軽い足取りで二階から降りてきた浅川も、扉の敷居を跨いだ瞬間、はたと静止した。
時間の流れがせき止められてしまったかのように、誰も動かない。永遠のような沈黙を破ったのは、浅川の絶叫だった。
「ちょっと何やってんのお母さん――――――――ッ!!」
僕の見間違いでなければ、その女性は浅川の絶叫の最中、ちろりと赤い舌を出していたのだった。
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