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4.心
15 運命を作る
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「何を言ってるのかわからない、って顔だね」
正直に言うと、僕は混乱していた。
彼女は今、何を言ったんだ?
〈ラパン〉を、作った?
「なんとなく、樹くんに聞いてもらいたい気分だった、ってだけさ。別に信じてくれなくたって構わない」
彼女の手首を掴んでいた手も、いつの間にか解けていた。
ゆくえはゆっくりと身体を起こし、乱れた髪を手櫛で整えると、「よいしょ」と可愛い声を出して僕の隣に収まった。正面に備え付けられた大きな鏡には、所在なく座る僕とゆくえが映っている。
「物心ついた頃にはもうアメリカにいたんだ。母親の仕事の関係でね。とにかく、四六時中勉強ばかりしていたな。のめり込んでいたと言ってもいい。どのくらいのめり込んだかというと、そうだな、一〇才の頃にはちょっとした研究者になったくらい」
「……そんなことできるのか」
「できるさ。そこが日本と違うところだ。別に、私が特別だからってわけでもない。少なくとも、能力と意思がある人間にとってはいい国であることは間違いないよ、アメリカは。思い描くことのほとんどは実現できるからな。日本のように、教室の中の空気を読む必要すらない」
想像もできない世界だった。
でも確かに、目の前にいる少女からは普通の人間とは違う何かが滲み出ているようにも思えた。その源泉は、彼女の持つ知性なのかもしれないし、その特異な経験なのかもしれない。
「どうしてそんなに勉強したんだ」
「知りたいことがあったんだ」
「何を」
「人の、心」
心。
ゆくえはそう言った。
「小さい頃からずっと不思議だったんだ。どうして世間の大人たちは男と女で一組になるんだろう、って。生きていくだけなら一人で事足りるのに。その頃はまだ素直だった私は、無邪気にも母に聞いてみたんだよ。そしたら、どこか幸せそうな顔でこう言うんだ。『ゆくえ、人と人はね、心で通じ合うんだよ』ってね。笑えるよな。そんなこと言ってる自分は、とっくの昔に父とは別れてるって言うのにさ」
かかか、とゆくえは笑い、その後ふと何かに気づいたように、パチンと指を鳴らした。
「そうか、そこも共通項だったか。よくよく考えてみないと意外とわからないものだよな」
「何のことだ?」
「親だよ。私たちはみんな親の離婚を経験している。浅川さんもそうだったろう?」
そう言われてみれば、確かにそうだ。
ゆくえの親が離婚しているのであれば、僕らは三人とも同じような境遇ということになる。
「〈ラパン〉はそんなところまで見るんだな」
「そんなところも――の方が言い方としては正しい。まぁ、その話は追々するよ。それで、なんだっけ? そう、心だ。私にわからなかったのは。なぜ人は人と一緒に生きようとする? 愛ってなんだ? 大切って一体何なんだ? それは、生殖への欲求とは異なるものなのか? 何もわからなかった。ちんぷんかんぷんさ。樹くんはどうだ? 樹くんは、その答えを知っているか?」
少し考えた後、首を横に振った。
僕が知っているのは、僕と母さんを置いて一人家を出て行く父親の姿だけだ。
「私も、そうだ。どれだけ人間を見ても、どんな物語に触れようとも、それはわからなかった。だから、確かめようと思ったんだ」
ゆくえはスマホの画面をこちらに差し出してきた。
それは、歪な楕円形の枠の中に、もやもやした模様のようなものが浮かんでいる写真だった。
「これは?」
「人が恋に落ちた瞬間の、脳の様子だよ」
「そんなの、撮れるのか」
「撮れるさ。これと連動すればね」
ゆくえは自分の腕につけている時計型の健康管理装置〈ウォッチャー〉を指さした。
「いわゆる産学連携――ってやつさ。私のいた大学の研究室と、この〈ウォッチャー〉を開発した企業とでね。まさに今生きている数億人のリアルなデータをオンタイムで分析かけられたのは、世界広しと言えど私ぐらいのものだろうな。その時のデータが、〈ラパン〉を作るための基礎になったんだ」
「脳のデータが――か? それと〈ラパン〉と何か関係があるのか?」
「大アリさ。いいかい? ここ数年で、AIは飛躍的に進化した。人間の生データを全てぶちこんで解析かければ、それなりの精度で相性ぐらいは測れるだろうさ。しかし、そんなものはどこまでいったって相性でしかない。人と人を結び付け続ける〈運命〉の赤い糸を導き出すことなんてできると思うか? 何があろうと別れず、ずっと添い遂げる相手を選び出すことができるか?」
「だけど、それができるのが〈ラパン〉だろ」
言うまでもなく、〈ラパン〉は超高性能AIを利用した脅威のマッチング率を誇るマッチングアプリだ。
AIを使ったマッチングサービスが雨後の筍のように乱立した時代があった。それを驚異的なマッチング率で勝ち抜いたのがこの〈ラパン〉で、それを支えているのは、〈ラパン〉を司る神――AIだ。AIは人の性格や行動を読み取り、その人間に最適な相手――『運命の相手』を導き出す。
そういうものだと、僕らは理解している。
「違うね」
ゆくえは、スマートフォンを操作し、自分の〈ラパン〉を起動させた。
見慣れたウサギのアニメーションが薄暗がりの中で光る。ゆくえの手の中にいるウサギが振り向いて微笑む。
「〈ラパン〉は『運命』を導き出すんじゃない。『運命』を作るんだよ」
「『運命』を、作る?」
ゆくえの言葉の意味がうまくとれなかった僕は、オウムのように言葉を返した。「つまり、こういうことさ」とゆくえは人差し指を立てる。
「AIによって導き出された『運命の相手』と出会った瞬間、〈ラパン〉はある指令を〈〉ウォッチャー〉に出す。〈ラパン〉と連動した〈ウォッチャー〉は微弱な電気信号を脳に送り込んで脳内物質を操作し、『恋』をするのに最適な状態へと脳を導くんだ」
「それは――」
「もちろんそれだけでは、『運命』は作れない。〈ラパン〉はバックグラウンドで動作し、常に信号を出し続け、その相手に対して『恋』を演出し続けるんだ。もちろん、その間は他の相手に対して心が動かないように逆側の制御もする。恋が軌道に乗ってきたら、もっと継続的な『愛』へと自然に状態移行させていくことによって、二人の関係を維持する――」
語り続けるゆくえに、思わず背筋が凍った。
つまり、ゆくえはこう言っているのだ。
〈ラパン〉は『運命の相手』と巡り会わせてくれるアプリなどではなく、巡り合わせた相手を『運命の相手』だと誤認させるアプリなのだ――、と。
「それって、洗脳……って言うんじゃないのか?」
たまらず口にした。
ゆくえは少しも動じた様子がない。
「それは考え方次第だろう。第一だ、こういうマッチングアプリを使う人間の目的を考えてみるといい。末永く付き合っていける人間を探したい――つまり、出会う人間と継続的な関係を築きたいってことだろう? 小さい子どもが自転車を練習する時につける補助輪みたいなものさ。それさえあれば、バランスの取れない子どもでも、転ばずに自転車に乗れる。慣れてくれば、その時に初めて補助輪を外せばいい。〈ラパン〉はそれと同じことをしているだけだ」
思い返す。
あの雪の降る駅前の広場で、浅川のことを視認した瞬間の感情を。胸の高鳴りと、その奥に溢れる優しい気持ちを。
トラックを走る浅川を見た時の気持ち、僕に気づいて手を振り返してくれた時の気持ち、浅川の家でゲームをやりながら手が少し触れた時の気持ち。
それらが全て、〈ラパン〉によってもたらされたものだとしたら――
「勘違いしないでくれ。〈ラパン〉がしているのはあくまで感情動作のサポートに過ぎない。君の中にそういう気持ちの萌芽があったからこそ、〈ラパン〉はそれを助けることができる。脚のない人間を自転車に乗せることはできないのさ。だから、君の中に芽生えた気持ちは、それはそれで本物なんだよ」
「けど、それは〈ラパン〉がもたらしたものだ」
「同じことだよ」
「けど――」
言い募ろうとする僕に、ゆくえからふっと息が漏れた。
ゆくえはこれ以上、僕と平行線の議論を続ける気はないように見えたし、僕もそれは同じだった。
「どうして、こんなものを作ろうと思ったんだ?」
ゆくえとは短い付き合いだが、僕にはわかる。
こいつは、何の理由もなく他人の心を意のままに操って平気でいられるような人間じゃない。
「言っただろう。私は心が知りたかった、って」
「心なら、あるだろ」
「本当にそう思うのか?」
柔和だった瞳が、少しだけ険しくなる。
「〈オズの魔法使い〉のブリキの木こりだよ。心がないから、心が欲しいんだとさ。は!」
吐き捨てるように、ゆくえは笑った。
「何が、元々心はあった――だ! そんなものは詐欺と変わらないだろう! 物語を作るんだったらな、心がないならないなりに幸せにしてみせろと言うんだ!」
ゆくえは、大きく息を吐いた。
心を落ち着かせるかのように、二、三度深呼吸をする。
「だけどさ、ゆくえには心があるじゃないか。そうやって怒っているのがその証拠だろ。ブリキの木こりに怒ることなんて――」
言いながらゆくえの表情をうかがった僕は、とても二の句を継げなくなった。
ゆくえの瞳には先ほどまでの怒りはどこにもなく、代わりにどこまでも落ちていきそうな昏い空洞があった。絶句する僕を一瞥すると、ゆくえは大きくため息をつく。
「心が知りたかった私は、自分の脳を調べたんだ。自分の生きてきた世界と、他人のそれが違うのかどうか、本当のところが知りたかったからね。〈ウォッチャー〉と、当時開発段階だった〈ラパン〉のプロトタイプを使って、かなり長い時間をかけた。その結果、わかったことが一つある」
「なんだ?」
「私の脳は、『恋』をすることができないらしい」
正直に言うと、僕は混乱していた。
彼女は今、何を言ったんだ?
〈ラパン〉を、作った?
「なんとなく、樹くんに聞いてもらいたい気分だった、ってだけさ。別に信じてくれなくたって構わない」
彼女の手首を掴んでいた手も、いつの間にか解けていた。
ゆくえはゆっくりと身体を起こし、乱れた髪を手櫛で整えると、「よいしょ」と可愛い声を出して僕の隣に収まった。正面に備え付けられた大きな鏡には、所在なく座る僕とゆくえが映っている。
「物心ついた頃にはもうアメリカにいたんだ。母親の仕事の関係でね。とにかく、四六時中勉強ばかりしていたな。のめり込んでいたと言ってもいい。どのくらいのめり込んだかというと、そうだな、一〇才の頃にはちょっとした研究者になったくらい」
「……そんなことできるのか」
「できるさ。そこが日本と違うところだ。別に、私が特別だからってわけでもない。少なくとも、能力と意思がある人間にとってはいい国であることは間違いないよ、アメリカは。思い描くことのほとんどは実現できるからな。日本のように、教室の中の空気を読む必要すらない」
想像もできない世界だった。
でも確かに、目の前にいる少女からは普通の人間とは違う何かが滲み出ているようにも思えた。その源泉は、彼女の持つ知性なのかもしれないし、その特異な経験なのかもしれない。
「どうしてそんなに勉強したんだ」
「知りたいことがあったんだ」
「何を」
「人の、心」
心。
ゆくえはそう言った。
「小さい頃からずっと不思議だったんだ。どうして世間の大人たちは男と女で一組になるんだろう、って。生きていくだけなら一人で事足りるのに。その頃はまだ素直だった私は、無邪気にも母に聞いてみたんだよ。そしたら、どこか幸せそうな顔でこう言うんだ。『ゆくえ、人と人はね、心で通じ合うんだよ』ってね。笑えるよな。そんなこと言ってる自分は、とっくの昔に父とは別れてるって言うのにさ」
かかか、とゆくえは笑い、その後ふと何かに気づいたように、パチンと指を鳴らした。
「そうか、そこも共通項だったか。よくよく考えてみないと意外とわからないものだよな」
「何のことだ?」
「親だよ。私たちはみんな親の離婚を経験している。浅川さんもそうだったろう?」
そう言われてみれば、確かにそうだ。
ゆくえの親が離婚しているのであれば、僕らは三人とも同じような境遇ということになる。
「〈ラパン〉はそんなところまで見るんだな」
「そんなところも――の方が言い方としては正しい。まぁ、その話は追々するよ。それで、なんだっけ? そう、心だ。私にわからなかったのは。なぜ人は人と一緒に生きようとする? 愛ってなんだ? 大切って一体何なんだ? それは、生殖への欲求とは異なるものなのか? 何もわからなかった。ちんぷんかんぷんさ。樹くんはどうだ? 樹くんは、その答えを知っているか?」
少し考えた後、首を横に振った。
僕が知っているのは、僕と母さんを置いて一人家を出て行く父親の姿だけだ。
「私も、そうだ。どれだけ人間を見ても、どんな物語に触れようとも、それはわからなかった。だから、確かめようと思ったんだ」
ゆくえはスマホの画面をこちらに差し出してきた。
それは、歪な楕円形の枠の中に、もやもやした模様のようなものが浮かんでいる写真だった。
「これは?」
「人が恋に落ちた瞬間の、脳の様子だよ」
「そんなの、撮れるのか」
「撮れるさ。これと連動すればね」
ゆくえは自分の腕につけている時計型の健康管理装置〈ウォッチャー〉を指さした。
「いわゆる産学連携――ってやつさ。私のいた大学の研究室と、この〈ウォッチャー〉を開発した企業とでね。まさに今生きている数億人のリアルなデータをオンタイムで分析かけられたのは、世界広しと言えど私ぐらいのものだろうな。その時のデータが、〈ラパン〉を作るための基礎になったんだ」
「脳のデータが――か? それと〈ラパン〉と何か関係があるのか?」
「大アリさ。いいかい? ここ数年で、AIは飛躍的に進化した。人間の生データを全てぶちこんで解析かければ、それなりの精度で相性ぐらいは測れるだろうさ。しかし、そんなものはどこまでいったって相性でしかない。人と人を結び付け続ける〈運命〉の赤い糸を導き出すことなんてできると思うか? 何があろうと別れず、ずっと添い遂げる相手を選び出すことができるか?」
「だけど、それができるのが〈ラパン〉だろ」
言うまでもなく、〈ラパン〉は超高性能AIを利用した脅威のマッチング率を誇るマッチングアプリだ。
AIを使ったマッチングサービスが雨後の筍のように乱立した時代があった。それを驚異的なマッチング率で勝ち抜いたのがこの〈ラパン〉で、それを支えているのは、〈ラパン〉を司る神――AIだ。AIは人の性格や行動を読み取り、その人間に最適な相手――『運命の相手』を導き出す。
そういうものだと、僕らは理解している。
「違うね」
ゆくえは、スマートフォンを操作し、自分の〈ラパン〉を起動させた。
見慣れたウサギのアニメーションが薄暗がりの中で光る。ゆくえの手の中にいるウサギが振り向いて微笑む。
「〈ラパン〉は『運命』を導き出すんじゃない。『運命』を作るんだよ」
「『運命』を、作る?」
ゆくえの言葉の意味がうまくとれなかった僕は、オウムのように言葉を返した。「つまり、こういうことさ」とゆくえは人差し指を立てる。
「AIによって導き出された『運命の相手』と出会った瞬間、〈ラパン〉はある指令を〈〉ウォッチャー〉に出す。〈ラパン〉と連動した〈ウォッチャー〉は微弱な電気信号を脳に送り込んで脳内物質を操作し、『恋』をするのに最適な状態へと脳を導くんだ」
「それは――」
「もちろんそれだけでは、『運命』は作れない。〈ラパン〉はバックグラウンドで動作し、常に信号を出し続け、その相手に対して『恋』を演出し続けるんだ。もちろん、その間は他の相手に対して心が動かないように逆側の制御もする。恋が軌道に乗ってきたら、もっと継続的な『愛』へと自然に状態移行させていくことによって、二人の関係を維持する――」
語り続けるゆくえに、思わず背筋が凍った。
つまり、ゆくえはこう言っているのだ。
〈ラパン〉は『運命の相手』と巡り会わせてくれるアプリなどではなく、巡り合わせた相手を『運命の相手』だと誤認させるアプリなのだ――、と。
「それって、洗脳……って言うんじゃないのか?」
たまらず口にした。
ゆくえは少しも動じた様子がない。
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思い返す。
あの雪の降る駅前の広場で、浅川のことを視認した瞬間の感情を。胸の高鳴りと、その奥に溢れる優しい気持ちを。
トラックを走る浅川を見た時の気持ち、僕に気づいて手を振り返してくれた時の気持ち、浅川の家でゲームをやりながら手が少し触れた時の気持ち。
それらが全て、〈ラパン〉によってもたらされたものだとしたら――
「勘違いしないでくれ。〈ラパン〉がしているのはあくまで感情動作のサポートに過ぎない。君の中にそういう気持ちの萌芽があったからこそ、〈ラパン〉はそれを助けることができる。脚のない人間を自転車に乗せることはできないのさ。だから、君の中に芽生えた気持ちは、それはそれで本物なんだよ」
「けど、それは〈ラパン〉がもたらしたものだ」
「同じことだよ」
「けど――」
言い募ろうとする僕に、ゆくえからふっと息が漏れた。
ゆくえはこれ以上、僕と平行線の議論を続ける気はないように見えたし、僕もそれは同じだった。
「どうして、こんなものを作ろうと思ったんだ?」
ゆくえとは短い付き合いだが、僕にはわかる。
こいつは、何の理由もなく他人の心を意のままに操って平気でいられるような人間じゃない。
「言っただろう。私は心が知りたかった、って」
「心なら、あるだろ」
「本当にそう思うのか?」
柔和だった瞳が、少しだけ険しくなる。
「〈オズの魔法使い〉のブリキの木こりだよ。心がないから、心が欲しいんだとさ。は!」
吐き捨てるように、ゆくえは笑った。
「何が、元々心はあった――だ! そんなものは詐欺と変わらないだろう! 物語を作るんだったらな、心がないならないなりに幸せにしてみせろと言うんだ!」
ゆくえは、大きく息を吐いた。
心を落ち着かせるかのように、二、三度深呼吸をする。
「だけどさ、ゆくえには心があるじゃないか。そうやって怒っているのがその証拠だろ。ブリキの木こりに怒ることなんて――」
言いながらゆくえの表情をうかがった僕は、とても二の句を継げなくなった。
ゆくえの瞳には先ほどまでの怒りはどこにもなく、代わりにどこまでも落ちていきそうな昏い空洞があった。絶句する僕を一瞥すると、ゆくえは大きくため息をつく。
「心が知りたかった私は、自分の脳を調べたんだ。自分の生きてきた世界と、他人のそれが違うのかどうか、本当のところが知りたかったからね。〈ウォッチャー〉と、当時開発段階だった〈ラパン〉のプロトタイプを使って、かなり長い時間をかけた。その結果、わかったことが一つある」
「なんだ?」
「私の脳は、『恋』をすることができないらしい」
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