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婚約破棄してもらいに行ってきます!
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お母様が亡くなったのをきっかけにお父様は政治から身を退き、領地がある田舎に引っ込み隠居暮らしをはじめた。王都から田舎に引っ越すことに後ろ指を指す人もいたけれど、幼かった私は別に反論はなく、むしろ王都にはない自然に溢れた田舎でのびのびと育つことができた。
そう。
大自然の中でのびのびと。
好き勝手に。
やりたい放題で。
元々田舎暮らしの方が性格にあっていたんだろう。
王都に住んでいても、侯爵令嬢とあっては同じ歳頃の遊び相手はおらず、屋敷の中で大量に与えられる絵本を読んで、庭で花摘みをすこしして、可愛らしい服を着せられた人形相手におままごと。お母様の体調もだんだんと悪くなっている時期で、変にまわりの空気を読んで我がままを言わない、大人にとっては都合のいい子供らしくない子供。
けれど貴族の娘としては模範のような子供。王都イチの美人とうたわれた母親に似て黒髪にグリーンの瞳の美少女中の美少女。
それが私だったのに、田舎に来てからは朝から近隣の村々の男の子たちと一緒に森へ行っては、拾った木の枝を振り回し冒険ごっこ。
部屋に篭って刺繍をしたり、花の咲いた庭で優雅にお茶会をするより、草原を走りまわり、馬を駆ける方が楽しかった。
お父様もそんな私を叱ることはなく、ありのままの私を喜んでくれて、いつも優しかった。
そんな私に定期的に王都から届く手紙。
これが唯一の悩みの種。
婚約者のルイスからだ。
何をして過ごしていますか?食べ物は何が好きですか?
献上されたお菓子が美味しかったので贈りますね。
香水に興味はありますか?王都で流行っているアクセサリーです。
よかったらどうぞ。
親が勝手に決めた婚約者。それも自分の年齢より遥かに年下の小娘に、手紙と贈り物は律儀に届くのだけれど、家庭教師より綺麗な字で書かれたルイスの手紙は、自分のド汚い字で返事を書かなければならないのが苦痛で仕方なかった。
贈られたアクセサリーなんて、一度も身に付けることなく宝石箱の中で眠っている。香水なんて封を切られることなく消費期限切れを迎えた。
返事の手紙はできるだけルイスが自分に幻滅するように、わざと田舎臭い内容を書いて送った。贈り物のお返しだって、どんなに高価なものを贈ってきても、そこら辺に咲いている花を本の間に挟んでしおりにしたものや、森で拾った木の実をくっつけたツリー。もちろんツリーも雑林に絡み付いていた蔦で編んだ材料費ゼロ!!
剣の稽古で男の子を負かし、
馬で遠駆けしたついでに川で泳ぎ
ドレスを踏んで破いてしまった……etc
王都の優雅な令嬢たちなら絶対にしないだろう正反対のことばかりを手紙に書いて送り返した。自分に愛想をつかすように願って。
婚約破棄できればいいのに。
ルイスとこのまま親の決めたとおりに結婚するということは、この自由な田舎生活から、王都の狭くて窮屈な生活をしなくてはいけないということだ。
いや、無理だし。
絶対無理だもの。
今更あんな窮屈でつまらない生活なんて絶対戻りたくないわ。
どんなにお腹が空いていても、ご飯は口いっぱいに詰め込むなんてもっての他。
一口ずつ小さくナイフで切って、パンも一口大に千切ってバターを付けて食べなきゃいけない。
高いヒールの靴は歩きにくいし、髪は熱いコテで巻いてピンでキツく留めて、コルセットなんて締め付けられた日には胃が逆流して窒息死してしまう。
ダンス?田舎に来てから家庭教師に嫌々教えられたっきりね。
遠く離れた田舎にも届く王都の風の噂では、ルイスはあれからさらにカッコよくなっているらしい。
ルイスと直接会ったのは婚約者として紹介された一度きりだったが、あの時ですらルイスはかなりかっこよかった。金髪碧眼に長身、眉目秀麗な顔立ち、落ち着いた柔らかな物腰。あれがさらにイケメン度を増すとか想像できない。
社交界ではルイスとダンスを踊っただけで嫉妬と誹謗中傷の的になるのだとか。それでもルイスと一度でいいからダンスを誘われたいという令嬢は後を絶たないのだというから
アホらしい
高いヒール靴を履いて、コルセットに締め付けられて、熱いコテで髪を巻いてダンスをすることに何の意味があるのか理解できない。
ルイスと婚約破棄してずっと田舎で暮らしていければいいのに。
理想はお父様のような暮らし。
幸いにも我が家は侯爵家で土地も貯金もまぁまぁある。贅沢をしなければ未婚のままでも一生暮らしていけるだろう。家が無くなると困るし、老後の自分の面倒を見てくれる相手は欲しいから、養子を1人もらってもいい。
結婚のタイムリミットは自分が18歳になったとき。
ルイスは32歳。
それまでに婚約破棄をルイスに承諾させることが出来れば、私は晴れて自由の身となるわけである。
そう。
大自然の中でのびのびと。
好き勝手に。
やりたい放題で。
元々田舎暮らしの方が性格にあっていたんだろう。
王都に住んでいても、侯爵令嬢とあっては同じ歳頃の遊び相手はおらず、屋敷の中で大量に与えられる絵本を読んで、庭で花摘みをすこしして、可愛らしい服を着せられた人形相手におままごと。お母様の体調もだんだんと悪くなっている時期で、変にまわりの空気を読んで我がままを言わない、大人にとっては都合のいい子供らしくない子供。
けれど貴族の娘としては模範のような子供。王都イチの美人とうたわれた母親に似て黒髪にグリーンの瞳の美少女中の美少女。
それが私だったのに、田舎に来てからは朝から近隣の村々の男の子たちと一緒に森へ行っては、拾った木の枝を振り回し冒険ごっこ。
部屋に篭って刺繍をしたり、花の咲いた庭で優雅にお茶会をするより、草原を走りまわり、馬を駆ける方が楽しかった。
お父様もそんな私を叱ることはなく、ありのままの私を喜んでくれて、いつも優しかった。
そんな私に定期的に王都から届く手紙。
これが唯一の悩みの種。
婚約者のルイスからだ。
何をして過ごしていますか?食べ物は何が好きですか?
献上されたお菓子が美味しかったので贈りますね。
香水に興味はありますか?王都で流行っているアクセサリーです。
よかったらどうぞ。
親が勝手に決めた婚約者。それも自分の年齢より遥かに年下の小娘に、手紙と贈り物は律儀に届くのだけれど、家庭教師より綺麗な字で書かれたルイスの手紙は、自分のド汚い字で返事を書かなければならないのが苦痛で仕方なかった。
贈られたアクセサリーなんて、一度も身に付けることなく宝石箱の中で眠っている。香水なんて封を切られることなく消費期限切れを迎えた。
返事の手紙はできるだけルイスが自分に幻滅するように、わざと田舎臭い内容を書いて送った。贈り物のお返しだって、どんなに高価なものを贈ってきても、そこら辺に咲いている花を本の間に挟んでしおりにしたものや、森で拾った木の実をくっつけたツリー。もちろんツリーも雑林に絡み付いていた蔦で編んだ材料費ゼロ!!
剣の稽古で男の子を負かし、
馬で遠駆けしたついでに川で泳ぎ
ドレスを踏んで破いてしまった……etc
王都の優雅な令嬢たちなら絶対にしないだろう正反対のことばかりを手紙に書いて送り返した。自分に愛想をつかすように願って。
婚約破棄できればいいのに。
ルイスとこのまま親の決めたとおりに結婚するということは、この自由な田舎生活から、王都の狭くて窮屈な生活をしなくてはいけないということだ。
いや、無理だし。
絶対無理だもの。
今更あんな窮屈でつまらない生活なんて絶対戻りたくないわ。
どんなにお腹が空いていても、ご飯は口いっぱいに詰め込むなんてもっての他。
一口ずつ小さくナイフで切って、パンも一口大に千切ってバターを付けて食べなきゃいけない。
高いヒールの靴は歩きにくいし、髪は熱いコテで巻いてピンでキツく留めて、コルセットなんて締め付けられた日には胃が逆流して窒息死してしまう。
ダンス?田舎に来てから家庭教師に嫌々教えられたっきりね。
遠く離れた田舎にも届く王都の風の噂では、ルイスはあれからさらにカッコよくなっているらしい。
ルイスと直接会ったのは婚約者として紹介された一度きりだったが、あの時ですらルイスはかなりかっこよかった。金髪碧眼に長身、眉目秀麗な顔立ち、落ち着いた柔らかな物腰。あれがさらにイケメン度を増すとか想像できない。
社交界ではルイスとダンスを踊っただけで嫉妬と誹謗中傷の的になるのだとか。それでもルイスと一度でいいからダンスを誘われたいという令嬢は後を絶たないのだというから
アホらしい
高いヒール靴を履いて、コルセットに締め付けられて、熱いコテで髪を巻いてダンスをすることに何の意味があるのか理解できない。
ルイスと婚約破棄してずっと田舎で暮らしていければいいのに。
理想はお父様のような暮らし。
幸いにも我が家は侯爵家で土地も貯金もまぁまぁある。贅沢をしなければ未婚のままでも一生暮らしていけるだろう。家が無くなると困るし、老後の自分の面倒を見てくれる相手は欲しいから、養子を1人もらってもいい。
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ルイスは32歳。
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