ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

文字の大きさ
4 / 36
魔人 ニケ編

神島とニケⅠ

しおりを挟む
 こうして、何がなんだか分からないまま、魔人との共同生活が始まった。……とどこぞの小説のように前向きに考えてみたが、納得したわけではない。そもそも、そんな感じですぐに環境に適応できる人間こそどうかしているだろう。

 誰かに相談しようか。いや、他人にこの出来事を話したところで、頭のおかしい奴か、漫画の影響受けすぎマンというレッテルを貼られておしまいだろう。

 とにかく……

「はぁ!?」

 俺の声にまたニケは体を震わせる。

「だ、だって、私には、や、やらなきゃいけないことがあって……。そうじゃないと、また……」

「そうじゃないとどうな……!?」

 そう言いかけて、気づいた。ニケの身体には目を凝らさなければ分からないくらいだが、薄い痣がある。明らかに故意につけられたことが分かる。経験がある俺だから……。いや、今はそんなことより、

「コンコン、神さーん? コンコン、いるんでしょー?」

 くそ、こんな時に。しかも、「コンコン」という音は扉を叩く音ではない。口で「コンコン」と発している。そんな頭のおかしい来訪者なんて、絶対ロクな人間ではない。音を立てずに、扉に近寄り、ドアスコープを覗く。

「!?」

 ロクな人間どころか、扉の向こうにいたのは人間ではなかった。そいつは、スーツに身を包み、『それ』っぽい杖(?)を片手に、自信満々に立っていた。そして、その顔には見覚えがあった。

「ニケ! お前が紹介していた、なんだっけ、アイツがきたぞ」

 声を抑えてニケに伝える。一瞬、何のことか分からないような顔をしたが、俺の心を読んだらしい。

「ど、どうしよう」

 明らかに動揺している。とにかく、鉢合わせはさせない方がよさそうだ。

「ニケ、狭いし、暗いけど、ここに」

 部屋の片隅にあるクローゼットの扉を開ける。掛けてある服を端に寄せ、小柄なニケならなんとか入れるスペースを作れた。よし。

「で、でも」

「いいからっ!」

 困惑するニケを無理やり押し込む。ランプの中に入ればいいのかもしれないが、発生する煙のことを考えると、それは発見のリスクが上がるだろう。ランプとバケツも一緒にニケの足元に置く。

「コンコーン!!! コンコーン!!!!」

 さっきから扉の向こうで止めどなく声を発している。頭がおかしすぎる。明らかに部屋にいることを分かっての『行動』だろう。流石に、もう時間は取れない。

「とにかく、この中でジッとしてて」

 クローゼットの中で、小さくなり、小さく頷くニケ。

「コンコーン!!!!」

 急いで扉の方に向かう。

「ふぅ」

 乱れた息を整えて、何食わぬ顔を作る。

「……ど、どちら様ですか?」

 扉を開ける。実際に対峙すると、その威圧感はまさに『それ』らしいものを感じる。

「どーも! 神です! てへっ」

 そう、目の前には、『神』が立っていた。



「てかさ、遅くね???」

 顔は、にこやかだが、声は先ほどとはうって変わり、低く威圧的だ。金髪でガングロという風貌が更に威圧感を出している。

「あのー、えっと、ど、どちら様ですか?」

 あくまで平然と対応する。

「だーかーら、神です! てへっ」

 手を頭にのせる度に、着ているスーツが軋む。おじいさんにしては、体が出来上がりすぎている。まさに、筋骨隆々とはこういう人のことを言うのだろう。

「……」

「……」

「……」

 沈黙が続く。それに耐えきれず、先にこちらが口を開いた。

「あっ、あはははー。お、面白いですねぇ」

 かなり引きつった笑顔になってしまった。

「……」

 神と名乗る人物は、じっと俺の顔を、いや、目を見ている。負けじと目を離さないようにするが、恐怖で足は震えてしまう。

「あ、あのー」
耐えかねて、声をかけた。

「おっと、そうかそうか。ワシが先に来てしもうたんか。がははは!」

 表情がうって変わって、にこやかになる。その様子に少し安心したものの、警戒心は解けない。

「とりあえず、入れてくれや! おじゃまー」

 そう言いながら、ずかずかと部屋に入っていく。

「ちょっと、ちょっと!」

 すかさず、後を追いかけて、その手首を掴もうとする。が、俺の手は、神の手をすり抜けた。

「あ、ワシ、今、ホログラム状態やし、掴めへんよ~」

「アナタは、誰なんですか!」

 自分のペースを掴めず、イライラして、つい声も大きくなる。クローゼットの方で『ガタッ』と音がした。ニケが驚いたのだろう。

 その音を気にもせず、神は答える。

「ワシか? ワシは『神』じゃ。さっきから言っておるじゃろ」

 わざとらしく、肩をすくめる。ますます、気にくわない。

「『神』? アナタが? そんなこと信じられると思いますか? ばからしい」

……くそ、落ち着け、落ち着くんだ。認めたくないが、ニケの話からして、このジジイが『神』ということは知っている。だが、さっきの口ぶりからして、ニケがまだ俺の前に現れていないと勘違いしているに違いない。コイツに対するニケの反応を見ても、ニケが来ていることを知られるわけにはいかない。そんな気がする。

「まぁ、困惑するんはよく分かるわ。とりあえず、立ち話もなんやし、座らせてもらうわ」

 机を挟んで、神と対峙する。何もかもデカい。

「ちゃんと説明していただけますか? あと、ちょっとでも変だと思ったらすぐ警察呼びますからね」

 『神』に対して警察など無力なのだろうが、もしも、もしも、今日起こったことが『ドッキリ』だとして、コイツは『神』なんかではなく、ただのイカレたジジイだとしたら、効果はあるだろう。そして、そうだったとしたら、俺は絶対にコイツを警察に突き出す。

「ワシの名前は、神島かみしまや。この世界の今の神様をやっとる」

「……。分かりました。万が一、いや、億が一、アナタが『神』だとしましょう。その『神』が僕に何の用ですか?」

「まぁ、待てや。お前さんも混乱しとるやろ。そもそもは、ワシが来る前に魔人が来て説明しといてくれるんやけどな。どうにも、一番出来が悪いやつでな、はっはっは」

 魔人というのはニケのことだ。コイツが来るのは予定通りだったらしい。なのに、ニケのあの怯えた様子はなんなのだろうか。

「お前さんはじん神拓真じんたくま。身元も分からない捨て子として発見され、施設で幼少期を過ごす。7歳の冬、里親に引き取られるが、虐待で再び施設へ。大学への費用を稼ぐためにバイトを掛け持ちし、その地を離れて、『京都』にやってきた。自分のことを知らない人たちの中で、新しい自分として生きようとしている」

 まっすぐ目を見ながら、神島は話す。その通りだ。

「……。用件を言ってください」

 本当のことだからこそ、それを、全てを知っているように話す神島に腹が立った。

「表向きは、順風満帆に見える。友達にも恵まれ、大学生活を謳歌している。だが……。お前さんは、生きる意味を探し続けている。そうだろ?」

「!?」

 これまで、誰にも話したことはなかった。そもそも、そんなことは話す相手も限られてしまうし、こんな悩みを持っている自分がおかしいと思うこともあった。だから、『それ』に気づいていながらも、気づかないふりをずっとしていた。物心ついた時から、自分は何のために生まれて、何をすればいいのか分からなかった。生きている意味がなければ、それは死んでいても変わらないのではないのか。そう思うと、無性に怖くなって、存在を否定されているように思って。

「でだ、本題に入ろうか」

 グルグルと心の闇に引き込まれそうになった俺は、神島の声にハッとした。そうだ。コイツ、そして、ニケはなぜ自分の前に現れたんだ。

「単刀直入に言うと、お前さんは、人間ではない。そして、」

 今日一番の笑顔を見せながら、神島は俺に手をさし出す。その手に、手を伸ばすと、体を引っ張られた。

「? ……!? ……あ……あ……」

 それは一瞬だった。神島の右手がナイフのようなものに変化し、それが俺の胸を貫いた。

「ワシはお前さんを殺しにきた。じゃあな」

 ナイフは一瞬で抜かれ…。体がガクガクと震える。胸には大きな穴、血が……止まらない……。
目の前が真っ暗になる。俺はその場に崩れるように倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...