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魔人 ニケ編
神島とニケⅠ
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こうして、何がなんだか分からないまま、魔人との共同生活が始まった。……とどこぞの小説のように前向きに考えてみたが、納得したわけではない。そもそも、そんな感じですぐに環境に適応できる人間こそどうかしているだろう。
誰かに相談しようか。いや、他人にこの出来事を話したところで、頭のおかしい奴か、漫画の影響受けすぎマンというレッテルを貼られておしまいだろう。
とにかく……
「はぁ!?」
俺の声にまたニケは体を震わせる。
「だ、だって、私には、や、やらなきゃいけないことがあって……。そうじゃないと、また……」
「そうじゃないとどうな……!?」
そう言いかけて、気づいた。ニケの身体には目を凝らさなければ分からないくらいだが、薄い痣がある。明らかに故意につけられたことが分かる。経験がある俺だから……。いや、今はそんなことより、
「コンコン、神さーん? コンコン、いるんでしょー?」
くそ、こんな時に。しかも、「コンコン」という音は扉を叩く音ではない。口で「コンコン」と発している。そんな頭のおかしい来訪者なんて、絶対ロクな人間ではない。音を立てずに、扉に近寄り、ドアスコープを覗く。
「!?」
ロクな人間どころか、扉の向こうにいたのは人間ではなかった。そいつは、スーツに身を包み、『それ』っぽい杖(?)を片手に、自信満々に立っていた。そして、その顔には見覚えがあった。
「ニケ! お前が紹介していた、なんだっけ、アイツがきたぞ」
声を抑えてニケに伝える。一瞬、何のことか分からないような顔をしたが、俺の心を読んだらしい。
「ど、どうしよう」
明らかに動揺している。とにかく、鉢合わせはさせない方がよさそうだ。
「ニケ、狭いし、暗いけど、ここに」
部屋の片隅にあるクローゼットの扉を開ける。掛けてある服を端に寄せ、小柄なニケならなんとか入れるスペースを作れた。よし。
「で、でも」
「いいからっ!」
困惑するニケを無理やり押し込む。ランプの中に入ればいいのかもしれないが、発生する煙のことを考えると、それは発見のリスクが上がるだろう。ランプとバケツも一緒にニケの足元に置く。
「コンコーン!!! コンコーン!!!!」
さっきから扉の向こうで止めどなく声を発している。頭がおかしすぎる。明らかに部屋にいることを分かっての『行動』だろう。流石に、もう時間は取れない。
「とにかく、この中でジッとしてて」
クローゼットの中で、小さくなり、小さく頷くニケ。
「コンコーン!!!!」
急いで扉の方に向かう。
「ふぅ」
乱れた息を整えて、何食わぬ顔を作る。
「……ど、どちら様ですか?」
扉を開ける。実際に対峙すると、その威圧感はまさに『それ』らしいものを感じる。
「どーも! 神です! てへっ」
そう、目の前には、『神』が立っていた。
「てかさ、遅くね???」
顔は、にこやかだが、声は先ほどとはうって変わり、低く威圧的だ。金髪でガングロという風貌が更に威圧感を出している。
「あのー、えっと、ど、どちら様ですか?」
あくまで平然と対応する。
「だーかーら、神です! てへっ」
手を頭にのせる度に、着ているスーツが軋む。おじいさんにしては、体が出来上がりすぎている。まさに、筋骨隆々とはこういう人のことを言うのだろう。
「……」
「……」
「……」
沈黙が続く。それに耐えきれず、先にこちらが口を開いた。
「あっ、あはははー。お、面白いですねぇ」
かなり引きつった笑顔になってしまった。
「……」
神と名乗る人物は、じっと俺の顔を、いや、目を見ている。負けじと目を離さないようにするが、恐怖で足は震えてしまう。
「あ、あのー」
耐えかねて、声をかけた。
「おっと、そうかそうか。ワシが先に来てしもうたんか。がははは!」
表情がうって変わって、にこやかになる。その様子に少し安心したものの、警戒心は解けない。
「とりあえず、入れてくれや! おじゃまー」
そう言いながら、ずかずかと部屋に入っていく。
「ちょっと、ちょっと!」
すかさず、後を追いかけて、その手首を掴もうとする。が、俺の手は、神の手をすり抜けた。
「あ、ワシ、今、ホログラム状態やし、掴めへんよ~」
「アナタは、誰なんですか!」
自分のペースを掴めず、イライラして、つい声も大きくなる。クローゼットの方で『ガタッ』と音がした。ニケが驚いたのだろう。
その音を気にもせず、神は答える。
「ワシか? ワシは『神』じゃ。さっきから言っておるじゃろ」
わざとらしく、肩をすくめる。ますます、気にくわない。
「『神』? アナタが? そんなこと信じられると思いますか? ばからしい」
……くそ、落ち着け、落ち着くんだ。認めたくないが、ニケの話からして、このジジイが『神』ということは知っている。だが、さっきの口ぶりからして、ニケがまだ俺の前に現れていないと勘違いしているに違いない。コイツに対するニケの反応を見ても、ニケが来ていることを知られるわけにはいかない。そんな気がする。
「まぁ、困惑するんはよく分かるわ。とりあえず、立ち話もなんやし、座らせてもらうわ」
机を挟んで、神と対峙する。何もかもデカい。
「ちゃんと説明していただけますか? あと、ちょっとでも変だと思ったらすぐ警察呼びますからね」
『神』に対して警察など無力なのだろうが、もしも、もしも、今日起こったことが『ドッキリ』だとして、コイツは『神』なんかではなく、ただのイカレたジジイだとしたら、効果はあるだろう。そして、そうだったとしたら、俺は絶対にコイツを警察に突き出す。
「ワシの名前は、神島や。この世界の今の神様をやっとる」
「……。分かりました。万が一、いや、億が一、アナタが『神』だとしましょう。その『神』が僕に何の用ですか?」
「まぁ、待てや。お前さんも混乱しとるやろ。そもそもは、ワシが来る前に魔人が来て説明しといてくれるんやけどな。どうにも、一番出来が悪いやつでな、はっはっは」
魔人というのはニケのことだ。コイツが来るのは予定通りだったらしい。なのに、ニケのあの怯えた様子はなんなのだろうか。
「お前さんは神、神拓真。身元も分からない捨て子として発見され、施設で幼少期を過ごす。7歳の冬、里親に引き取られるが、虐待で再び施設へ。大学への費用を稼ぐためにバイトを掛け持ちし、その地を離れて、『京都』にやってきた。自分のことを知らない人たちの中で、新しい自分として生きようとしている」
まっすぐ目を見ながら、神島は話す。その通りだ。
「……。用件を言ってください」
本当のことだからこそ、それを、全てを知っているように話す神島に腹が立った。
「表向きは、順風満帆に見える。友達にも恵まれ、大学生活を謳歌している。だが……。お前さんは、生きる意味を探し続けている。そうだろ?」
「!?」
これまで、誰にも話したことはなかった。そもそも、そんなことは話す相手も限られてしまうし、こんな悩みを持っている自分がおかしいと思うこともあった。だから、『それ』に気づいていながらも、気づかないふりをずっとしていた。物心ついた時から、自分は何のために生まれて、何をすればいいのか分からなかった。生きている意味がなければ、それは死んでいても変わらないのではないのか。そう思うと、無性に怖くなって、存在を否定されているように思って。
「でだ、本題に入ろうか」
グルグルと心の闇に引き込まれそうになった俺は、神島の声にハッとした。そうだ。コイツ、そして、ニケはなぜ自分の前に現れたんだ。
「単刀直入に言うと、お前さんは、人間ではない。そして、」
今日一番の笑顔を見せながら、神島は俺に手をさし出す。その手に、手を伸ばすと、体を引っ張られた。
「? ……!? ……あ……あ……」
それは一瞬だった。神島の右手がナイフのようなものに変化し、それが俺の胸を貫いた。
「ワシはお前さんを殺しにきた。じゃあな」
ナイフは一瞬で抜かれ…。体がガクガクと震える。胸には大きな穴、血が……止まらない……。
目の前が真っ暗になる。俺はその場に崩れるように倒れた。
誰かに相談しようか。いや、他人にこの出来事を話したところで、頭のおかしい奴か、漫画の影響受けすぎマンというレッテルを貼られておしまいだろう。
とにかく……
「はぁ!?」
俺の声にまたニケは体を震わせる。
「だ、だって、私には、や、やらなきゃいけないことがあって……。そうじゃないと、また……」
「そうじゃないとどうな……!?」
そう言いかけて、気づいた。ニケの身体には目を凝らさなければ分からないくらいだが、薄い痣がある。明らかに故意につけられたことが分かる。経験がある俺だから……。いや、今はそんなことより、
「コンコン、神さーん? コンコン、いるんでしょー?」
くそ、こんな時に。しかも、「コンコン」という音は扉を叩く音ではない。口で「コンコン」と発している。そんな頭のおかしい来訪者なんて、絶対ロクな人間ではない。音を立てずに、扉に近寄り、ドアスコープを覗く。
「!?」
ロクな人間どころか、扉の向こうにいたのは人間ではなかった。そいつは、スーツに身を包み、『それ』っぽい杖(?)を片手に、自信満々に立っていた。そして、その顔には見覚えがあった。
「ニケ! お前が紹介していた、なんだっけ、アイツがきたぞ」
声を抑えてニケに伝える。一瞬、何のことか分からないような顔をしたが、俺の心を読んだらしい。
「ど、どうしよう」
明らかに動揺している。とにかく、鉢合わせはさせない方がよさそうだ。
「ニケ、狭いし、暗いけど、ここに」
部屋の片隅にあるクローゼットの扉を開ける。掛けてある服を端に寄せ、小柄なニケならなんとか入れるスペースを作れた。よし。
「で、でも」
「いいからっ!」
困惑するニケを無理やり押し込む。ランプの中に入ればいいのかもしれないが、発生する煙のことを考えると、それは発見のリスクが上がるだろう。ランプとバケツも一緒にニケの足元に置く。
「コンコーン!!! コンコーン!!!!」
さっきから扉の向こうで止めどなく声を発している。頭がおかしすぎる。明らかに部屋にいることを分かっての『行動』だろう。流石に、もう時間は取れない。
「とにかく、この中でジッとしてて」
クローゼットの中で、小さくなり、小さく頷くニケ。
「コンコーン!!!!」
急いで扉の方に向かう。
「ふぅ」
乱れた息を整えて、何食わぬ顔を作る。
「……ど、どちら様ですか?」
扉を開ける。実際に対峙すると、その威圧感はまさに『それ』らしいものを感じる。
「どーも! 神です! てへっ」
そう、目の前には、『神』が立っていた。
「てかさ、遅くね???」
顔は、にこやかだが、声は先ほどとはうって変わり、低く威圧的だ。金髪でガングロという風貌が更に威圧感を出している。
「あのー、えっと、ど、どちら様ですか?」
あくまで平然と対応する。
「だーかーら、神です! てへっ」
手を頭にのせる度に、着ているスーツが軋む。おじいさんにしては、体が出来上がりすぎている。まさに、筋骨隆々とはこういう人のことを言うのだろう。
「……」
「……」
「……」
沈黙が続く。それに耐えきれず、先にこちらが口を開いた。
「あっ、あはははー。お、面白いですねぇ」
かなり引きつった笑顔になってしまった。
「……」
神と名乗る人物は、じっと俺の顔を、いや、目を見ている。負けじと目を離さないようにするが、恐怖で足は震えてしまう。
「あ、あのー」
耐えかねて、声をかけた。
「おっと、そうかそうか。ワシが先に来てしもうたんか。がははは!」
表情がうって変わって、にこやかになる。その様子に少し安心したものの、警戒心は解けない。
「とりあえず、入れてくれや! おじゃまー」
そう言いながら、ずかずかと部屋に入っていく。
「ちょっと、ちょっと!」
すかさず、後を追いかけて、その手首を掴もうとする。が、俺の手は、神の手をすり抜けた。
「あ、ワシ、今、ホログラム状態やし、掴めへんよ~」
「アナタは、誰なんですか!」
自分のペースを掴めず、イライラして、つい声も大きくなる。クローゼットの方で『ガタッ』と音がした。ニケが驚いたのだろう。
その音を気にもせず、神は答える。
「ワシか? ワシは『神』じゃ。さっきから言っておるじゃろ」
わざとらしく、肩をすくめる。ますます、気にくわない。
「『神』? アナタが? そんなこと信じられると思いますか? ばからしい」
……くそ、落ち着け、落ち着くんだ。認めたくないが、ニケの話からして、このジジイが『神』ということは知っている。だが、さっきの口ぶりからして、ニケがまだ俺の前に現れていないと勘違いしているに違いない。コイツに対するニケの反応を見ても、ニケが来ていることを知られるわけにはいかない。そんな気がする。
「まぁ、困惑するんはよく分かるわ。とりあえず、立ち話もなんやし、座らせてもらうわ」
机を挟んで、神と対峙する。何もかもデカい。
「ちゃんと説明していただけますか? あと、ちょっとでも変だと思ったらすぐ警察呼びますからね」
『神』に対して警察など無力なのだろうが、もしも、もしも、今日起こったことが『ドッキリ』だとして、コイツは『神』なんかではなく、ただのイカレたジジイだとしたら、効果はあるだろう。そして、そうだったとしたら、俺は絶対にコイツを警察に突き出す。
「ワシの名前は、神島や。この世界の今の神様をやっとる」
「……。分かりました。万が一、いや、億が一、アナタが『神』だとしましょう。その『神』が僕に何の用ですか?」
「まぁ、待てや。お前さんも混乱しとるやろ。そもそもは、ワシが来る前に魔人が来て説明しといてくれるんやけどな。どうにも、一番出来が悪いやつでな、はっはっは」
魔人というのはニケのことだ。コイツが来るのは予定通りだったらしい。なのに、ニケのあの怯えた様子はなんなのだろうか。
「お前さんは神、神拓真。身元も分からない捨て子として発見され、施設で幼少期を過ごす。7歳の冬、里親に引き取られるが、虐待で再び施設へ。大学への費用を稼ぐためにバイトを掛け持ちし、その地を離れて、『京都』にやってきた。自分のことを知らない人たちの中で、新しい自分として生きようとしている」
まっすぐ目を見ながら、神島は話す。その通りだ。
「……。用件を言ってください」
本当のことだからこそ、それを、全てを知っているように話す神島に腹が立った。
「表向きは、順風満帆に見える。友達にも恵まれ、大学生活を謳歌している。だが……。お前さんは、生きる意味を探し続けている。そうだろ?」
「!?」
これまで、誰にも話したことはなかった。そもそも、そんなことは話す相手も限られてしまうし、こんな悩みを持っている自分がおかしいと思うこともあった。だから、『それ』に気づいていながらも、気づかないふりをずっとしていた。物心ついた時から、自分は何のために生まれて、何をすればいいのか分からなかった。生きている意味がなければ、それは死んでいても変わらないのではないのか。そう思うと、無性に怖くなって、存在を否定されているように思って。
「でだ、本題に入ろうか」
グルグルと心の闇に引き込まれそうになった俺は、神島の声にハッとした。そうだ。コイツ、そして、ニケはなぜ自分の前に現れたんだ。
「単刀直入に言うと、お前さんは、人間ではない。そして、」
今日一番の笑顔を見せながら、神島は俺に手をさし出す。その手に、手を伸ばすと、体を引っ張られた。
「? ……!? ……あ……あ……」
それは一瞬だった。神島の右手がナイフのようなものに変化し、それが俺の胸を貫いた。
「ワシはお前さんを殺しにきた。じゃあな」
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