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魔人 ニケ編
神島とニケⅡ
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――10年前 人間界とは別の世界 『天界』 神様宮殿 台所
「痛っ」
指先から血が流れる。山のように積まれた食器の中に割れたものがあったみたい。どうしよう。
「3時! 3時! 3時!」
壁の時計の中にいる『麦わら帽子の少年』が時間を伝える。神様の趣味らしいんだけど、この趣味の悪さは……私も好きなんだ。よくおかしいって言われるけど、それくらい今の神様は好き。
それにしても、どんだけあるのよ。あの子たちも手伝ってくれたらいいのに……。神様の前ではいい子ぶっちゃって。それくらい私も器用だったらいいんだけど……。でも、いいんだ! 私はやりたくてやってるし!
「ニケちゃん、手伝おうか?」
突然、背後から声をかけられた。その優しそうな声で、それが誰だか分かる。
「大変そうだね」
そうやって、優しく声をかけてくれたのは私が尊敬する神様。この人のためだったら、私はなんでも出来る気がする。振り向き、とっさに怪我をした手を後ろにまわす。
「あ、えっと、休憩です! 休憩! ぜんっぜん大丈夫ですよっ! むしろ、私、これが生きがいみたいなものですから! 皿洗いのプロですから!」
話せる嬉しさと相まって、ついつい調子に乗ってしまった。
「あははっ! ホントにニケちゃんは面白いね!」
この人はいつも私の言うことに笑ってくれる。顔をくしゃくしゃにして笑う、その笑い方を見ていると、なんだかこっちまで優しい気持ちになる。いつまでも見ていられる。
「ん? どうかした?」
視線に気づいて、神様が言う。
「い、いえ! じゃあ、私は仕事があるので!」
神様も忙しいんだ。いつまでも私なんかに時間を取らせちゃダメ。ほんとはもっと話したい。
「うん! じゃあ! ……ちょっと待って」
そう言うと、神様は私が隠していた手を掴んで、手をかざした。その瞬間に、手が青白い光に包まれる。温かい。視線を手から神様に向ける。真剣な顔、それでいて、優しさに溢れてる。
「はい! これで大丈夫だよ! ……どうかした?」
また見とれてしまった。傷の治療は、とっくに終わっている。
「い、いえ! なんでもないです! ありがとうございます!」
私なんかの怪我を直してくれる、この人がずっと神様だったらいいのに……。
「手伝えなくてごめんね。僕は、この後……」
「神選別委員会主催の権威譲渡会ですよね」
間髪入れずに、答える。
「まぁ、知ってるよね!」
明るく答えてくれるけど、その目はどこか寂しそうに見える。
そう、この人は、今日で神様じゃなくなる。神様じゃなくなっても、会えないわけじゃない。でも、神様が変わって、色々なことが次の新しい神様が好きなように変えられるのは不安。
「もう行かなくちゃ、じゃあね、ニケちゃん!」
台所を出て、神様が去ろうとする。
「あ、はい! ありがとうございました!」
その返事が聞こえたかどうかわからない。神様は能力で移動がとても早い。いつもパッと現れて、消えてしまう。
……。なんだか、胸がざわざわする。
「か、神様ーーー!!!」
台所を出て、神様の後を追う。もういないかもしれない。長い廊下の先に、神様がいた。相変わらず、早い。
「んー?」
呼び止められた神様が振り向く。
「い、いえ……。あ、今度、どこかご飯食べに行きませんか? 私、いいとこ知ってて! グルメのプロって言われてるんですよ! だから……!」
この距離だ。最悪、聞こえなくてもいい。でも、伝えたくなった。恥ずかしさで、神様の方を見れない。視線は私の足元だ。
「ああ。行こうな。約束」
気づけば、神様は私の目の前にいた。私の頭に手を乗せ、驚き、視線を上げると、そこに神様はもういなかった。
だけど、その約束が叶うことはなかった。
――5年後 神様宮殿 大広間
「おいっ! お前だよ! おーい!」
「え?」
顔を上げると、白いケーキが顔に飛んできた。ほかの人から見たら、私は顔面ケーキレディなのだろう。……おいしい。
「さっきから呼んでんだろうが! なんだっけ、お前の名前」
その人は、両側に魔人の女の子を座らせて、足を組んでいる。
「はい! 神島様、あーん!」
容姿端麗な『レア』が自分で作ったケーキをすくって、口元に運ぶ。反対側にいる『テミス』は、扇で神島さんを扇いでいる。2人とも神島さんのお気に入りだ。
「あんな奴ほっときましょーよ。あの子、前の神様にちょっと気に入られていたからって調子に乗っているのよ。やーねー、勘違い女って」
「ねー」
レアの言葉に同調するテミス。昔から、この子たちは私のことをバカにしていた。でも、神様が変わってからは、それは更にエスカレートしたように思う。
「おい! 聞いてんのかって! 食えねぇんだよ! おめえの作ったもんはよ!」
「ご、ごめんなさい」
神島さんはいつも大きな声を出す。その声にいつしか私は恐怖を覚えるようになった。神島さんが私に執拗に当たるのは、どう考えても、あの出来事が原因だと思う。
「すぐ片付けます」
机の上に乗っている私が作ったものを下げようとする。早くここから離れたくて一回で持っていこうとするのがまずかった。腕に乗せていた皿が落ちる。ガシャーン。中身が飛び散り、しぶきが神島さんの方に少し飛んだ。とっさに、神島さんの方を見る。
「ご、ごめんなさい!」
とにかく謝る。頭を下げる。怒らせてはどうなるか分からない。怖い。
「……あはははははははは!」
神島さんは笑っていた。それに合わせるように、両隣にいるレアとテミスも笑う。2人ともその顔は引きつっている。
「……あ、あはは」
私も笑う。顔を上げて、神島さんの方を見る。笑ってはいるものの、顔は鬼のような形相だった。
「……ふざけんなっ! このクソ魔人!」
神島さんが立ち上がり、お腹に蹴りが入る。痛い。痛みで、思わずしゃがみ込む。
「てめぇなんかいつでもやめさせられるんだからな!」
更に、1発、2発と蹴られる。その蹴りの重さに意識が飛びそうになる。
「ご、ごめんなさい!」
「オラッ!」
顔面に蹴りが入って、私は意識を失った。
「痛っ」
指先から血が流れる。山のように積まれた食器の中に割れたものがあったみたい。どうしよう。
「3時! 3時! 3時!」
壁の時計の中にいる『麦わら帽子の少年』が時間を伝える。神様の趣味らしいんだけど、この趣味の悪さは……私も好きなんだ。よくおかしいって言われるけど、それくらい今の神様は好き。
それにしても、どんだけあるのよ。あの子たちも手伝ってくれたらいいのに……。神様の前ではいい子ぶっちゃって。それくらい私も器用だったらいいんだけど……。でも、いいんだ! 私はやりたくてやってるし!
「ニケちゃん、手伝おうか?」
突然、背後から声をかけられた。その優しそうな声で、それが誰だか分かる。
「大変そうだね」
そうやって、優しく声をかけてくれたのは私が尊敬する神様。この人のためだったら、私はなんでも出来る気がする。振り向き、とっさに怪我をした手を後ろにまわす。
「あ、えっと、休憩です! 休憩! ぜんっぜん大丈夫ですよっ! むしろ、私、これが生きがいみたいなものですから! 皿洗いのプロですから!」
話せる嬉しさと相まって、ついつい調子に乗ってしまった。
「あははっ! ホントにニケちゃんは面白いね!」
この人はいつも私の言うことに笑ってくれる。顔をくしゃくしゃにして笑う、その笑い方を見ていると、なんだかこっちまで優しい気持ちになる。いつまでも見ていられる。
「ん? どうかした?」
視線に気づいて、神様が言う。
「い、いえ! じゃあ、私は仕事があるので!」
神様も忙しいんだ。いつまでも私なんかに時間を取らせちゃダメ。ほんとはもっと話したい。
「うん! じゃあ! ……ちょっと待って」
そう言うと、神様は私が隠していた手を掴んで、手をかざした。その瞬間に、手が青白い光に包まれる。温かい。視線を手から神様に向ける。真剣な顔、それでいて、優しさに溢れてる。
「はい! これで大丈夫だよ! ……どうかした?」
また見とれてしまった。傷の治療は、とっくに終わっている。
「い、いえ! なんでもないです! ありがとうございます!」
私なんかの怪我を直してくれる、この人がずっと神様だったらいいのに……。
「手伝えなくてごめんね。僕は、この後……」
「神選別委員会主催の権威譲渡会ですよね」
間髪入れずに、答える。
「まぁ、知ってるよね!」
明るく答えてくれるけど、その目はどこか寂しそうに見える。
そう、この人は、今日で神様じゃなくなる。神様じゃなくなっても、会えないわけじゃない。でも、神様が変わって、色々なことが次の新しい神様が好きなように変えられるのは不安。
「もう行かなくちゃ、じゃあね、ニケちゃん!」
台所を出て、神様が去ろうとする。
「あ、はい! ありがとうございました!」
その返事が聞こえたかどうかわからない。神様は能力で移動がとても早い。いつもパッと現れて、消えてしまう。
……。なんだか、胸がざわざわする。
「か、神様ーーー!!!」
台所を出て、神様の後を追う。もういないかもしれない。長い廊下の先に、神様がいた。相変わらず、早い。
「んー?」
呼び止められた神様が振り向く。
「い、いえ……。あ、今度、どこかご飯食べに行きませんか? 私、いいとこ知ってて! グルメのプロって言われてるんですよ! だから……!」
この距離だ。最悪、聞こえなくてもいい。でも、伝えたくなった。恥ずかしさで、神様の方を見れない。視線は私の足元だ。
「ああ。行こうな。約束」
気づけば、神様は私の目の前にいた。私の頭に手を乗せ、驚き、視線を上げると、そこに神様はもういなかった。
だけど、その約束が叶うことはなかった。
――5年後 神様宮殿 大広間
「おいっ! お前だよ! おーい!」
「え?」
顔を上げると、白いケーキが顔に飛んできた。ほかの人から見たら、私は顔面ケーキレディなのだろう。……おいしい。
「さっきから呼んでんだろうが! なんだっけ、お前の名前」
その人は、両側に魔人の女の子を座らせて、足を組んでいる。
「はい! 神島様、あーん!」
容姿端麗な『レア』が自分で作ったケーキをすくって、口元に運ぶ。反対側にいる『テミス』は、扇で神島さんを扇いでいる。2人とも神島さんのお気に入りだ。
「あんな奴ほっときましょーよ。あの子、前の神様にちょっと気に入られていたからって調子に乗っているのよ。やーねー、勘違い女って」
「ねー」
レアの言葉に同調するテミス。昔から、この子たちは私のことをバカにしていた。でも、神様が変わってからは、それは更にエスカレートしたように思う。
「おい! 聞いてんのかって! 食えねぇんだよ! おめえの作ったもんはよ!」
「ご、ごめんなさい」
神島さんはいつも大きな声を出す。その声にいつしか私は恐怖を覚えるようになった。神島さんが私に執拗に当たるのは、どう考えても、あの出来事が原因だと思う。
「すぐ片付けます」
机の上に乗っている私が作ったものを下げようとする。早くここから離れたくて一回で持っていこうとするのがまずかった。腕に乗せていた皿が落ちる。ガシャーン。中身が飛び散り、しぶきが神島さんの方に少し飛んだ。とっさに、神島さんの方を見る。
「ご、ごめんなさい!」
とにかく謝る。頭を下げる。怒らせてはどうなるか分からない。怖い。
「……あはははははははは!」
神島さんは笑っていた。それに合わせるように、両隣にいるレアとテミスも笑う。2人ともその顔は引きつっている。
「……あ、あはは」
私も笑う。顔を上げて、神島さんの方を見る。笑ってはいるものの、顔は鬼のような形相だった。
「……ふざけんなっ! このクソ魔人!」
神島さんが立ち上がり、お腹に蹴りが入る。痛い。痛みで、思わずしゃがみ込む。
「てめぇなんかいつでもやめさせられるんだからな!」
更に、1発、2発と蹴られる。その蹴りの重さに意識が飛びそうになる。
「ご、ごめんなさい!」
「オラッ!」
顔面に蹴りが入って、私は意識を失った。
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