ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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神決め大会 予選一日目

鶴太郎と神 拓郎Ⅳ

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 『魔人保管部屋』を出て、俺とニケは神様宮殿の中を歩いていた。鶴太郎さんは、天界力の調整をする為に『魔人保管部屋』で待っている。

 本来、俺たちは、神島が『次期神様』に決まり、その後起こる『襲撃』の記憶の時間に飛ぶはずだったのだが……。記憶に入る前のニケの『天界桃』の食べ過ぎにより、『天界力』のコントロールに支障が出てしまい、この時間に飛んでしまった。

 鶴太郎さんによれば、ここの時間は、『親父の就任式の数日後』らしい。

 仮に、天界力のうんぬんがなかったとしても、この世界には、この世界で生きる鶴太郎さんが存在するため、鉢合わせの危惧ゆえにどのみち探索などは出来ないそうだ。その辺に関しては、この時間の世界にはまだ存在していない俺とニケは心配する必要はない。

 しかし、鶴太郎さんの記憶の中とはいえ、この世界は実在する世界であり、改変することも出来る。それには天界力が一定数必要で、改変が与える未来への影響の度合いで消費量も変わってくるという。足りなければ改変は起こらず、なおかつ、その人は記憶の狭間に消える。つまり、死を意味する。

 なんにせよ、この世界であまり目立った行動はつつしまなければいけない。

「それにしても、宮殿内にはいつもこんなに人がいるのか?」

 宮殿の広間に着いた俺はニケに尋ねる。

尋常ではない数の人間が宮殿内の広間にいた。広間は吹き抜けで、閉塞感はない。あちこちにブースが出ており、売られている品を見ようと人が群がっている。広間が広いゆえに、さほど窮屈感はないのだが、人が所狭しといることで落ち着くことが出来ない。

「いつもは違うよ! たぶん、この賑わいからして、今日は『宮殿開放日』なんだよ」

俺の問いかけに後ろを振り向き、後ろ歩きをしながら答えるニケ。

「『宮殿開放日』っていうのは、アレか? 地域の人たちにも見てもらおうっていう施設見学みたいなもんか?」

「そうだよー! 普段は、宮殿内は、魔人と神様、あとは、神選! 限られた身分の人しか入ることが出来ないからねー!」

 そう答えるニケは、なんだか嬉しそうだ。

「ニケにとっては新鮮でもなんでもないだろ?」

「……私、宮殿にはいたけど、いつも雑務ばかりだったから」

 ニケの表情が曇った。

「で、でも、俺のお……いや、神拓郎が神様だった時はそうでもなかったんじゃないのか」

 とっさに俺はフォローを入れる。

「そうだね。『元』神様はほんとに優しかった。でも、それとは別に、やっぱり能力がないのは魔人の中でも『稀』だったからさ。神様の知らないところで魔人にバカにされ、他の人には後ろ指を指されて……」

 俺と同じだ。そう思った。親がいない。それは、周りの人間からすれば稀だった。同世代からはバカにされ、その親たちからは陰でそのことを言われていた。

「俺も同じだったから分かる、簡単に同じとか言っちゃいけないのかもしれないけど、俺も親がいなくて『稀』な存在だったから」

「あ、ごめん。拓真くんまで暗くなっちゃったね。でも、もういいんだ! それは過去のこと! 今は拓真くんと一緒に居れるし、憧れていた人間界は楽しいし、それでいいんだ!」

 なんて強い子なのだろう。同世代の女の子がこんなに前向きなことに俺は素直に尊敬した。

「よし!」

 そう言うと、俺はニケの手を取った。

「拓真くん!?」

「せっかくだから楽しもう!」

 俺の提案にニケは満面の笑みで頷いた。



「お腹いっぱい……。ちょっと休憩しよ」

 俺とニケは広間で色々なものを食べ歩いた。天界の食べ物はもちろん初めて見るものばかりだったが、その辺はニケの味覚を信じた。

 楽しもうと意気込んでいた俺は、この天界で使える『お金』を持っていないことに代金を払う直前まで気づかず、ニケに笑われてしまった。

 じゃあ、どうしたかって? 鶴太郎さんが事前にニケにいくらか渡しておいてくれたらしく、ここでも鶴太郎さんに助けられることとなった。

「この辺なら、人も少ないし」

 ニケに案内されて着いたのは、広間を抜けて、通路をしばらく歩いたところにある『憩いの場』というところだった。

 部屋の中心に噴水があり、その周りにテーブルとイスが置かれている。

「ここに座ろ」

 周囲にあまり人がいないところに俺たちは座った。

 鶴太郎さんの準備が出来次第、俺たちは鶴太郎さんの言う『襲撃』を受けた日に飛ぶことになっている。飛ぶ直前に鶴太郎さんが俺たちの『脳内に直接』教えてくれるそうだが、まだ『それ』は来ていない。

「それにしてもたくさん食べたよな」

 お腹をさすっているニケに声をかける。

「そ、そうだね……。うっ。なんだか急に吐き気が」

「おいおい、大丈夫かよ」

 ニケの顔色が悪い。思い返せば、かなりの量を食べていた気がする。

「ちょっとお手洗い行ってくるね……」

「おう、行ってこい!」

 『襲撃』、神である俺の親父を襲撃出来る人物とは一体何者なのだろうか。俺の母親を殺した奴と同一人物なのだろうか。何の目的があって……。考えても答えは出ない。

「少しいいかな?」

 考え事をしていた俺は肩を叩かれ、驚いた。

 振り向くと、そこには男が立っていた。若いが、なんとなく俺よりも年上な感じがする。

「えっと、あんまり時間はないんですが……。今、人を待っていて」

 その人は、優しそうな顔をしていた。

「うーんと、じゃあ、その人が来るまででいいからさ」

 手を合わせて、俺にお願いしてきた。見た感じ年上であろう人から、そんな風にお願いされたのは初めてだ。

「わ、分かりました、どうぞ」

 俺がそう言うと、そそくさとニケが座っていたイスに腰掛ける。

「この催しの感想を聞いて回っていてね。あ、私、こういう者で」

 差し出された名刺を見て、ぎょっとした。そこには、こう書かれていたからだ。

『神様 神拓郎』

 俺は、自分の親父と会ってしまったのだった。



「あ、えっと、僕は……」

 自分の父親とまさか対面することになるとは思わなかった。おかげで、言いたいことが上手く言葉にならない。

「ああ、いいんだ、いいんだ! これはあくまでアンケート調査のようなものだからね。それに、普通びっくりするよなぁ。次の神様が目の前に現れたら」

 俺がもしこの人の立場だったら言いそうなことをこの人は言っている。ああ、この人が俺の本当の父親なんだ。

「どうだい? この催しは」

 黙っている俺に優しく話しかけてくる。

「えっと、楽しいです」

「どんなところが楽しい?」

 目をキラキラさせながら聞いてくる。愛する人を亡くして、まだそれほど経っていないはずなのに、こうも生き生きと仕事が出来るのだろうか。

「わいわいしていて、食べ物もおいしくて」

「なるほど! 今後の参考にするね」

「えっと、あと……」

 拓郎は手帳のページをめくっている。ちらちらと見えるページにはぎっしりと文字が書いてあった。

「あの、聞いてもいいですか?」

 俺はどうしても聞きたくなった。ダメだと分かっていても。

「拓郎さんがもし、愛する人を亡くして、それでもやらなければいけないことがあった時、どんな気持ちでやらなければいけないことをやりますか?」

「え……」

 俺の質問は意外だったようで、彼の表情は固まった。

「愛する人を亡くして……か」

 俺の目をまっすぐ見つめる。心を読もうとしているのかもしれない。

「いや、仮の話ですよ、仮の話」

 読まれまいと俺は目をそらした。

「そうだなぁ。……それでも、僕は」

その答えを聞くために再び彼の目を見る。その目は真剣だった。

「前を向いて頑張るかなぁ」

「そ、それで、が、頑張れるんですか! 愛する人を、な、亡くしてるんですよ! が、頑張れないでしょ!」

 興奮して、言葉がつまる。

「愛する人が愛していた存在がいるのであれば、どんなに辛くてもがんばれるものだよ」

「で、でも、そ、その存在まで、なくなるようなことがあったら……」

「守り抜くさ!」

 俺が言い切る前に、たくろうは言い放った。

「守り抜いてみせるよ、絶対」

 強い決意がそこにはあった。

「君もそのうち、分かるよ、ね」

 優しい口調とともに、その表情は柔らかいものになっていた。

 これが俺の親父なんだ。そう思うとなんだか胸が熱くなった。



 ふと遠くを見ると、ニケがとぼとぼと歩いてきている。ここで、親父とはち合わせたら、俺以上にニケは色々聞いてしまうに違いない。

「すいません! あのそろそろ」

「おお、すまないね、時間を取らせてしまって」

「あっと、まだ座っていて大丈夫ですよ、そうだ! これ、召し上がってください」

 立ち上がろうとする親父を制止し、鶴太郎さんへのおみやげとして買っておいた『天界桃』を渡す。

「いいのかい? 『天界桃』は私も好きでね。君も好きなのかい?」

 質問をしてくるが、その間にもニケがこっちに近づいてきている。

「は、はい! めちゃくちゃ好きです! それでは!」

 そういい残すと、俺は立ち上がり、ニケの元に走った。

「ニケ! 行くぞ!」

「え、ちょっと!」

 ニケの手を取ると、そのまま広間の方へ走った。ちょうどその時、鶴太郎さんからの『合図』がきた。

 目の前が明るくなる。こうして、俺たちは再び、鶴太郎さんの記憶の中を飛んだ



「そうか、『桃』が好きなのか。……立派に育ったな、拓真」

 拓郎はそう言うと、席から立ち上がり、貰った『天界桃』をかじりながら人混みの中へ消えていった。
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