ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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神決め大会 予選一日目

鶴太郎と神 拓郎Ⅴ

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「今度はきちんと飛べたようだな」

 鶴太郎さんが腕時計を見ている。どうやら無事に『襲撃』の日に着いたようだ。場所は……少し広めの会議室といったところだろうか。俺たちはその部屋の机の下にいる。

「それより、楽しめたかい? 宮殿は」

 俺たちを見ながら、鶴太郎さんが話しかけてきた。親父と会ってしまったことは言うべきか言わないべきか……。

「はい! おいしいものたっくさん食べてきました!」

 俺が何も言わない間に、ニケが笑顔で答えた。

「少年はどうだった?」

「あ、えっと、楽しかったですよ」

 とりあえず、ここでは言わないでおこう。適当に感想を述べる。

「そうだ! 鶴太郎さんにお土産あるんですよ、ね? 拓真くん!」

 ニケのやつ……。お土産の『天界桃』は先ほど、拓郎にあげてしまった。

「あ、えっと、ごめんなさい! 食べちゃいましたー! はははー」

 笑ってごまかそうとする俺に、二人がじっと見つめる。

「あ、えっと」

 やばい。怪しまれてる。

「……拓真くんってそんなお茶目なこともするんだねー」

 ニケの言葉に空気がゆるむ。ケラケラ笑うニケにつられて、鶴太郎さんも笑っている。

「まぁ、大丈夫だ。少年! 君の天界力は減ってもいないし、私の記憶も変わっていない。そんなに心配するな」

……鶴太郎さんにはお見通しだったようだ。ニケは首をかしげている。

「それはともかくとして……」

 鶴太郎さんが神妙な面持ちになる。今からここに鶴太郎さんと親父が来るらしい。

『ガチャ』

 扉が開く音がした。

「して、何の話だというんだ、拓郎」

 若き日の鶴太郎さんの声だ。

「……大事な話さ」

声のトーンは低いが、親父の声だ。

「実はな……、神の交代が決まった」

「は?」

 鶴太郎さんが驚きの声を上げた。

「つまり、私は神ではなくなる」

「待て、待て、交代って……そんなの早いだろ!」

 やはり異例のことだったのだろう。

「特例措置だと『神選』から通達がきた。で、鶴太郎、お前に頼みたいことが2つある」

「なんだ?」

「拓真を任せたいんだ」

「なんだ、なんだ、一体何が起こっているんだ……」

 過去の鶴太郎さん同様に、親父の説明は足りなさすぎる。

「何も聞かないでくれ、今はまだ確実なことは言えない。そして、これをお前に託す」

「? 『天界桃』じゃないか」

 ここで、『天界桃』か。

「いや、これはただの『天界桃』ではない。俺が作った『天界力』を込めることが出来る、『天界桃』の『特殊天界桃』だ」

 だから、俺やニケの力がみなぎってきたのか。

「なぜ、そんなモノを……」

「全ては拓真の為……」

「とにかく、これからこの『特殊天界桃』について説明するから、俺の部屋にこい」

「ちょ、ちょっと待てって……おい……一体どういう」

『ガチャ』 

 2人は部屋を出ていった。


「この5時間後、宮殿は謎の襲撃を受けたんだ」

 鶴太郎さんの声で、周りの景色が変わる。時間が加速している。宮殿内はパニックになっていた。逃げ惑う人、困惑して座り込む人、様々な人がただ何も出来ずに、時が過ぎるのを待っているようだった。

「……鶴太郎さん、私、拓郎さんが神様だった頃、ずっと宮殿にいましたけど、『襲撃』なんて記憶に……」

「!?」

 どういうことだ……。確かに、思い返せば、そんなに大きな事件があれば、ニケが覚えているはずだ。しかし、鶴太郎さんから『襲撃』の話を聞いた時、ニケは全く知らないという表情をしていた。

「そうだろうな。驚いたことに、翌朝、この『襲撃』を覚えていたのは、俺と拓郎だけだったんだ」

「き、記憶を操作したということですか?」

 俺が間髪入れずに尋ねる。

「分からない。ただ、それがもしも出来たとすれば、ソイツはとんでもない『天界力』の持ち主ということになる。おそらく、それは『神』以上だろう」

 一体、誰なんだ……。そんなことが出来るのは……。そもそも、俺なんかが太刀打ちできるのだろうか。

「そして、私と赤ん坊だった拓真くんはその時、部屋にいたんだが……」

 再び、周りの景色が動き出した。部屋の前だ。

「中を覗いてみたまえ」

 部屋の小窓から中を覗く。

「!?」

 そこには、覆面を被ったローブ姿の人物が4人。部屋の端には、血だらけの鶴太郎さんが居て、その腕の中に俺は居た。

「あの時、私は、死んでも拓真くんを守ろうとした。だが、」



「……キサマもおしまいだな。『ワームホール』で世界の彼方へ葬ってやる」

 ローブ姿の4人が両手を挙げる。その瞬間、鶴太郎さんの足元に黒い渦が出来た。

「な、なんだこれは」

次の瞬間、渦に飲み込まれて、鶴太郎さんは消えた。それと同時に、目の前が明るくなった。



 こうして俺たちは、鶴太郎さんの記憶の中から現代に帰ってきたのだった。



「おかえりなさい、皆さん」

 佐藤さんが、切った桃を盛った皿をさし出してくれている。俺たちは、それを食べた。体に『天界力』が戻るのが分かる。

「『ワームホール』という呪文で私は、人間界に飛ばされていた。そして、腕の中に居たはずの拓真くんはいなくなっていた」

 鶴太郎さんはあの後のことを話し始めた。

「天界に戻る方法も分からず、私は人間界で生きていたんだ。その中で、あの日、拓郎から託された『特殊天界桃』はしっかりと育てていた」

「それがアイツとの約束だったからな」

「『約束』?」

 俺は尋ねた。

「そうだ、拓真くんが『特殊天界桃』を使うことになるだろうからって。私は、人間界で『特殊天界桃』を栽培していた」

「でも、僕が生きている保証なんてどこにも……」

「赤ん坊だった拓真くんの行方はずっと分からなかったが、どこかで生きているだろうっていう確信はあった。なんたって、拓郎とカスミちゃんの子どもだからな」

「……僕は、僕で色々大変でした」

 あの時の記憶が蘇ってくる。

「すまない。私が君を発見することが出来たのは、あれから18年経って、君が京都にやってきた時だったんだ」

「だから、鶴太郎さんは、僕が入学してからずっと気にかけてくれていたんですね」

「そうだ。色々大変な思いをしたと思うが、生きていてくれてありがとう」

 手をさし出してくる鶴太郎さんに応え、俺も手をさし出した。

「……はい」

 握手なんて久しぶりだ。

「拓真くん、今ので『AP』が貯まったよ」

 ニケはあのグルグルメガネをしていた。

「とにかくだ。全ての謎は『神選』が握っているに違いない。『神選』に会うためには、天界へ行く必要がある。そのためには……」

 鶴太郎さんがこれからの目標を、道標を指示してくれた。

「この予選を勝ち上がる必要があるってことですね」

 そうだ、全てを知る為にも……。

「そうだ。だから、私たち『お助け部』は君が勝ち上がるために協力する!」

「ありがとうございます」

「それに、ニケくんもいるしな」

 鶴太郎さんの親指を突き立てたグッドポーズを送る。

「はい! 拓真くんを思う気持ちは誰にも負けません」

 それに同じポーズでニケも答えた。

「では、そろそろ帰って体を休めた方がいい」

「明日、またこの部室に来たまえ、依頼はたくさん来ているからな!」



 鶴太郎さんと佐藤さんに別れを告げて、俺とニケは大学を出た。北大路橋の傍から賀茂川の傍を通る道へ降りた。すっかり日も暮れているが、気温は高い。涼みに来ているのか、川沿いにはカップルが等間隔に座っていた。

「今日はなんだか色々なことがあったね」

 俺の横を歩くニケが言う。身長差があるせいか、話しかけてくる時は自然と上目遣いになっている。そこが、またかわいい。……このニケの姿が母親に瓜二つだということは、俺は母親に対して『かわいい』と思っている少しヤバい人間なのだろうか……。これ以上、俺は考えないことにした。 

「ん? 何?」

「いや、なんでもない。それより、ニケ、お前、それ」

 俺はニケのポケットが膨らんでいることに気づき、指摘した。おそらく、中身は……。

「そう! 『特殊天界桃』! 持ってきちゃった!」

「黙って持ってきたらダメだろ!」

「いいじゃん! いいじゃん! もう貰った『特殊天界桃』は全部食べちゃって」

「は!? お前、アレ全部食べたのか!?」

「……ごめんね? 拓真くん」

 上目遣いを送ったって……。

「ま、まぁ、そんな時もあるよな」

 俺はニケに甘い……。



 アパートに着いた。階段を上がり、部屋に向かう。鍵穴に鍵を入れた時、俺は気づいた。

「!?」

「? どうしたの? 拓真くん?」

 鍵は開いていた。嫌な予感がする。

「ニケ、その『特殊天界桃』、俺にくれないか?」

「え? いいけど……はい」

 少し残念そうであるが、一刻を争う事態かもしれないからしょうがない。

「ありがとな、ニケ、お前は鶴太郎さんのとこに行ってこい、このスマホに地図があるから」

 俺のスマホを渡す。

「拓真くんは?」

「俺は大丈夫だ、さあ、早く」

「う、うん」



 ニケを見送り、意を決して扉を開けた。中は暗い。が、確実に何かがいる。そして、その何かを俺は何なのか知っている。廊下を歩き、部屋の電気を点けた。

「よう、おかえり。まさか生きとったとはな」

 そこには、今の神、神島かみしまが座っていた。
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