『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「英才教育」編

121話 「ホロロの神 その1『現実を壊す者』」

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「ハップ……まさか…! 嘘だろう!?」


 護衛の二人は死んだ。残るはボスのみだ。

 彼はクロップハップが苦戦していた頃には、すでに椅子を離れて部屋の隅に避難していた。


「余裕が崩れたようだね。あと何歩でたどり着くかな? 十歩くらいかな? 九、八、七、六、五…」


 アンシュラオンが、ゆっくりゆっくり近寄る。


「ま、待て! 金はやる! やるから!」

「四、三、二、一」

「っっっ! ひいいいっ!」

「ゼロ」


 逃げようとしたボスの背後から手刀を見舞い、首を撥ね飛ばす。

 汚いやり方で金を稼いでいた男とは思えない、綺麗で真っ赤な血が噴水のように上がった。

 それでもアンシュラオンは、なぜか白いまま。血で汚れることはない。


「こんな男がボスか。弱いけど金を稼ぐ才能はあったんだろうな。あー、しまった。ついつい殺しちゃったけど、金の在り処を訊いてからにすればよかったよ。まあいいや、自分で探したほうが楽しいよね。それより…サナ、身体を見せてごらん」

「…こくり」

「ふーむ、かなり怪我をしているな。けっこうギリギリの戦いだったか」


 戦術がはまって全体的には優勢に戦えたが、実際はそこまで余裕があったわけではない。

 その証拠に、サナの身体にはかなりの傷があった。

 武人の攻撃力は根本的に一般人とは異なる。なぜジリーが術符を使わなかったかといえば、剣で攻撃したほうが強かったからだ。

 普通の人間ならば術符を用意している間に斬られて終わりだろう。サナでなければ、こう上手くはいかない。

 それだけの攻撃を防御するだけでも骨に亀裂が入るし、筋肉や腱もちぎれている部分がある。

 剣衝で斬られたところは特に危うく、『物理耐性』がなければ深手になっていたかもしれない。その他、細かい怪我を含めれば軽く三十以上の箇所が負傷していた。


「どうだ、武人は強かっただろう?」

「…こくり」

「あの細身の男もそこそこ強かった。黒千代も完全に使えたわけじゃないし、耐久勝負を挑まれたら危なかったな。相手が短気で助かったよ」


 もし右足を奪えなかったら、あのまま押し切られていた可能性が高い。

 サナの戦術の大半は術符と大納魔射津に頼っているので、地力ではジリーが数段上だった。アンシュラオン仕込みの体術であっても、長時間戦えば相手が慣れてくるはずだ。

 やはりジリーは強かった。護衛を務めるだけはある。

 だがしかし、子供相手にプライドを捨てきれなかった。剣で倒すことに執着しすぎた。心が未熟で戦気にもムラがあった。

 戦いとは、最後に立っていた者が勝者なのだ。『割り切った武』を貫いたサナが勝ったのは必然である。

 また、クロップハップも単純に相手が悪すぎた。ファテロナでさえ何もできずに負けたのだから、それより劣る彼がどうにかできるわけがない。

 そもそもアンシュラオンを敵に回した段階で、組織は終わっていたのである。


「よし、金を探そう。ボスなんだから大量に持っているはずだ」


 サナの治療が終われば、お待ちかねの宝探しである。

 と、意気込んだものの、部屋と邸宅を漁ってみたところ現金は二千万ほどしかなかった。それ以外は株券や権利書が大半だ。


(権利書とかは、この都市の店のものか。都市限定でしか使えないのならば、あまり価値はないな。ふーむ、この様子からすると違うところに隠しているっぽいよな)


 地下に隠し部屋がないかも探ってみたが、波動円に反応はなかった。

 その代わりに奥の部屋で多数の武器を発見。


(刀剣類に銃に弾薬。無理やり引っぺがした砲台みたいなのもあるな。南部で仕入れたと言っていたが、こういう『部品』は裏で流通しているんだろうな)


 クロップハップが使った機関砲は、軍事用のものでかなり威力が高かった。

 もし彼に銃弾に戦気をまとわせる技術があれば、少しはダメージを受けていたかもしれない。


(とはいえ機関砲はいらないな。音もうるさいし邪魔でしかない。それ以外はたいしたものがないし…剣と銃を補充して終わりでいいか)


 ここにあるのは、卍蛍や黒千代に比べれば低級のものばかりだ。

 グラディウスが壊れてしまったので、その代用品として似たような刀剣類を少しと、サナが使えそうなハンドガンを頂戴して終わる。

 これも南部から仕入れたのだろう。衛士の銃と違って金属製ではあるが、逆に金属だからこそ改造加工が難しい。同じ弾丸ならば木製のほうが軽くて使いやすいかもしれない。

 ちなみにジリーが使っていた長刀も術式武具の一種で、『切れ味強化』が付与されていたようだ。

 それ自体は一般では貴重なのだろうが、業物の黒千代に比べれば微妙だし、長すぎるのでいらないという結論に達する。


「回収はこんなもんでいいだろう。あとは金だけど…そのうち誰か来るかもしれないから、もうちょっと待ってみようか。知っていたら案内させて、知らなかったら実験台にしよう。まだやれるか?」

「…こくり」


 サナは戦いで興奮したせいか、まだ眠気は訪れていないようである。

 その後、毎日の報告があるのか、意外と多くの人間が部屋にやってきた。

 その都度尋問し、金の在り処を知らなかったら黒千代の練習台にして切り刻む。

 そんなことを何度も繰り返し、部屋が死体の山になっていた頃だ。

 あまりに暇すぎて、ボスの首をくるくる回していたアンシュラオンのセンサーが発動。


「ん? この匂いは…若い女性のものだ。むっ、三十路前くらいか? むむ、熟した良い匂いだ」


 なんと、この男は匂いで女性を探知できるのだ!!

 と、まったく無意味で無価値な特技を披露しつつ待っていると、三つの気配が部屋の前までやってきた。


「ボス、入りますぜ?」


 そうして入ってきたのは、アロハシャツと取り巻きの男二人。

 そして、捕まっていたホロロだ。


「なっ…」


 男たちは部屋の惨状に絶句している。

 大量の死体が転がっていれば誰だって面食らう。普通の反応だろう。

 そこにアンシュラオンが満面の笑みで歩み寄る。


「やぁ、よく来たね! 待ってたよ!!」

「な、なんだ…これは……ぼ、ボスは…」

「ボスを探してるの? はいよ、パス!」

「うわっ!!」

「落としちゃ駄目じゃんか。あんたらのボスの頭なんだからさ。大切に扱ってあげようよ」

「っ……え? …ぁ? く、首!? ボスの首!?」

「ところでその女性は…って、あれ? ホテルで会った人? うん、胸の大きさもぴったりだし間違いないね。なんでこんなところにいるの?」


 ここでもおっぱいで女性を見分ける妙技を披露。

 一銭の得にもならない技だが、少し修得したいと思ったのは気の迷いだろうか?


「これはどういう状況かな? まあ、どう考えても男が悪いよね。男である段階でアウトだし。尋問には一人いればいいから、こっちは死んでもらおう」


 アンシュラオンがデコピンのように指を弾くと、ホロロを押さえていた取り巻きの男の頭が空圧で吹き飛ぶ。

 戦気を加えるまでもない。単なる衝撃だけで十分だ。


「っ…」


 状況を理解しきれていないアロハシャツの男が完全に硬直。

 その瞬間であった。

 ホロロが縛られたまま手を下着に突っ込み、一枚の紙切れを取り出す。

 それをアロハシャツの男に向けて発動。

 異変に気づいた男が反射的にかわすが、水の刃が男の耳を切り落とす。


「術符! まだ隠していたのか!?」

「私はあなたたちには屈しない。そう申したはずですよ。それに組織の長も死んだようですので、私がここにいる意味もなくなりましたね」

「調子に乗るなよ! まだ終わっていない! こんなもんで終わるか!」

「いや、どう見ても終わりだろう。はい、お前はこっちな」

「ぐあっ!?」


 アンシュラオンがシャツの男を引っ張って、部屋の中に投げ入れる。

 そこで待ち構えていたサナが、迷わず男の足にダガーを突き刺す。


「ぐあっ!!」

「…ぐいっ」

「ぐぐぐ…は、はな……せ」


 続いて膝を首の後ろに押し付け、さらに腕を捻り上げて完全に身動きを封じる。

 部屋にやってきた者には全員同じことをしていたので、すっかりやり方を覚えてしまったようだ。


「少しでも暴れたら首をへし折っていいぞ」

「…こくり」

「待たせてごめんね。今、縄を切るからね。それにしても女性に酷いことをするもんだ。許せないよ」

「これはその…」

「うんうん、わかっているよ。悪いやつらに捕まっていたんだよね? 全部あいつらが悪いんだ」

「ふ、ふざけるな! その女は俺たちから金を借りたうえに、殺して踏み倒そうとした悪党だぞ!」

「ははは、ギャングが女性を悪党呼ばわりか。落ちたもんだよな。同じ悪党ならオレは女性のほうを擁護するね。事情はあとで訊くとして、本題に入ろうか」


 アンシュラオンが、倒れているアロハシャツの顔面を蹴り飛ばす。

 鼻がへし折れて、血が噴き出た。頬骨も骨折して顔が変形。


「ぐふっ…」

「オレの質問に答えろ。組織の金庫はどこだ? 現金はどこにある?」

「だ、誰が…てめぇなんかに…」

「ああ、そう。はい、バチン」

「ぎゃあぁあああああ!! ひぎいいいいっ! いーーいいいい!!」

「変な声を出すなよ。気色悪い。だが、神経を焼かれる気分は楽しんでもらえているようだな」


 アンシュラオンが、弱めた『雷気』を神経に直接流しているのだ。

 たとえば歯の神経に軽い電流を流すだけでも、普通の人間ならば痛みで泣き叫ぶだろう。男が苦痛を感じるのは当然だ。

 ただ、姉のマッサージ用に使っていたものなので、思った以上の反応に少し驚いたのは秘密だ。姉の場合は全力で流しても平然としていたが。


「話さないなら少しずつ電圧を上げていくぞ」

「はーーーはーーっ! や、やべっ! ぎゃあああぁあぁ!」

「安心しろ。簡単に殺しはしないさ。夜は長いんだ。気長にやろうぜ。ああ、壊れる前には教えてくれよ。吐かないならサナの実験台にするからさ」

「ひーーー、ひーーー!! 待って、たすけ―――がぁああああ!」

「はーやーく。はーやーく。吐かないと食べちゃうぞー。ガチガチガチッ!」


 ボスの生首で歯を鳴らしながら尋問は続く。

 結局、男は一分ももたずに金の在り処を吐いた。

 ただ、その時には涙、鼻水、鼻血、よだれ、ゲロ、脱糞に失禁等々、違うものまで吐き出して、もう見るに耐えない惨状だったのは最悪である。汚いし、臭くてたまらない。


「ふむ、隠し場所はこいつらの事務所か。うっかり殺さなくてよかったよ。で、具体的な場所はどこだ?」

「あべ…っ………ば………ばははっ……うべべ…」

「もう壊れちゃったかな? うーむ、建物の場所を探すのは苦手だな。何か目印でもあればいいんだけど…」

「…あ、あの……」


 ホロロが、恐る恐る話しかけてくる。

 その顔はさきほどまでの強張ったものとは違い、戸惑いの感情のほうが強く出ていた。


「ん? ああ、大丈夫だよ。君は責任を持って解放するから」

「これは…あなたがやったのですか? その…ギャングの一味を…」

「うん、そうだよ。調子に乗っていたから潰してみたんだ」

「………」

「どうしたの? 痛いところでもある?」

「い、いえ…その事務所ならば知っております。もしよろしければ、ご案内いたしましょうか?」

「それは助かるよ! 君みたいな素敵な女性と一緒なら、なおさら最高だ! オレはアンシュラオン。君は?」

「ほ…ホロロ……マクーンと申します」

「ホロロさんか、いい名前だね。よくホテルのロビーで会ったよね。覚えている?」

「は、はい。とても…よく覚えております」

「そんなに緊張しないでいいよ。君が何者であってもオレは君の味方さ」

「どうして…そんな。私は…その男が言ったように悪党なのかもしれません」

「そうなの? ちょっと目を見せて」

「あっ…」


 アンシュラオンがホロロの頬を両手で掴み、じっと瞳を見つめる。

 ホロロの黄色い瞳の中に、赤い瞳が映り込む。


(なんて深い…色。吸い込まれそう…。それに、この人がギャングを? そんなことができるの? む、胸が苦しい…どうして?)


 血圧が急上昇し、心臓が激しく脈打つ。


「綺麗な目をしているね。そんな人が悪党とは思えないな。たかが借金の踏み倒しでしょ? その程度で悪党ならオレも悪党になっちゃうよ」


↑当人に悪党である自覚がないことが判明


「…はぁはぁ……はぁはぁっ!」

「あっ、そうだった。魅了があったんだ。ごめんね。それじゃ、悪いけど案内頼めるかな」

「…はい」

「ボスの首はもういらないか。そうだ。この首はモヒカンに送っておこう。絶対驚くよな」


 弱い物質を普通に凍気で凍らせると壊れてしまうが、最初に命気を浸透させてから凍らせた場合は、原形を残したまま凍結が可能だと気づいた。

 それを利用して、モヒカンに手紙付きのクール便を送ることにする。

―――――――――――――――――――――――
 拝啓 モヒカン様

 穏やかな日和が続いておりますが、スレイブ館の皆様はますますご清祥のことと存じます。

 このたびハピナ・ラッソにて珍しいものを手に入れました。噂によるとギャングのボスらしいので、ぜひともコレクションの一つとして飾ってみてください。

 あなた様の首もコレクションに並ばないよう、これを見て初心を忘れず、日々の職務に励んでくださることを祈っております。
―――――――――――――――――――――――

 後日、その手紙と生首を見たモヒカンが恐怖におののき、また毛が薄くなったのはどうでもいい話だ。

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