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『翠清山の激闘』編
223話 「決着フラッグファイト! 覇王の資質!」
しおりを挟む「みんな、今まで以上に力を絞り出すんだ!! 気を抜いたら全員お陀仏だよ!」
両者の戦いが過熱する中、スザクは海兵を叱咤。
身体を張って必死に余波から守る。
だが、それでも徐々に押されて、ジリジリと後退を余儀なくされてしまう。
「くっ…この二人は尋常じゃない! このままじゃ…」
「おい、スザク!! てめぇらだけでやれると思ってんのか! ああ!?」
「海兵だけじゃ貧弱で見てられねぇよ! 後ろは支えてやるから死ぬ気で押せ!!」
「皆さん…僕を助けてくれるんですか!?」
「ばーか、こんな面白い勝負を間近で見るためさ!! それに、てめぇは一番最初に身を挺して前に出た。性癖が汁王子なのは残念だが、お前が言っていたことは信じてやる!」
「お前ら!! 気合を入れて押せえええええええ! 傭兵とハンターの力を海兵どもに見せてやるぞ!!」
「なめてんじゃねえぞ、おらああああああああ!」
「こちとら毎日、命張ってんだよ! 普段は訓練ばかりの海兵に負けるか!!」
スザクたちの後ろを傭兵とハンターたちが支え、なんとか余波を抑えることに成功。
アンシュラオンとガイゾックの波動が、大勢の人壁に支えられて『ビッグウェーブ』となって会場を廻っていく!
「足を踏み鳴らせ!! 男の意地を見せろ!! 戦え! 闘え!! 魂をすべて吐き出せぇええええ!! 俺たちは武人だぁあああ!」
ドンドンドンッ!!
ドンドンドンッ!!
ドンドンドンッ!!
ガイゾックの咆哮が人々を刺激し、自然と足が動き出す。
叩く、叩く、踏み叩く!!
海兵も傭兵もハンターも、関係のないはずのハローワーク職員さえも、戦いのリズムに合わせて勝手に足が動いてしまう!
「師匠たちが死ぬ気で伝えてきた武! 連綿と続いてきた覇の道!! ここだ!! オレはここにいる!! オレたちの目指す場所は、この先にある!! 気合を入れろ! 立ち向かえ!! 力を振り絞れぇえええええええええええええええ!!」
ドンドンドンッ!!
ドンドンドンッ!!
ドンドンドンッ!!
アンシュラオンの覇の波動が、人々の心をぶっ叩き、強引に押し上げる!
限界なんてない! 終わりなんてない!
自分が望むだけ戦い、望むだけ上に昇れると叫ぶ!!
そう、それこそが光の女神マリスが示した可能性の光!
人々が目指す『無限の可能性』であり、武人が求める山の頂!
「どおおおらああああ!!」
ガイゾックがアンシュラオンをぶん殴る!
もう縄も何も関係ない。力の限り、拳を叩きつける。
「うおおおお!」
アンシュラオンも気持ちに応えるように、ガイゾックをぶっ叩く!
二人とも防御など気にせず殴り合っているため、出血や骨折は当たり前。筋肉も断裂して、殴るたびに腱が切れることもある。
それでも殴ることをやめない!
これがフラッグファイトだからだ。意地の張り合いだからだ。
「いけええええ! ぶん殴れ!!」
「やっちまえええええ!」
「俺も身体が熱くて仕方ねえ! 一度でいいから、あんな闘いをしてみてぇぜ!!」
両者の力がぶつかるたびに発する閃光は、命の輝き。
その光を見るだけで怖れが消えていく。勇気が湧いてくる。
細かいことなんて、どうでもよくなっていく。
海兵も傭兵もハンターも誰もが自分のことのように熱くなる。そこに境目などはない。たくさんの大馬鹿どもがいるだけだ。
(僕がいくら言葉を尽くしても信じてもらえなかったことを、ただ殴るだけで成し得てしまった! これじゃ、まるで僕が馬鹿みたいじゃないか! でも、なんてすごい人たちなんだ。アンシュラオンさんも父さんも素敵すぎる!)
スザクは、ここでガイゾックの真意を知る。
それに応じてくれたアンシュラオンの男気にも感謝していた。
「ファテロナ、彼らは何をしているの!?」
「殿方には、時に殴り合いが必要なようです。お二人とも生粋の馬鹿ということでございます」
「不思議ね。胸がドキドキする…どうしてかしら?」
「それは恋です」
「恋!? 恋とは、殿方を好きになる…あれのこと?」
「その通りです。お嬢様は恋に落ちてしまわれたのです」
「そ、そんな…わたくしはまだお友達すら満足にいないのに…」
「満足にではありません。一人もおりません」
「えーーっ!?」
「ですが、あの御方とは仲良くしていたほうがよろしいでしょう」
「お髭のほう?」
「強いて言えば白いほうでございます。つーか、ここで間違えるとかアリエネー!! 今まで何ミテタンダヨー! しかし、アンシュラオン様は我々が扱えるような御仁ではないようですね。今回はガイゾック様にしてやられた、というわけですか」
ファテロナもスザクと同じく、ガイゾックの意図を理解する。
そして、多くの人々が見守る中、フラッグファイトも終局に向かっていった。
「ふーーーふーー!! アンシュラオン、そろそろ決めるか!」
「スタミナ切れ? 運動不足じゃない?」
「お前の体力がおかしいんだよ! どうして疲れねぇんだ!」
「オレからすると、ようやく準備運動が終わったくらいなんだけど…」
「ったくよ! いつまでもやっていられるか! お前と全力で戦える間に俺様も限界を超えてやる! いくぞ! これが海賊の流儀だぁあああああああああ!!」
ガイゾックの『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』が発動。
すでにスザクとライザックが発動させているため、もはや多くを語る必要はないだろう。
クジュネ家の血統遺伝であり、能力とスキルを強化するものだ。そして、因子を覚醒限界まで引き上げる効果もチート級である。
ガイゾックはすでに因子を限界値まで上げているものの、これを使うことでより純度の高い因子を覚醒させることができる。
「アンシュラオン! 俺様の海を見せてやる!!」
ガイゾックの旗が輝きを増し、世界が大海原に変化していく。
美しい平和な海、シケた海、大荒れで雷雨に見舞われる自然の驚異!
多くの恵みを与え、時には絶対的な厳しさを教える、母たる海!
「俺たちは海を信仰している! 海賊にとって女神様といえば『海の女神様』だ!」
「光と闇以外にも、海の女神様もいるんだね」
「ああ、今度俺の船を見せてやる。船首像が海の女神様を模しているんだ。きっとお前も気に入るぜ!」
「海の女神様って、おっぱいは大きい?」
「おうよ! 半端ねぇぜ! あの乳のためならば死ねる!」
「今日からオレも海の女神様を崇拝するぞ! ぜひ見せてくれ!」
「がははは! 調子のいいやつだ! だが男なんざ、それくらいでいい! んじゃ、いくぜええええ!!」
ガイゾックの拳に、今までで最大の闘気が集まっていく。
彼が海にかける情熱と畏怖、愛のすべてをかけて、この一撃を女神に捧げる!!
「正真正銘の全力パンチだぁあああああああ!」
もうこの段階に至れば、綱引きにあまり意味はない。
アンシュラオンも仁王立ちして、真正面から受け止める。
ガードもしない。ただ両手を脇に添えて、完全我慢の構え。
そこにガイゾックの渾身の一撃が―――激突!!
身体中から蒸気が噴き出し、その一撃をさらに押し込む。
押す、圧す、推す!!
これでもかと自分の海自慢を叩きつける!!
アンシュラオンの額が割れ、鼻が潰れ、荒れ狂う衝撃が首や脳にダメージを与える。
が、一瞬だけぐらついたものの―――踏ん張る!!
これほどの拳を受けても瞬き一つせず、血を吐き出しながらも、ガイゾックのすべてを受け止めた。
「はぁはぁ…どうだい!! 俺様の海への愛はよ!!」
「…効いたよ。本当に気持ちのいい拳だ。あんたはやっぱりゼブ兄に少し似ている。あの人もいつだって真っ直ぐに拳を突き出してきたもんだ。オレもそんな戦いをしてみたかった。ずっと憧れていた」
この戦いが始まった時からゼブラエスを思い出していた。
兄弟子であり、完成された身体と強い意思を持った、武を目指す者ならば誰もが憧れるような最高の男。
タイプが違うため同じような戦い方はできなかったが、ガイゾックが新しい可能性を教えてくれた。
殴ってもいいのだと。
ただただ思うがままに、真っ直ぐに打ち込んでいいのだと。
それが―――気持ちいいのだと!!
「オレも今打てる最高の拳をもって、あんたに応える!!」
アンシュラオンから闘気が消えた。
それからゆっくりと腰を落とし、右腕を引く。
なんてことはない。幾多の武人が日々繰り返してきた基本の形、正拳突きの構えだ。
さまざまな変化やカスタマイズがあるとはいえ、まずはこの型があってこそ、すべての打撃が始まると言っても過言ではない。
アンシュラオンも最高の拳を打とうと思った瞬間、自然とこの型を取っていたにすぎない。
(邪念を捨てろ。ただ思い出すんだ。オレが毎日やってきたこと。師匠に教えられて、ゼブ兄に反復させられて、姉ちゃんに何度も手本を見せられてきた、ただただ純粋に打ち抜く拳を!!)
闘気が消えた代わりに、体表から光り輝く粒子が現れる。
以前、気質の説明をした時にも出した『神気』だ。
清浄な澄んだ波動が、ガイゾックのマグマで熱せられた会場に荘厳な空気を運ぶ。
だが、そこで終わらない。
「高まれ!! オレの戦士因子!! 廻れ、廻れ、廻れぇええええええええ!!」
身体の中で急速に戦士因子が回転を始める。
廻る、廻る、車輪が廻る!!
それと同時に『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』が輝きを増し、戦士因子をさらに押し上げていく!
「うおおおおおおおおおおおおお!」
アンシュラオンが激しい黄金の輝きに包まれ、再び強烈な覇の波動が会場を席巻!!
黄金の風によって世界が一色に染まっていく。
だが、そんな中にあっても、そこにいる一人の少年から目が離せない!
世界が見ている。自然が見ている。人が見ている。
覇の旗がたなびく瞬間を―――待ち望んでいる!!
その光景は、まるでスローモーションだった。
アンシュラオンが、すっと足を前に出す。
ゆっくりと右拳が放たれ、ガイゾックの腹に、とんっと優しく触れる。
相手を滅しようとか、壊してやろうとか、上に立ってやろうといった邪念はない。
ただただ、武に素直。
ただただ、武に純粋。
だからこそ―――覇に至る
「見せて…もらったぜ。お前の…心意気ってやつを…な。でっけぇなぁ。長いなぁ。遠いなぁ…。武ってのは、こんなにも巨大なのか」
「だが、オレたちはそこを目指さないといけない。途上で終わらせるわけにはいかないんだ。つらくても山を登らないといけないのさ」
「ならよ…バトンタッチだ。俺は海で十分だ。お前たち…息子の世代に…任せるぜ」
「ああ、受け取った」
直後、ガイゾックが大噴火!!
溜め込んでいた闘気が、身体中の裂け目から血と一緒に吐き出され、周囲を焼き尽くしていく。
そして、手から縄が抜け落ちる前に、アンシュラオンにバトンタッチ!
バチーーーンという強い音とともに縄が託された。
ガイゾックは床に大の字に倒れ込み、ぴくりとも動かなくなる。
フラッグファイト、ここに決着!!
「覇の旗に負けはない!! オレは勝ち続ける!!」
世界から贈られる祝福の風を受けて、覇の旗が激しく揺れ動く。
その衝撃で屋根が吹き飛び、天に『覇』の文字が浮かび上がる!
覇こそ最強であると!
覇を目指す者にだけ、その資格があるのだと!
当人が望む望まないは関係ない。世界は常に勝者を欲するのだ。
覇の旗を受け継ぐアンシュラオンこそ、【覇王の資質】があるのだと世界が認めた瞬間であった。
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