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鑑識が出した道標
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硝子の破片や石が散らばった会議室。そして様子のおかしい楠木に加川が「大丈夫か?」と声を掛ける。疲労だと答える楠木に軽く相槌を打つ。加川が机の上に新たな資料を用意している後ろで、楠木は硝子の破片と石をコソコソと片付けた。
AM9時8分。楠木は現場検証で押収した証拠品の鑑識結果を加川に教えてもらう。
まず藤木真由の部屋、祈願荘103号室から見つけたものについて報告を受ける。証拠品の数は多かったが、ほとんどがゴミや2人が生前着用していた服だった。重要証拠として取り扱われたものは2点だけだった。
「まずは事件現場に落ちていた包丁からだ。」
刃渡15センチの包丁。背中の切り口から藤木、サトルを刺殺した包丁で間違い無かった。死亡解剖の結果、死因は検視同様だった。刺された事によるショックで意識を失い、そのまま失血死したものだ。2人が争った痕跡は無く、刺し傷以外に目立った怪我は無かった。
死亡推定時刻の結果は藤木が8月11日土曜日PM1時頃玄関のドアに寄り掛かって死亡。サトルが同日PM4時頃台所の前で死亡。藤木が殺された約3時間後にサトルが同じ包丁で刺殺された事になる。防犯カメラを調べた結果、その間に祈願荘を出入りしていたのは住民だけだった。となるとその日祈願荘に居た人物が犯人である可能性が高い。
血の付いた包丁の写真が載っている資料を見ながら加川は続ける。
「包丁から出てきた指紋は藤木、篠田、あともう1つあった。その指紋はかなり小さい。多分、いや、ほぼ100%の確率で子供のものだろう。」
楠木は加川の発言に耳を疑った。最初の容疑者は子供だった。どちらか2人を刺したのか、あるいは2人とも刺したのか…。
楠木は昨日夢に出てきた少女を思い出した。夢の中の少女は多分5歳くらいだろうか。まさかあの少女が?
「指紋から子供の年齢はわかるのか?」
「大きさから見てまだ10歳くらいだろう。身長で多少の誤差はどうしても出てしまうがな。」
強張っていた顔の筋肉が僅かに緩んだ。10歳ならきっとあの子じゃない。楠木は何故か犯人があの少女でないことを祈っていた。勿論、それ以外なら良いって訳でもないが。
出てきた痕跡からDNA検査をした結果、未だ子供の正体は不明。現在専門の遺伝子機関に連絡して、このDNAの持ち主が検査を受けた記録はないか報告を待っていると加川は話す。
「ドアノブや部屋に付着していた指紋。飲み物から採取できた唾液。毛髪。どれも鑑定結果は包丁と同様だった。藤木、サトル、そして子供だ。この3人以外が出入りしていた可能性は低いな。」
「2人とも戸籍に子供はいなかった。聞き込み捜査でも子供がいたって話は聞いてない。2人が誘拐犯だった可能性も考えていた方がいいかもしれん。」
加川は頷く。そして次の資料を見る様に指示した。楠木と林が現場捜査を行った際に押入れで見つけた薄茶色の子供服だった。サイズは130センチ。鯨のイラストが描いてある。
「俺らが見つけた最初の子供関連のやつか。このTシャツからサイズ以外で何がわかったんだ?」
子供が関わっているという充分な証拠かもしれないが、加川がそこまで神妙な顔付きになる理由がわからなかった。資料の写真を見ながら重い口を開く。
「このTシャツは元々白だ。」
「白?全面薄茶色だったじゃないか。」
「その薄茶色の正体は篠田の血液だったんだよ。しかもちょっとやそっとの量じゃない。結構な量じゃないと水で薄めたところで全面には染まらないからな。」
加川は天井を仰ぎながら話す。元々は白いTシャツで、後から薄茶色になってしまったのだと言う。
色の正体はサトルの血液と水。そして衣料用洗剤だった。血液が付着したTシャツを綺麗にしようと直接手で洗ったのだろう。かなり頑張って洗ったのか、所々繊維が伸び切っていたらしい。
時間が経過した血液。大人でも綺麗に洗い落とすことは難しい。いくら洗っても血液が落ちないと諦めて押入れに隠したのか。
真っ赤に染まった服を洗っている時、子供はどんな気持ちだったのだろう。恐怖。焦り。怯え。もしかしたら解放感かもしれない。
事件が起こった日。3人に一体何があったのか。
「藤木の部屋から出た重要証拠はとりあえず以上。次は篠田の家だ。」
サトルの家に付着していた指紋は本人と子供の分しか無かった。あの家に藤木は一度も訪れていなかった事になる。
キッチンラックに置かれていた水色のリュックサック。中身に異変は見られなかった。サトルの指紋と藤木の家で見つかった子供の指紋が検出された。藤木の部屋とサトルの部屋にいた子供は同一人物となる。
サトルは藤木の家に行く前にいつ子供と会ったのか。そして母親は今何をしているのだ。
「最後になっちゃ…。いや、林夏樹が失踪した時床にあった血溜まりだ。」
楠木の頭に昨日の記憶が蘇った。林に取り憑いた化け物の顔。酷い声。首を勢いよく曲げた時に鳴る鈍い音。残された大きな血溜まり。思い出すだけで吐き気がする。
「楠木?顔色が悪いぞ。一旦休憩に…。」
「大丈夫だ。続けてくれ。」
ここで止まる訳にはいかない。もう後戻りできないのだから。この事件は俺が解決しなければ。楠木は未だかつてない使命感に駆られていた。
あの血溜まりは林夏樹の血液で間違いないと言われた。目の前が暗くなる。床に残された血はかなりの量だった。的確な治療をせず生き延びることは難しいだろう。
林の姿はマンションの防犯カメラにも映っていなかった。付近の住民に聞き込み捜査もしたが誰も見ていないらしい。現在林は失踪届が受理され、警察によって捜索されている。
楠木は気付いていた。警察がどれだけ捜索したって無駄だ。この事件を解決しない事には林は見つからない。早く見つけないと林の命は無い。
鑑識結果の報告開始から約2時間が経過した。長い結果発表が終わる。加川は今日楠木の様子を確かめ、説得する為に敢えて2人だけでこの場を設けたのだった。
「これからお前1人で捜査を続ける気か?なっちゃんの事、責任を感じてるんだろ。」
俺が和室に逃げ込まなければ。一緒に家から出ていれば。あの時林は失踪しなかったかもしれない。化け物に恐怖し、逃げ出した無力な自分が許せなかった。加川の言う通りだ。俺は責任をずっと感じている。
香川からの問い掛けに対し楠木は黙ったままだった。
「ゆっくり休めとは言わない。言ったところでどうせお前は突っ走るからな。俺が言いたいのは1人で動くなって事だ。誰かを頼れ。それが無理なら俺に連絡しろ。わかったな。」
嫌々頷く楠木に半ば諦めながら加川は会議室から出て行く。去り際に肩を軽く叩かれた。困り顔をしながら笑う同僚の表情は、楠木を少しだけ勇気付けた。
加川に渡された資料を会議室で一人眺める。押収された証拠品の写真全てを見ていると違和感を覚えた。何かが足りない。重要な証拠になってもおかしくはない何かが。
サトルは車を持っていた。だとしたら免許証はどこにある?藤木の部屋、サトルのマンションのどちらからも見つかっていない。楠木が本部に戻った後、車の中は応援に来た別の捜査官によって確認済みだ。
そもそもサトルは自らの家の鍵を何処に置いてきたんだ?手に握られていた鍵はマンションのものではなかった。
「待てよ。サトルの荷物はどこにあるんだ?」
荷物が一式無い事に気付いた。手ぶらで藤木の家に行ったとしても、家の鍵、財布、免許証等の身分証明書は持っているはずだ。
楠木は自らの席に戻りパソコンの電源を入れた。防犯カメラの映像を再度調べる。最初にサトルを見つけたのはコンビニの防犯カメラだ。日にちを戻して確認する。
8月10日金曜日の夕方。黒色のボディバッグを肩から掛けていた。
次に藤木と訪れた深夜。その時はスーツのポケットから財布を取り出し、クレジットカードで支払いをしている。
そのままサトルは藤木と一緒に祈願荘に入る。ということは荷物は祈願荘から見つかるはずだ。それなのに見つかっていない。
現場検証で見つからないはずがない。もし仮に楠木と林が見落としていたとしても他の捜査官が押収しているはずだ。荷物は全て本部にあるのだから。
ということはサトルの荷物は何者かに盗まれたことになる。
楠木は路上の防犯カメラも再度確認した。事件当日ではなく、その前から映像を流していく。
見つけた。8月10日PM5時40分。祈願荘に入っていくサトルの姿が映っている。黒色のボディバッグを肩に掛けたままだ。コンビニでの購入品が入ったレジ袋が4袋。重たそうに両手で運んでいる。
サトルはたまに後ろを振り返る。誰かを待ちながら歩いている様子だ。食い入るようにパソコンの画面を直視する。すると画面下方向から小さな人影が映った。
「君だったのか…。」
周りをキョロキョロ見回しながらサトルの後を追う。急に祈願荘の前で待つサトルに向かって走った。その姿はまさに父親とその子供だ。サトルに何を言われたのだろうか?残念ながら音声の記録は残っていない。きっと「早くおいで。」とか、そんな台詞だろう。
子供の見た目は映像が粗くて不明瞭だった。顔を認識する事は難しそうだ。サトルの横に並んだ姿から推測するに小学生ぐらいだろうか。髪の毛は短く、白色の鯨がプリントされたTシャツに半ズボン。そして白色のサンダルを履いている。手には何も持っていなかった。
サトルは8月10日金曜日PM18時48分に祈願荘から出る。スーツ姿だった。
サトルと一緒に祈願荘に入った子供は8月12日日曜日PM1時9分まで出てくる事はなかった。事件が起きた日は8月11日土曜日。この子は事件が起きた時間、祈願荘103号室に居た事になる。
もしかしたらと思い楠木はコンビニの防犯カメラのフォルダをクリックする。8月12日PM1時から再生した。
PM1時4分。老夫婦が来店。店長がドアを引き、軽く会釈をしていた。老夫婦は公共料金の支払いと飲み物を購入。5分後退店。
PM1時10分。体操服姿の学生が来店。4人組で各々アイスクリームを購入。3分後退店。
PM1時20分。この日は雨が降っていた。サトルと一緒に歩いていた子供が1人で来店。店の入り口で傘を畳んでいる。サイズが合っていない大きな白いTシャツを着ている。サンダルが薄く茶色に染まっていたた。小さな腕で黒色のボディバッグを胸の前に抱えている。店内を歩き回り、お茶と菓子パンを購入。サトルの物と思われる黒色のボディバッグの中から財布を出して現金を出して支払う。レジに居た店員にお辞儀をして退店。傘を回収して歩いていく。
楠木はコンビニの店長に連絡し、すぐ向かうと伝えた。二つ返事で了承を得た。
やっと見つけた子供の手掛かり。君は一体誰なんだ?
AM9時8分。楠木は現場検証で押収した証拠品の鑑識結果を加川に教えてもらう。
まず藤木真由の部屋、祈願荘103号室から見つけたものについて報告を受ける。証拠品の数は多かったが、ほとんどがゴミや2人が生前着用していた服だった。重要証拠として取り扱われたものは2点だけだった。
「まずは事件現場に落ちていた包丁からだ。」
刃渡15センチの包丁。背中の切り口から藤木、サトルを刺殺した包丁で間違い無かった。死亡解剖の結果、死因は検視同様だった。刺された事によるショックで意識を失い、そのまま失血死したものだ。2人が争った痕跡は無く、刺し傷以外に目立った怪我は無かった。
死亡推定時刻の結果は藤木が8月11日土曜日PM1時頃玄関のドアに寄り掛かって死亡。サトルが同日PM4時頃台所の前で死亡。藤木が殺された約3時間後にサトルが同じ包丁で刺殺された事になる。防犯カメラを調べた結果、その間に祈願荘を出入りしていたのは住民だけだった。となるとその日祈願荘に居た人物が犯人である可能性が高い。
血の付いた包丁の写真が載っている資料を見ながら加川は続ける。
「包丁から出てきた指紋は藤木、篠田、あともう1つあった。その指紋はかなり小さい。多分、いや、ほぼ100%の確率で子供のものだろう。」
楠木は加川の発言に耳を疑った。最初の容疑者は子供だった。どちらか2人を刺したのか、あるいは2人とも刺したのか…。
楠木は昨日夢に出てきた少女を思い出した。夢の中の少女は多分5歳くらいだろうか。まさかあの少女が?
「指紋から子供の年齢はわかるのか?」
「大きさから見てまだ10歳くらいだろう。身長で多少の誤差はどうしても出てしまうがな。」
強張っていた顔の筋肉が僅かに緩んだ。10歳ならきっとあの子じゃない。楠木は何故か犯人があの少女でないことを祈っていた。勿論、それ以外なら良いって訳でもないが。
出てきた痕跡からDNA検査をした結果、未だ子供の正体は不明。現在専門の遺伝子機関に連絡して、このDNAの持ち主が検査を受けた記録はないか報告を待っていると加川は話す。
「ドアノブや部屋に付着していた指紋。飲み物から採取できた唾液。毛髪。どれも鑑定結果は包丁と同様だった。藤木、サトル、そして子供だ。この3人以外が出入りしていた可能性は低いな。」
「2人とも戸籍に子供はいなかった。聞き込み捜査でも子供がいたって話は聞いてない。2人が誘拐犯だった可能性も考えていた方がいいかもしれん。」
加川は頷く。そして次の資料を見る様に指示した。楠木と林が現場捜査を行った際に押入れで見つけた薄茶色の子供服だった。サイズは130センチ。鯨のイラストが描いてある。
「俺らが見つけた最初の子供関連のやつか。このTシャツからサイズ以外で何がわかったんだ?」
子供が関わっているという充分な証拠かもしれないが、加川がそこまで神妙な顔付きになる理由がわからなかった。資料の写真を見ながら重い口を開く。
「このTシャツは元々白だ。」
「白?全面薄茶色だったじゃないか。」
「その薄茶色の正体は篠田の血液だったんだよ。しかもちょっとやそっとの量じゃない。結構な量じゃないと水で薄めたところで全面には染まらないからな。」
加川は天井を仰ぎながら話す。元々は白いTシャツで、後から薄茶色になってしまったのだと言う。
色の正体はサトルの血液と水。そして衣料用洗剤だった。血液が付着したTシャツを綺麗にしようと直接手で洗ったのだろう。かなり頑張って洗ったのか、所々繊維が伸び切っていたらしい。
時間が経過した血液。大人でも綺麗に洗い落とすことは難しい。いくら洗っても血液が落ちないと諦めて押入れに隠したのか。
真っ赤に染まった服を洗っている時、子供はどんな気持ちだったのだろう。恐怖。焦り。怯え。もしかしたら解放感かもしれない。
事件が起こった日。3人に一体何があったのか。
「藤木の部屋から出た重要証拠はとりあえず以上。次は篠田の家だ。」
サトルの家に付着していた指紋は本人と子供の分しか無かった。あの家に藤木は一度も訪れていなかった事になる。
キッチンラックに置かれていた水色のリュックサック。中身に異変は見られなかった。サトルの指紋と藤木の家で見つかった子供の指紋が検出された。藤木の部屋とサトルの部屋にいた子供は同一人物となる。
サトルは藤木の家に行く前にいつ子供と会ったのか。そして母親は今何をしているのだ。
「最後になっちゃ…。いや、林夏樹が失踪した時床にあった血溜まりだ。」
楠木の頭に昨日の記憶が蘇った。林に取り憑いた化け物の顔。酷い声。首を勢いよく曲げた時に鳴る鈍い音。残された大きな血溜まり。思い出すだけで吐き気がする。
「楠木?顔色が悪いぞ。一旦休憩に…。」
「大丈夫だ。続けてくれ。」
ここで止まる訳にはいかない。もう後戻りできないのだから。この事件は俺が解決しなければ。楠木は未だかつてない使命感に駆られていた。
あの血溜まりは林夏樹の血液で間違いないと言われた。目の前が暗くなる。床に残された血はかなりの量だった。的確な治療をせず生き延びることは難しいだろう。
林の姿はマンションの防犯カメラにも映っていなかった。付近の住民に聞き込み捜査もしたが誰も見ていないらしい。現在林は失踪届が受理され、警察によって捜索されている。
楠木は気付いていた。警察がどれだけ捜索したって無駄だ。この事件を解決しない事には林は見つからない。早く見つけないと林の命は無い。
鑑識結果の報告開始から約2時間が経過した。長い結果発表が終わる。加川は今日楠木の様子を確かめ、説得する為に敢えて2人だけでこの場を設けたのだった。
「これからお前1人で捜査を続ける気か?なっちゃんの事、責任を感じてるんだろ。」
俺が和室に逃げ込まなければ。一緒に家から出ていれば。あの時林は失踪しなかったかもしれない。化け物に恐怖し、逃げ出した無力な自分が許せなかった。加川の言う通りだ。俺は責任をずっと感じている。
香川からの問い掛けに対し楠木は黙ったままだった。
「ゆっくり休めとは言わない。言ったところでどうせお前は突っ走るからな。俺が言いたいのは1人で動くなって事だ。誰かを頼れ。それが無理なら俺に連絡しろ。わかったな。」
嫌々頷く楠木に半ば諦めながら加川は会議室から出て行く。去り際に肩を軽く叩かれた。困り顔をしながら笑う同僚の表情は、楠木を少しだけ勇気付けた。
加川に渡された資料を会議室で一人眺める。押収された証拠品の写真全てを見ていると違和感を覚えた。何かが足りない。重要な証拠になってもおかしくはない何かが。
サトルは車を持っていた。だとしたら免許証はどこにある?藤木の部屋、サトルのマンションのどちらからも見つかっていない。楠木が本部に戻った後、車の中は応援に来た別の捜査官によって確認済みだ。
そもそもサトルは自らの家の鍵を何処に置いてきたんだ?手に握られていた鍵はマンションのものではなかった。
「待てよ。サトルの荷物はどこにあるんだ?」
荷物が一式無い事に気付いた。手ぶらで藤木の家に行ったとしても、家の鍵、財布、免許証等の身分証明書は持っているはずだ。
楠木は自らの席に戻りパソコンの電源を入れた。防犯カメラの映像を再度調べる。最初にサトルを見つけたのはコンビニの防犯カメラだ。日にちを戻して確認する。
8月10日金曜日の夕方。黒色のボディバッグを肩から掛けていた。
次に藤木と訪れた深夜。その時はスーツのポケットから財布を取り出し、クレジットカードで支払いをしている。
そのままサトルは藤木と一緒に祈願荘に入る。ということは荷物は祈願荘から見つかるはずだ。それなのに見つかっていない。
現場検証で見つからないはずがない。もし仮に楠木と林が見落としていたとしても他の捜査官が押収しているはずだ。荷物は全て本部にあるのだから。
ということはサトルの荷物は何者かに盗まれたことになる。
楠木は路上の防犯カメラも再度確認した。事件当日ではなく、その前から映像を流していく。
見つけた。8月10日PM5時40分。祈願荘に入っていくサトルの姿が映っている。黒色のボディバッグを肩に掛けたままだ。コンビニでの購入品が入ったレジ袋が4袋。重たそうに両手で運んでいる。
サトルはたまに後ろを振り返る。誰かを待ちながら歩いている様子だ。食い入るようにパソコンの画面を直視する。すると画面下方向から小さな人影が映った。
「君だったのか…。」
周りをキョロキョロ見回しながらサトルの後を追う。急に祈願荘の前で待つサトルに向かって走った。その姿はまさに父親とその子供だ。サトルに何を言われたのだろうか?残念ながら音声の記録は残っていない。きっと「早くおいで。」とか、そんな台詞だろう。
子供の見た目は映像が粗くて不明瞭だった。顔を認識する事は難しそうだ。サトルの横に並んだ姿から推測するに小学生ぐらいだろうか。髪の毛は短く、白色の鯨がプリントされたTシャツに半ズボン。そして白色のサンダルを履いている。手には何も持っていなかった。
サトルは8月10日金曜日PM18時48分に祈願荘から出る。スーツ姿だった。
サトルと一緒に祈願荘に入った子供は8月12日日曜日PM1時9分まで出てくる事はなかった。事件が起きた日は8月11日土曜日。この子は事件が起きた時間、祈願荘103号室に居た事になる。
もしかしたらと思い楠木はコンビニの防犯カメラのフォルダをクリックする。8月12日PM1時から再生した。
PM1時4分。老夫婦が来店。店長がドアを引き、軽く会釈をしていた。老夫婦は公共料金の支払いと飲み物を購入。5分後退店。
PM1時10分。体操服姿の学生が来店。4人組で各々アイスクリームを購入。3分後退店。
PM1時20分。この日は雨が降っていた。サトルと一緒に歩いていた子供が1人で来店。店の入り口で傘を畳んでいる。サイズが合っていない大きな白いTシャツを着ている。サンダルが薄く茶色に染まっていたた。小さな腕で黒色のボディバッグを胸の前に抱えている。店内を歩き回り、お茶と菓子パンを購入。サトルの物と思われる黒色のボディバッグの中から財布を出して現金を出して支払う。レジに居た店員にお辞儀をして退店。傘を回収して歩いていく。
楠木はコンビニの店長に連絡し、すぐ向かうと伝えた。二つ返事で了承を得た。
やっと見つけた子供の手掛かり。君は一体誰なんだ?
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