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顧客リスト№74 『マザーグースの童夢ダンジョン』
人間側 とあるやさぐれ男達と伽話②終
「めでたしめでたし♪ とっぴんぱらりのグワグワウ♪」
っ、が、く、く、くぅうう、ぐううううううっっ!! こんのっ、クッソガチョウババアがぁああッ! なぁにが、なにがめでたしめでたしだァ!
テメエ等が何か仕込んでるのはわかってんだ! だがまた何も、何一つわからねえ内に! わざと『狼と七匹の子ヤギ』っていう、狼がガキ共を食う童話をやってやったっていうのに!
だってのに、またあの瞬間が、狼が、俺がガキ共へ噛みつく瞬間が、消えやがった! 六匹分食ったんだぞ!? 大の大人も混じってんだぞ!? だってのに、まるで腹に引きずり込まれたようにだ!
そう、大口開いて首筋に牙を突き立てたと思ったら、ガキやあの馬鹿共は俺の腹の中に収まってやがんだ。勝手に腹が風船のように膨らんでやがんだ。腹の中でクスクス笑ってやがんだ!
んで後はさっきの赤ずきんみてえに妖精共にベッドで寝かしつけられ、母ヤギに腹切られて全員無事だ。そんで仲直りさせられてめでたしめでたしだ。わけわかんねえよ…!
それに、ありゃあおかしいだろ。柱時計の中に隠れて唯一生き残った子ヤギ、順番でハゲ野郎が選ばれやがったが…デブほどじゃないとはいえ大人の体躯だぞ、どうやって細っこい柱時計に入れたんだよ!?
そりゃここは夢の中だ。何でもありだ。風景や服装や俺達の姿でさえ、あの眼鏡白帽子チェック肩掛けのガチョウババアの自由自在だ。だが、だとしてもよ……!
「みんなでおおかみさんのおなかにはいったの、たのしかった~!」
「ははっ、あんな感じなんだな。今度現実でも、っと、臭くて食われねえか」
「あのこたちとあそんでるみたいだった! ねえ、もっかいおなかにいれて!」
「いやぁ、俺のはただの脂肪だぜ? まあ触るだけなら、ん、あの子達?」
「ねえねえ、つぎのおはなし、なにがいいかなぁ?」
「俺に聞いてんのか? あー……なんか被れるといいな」
「じゃあじゃあ、おうかんとか、てぃあらとかは? いっしょにかぶろ!」
ッッチィ! あんのクソバカ共、なぁにガキ共と机囲んで茶ぁしばいてやがんだァ!? オラ建物裏来やがれ! 俺がしばいてやる!
「目的忘れてんじゃねえ! ガキ共を泣かせろや! なに戯れてんだ!?」
「い、いやだってよ……。向こうから絡んでくるしよ……」
「なんつーか、夢だから色々ふわふわしてっし、なあ?」
「てか目的はそれじゃ……」
っこ、い、つ、らァ!! ヤギみてえに草食系になりやがって! 狼に向かってナメてんじゃねえぞおい、そのヤギ耳とヤギ角、食い千切って!
「ね~ね~、おおかみのおじさん? おじさんはつぎなにやりたい?」
「なんのおはなしがい~い?」
やかましいわガキ共が! こちとら大人の話し中だ、邪魔すんならぶん殴って……テメエ等、盾になりやがって!? チィッ!
「またなんか狼のだ。今度こそ!」
ケッ、堪えたことに感謝しろよガキ共。そんで次こそ悪夢を。
「え~! もうあきたよ~!」
「おじさん、おおかみすきすぎ~!」
「ちがうのがい~い!!」
「おひめさまやりた~い!」
あ゛あ!? テメッ、このッ! 人様にお伺い立てといて我儘宣いやがって! このクソガキ共が! てか誰がおじさんだァ!?
「そうねえ。狼の童話は一旦おしまいにしましょうかあ。似た絵本をずっと読むのは飽きちゃうものねえ」
ガチョウババアテメエ! っ、クソバカ共まで、あぁどいつもこいつもクソしかいねえのかよ! あぁわかったよ、好きにしやがれ!
「それじゃあみんな、何が良いかしらあ? お姫様の童話、沢山あるわよお?」
「「「「えっと、えっとね!」」」」
ケェッ、苛立ってしかたねえぜ。バサバサ空から妖精と共に降りてくるガチョウババアも、そいつを囲んできゃっきゃ騒ぎやがるガキ共も、それを見てにやけてるみてえな馬鹿共も! おい、聞きやがれ。
「思い出せ。テメエ等ここ来た時なんて言われたんだ? 散々扱き下ろされただろうが。あのガキ共はどう取り繕ってもそういう連中だぞ。気を許してんじゃねえ」
「「「それは……」」」
「それにだ。夢だからああして絡んできてるだけに決まってんだろうが。どうせ起きたら気持ち悪がられるに決まってんだろ。散らかったハゲ頭も、脂ぎったデブも、鼻捻じ曲がる臭野郎も、俺の悪い魔女みてえな悪夢顔もな」
ったく、夢見てんじゃねえよ。その点俺は冷静だぜ。自分のクソッタレを自覚して、相応の役に収まってんだから。ま、テメエ等も自覚して相応の行動をとるこったな――。
「――でなんでテメエ等、寄りにもよってその役を選びやがんだよッ!?」
「っい、いやだってよ……『白雪姫』だぜ?」
「やることと言ったら、姫か小人か、お前のやってる悪い魔女か、王子様だろ?」
「それで、ガキ共に請われちまったら、王子様やるしか……」
いや断れや! ハゲてたりデブってたり臭い王子様なんて何処に居やがる! ……割かしいるかもしれねえが。テメエ等には相応の高貴さがねえだろうが、マジで馬子ってレベルだろうが!
「おうかん、にあってる~!」
「おうじさまのしろいふく、いいねぇ!」
「ねえねえ! うまにのって?」
「おお~! かっこういい~!」
ガキ共が。覚えとけ、ああいうのは馬子にも衣装って言うんだ。服がよくなきゃ只のおっさんなんだよ。テメエ等の姫姿と一緒でな。チッ、マジ気に入らねえ。
何が役が少ねえだ、小人は七人分居るだろうが。何がガキ共に請われたからだ、断って俺と同じく魔女でもやりゃあいいだろ! そうじゃなきゃ、ガキ共を痛めつけることは!
「てかお前も大概じゃねえか? 魔女とは言うけどよ」
「確かそいつ、正確には女王じゃなかったか?」
「しかも、白雪姫ほどじゃないにしても美人寄りの……」
「ふふふ、そうねえ。うふふ、女王ねえ。貴方もお着換えましょうねえ♪」
あ゛!? おいやめろガチョウババア、なんで俺が女王に、俺は魔女らしい顔で、大体俺は男で、ドレスなんぞ、あぁチクショウ!
「おお~! じょおうさまだ~!」
「いいな~! すてき~!」
「じょおうさま、だっこして~!」
「おひめさまのママでしょ~!」
止めろやクソガキ共裾引っ張んな、群がんな! 誰がママだ、このっ、俺の顔を見やがれや、怖がれや! 俺は、っ、ガチョウババア早く読み聞かせろッ!
「グワワワワ♪ さあみんな、お話、始まるわよお。むかーしむかし。あるところに、女王様がおりました――」
「「「「またあとでね~じょおうさま~!」」」」
はぁ、やぁっと夢の霞に消えやがった。周りの景色も城みたいになりやがる。ケッ、夢の人形とはいえ傅かれる気分は悪かねえな。煌びやかな服も……チッ!
「女王様には四人のお姫様、白雪姫がおりました。けれど女王様はその可愛らしさに嫉妬し、森へと置き去りにしたのです」
向こうの様子も見えやがる。ガキ共が森の中に放置されるのが。夢でよかったなぁ、リアルなら獣か魔物かに食われちまうし、ダンジョンじゃない以上まともに蘇生は出来ねえんだぜ。なのに、笑いあいやがって。
「これで自分より良い子は誰も居ない。満足した女王様は魔法の鏡へ話しかけます。『鏡よ鏡、この世で一番の良い子は誰?』すると鏡は答えます」
こっちも話が動きやがった。目の前に現れたデカ鏡は、ガチョウババアの話に乗って渦巻きだす。んで映し出されるのは当然。
「『それは、白雪姫達です』。なんということでしょう、森に捨てたはずの白雪姫達は、まだ元気にやっているではありませんか!」
明るい森の中で、小人共に囲まれてきゃっきゃ楽しんでやがるガキ共の姿。長閑にお茶会なんてしやがって。見てろ、すぐに悪夢を。
「それをみた女王様はとっても怒り出しました。なんとしても白雪姫を倒さなきゃ。おかしいほどの熱意をもって、魔女に変じます」
ったく、やっと女王ドレスが消えやがった。打って変わって真っ黒のローブだ。これで良い。これでこそ俺だろ。んじゃ行くとするかね、ガキ共をぶち殺しによ!
「――さて、そうして小人達に囲まれのんびり暮らしていた白雪姫達ですが、ある日のこと。森の中の家に尋ね来る人がおりました。白雪姫達が扉を開けると、そこに居たのは物売りの人」
「ケッケッケ…! 何か要らんかねぇ?」
「あらあら♪ 実はそれは、魔女となった女王様なのですが、白雪姫達はそれに気づいていません。面白い物がないか気になり、物売りを家へと招き入れました」
俺だって多少は乗ってやるよ。ガキ共に油断させるためならな。それに悪い魔女の真似なら今までも、っと揃いやがったな。それじゃあ始めてやるよ。
「この腰紐は如何かね? きっと似合うよ?」
「わ~! すてき~! わたしほし~い!」
「わたしもわたしも~!」
「こんなの、おかあさんももってないよ!」
「おじ…あ、じょお、えと、つけてつけて~!」
ぴーちくぱーちく騒ぎやがって。ま、確かにこりゃえらい高値がつきそうな立派な腰紐だ。柔らかい布製で、幾重にも織られて質よく膨らんでいて、宝石やらリボンやらがたっぷりついてやがる。
しかも長えから、こうして並ぶガキ共を一緒くたに巻いても引っ張れる余裕がある。これじゃあ腰紐じゃねえってか? それでいいんだよ。だってこれは。
「あばよ、白雪姫!」
「「「「きゃあっ~!?」」」」
こうしてガキ共の首を絞めるために使うんだからよ! テメエ等のちっせえ腰より細え、まるで枝みてえな首だ、四人いっぺんでも俺の力なら、っくぅ?!
「し、絞まらねぇ!?」
「「「「あはは~! あたたか~い!」」」」
「隙を見て、魔女は白雪姫を縊ろうとします。しかし、何故でしょう。首に巻かれた紐は締まることはありません。白雪姫は思います。『これ、スカーフにするのも良いかも』と♪」
やかましいわ!? 何楽しんでやがる! その無駄なニコつき顔を潰してやりてえ、が……マジで、何故だよこれ!?
紐が、絞まらねえんだ! 両端に幾ら力をかけて引っ張っても、ガキ共の首を包む輪はある程度までいくと絶対に縮まらねえ! まるで紐の中に芯が、何かが入っているような感覚だ…!
「よいしょ!」
「わ~あはは! まじょさんのおかお、まっか!」
「ね~ね~、このひも、ちょうだい! おじさん!」
「ちがうよ。こほん、『ものうりのおばあさん、このひもをくださる?』」
手古摺っている間にガキ共が勝手に紐輪から抜け出して、くそがっ! あぁやるよこんな気味悪い紐! 好きにしやがれ!
確かストーリー的にゃあ、チャンスはまだ二回あるんだ。毒の櫛による刺毒と、毒リンゴによる服毒、だったよな? 次こそ、だからさっさと白雪姫パート終わらせやがれ!
「――さて。失敗した魔女ですが、それでもまだ諦める様子はないようです。次に用意したのはこれまたとっても綺麗な櫛。毒をたっぷり含ませた尖る櫛」
うし、これならいけるだろ。こちとら冒険者業で毒付き刃物の扱いは手慣れてんだ。仮にガチョウババアや妖精や何かが邪魔する気満々でも、一瞬で!
「『あら、物売りさんまた来てくださったのね!』再度訪れた魔女を、白雪姫達はやっぱり正体に気づかぬ儘招き入れます。今日の品は何かと心躍らせながら」
「くしでしょ~! しってる~!」
「まってね、てぃあらずらすから!」
「ん! いいよ! といてといて!」
「でも、ちくっとするのいやだなぁ……」
ヘッ、読み聞かせ通り揃いも揃って心躍らせやがって。ちょっと不安がってるテメエは察しがいいじゃねえか。けれど、不用心に後頭部を向けたのはガキらしい浅はかさだなぁおい。
さっきは同じ状況で絞殺に失敗したが、今回はそうはいかねえ。櫛を頭にぶっ刺すだけだからよ! さあ!
「食らえ! っぐ!?」
「わっ! つよいよ~」
「やさしくだよ、こうするの!」
「そうそう! こうやってとくんだよ」
「いたくない…! えへへ、もっとやって!」
刺した……確かに刺したぞ、俺は。櫛の先をぶっ刺した。だが……刺さらねえ…! ダンジョンで獲物を貫く勢いでやってやったのに!
だってのに、弾かれた。柔らかい何かに弾かれたんだ! なんだこのクソガキ共、髪の中になにか飼ってやがんのか!? このっ、俺の腕を掴むな、梳かさせようとしてんじゃねえ!
「「「「あっ!? おじさん!?」」」」
「またも失敗した魔女は、櫛を捨て逃げていきます。やれやれ、だけどまだ諦めていないわねえ」
うるっせえなババア! 誰が諦めるかよ! 例え残る手が一つになろうが、それがリンゴだろうが……チィイッ!
「「「「いらっしゃ~い!」」」」
「――白雪姫達が扉を開けると、またまたあの物売りです。今度は何かしらあ?」
リンゴに決まってんだろ毒リンゴ! 紐みてえに絞め殺せねえし、櫛みてえに刺し殺せねえ果物だよ! これでどうやってガキ共を痛めつけろってんだ!?
そりゃこれを食わせりゃガキ共は毒に冒されるだろうが、それはストーリーの流れだし勝手に食うだろこいつら! しかもここまでの流れ的に、毒で苦しませることねえだろ!?
だからこのリンゴで出来ることなんか、あぁチクショウ、そのちっちぇ口にぶち込んでムグゥッ!?
「え!? おじさん、どうしたの?」
「りんごたべたかったの~?」
「それ、どくだよ? そっちどくないの?」
「じゃあこっちがわ、たべよ~よ!」
ど、どういうことだぁ…!? せめてガキ共の歯でも折ってやろうとしたのに、リンゴごと顔を殴りつけてやろうと思ったのに、急にリンゴが動いて、腕ごと俺の顔面に…!?
い、痛くはねえが、意味が分かんねえ…なんでリンゴが勝手に動いたんだぁ!? ぜってぇ何か、何かがいるに決まって、おいガキ共、このリンゴを齧ってくんな!? 別なのが、あぁクソッ…!
「「「「むにゃあ~……」」」」
寝だしやがった、毒リンゴだってのに! ……今ならこいつらをボコしても。
「三度目にしてとうとう成功した魔女は、喜びお城へ帰ってゆきます。ああ白雪姫、大丈夫かしらあ」
おい待て!? 勝手に場面を変えるな、勝手に俺を城に帰すんじゃねえ!? クソッ、もう届かねえ、見守るしかねえ……! 白雪姫共が小人共に発見され、悼まれ、ガラスの棺に入れられて葬儀を。んで。
「可愛らしい白雪姫達、このままお別れするしかないのかしら。と、その時です」
「っゴホンッ。おや、泣いている声が聞こえるな」
「あーあー。これはこれは小人達、一体どうしたんだい?」
「んんっ。なんて美しさのお姫様だ! なにがあったんだ?」
ッッケッ、ゲエエ! ハゲ、デブ、臭野郎風情が! なに王子様役にのめり込んでやがんだよ! 絶好のチャンスじゃねえか、そのガキ共ボコれや!
そうだ、近づいた今がチャンスだ、動けなくなってる今が最大の好機だ。三人がかりで、ガキ共を、っッ、テメエ等ァア!!?
「手の甲に、こ、これでいいのか?」
「あとは、さっき妖精達に教わった台詞だよな?」
「えぇと……『お目覚めを、プリンセス達』」
「「「「ケホッ! ありがと~! おうじさま~っ!」」」」
ハゲもデブも臭野郎も殴りやしねえ! ガキ共の手の甲にキスしやがって、そしたらガキ共はリンゴの欠片を飛ばすように吐き出しやがって蘇りやがった! あぁクソが、クソがクソがァッ!
「――こうして物売りの正体を読み解いた白雪姫達は、王子様と一緒に女王と仲直りをしましたとさ。めでたしめでたし♪」
じゃ、ねえが??? 無理やり終わらせてんじゃねえよ。毎っ回飽きもしねえでハッピーエンドにまとめやがって、せめてしっかり魔女は倒しやがれよ。じゃなきゃ俺は……ッハン!
「なあ、もういいだろ?」
「折角なんだし楽しもうぜ?」
「あの子等、眠り粉多めにくれるってよ」
うっぜえなぁ。テメエ等いつまで王子服着てやがんだよ。服で身まで綺麗になってんじゃねえよ、俺と同じ爪弾き者風情がよ。どれだけ繕おうがテメエ等は!
「そろそろおはようの時間も近いわねえ。今日の童話は次で最後かしらあ」
「「「「は~い!」」」」
変わらねえ笑顔浮かべやがってガキ共が! おいテメエ等、次が最後のチャンスだ。なんとしても!
「さいご、なにがい~い?」
「ん~『シンデレラ』は?」
「いいね~! そうしよ~!」
「みんなでしんでれらやろ~!」
シンデレラ、だぁ? へっ、なら役どころは決まってんだろ。
「おじさんたちはなにがやりたい?」
「いっしょにしんでれらやる?」
「それとも、おうじさま?」
「なんでもいいよ~!」
「こいつらには継母と姉共をやらせる。テメエ等に意地悪する役割をな!」
有無は言わせねえ、テメエ等にはそれがお似合いなんだよ。んで俺は、あー……。
「俺は魔女だ。丁度いいだろ?」
確かシンデレラの魔女はまともなヤツだったが、馬車やらドレスやら靴やら渡す重要役だったよな。なら都合がいい、その瞬間になにかしら仕掛けて――。
「またまじょやるの?」
「しんでれらも、おうじさまもいるよ?」
「まじょ、すきなの?」
「……わるいまじょみたい、っていったの、きにしてる? ごめんなさい」
っっッ! 誰が、テメエ等に! ケッ、ケッッ! いいか、よく聞け!
「俺の顔は生まれつきだ、いつも悪役だったさ! 慣れてんだよ!」
ま、シンデレラの魔女は悪役じゃあねえがな。こういうときは大体狼やら悪い魔女や盗賊って相場が決まってんだよ。姫や王子に憧れる歳じゃねえしな。
だからテメエ等がんなこと言っても……待てよ、なんで俺はこいつらに言い訳してんだ。寧ろその通りだとでも言い放ってやれば多少留飲も、ん? おい。
「ねぇねぇ、わたしおもうの……」
「そうだよね……わたしも……」
「じゃあ……ってのは?」
「それいい……そうしよう! モルメアおばちゃ~ん!」
「あらあら、どうしたのかしらあ? ふんふん、なぁるほどお。みんなやさしいわねえ、そうしましょうかあ♪」
空から舞い降りてきたガチョウババアが話聞いて、眼鏡を楽し気に光らせまた空へ溶けていく。ガキ共は顔寄せあってクスクス笑いやがる。俺の顔を見ながら。んだテメエ等、ぶちのめされてえならもう直接――。
「むかーし、むかし。あるところに。シンデレラという名前の子達がおりました」
チッ。始まりやがった。ガチョウババアの話を信じるならこれが最後の童夢だ。ならなんとしてもこのチャンスを物にしてやらなきゃならねえ。わかってんだろうな、意地悪な継家族共?
「シンデレラ、床拭きをやりなさい」
「ここの窓拭き、終わってないわよぅ?」
「四人がかりでご飯作りなさぁい? ってかぁ…?」
おい。おいテメエ等。さっき散々睨んでやったってのに、足りねえのか? しっかりガキ共をこき使ってこそいるがよ。んな女物のドレス着て喋り方まで寄せる必要はねえだろ。
「「「「よいしょ、よいしょ!」」」」
んで肝心のガキ共には全く効いてねえじゃねえか。命じられた家事を召使の如く真面目にやってやがる。ここが夢でなんでも簡単に出来るからか、この先に幸せが確実にあるからかは知らねえがよ。
なら、その幸せの前で思いっきりすっ転ばせてやる。魔女に良いヤツなんていないんだよ。特に、こんな顔のヤツにはなァ!
「――そんなとある日。お城で舞踏会が開かれることになりました。シンデレラの代わりのお母さんやお姉さん達はいそいそとドレスに着替え、お城へ向かいます。ただし」
「シンデレラ? お前…あなた達は留守番よ」
「どうせあんた達、素敵なドレスも靴もないのだから」
「まあ、魔女にでも頼むしかないわね。……大丈夫かあいつで」
ウエッ、ハゲやデブや臭いおっさん共が揃って女物ドレス来てやがんのはやっぱ気持ち悪いぜ。だってのにガキ共は羨ましそうにそれを見つめていやがる。
ハッ、安心しやがれ。すぐに着せてやるよ。ただし、俺を満足させたらなぁ!
「――『あぁ、私にも立派なドレスや靴があれば、舞踏会に参加できたのに』シンデレラは夜に輝くお城を見つめながらそう呟きます。すると、その時です」
「ケッケッケ! 可哀そうなシンデレラ。魔女の俺が手助けしてやるよ」
さあ、魔法を唱えてやる。まあ、魔法なんて使えねえから詠唱は適当だがな。唾飛ばすような文句にしてやるよ。びびでばびでぶう!
「「「「わ~! かわいいどれすだぁ~!!」」」」
へっ、杖を一振りするだけでこれだから大したもんだぜ。やっぱりこういったドレスやガラスの靴はガキやら女やらが着るのが一番だ。
ハゲやデブや臭野郎が着るなんて以ての外。俺みたいな顔のヤツも、この古ぼけた見た目の魔女服ならギリマシってとこで――。
「ねぇねぇ、まじょさん」
「まじょさんもどれす、きようよ」
「きっとにあうよ? あのおじさんたちとおなじ!」
「みんなでおひめさまになろ~!」
ぁ、あぁ? 何言ってやがんだこのクソガキ共。嫌に決まってんだろ。なにを好き好んでんなヒラヒラでスースーしそうな服を着なきゃならねえんだ。なんでお姫様にならなきゃならねえんだ。
今の俺の目的は唯一つ。テメエ等を泣かせることだけだ。このかぼちゃの馬車にテメエ等を突っ込んで、馬を勢いよく転がしてそこいらの木に衝突させてな。
あぁ、全員乗せた後に馬車をかぼちゃへ戻してくってのもアリだな。いざ城へってワクワクして座ってたら天井がみるみる潰れていくの、怖えだろうなぁ!
ま、幾ら魔女の役を貰っているとはいえその程度が限度だろうさ。仕方ねえからそれで勘弁してやるよ。もう虐めずに解放してやる。魔女のことなぞ忘れて存分に舞踏会を……なんだよテメエ等。
「ね~いっしょにいこうよ~!」
「おひめさまになろうよ~!」
「まじょのでばん、おわりだよ?」
「みんなでおどろうよ~!」
うっせえな、うぜえな、纏わりつくな。んでテメエ等絡んできやがるんだよ、放っておけ。童話に夢見る歳じゃねえんだよ。あぁしつけえなおい! いい加減にしねぇとこの場で怖い目に!
「おじさん。こわくないよ?」
「べつにあくやくやらなくて、いいんだよ?」
っッッ!!? っな、っば、っが、ガキ風情、が…俺のことを何も知らねえ癖によォ! あぁわかった、もうガチョウババアの目なんて知るもんか。この場でテメエ等を直接ぶん殴っでぇえっ!?
「あ! そこにいたんだ!」
「ずっといたの? でてきてもいいのに~!」
な、な、何が起きたぁ!? ガキ共を殴りつけようとした瞬間何かが巻き付いて来て、引っ張られ、ここは……かぼちゃ馬車の中、クッションの上か!?
つまり、何かに馬車の中へ引きずり込まれたってことか!? 誰に…妖精やガチョウババアじゃねえのは確かだ…なにせ、腰に何かが巻き付いているからな!
クソッ、引き剥がそうにも魔女服の下を通ってやがる。千切れねえし覗けねえ! だが、この感覚には覚えがある。三匹の子ブタでの最後、茹る鍋の中。あの時外に出れねえようにしてきた『何か』とそっくりだ!
そうかテメエだな、今まで散々俺の悪夢を邪魔してきやがったのは! いい加減正体を――!
「おしろへしゅっぱつだ~!」
「「「お~!」」」
クソッ、席に磔になっている間にガキ共がわらわら乗って来やがった! これじゃあ馬車を暴走させても縮めても俺を巻き込む! っておい妖精共、御者をやるな! 城へ向けてかぼちゃ馬車走らせんなァ!
「魔女を連れ、シンデレラ達はお城に到着です。さあ、舞踏会が始まります」
「まじょのおじさん、こっちこっち!」
「はじまっちゃうよ、はやくはやく~♪」
お、おいだから引っ張んな! いつの間にか『何か』は外れてやがるし…! 魔女は、俺は舞踏会に出る器じゃねえだろ!? ホレ見ろ場違いだ、あの馬鹿共だってこっちを笑いながら見てきて、は……?
「それじゃ、おじさんにもまほうだ~!」
「すてきなおひめさまにな~れ!」
うおっ!? 服が舞踏会のドレスに、靴がガラスに! なんでガキ共が魔法の杖を、ガチョウババアテメエやりたい放題か! これじゃあ魔女の意味なんて!
「そう。魔女じゃなくなるわあ。だって貴方は素敵なお姫様。皆綺麗なお姫様♪」
「お! 俺達もそろそろ出番か!」
「ははは…ドレスってのはやっぱ慣れねえが」
「案外なってみたかったんだよな、お姫様!」
っ、ガチョウババア、何時の間に目の前に! あの馬鹿共、俺みてえなドレスを着てガキ共と手を取り合い踊りだして!? お、お、おいテメエ等ァ!?
「あ~、ま、いいんじゃねえか? 夢だしよ」
「起きたらだいたい忘れんだし、目いっぱい楽しむべきだろ」
「元からそのつもりだったろ? ただ、ガキの心に戻っただけだ」
「ふふふ、うふふ♪ グワグワグワァ♪ だから、さあさあ、貴方もお」
「「「「いっしょにおひめさま~!」」」」
ハゲデブ臭野郎に抱えられながらガキ三人が、俺に抱き着くようにガキ一人が、俺を会場に引っ張って、や、止めろ! 誰が、誰がガキになんて、俺は大の大人で、酒と金が好きな、こんな童話なんか!
「シンデレラ達は皆で踊ります。虹のように煌めくシャンデリアの下、雪よりも白く滑らかな床の上。思い思いに、心の儘に。子供のように、大人も交えて。王子達が見惚れる前で、誰よりもお姫様に!」
あぁクソ! なんだこの踊り! クルクル回ってるだけじゃねえか! 大して舞踏会なんて知らねえが、こんなヘンテコダンスが受け入れられる訳ねえだろ! あいつらに至っては酒の席の踊りだろ!
こんなダンス止めてえとこだし、抱き上げてるガキ共を床に叩き落としてもやりてえとこだが……身体が、勝手に動きやがる! まるでドレスの中から何かに矯正されている気分だ!
足が止まらねえ、握手が終わらねえ、ガキ共が飛び降り次のガキへと順々に代わっていっても、放棄は一切、悪夢だ、こんなん悪夢だ――。
「おじさん、わらおうよ~! むに~あはは! いいえがお~!」
んぐっ、こんの、ガキ、人様の顔を勝手に弄りやがって! 何が良い笑顔だ、こんな怖い顔の、悪い魔女みたいな顔の、何処が!
「おじさんのかお、やっぱりこわくないよ!」
「わるいことかんがえないと、すてきだね!」
「あくやくよりも、こっちのほうがすきだよ!」
ッッッッッッッッ!!!! 俺の元に来る度に、ケッ、ケェッ! そんなんで俺が許すとでも? あの時テメエ等から言われた暴言を水に流すとでも!? 夢見てんじゃねえ!
今だけだ! 今この間だけだ興じてやんのは! 姫様みてえにお淑やかでいてやるのは! どうせあと少し、あの時計の針は、もう頂点に――!
「『ゴーン、ゴーン、ゴーン』。あらいけない、零時を示す鐘が鳴りました。魔法が解ける時間です。ここにいてはいけません。さあ皆、馬車まで♪」
「にっげろ~♪」
「おじさんたちも、はやくはやく!」
「だっこしてはこんでくれるの? やったぁ!」
「ずるい、わたしも! おじさん、わっ! えへへ♪」
あぁ、やってやるよ! こんな夢のような舞踏会から逃げ出せるなら幾らでもな! ガキ共に手を引かれ、あるいは抱えて階段を、っと、靴が!?
「慌てたシンデレラ。靴が片方脱げてしまったことに気づいていません。あぁ、あの靴はどうなるのでしょう?」
いや気づくだろうが!? 片方とはいえ計八個コロコロ転がったんだぞ!? てかなんで勝手に脱げてんだよ。いくらストーリーの流れとはいえ雑が、チッ、なんでんなこと気にしてんだ俺は…!
「それから少しして。シンデレラ達はおうちでゆっくり過ごしていました」
……なんで俺まで此処にいるんだよ。とうに出番終わってる魔女だろうが。まだ魔法の杖持ってんだが。
「ね~ね~! ちっちゃいかぼちゃのばしゃ、だして~?」
「またどれすきた~い!」
「ごはんつくって、つくってよ~!」
「おちゃだよ~! はいど~ぞ!」
んでシンデレラ共はここぞとばかりに絡んできやがるし。もう怒鳴る気力もねえから言われた通りにミニチュアかぼちゃ馬車やドレス出したり、包丁動かしたり、お茶啜ったりしてるがよ……。
「お前もようやく堕ちたみてえだな?」
「妖精越しにガキ共の提案聞いた時は驚いたが」
「かかっ、夢なら何でもありってな!」
んだテメエ等、さっきの舞踏会は納得づくかよ。女物着たまま馴染みやがって、その恰好見てると気が抜けるんだよ。魔法で、チッ。変えられねえ。
この分なら包丁をガキ共に向けてもどうせ防がれんだろ。『何か』にここまで色々阻止されてりゃわかるわ。はあぁ、さっさと目覚まさせてくんねえか。どうせもうシンデレラも終わりで――。
「と、そんな折でした。シンデレラ達のおうちをノックする音が聞こえます。開けてみますと、そこにいたのはなんと王子様!」
あー……そういやその展開があったわ。けどどうすんだよ。シンデレラを見初めた王子の求婚だろ、意地悪継母共の破滅だろ。この状況でどうする気だか。
「『先日の舞踏会で、素晴らしい踊りを見せてくれた者達を探しているんだ。この靴が手掛かりなんだ』。王子様はそう言い、従者に包みを広げさせます。そこにあったのは、あのガラスの靴!」
ケッ、そういう流れかよ。ってことは全員で靴履いて城に呼ばれてめでたしめでたしってか? はー……てんで面白くねえ。まーたハッピーエンドかよ。どいつもこいつも、それで満足しやがる。
童話はいつもそうだ、悪役をぶちのめしてハッピーエンドだ。この童夢ダンジョンはいつもそうだ、悪役を『消して』ハッピーエンドだ。狼や魔女や意地悪を、雑に改心させてなかったことにしやがる。
心底気に入らねえ。だってそりゃつまり、悪役は、俺は、要らねえも同然ってことじゃねえか。誰かのハッピーエンドおまけ参加なだけじゃねえか。わざわざ加わってやったのに、加わさられたってのに。
ガキの時からいつもそうだった。こういったままごとじゃ顔怖いからって悪役やらされて、打ち倒されるか気ぃ遣われて仲間にされるかのどちらかだ。メインに据えられたことなんか一度たりともありゃしねえ。
だからといって悪役が蹂躙支配する流れが見てえって訳じゃねえがよ。ただただ面白くねえんだよ。俺がどれだけ頑張ろうが、結局は端っこで成り行きを見守るだけだ。赤ずきんや白雪姫の幸福に歯噛みするか拍手するだけだ。俺だって…ケッ。
「まじょさん! まじょさんのばんだよ?」
「くつ、あるよ!」
「ほら、はこうよ~!」
「おじさんたち、みんなはいたよ」
おーおー、気づけばシンデレラ七人がガラスの靴履いて俺を呼んでやがる。テメエ等までそっち側に立つのかよ。ハッ、マジで心底気に食わねえなっと。
「こっちこっち、え? どうしたのおかあさんのおじさん」
「おねえさんのおじさんたちも?」
「なんでわたしたちをかくすの?」
「よくみえないよぉ?」
流石、俺の悪友共じゃねえか。雰囲気で察したか? ローブで隠しているとはいえ、俺が包丁を手にしていることを。あぁ心配はいらねえさ、斬りつけるのはガキ共じゃねえ。狙いは!
「おい、落ち着けって…! もう夢も終わっ!?」
「ッ!? 馬鹿止めッ……は……は!?」
「お前、自分の、足を!?」
ッ……あぁ、やっぱり痛くねえなぁおい。ケッ、テメエ等斬りつけたとこでなんの利がある。どうせ防がれるか適当に話が纏められるかのどっちかだろ。なら、俺は俺を斬り落としてやる。
足先、足の甲から先を包丁でスパッと両断ってな。ったく、夢なだけあるぜ。骨や肉を切る感覚も無い上に、血が噴き出す様もない。断面もさっき茶菓子として出されたムースみてえにのっぺりしてやがる。
んだよテメエ等、妖精共と同じような戦慄顔しやがって。ガチョウババアに至っては押し黙ったか? 安心しろや、ここが夢だからやっただけだ。ここがシンデレラだからやっただけだ。
これでいいんだよ。これで俺はガラスの靴は履けねえだろ? なにせ足の形が変わっちまったんだから。テメエ等が放棄した悪役を自ら進んでやってあげてんだから。オラ退け、ガキ共を出せや!
見やがれガキ共、これでこそ俺だ、テメエ等とは違えんだ。テメエ等泣かせて、悪役らしく退場してやるよ! どうせ俺にはこういう役が適任で――あ?
「すっすめ~! かぼちゃのばしゃ~!」
「ちっちゃいのにすご~い!」
「まだないしょなの? うんわかった!」
「あれ、おじさん? ここだよ~!」
が、ガキ共が……いねえ!? バカ共の背後に隠されてたはずなのに、忽然と姿を消してやがる。あるのは妖精に牽かれ空中を走る、俺が出したミニチュアかぼちゃの馬車だけで……はぁ!?
おいまさか、このかぼちゃの馬車の中か!? 手乗りサイズだぞ、一体どうやって! 狼の腹の中や柱時計の中よりも意味が、何が!?
「小さなシンデレラ達は一足先に馬車に乗り込みました。大きなシンデレラ達も準備万端。あとは一人、魔女のシンデレラだけ。さあ、靴を履きましょう♪」
あぁ!? ガチョウババア、俺の足が見えねえってのか!? 履ける訳ねえだろ、嵌る訳ねえだろ! へっ、それともなんだ?
「足を元に戻す気か? んなつまらねえ真似してみろ、只じゃおかねえぞ!」
「そんなことしないわあ。ふふふ、そうやさぐれないで良いのよお。さあ、そのまま靴に足を入れてねえ♪」
んだと!? 誰が従うと……あ、あぁ? ガラスの靴が、勝手に動き出した、だと? お、おい止めろ近づくな、俺の足を狙うな、食いつこうとするなァアォ!?
「あらぴったり♪おかしくなったはずの足に、ガラスの靴はぴったりです♪ さあ立って歩いて踊ってみてねえ。脱ごうとしても脱げないわよお、グワグワゥ♪」
な、な、な、なんだ、なんだこの感覚は!? ガラスの靴が勝手に足に嵌って、俺の足を包み込みやがった!? まるで何かに咥えられているような、支えられているような、うおっ!?
足が勝手に動き出しやがる、踊りだしやがる!? さっきの舞踏会とはまた違う、靴に支配されている感じで、クソッ脱がせろ! 駄目だ、縛られてるように外せねえ!?
「ふざけんな! 話が違うじゃねえか! 足に何もしないって!」
「おばちゃんは何もしてないわあ♪ ほら、斬った足もそのままよお?」
あぁ? そりゃガラスの靴だから、多少透けて見えるがよ。確かに足はそんまま、斬り落とした先は……ん? んん? んんんんん?
「おい待て、なんか俺の斬った足に絡んでねえか?」
「あぁ。それはねえ、おともだちが守ってくれているのよお」
「……? 友達、だぁ? なんだそりゃ」
「それはねえ、貴方も知っていて、いつもなら喧嘩する仲なのよお」
「…………?? なんか、潜んでやがんだな?」
「それはねえ、ずっとずっと潜んでいてくれたのよお」
赤ずきんやってんじゃねえんだぞ!? だとしても狼役は俺だったろうが! まともに答えやがれ! なんだこれは、なんなんだこいつは!?
「グワグワグワァ♪ それはねぇ――」
「「「「みみっくちゃんだよ~!」」」」
「「「「「シャアウッ☆」」」」」
うおおぉおッ!? 浮き続けていた馬車の中からガキ共が、馬車の中にあったクッションが!? い、いや違え! クッションだがクッションじゃねえ!
牙がありやがる、触手が見えやがる、群体型になってやがる! 悪夢みてえなあの姿をしてやがる! って待てこいつら、何処かで見たような……ぬああッ!?
「さあ飛び出しましょうミミックちゃん♪ もう露わにしましょうその姿♪ 壺から棚からコップから、皆のためのお友達♪」
あ、あっちからもこっちからも! 壺や水瓶、棚やクローゼット、コップやパンの狭間から! ミミック達が、シンデレラの家の至る所から――なっ!?
「シュルルルル♪」
「うおっ! 俺達の服の中からもかよ!」
「ずっといてくれたんだ~! ぎゅ~!」
お、俺達の、ガキ共やバカ共の服の中からも、ミミック達が……!? 一体いつから…お、おいガチョウババア、しっかり説明を……!
「「「「「――――♪」」」」」
妖精達が並んで空を翔け、光粉の軌跡で風景を変えていく!? 家の中の様子から、虹がかかり星が降るピンクの雲地帯みたいなファンシー全振り空間に。ミミック達の姿も、ッッッ!?
「えぇ、ずっといてくれたのよお。最初からいてくれたのお。皆と一緒に夢の中、いつも貴方の沙汰の傍♪」
壺やら棚やらのミミック共が、変じていく……! あいつは、藁束! あいつは、バスケット! あいつは柱時計であいつは腰紐、あいつはガラスの靴!
そ、それだけじゃねえ! 木の太枝、煉瓦、煮えたぎる鍋、花束!? 白雪姫の髪、毒リンゴ、齧った欠片!? ミミック飛び出る服はそのままシンデレラのドレスになり、かぼちゃの馬車はあの時のサイズに!
そ、そんであいつは……お、俺!? 俺の姿の、狼!? 腹がたっぷり膨れた俺狼が、その腹を箱みたいにパカパカ開いて!?
「あぁ! やっぱりそういうことだったのか!」
「道理で腹に入った感覚、覚えがある訳だわ」
「狼じゃなくミミックに食われていたとはよ。やるじゃねえか」
「「「「ミミックちゃん、すごいね~!」」」」
テメエ等なんでんな『謎が解けた』みてえな余裕感を、ガキ共と一緒にミミックと戯れてんじゃねえ!? クソが、俺も狼に食われていたら気づけてた…いやそれどころじゃねえ!
「俺も納得がいったぜ。なんでガチョウババアや妖精共の隙を突いてんのに、悉く妨害されんのか。こいつらのせいだな。こいつらが全部!」
ドレスから離れやがれ! チクショウ、どれだけ振り回そうが出ていかねえ! あの悪夢のようなミミック共にずっと振り回されていたなんて、これ以上の悪夢があるかよッ!
『三匹の子豚』で都合よく飛んできた家の破片も、俺を煮え鍋に捕らえたのもミミック! 『赤ずきん』で俺をすっ転ばせたバスケットや花束も、俺が噛みつく前に赤ずきんを仕舞ったのもミミック!
『七匹の子ヤギ』で六匹分の連中を俺より素早く片付けたのは、時計に大の大人を隠したのもミミック! 『白雪姫』でガキ虐めを妨害したのもミミック!
そんで『シンデレラ』で、かぼちゃの馬車に俺を捕らえたのも、俺を躍らせたのも、斬った足にガラスの靴をぴったり合わせたのもミミックってか! ふざけんじゃ、ふざけんじゃねえ!
「楽しい夢を見せてくれるってのがこのダンジョンじゃねえのかよ! なんだってこんな悪夢を!」
「え~? たのしかったよ~?」
「ぜんぜん、あくむじゃないよ!」
「みみっくちゃんたちともっとあそびたかったぐらい!」
「おじさんたち、たのしくなかったの?」
「いや? 俺達は楽しかったぜ」
「ま、あいつは捻くれモンだからな」
「だからお前もガキに戻れって言ってやったのに」
ッぐ…テ・メ・エ・等ァ! そうやって俺を悪役にする気か!? テメエ等だって最初は乗り気だった癖によ! 所詮テメエ等がそうやってガキ共とじゃれあえるのは、この夢の中だからでうおっ!?
羽ばたいて現れんなガチョウババア!? このっ、身体を勝手に動かすんじゃ、なあっ!? 両手にガチョウババアが張りついて!? は、剥がせねえ、腕も前に伸ばされたまま曲げられねえ!?
「さあ♪さあ♪踊りましょう♪ ハッピーエンドの夢の中♪ モルメアおばちゃんと♪ ミミックちゃんと皆でね♪」
「「「「わ~いっ♪」」」」
うおっ!? ガキ共が、バカ共が、妖精やミミック共が、俺に繋がり列をなすように!? 止めろや、こんな笑われるような、ババアテメエ!
こっちにはまだ魔法の杖も、包丁もある! どうせ夢の主たるテメエには効かねえだろうが、せめてもの仕返しに、食らいやがっ、!?
「そうして皆は、楽しい夢を終えるのでした♪ めでたしめでたし♪」
が、ガチョウがぁ!? ガチョウババアがいつの間にか黄金のガチョウに変わってやがる!? んで包丁で切れたトコから、触手ミミックが、ひっ…ひぃっ!?
く、クソが、クソがぁ!!! 何が楽しい夢だ、なんて悪夢だよォッ!
「――おはよう、子供達。目覚めはどうかしらぁ?」
「「「く、ぅううはぁっ…! 最高っ」」」
「…………最悪だわ」
ミミック共に囚われるダンスパーティーからようやく逃れられたと思ったら、目覚めて早々ガチョウババアの白長首が揺れる様を見せつけられるとはよ。ケッ。
「いやぁ、久しぶりにガキ気分だったぜ。楽しいもんだな」
「それな。最初からガキに混じっとくべきだったぜ。…腹減ったな」
「夢での飯じゃ流石にな。あー、モルメアのおばちゃんは夢食うんだっけか?」
「ふふふ、うふふ、そうなのよぉ。おばちゃんは夢魔、皆の夢をつまみ食い♪ 美味しい夢だったわねぇ、楽しい思い出だったわねぇ。グワグワグワワ♪」
あの馬鹿三人衆も一面の布団の上で体を起こし、翼を震わすガチョウババアと笑ってやがる。ハァ……ガキ野郎共が。
「んじゃなんか食いに行くか。今何時だ?」
「朝だろ。ほれあそこ見て見ろ、時計の針は12じゃないぜ?」
「うっせ。あ、そうだモルメアさんよ。金払うからシャワーを…お、おい?」
んだよ。好きに駄弁ってやがれよ。俺は帰る。こんなイラつくとこに、ガキを寝かすためのゆるふわクッションまみれ空間に居られるか。
俺はテメエ等とは、ガキとは違うんだ。ハァッたく。悪夢だった……あぁん?
「あ! おじさんだ!」
「ここだったんだ!」
「おはよー! おじさん!」
「ほかのおじさんたちは? いた~!」
アァ!? 夢で散々振り回してきたガキ共じゃねえか! おいコラ勝手に部屋に入ってくんな、んだ俺を取り囲むんじゃねえよ! なんなんだよ!
「はいこれ! あげる!」
「みんなでわけてね~!」
「わたしたち、いらないもん!」
「おとなって、よくねむれないんでしょ?」
は!? この瓶『ミルクザント・パウダー』か!? テメエ等これの価値わかってんのか!? ガキが欲しいもんなんて幾らでも買えんだぞ!? だってのに!
「でも~……おじさん、ちょっとおおめにとっていいよ!」
「うん! ゆめのなかで、あんまりたのしそうじゃなかったし」
「そうそう、ずっとこわいかおだったもん。あ…!」
「ちがうよ、こわいかおってそういうことじゃなくて!」
…………へえ、あぁ、そうか。そういうことかよ。ククッ、ケケッ、ハハハッ。成程なぁ、随分と優しいガキ共じゃねえか。まさか俺なんかに、こうも同情してくれるなんてよ!
まるでさっきまでの童話の中みてえじゃねえか! ガチョウババアに改変された、情けねえ悪役の末路じゃねえか! ぴーちくぱーちく騒ぎながら、俺をガキ友達のように見上げてきやがって!
ざけんじゃねえ……ざけんじゃねえッッ! 俺はテメエ等じゃねえし、テメエ等に見下されるほど落ちぶれちゃいねえ! なにより、んなキラキラした目で大人を見てくるんじゃ、ねえッッッ!
「「「あっ、おい!?」」」
「「「「え?」」」」」
「痛ぅうっ!?」
な、な、なんだぁ…!? ガキ共へ殴りかかろうとしたのに、拳に急な痛みが、重さが……あ!? クッション!? クッションが俺の拳を食って、いや包んで、違う、食ってやがるな!?
「テメエもミミックだろ!」
「シャルルル…!」
中の宝箱がチラ見えしてんだよ! だが噛み千切る気はねえみてえだな。甘噛みだってか?ガキ殴りを仲裁するために飛んできたってか? ケッ、ならそんまま噛んでろ! 腕はもう一本、ぐっ!?
「っと…! 止めろ止めろ!」
「あー…悪かったな、こいつ寝起き悪くてよ」
「これ、有難く貰っとくぜ。楽しい夢だったな!」
テメエ等ァアアア!!? このっ、離しやがれ! 俺はこいつらを殴らないと、ふぐっデブテメエ、布団に圧し潰してくんな! げぼッ臭野郎テメエ脇の匂い責めしてくんじゃねえ!
「うん! たのしかった~! おじさんも? やった~!」
「ねえあのおじさん、もしかしてまくらなげしたかったの?」
「も~さきにいってよ~! でもごめんね、かえらなきゃ」
「またあおうね~! やくそくだよ~!」
「おう約束だ。そうだ、約束の証に頭触ってくか? ハハ、くすぐってえな!」
ハゲテメエ! ガキを笑わせて帰すんじゃねえ! まてコラガキ共、待て、待ちやがれェ! あぁチクショウ!
「行ったな…? はあ、おいやりすぎだ。ガキ相手にうおっ!?」
「おい馬鹿、ナイフ抜くんじゃねえ!? 危なっ!?」
「振り回すな! ほら眠り粉お前にやるから、あぁ零れ!?」
いるか、こんなもんッ! どいつもこいつも人のプライドを逆撫でしやがって! テメエミミックいつまで俺の拳を噛んでんだ!
いいかこの馬鹿共! テメエ等との関係も今日限り、いや昨夜限りだ! 幸いここはダンジョンだ、テメエ等をブチ殺してやる! かかって来やがれ!
「お、おいおいおい……!」
「どうしたんだよ、落ち着けって…!」
「ガキでもこんなことは……妖精達、ミミック共!?」
へっ、一斉に姿を現したかミミック共。だがどんだけ唸ったところで、妖精と一緒にんなピンクや水色のクッションやら枕やらに包まれてりゃあ怖くはねえ。童夢ダンジョンってのが災いしたな。
足場はどこもかしこもベッドで中々に安定しねえが、テメエ等をブチのめす気概にゃあ溢れてるぜ。さあとことんやろうぜ、悪夢同士で…な……な!?
「あらあら駄目よお、おいたは駄ぁ目。ナイフは捨てましょ危ないわあ。このダンジョンではそれは駄目。夢の中でもできるだけ」
ガチョウババア!? ナイフを構える俺の腕に乗ってきただと!? 離れろクソが、溶けたチーズみてえに貼りつきやがって! 正夢にすんじゃねえ!
ならこれはどうだ! ミミッククッションでぶっ叩いてやれば! たまらず飛び逃げやがった、アァ!? 今度はミミッククッションの上に降りやがったな!
だがケケッ、所詮はガチョウだな。伸ばしきった俺の腕を止まり木にするなんて、ぶっ刺してくれって言ってるようなモンじゃねえか! なら望み通り、テメエを今日の朝飯にしてやる! 今度こそ、食らえ――ッ!?
「はいおしまいよぉ。ないないしましょぉ♪」
な、なぁ…!? ナイフが…確かにガチョウババアへ突き刺したナイフが、羽毛の中へずぼっと吸い込まれた!? 夢は終わったろ!? もしかしてテメエの身体にもミミックが……いや、違え。
手の感覚が、ミミッククッションに噛まれている手の感覚がほぼ無え。乗ってるババアの重さもだ。この、まるでうとついた時の鈍さは、ババアテメエ…!
「ねえねえ、ひとつ我儘いいかしらあ。もうひと眠り、どうかしらあ? お腹は満たされないかもだけど、一緒に夢食みしましょうねえ」
くっ……幻影魔法の類か、これは。ナイフを持っていた俺の手が目の前から消えて、空の手で普通に垂れ下がってやがる…。足元でミミックと妖精がナイフを回収してやがる…。
奪い返さねえと、なのに……身体が、まともに、動かねえ。眠り粉使いやがったか…いや、あの瓶はその辺に転がって軽く零れたまま……夢魔の力か…!
「ちょっとだけこの子、借りるわねえ。それとも貴方達も聞いていく? 夢に比べてつまらない、おばちゃんの煩い寓話」
クソッ、クソがぁ…! 身体が勝手に倒れ込んで、布団の中に…! って、テメエ等なんでついて来てやがる!? 布団に入るな、どっかいかねえと爪立ててでも……っあぁ!?
「「「「「シャウルルル♪」」」」」
み、ミミック共!? クソが、俺の手を拘束する気で……違え…!? ただ俺達の周りを囲んで、包み込んで! クッションで俺達が埋められて、妖精達もその上で寝転んで……!
気づけば拳を噛んでいたミミックも離れてやがる。けど、手も足も全く動かせねえ…! このまま瞼を下げられて、また夢の世界に……ん、うん?
堕ちねえ……。眠りに入らねえ。ただうとつくだけ。視界が薄らぼんやりして、意識が変に撫でられて、なんだか心地いい感覚で、耳だけが他と比べて――。
「四人共、悪さしようとしていたわねえ。悪い子なんだからあ。メッ、よお」
ババアのガチョウしわがれ声が、やけに鮮明に、けれどゆるく聞こえて来やがる。うるせえなあ…。なにかと思ったら説教かよお。
「あいつらが悪いんだ。あのガキ共が。最初に悪口を言ったのは向こうだろうが」
俺達は売られた喧嘩を買ったまでだ。それの何が悪い? ま、馬鹿共はすぐに喧嘩捨てやがったがよ。で?なんだ? ガキのちっぽけな暴言にいちいちキレるなって言いたいんだろ?
「でも、気持ちはわかるわあ。おばちゃんもねえ、自分の顔が嫌になっていた時があるもの。上、失礼するわねえ。ほら、おばちゃんの嘴、三角形で大きいでしょう? コブもあるでしょう?」
身体の上に乗ってくんじゃねえよ。香木みてえな匂いさせやがって。まあそりゃ、あるな。ガチョウってなそんなもんだろ。だからなんだよ。
「昔はアヒルが羨ましかったわあ。だって嘴が薄くて滑らかだもの。顔も丸くて可愛らしいもの。そうじゃなくてもガチョウ達の中じゃあ角ばっていてねえ」
は、はあ…? 知るかよんなこと。ガチョウの顔なんて俺達から見たら全部同じだわ。寧ろそのコブ、いい眼鏡かけじゃねえか。そんなんで……。
「ふふふ、ええ、ええ、そうなのよお。その程度なの。お顔なんてその程度。醜いガチョウの子の顔も、悲しかったこの顔も、端から見たらそんなもの。大人になれば可愛いもの」
お、おい、わぷっ。顔を翼で撫でてくるんじゃ、っ頭を擦り付けて来るんじゃねえよ…!? ハゲの頭やデブの腹、臭野郎の脇にまで……!
「けれどそれでも怒るのは、きっと悪夢を見たからねえ? 子供の頃か、昨日か、いつかの悪夢が沁み込んで。布団に零したミルクのように、布に挟まる砂のように。そうでしょおう?」
う……頭にふんわりと、転がるミルクザント・パウダーの瓶がよぎりやがる。変な幻影みせんじゃねえよ……。あーあー悪かったよ、眠り粉弾き飛ばして。んで。
「察してんなら聞くんじゃねえよ。ガキの時の話なんて思い出したくもねえ」
さんざ虐められたわ。それこそ悪い魔女役しかやらせてもらえねえぐらいにな。俺だけじゃねえ、あのハゲやデブや臭野郎も、今日までの間に色々あったんだ。だからつるんでんだ。
んなところに好き放題出来る夢を見させてくれるダンジョンがあるとくりゃあ、そりゃ悪さもするだろ。憂さ晴らしぐらいやるだろ。なにせ俺は悪役だからな。オラどけ、布団深く被るから……。
「悪役、やらなくていいのよお♪」
……あ? ッこの、あん時のガキみてえなこと言いやがってよ! 手足が動くなら今すぐこの掛け布団を蹴っ飛ばしてその細首掴んでやるとこだわ! テメエに俺の何がわかるって――。
「ええわからないわあ、ごめんなさいねえ。おばちゃん、過去読むの魔法は使えないの。絵本を読むのが精々なのよお。けれどけれども、童話は寓して語るわあ」
っ…! 何を、おい俺の頭に来るな、枕になるな!? 羽で俺を優しく撫でるんじゃ…!?
「『醜いアヒルの子』は、正体を知っても嘲笑わなかったわあ。『花咲か爺さん』は、大切な存在を幾度砕かれようが復讐しなかった。『マッチ売りの少女』は苦境でも人を恨まず、『三匹の子豚』や『シンデレラ』は親や継家族に辛く当たられようとも健気に生きていた」
……っ、幻影で視界に映すな! だからなんだってんだよ! そりゃこいつらは見目が良いか、ハッピーエンドが約束されているか……いや……だから…………。ッ……とにかく!
「俺等とは、俺とは違うだろ! 俺だって、俺だってよぉ! 出来るならっ…!」
「なら、美しさを手にしなきゃいけないわねえ。宝物のように綺麗な、『心』を」
美しさ、心ぉ? 宝物のような、だあ!? 月並みなこと言いやがって! そんなモン、出来るならとうに!
「あらあら、わかっているみたいねえ♪ そうよぉ、月並みだけど、希少なの。夢で作れて、高値がつくおばちゃんのミルクザント・パウダーよりもずっとずっと」
んぐぅ…! 頬を柔らかく撫でてきやがって…! 月並みだからなんだ、希少だからなんだ、俺達にはどうせっ。
「おばちゃんにはわかるわあ。貴方達には宝物の原石を持っていたのよ。けれどうっかり汚れてしまったのねえ。血迷った狼や女王や魔女のように。悪役のように」
ッ! あぁそうだよ、汚れちまってんだ。俺はそうなっちまったんだ。悪役になるように仕向けられて……んだあ? なんでグワグワ笑ってやがる? 何がおかしいんだ?
「そっくりねえ、貴方達とミミック。悪役の汚名を着せられた者同士」
……は? はああ!? 俺が、こいつらと!? このクッションや布団にまみれてむにゃむにゃ言ってる連中と……いや、冒険者の天敵な、悪夢なこいつらと!? んな訳……ワケ……。
「この子達も一緒、貴方達と一緒。ただ真摯に暮らしていただけなのに、気づけば名札は『悪役』『悪夢』。嫌われ者のレッテル貼られ、恐怖の存在シャウルルル」
「「「「「シャウッ」」」」」
い、い、一緒にすんじゃねえよ! だってこいつらは俺達冒険者を喰らい縊り痺れ殺してくるマジで卑怯な悪役共で、遭遇したくねえ悪夢の……魔物……で……。
「けれども一つ違うのよお。この子達は宝を持つの。邪ま思いから子供を守り、おばちゃんよりも素早く対処。綺麗な心はまさしく宝、箱に仕舞うに相応しい♪」
「「「「「シャウシャウシャシャウ♪」」」」」
歌うんじゃねよミミック共まで! 跳ね回りだすんじゃねえ!? 乗りかかって来るんじゃねえよお!!? 身体の上が、クッションまみれに…!
「ミミックって素敵よねぇ♪宝箱の魔物って素敵よねぇ♪ 悪い人には襲いかかって、良い子達とは友達に。欲に目がくらんだ者には悪夢を与え、揺蕩う童には宝のような幸夢を♪」
なんだってんだ、俺に対する仕置きのつもりかこれはよお…! ならせめてもうちょいわかりやすくしろや、せめて……!
「だから、良いのよお。悪役にならなくたって。貴方達だって、お姫様になってもいいの。夢じゃなくても貴方は自由、ここに煌めく宝があれば♪」
俺の胸に移って温めながら、優しい瞳向けんじゃねえよガチョウババアぁ…! クソが…鳥の癖に、なんでそんな愛おしむような、情に溢れたような、優しい母親みてえな目を……!
「けれどもうふふ、今だけは。疲れて荒んだ来たる夜は。童のように眠りなさい。ママはいつでも待っているわあ。ここでずうっと待っているわあ。だからゆっくり目を閉じて――」
厚い嘴だってのに、やけに伝わる微笑みを……眠気を誘う子守顔を……! 白い饅頭のような帽子を揺らし、眼鏡を柔く輝かせ、チェックの肩掛けを俺にかけ――……。
「末長く続く幸せな、夢を見てねえ子供達♪」
……っけ。ガチョウババア……いや、ガチョウ母さんよ。しかたねえから……今日くれえは、言うこと聞いてやるよ……だから……。
「「「「「シャウルルル……プヒュルゥ……」」」」」
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祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。
恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
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