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ヒメに喰われたオウジサマ
02 僕に、愛されてみない?
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「え、王子くん二次会来ないの?」
「悪いな、今日は帰るわ」
打ち上げもお開きとなり、二次会を断って俺はふらふらとした足取りで家路についた。
なんだかさっきの話でテンションが下がってしまって一刻も早く家に帰りたかった。帰って、最近ハマっている恋愛ゲームのキャラに癒されよう。そう思った。
現実世界で思い通りにいかない分、最近はゲームの架空のキャラクターとの恋愛に夢中になってしまっている。これは誰にも言えない秘密だ。
特にちょっと意地悪で、クールなくせに、ふいに甘い言葉をくれる男キャラに夢中だった。よくよく考えたら、見た目は甘い顔立ちで楓に少し似てるかもしれない。……身長は、足りないけど。楓の顔を思い浮かべたらちょっと笑えた。
そんなことを考えたときだった。
「待って、みつ!」
不意に背後から声をかけられ、肩がびくりと跳ねた。驚いて振り返ると、そこにはさっき別れたはずの楓がいた。
走ってきたのだろう。頬をほんのり赤らめ、はぁ、はぁ、と肩で息をしている。
「楓? 二次会は?」
「やめちゃった。よかったら、途中まで一緒に帰ろ?」
にっこり笑って、少し首を傾げる。身長差のせいで自然と上目づかいになるのが、羨ましいくらいかわいい。
「……ん」
「やったぁ!」
短く返して、並んで歩き出す。駅までの道を、とりとめのない会話で埋めていく。やっぱりこいつの隣は心地が良いかも……。
「ねぇ、みつ。さっきの話なんだけどさ」
「さっきって?」
「1年生に告白されたってやつ」
「え、なに。楓も興味あんの? 意外」
その言葉で、俺の心はまた一気に冷めていく感覚に陥った。楓は普段、こういう話に深入りしてこない。そういうフラットさが心地よかったのに、なんか今日は様子がおかしい。
「別に。興味があるわけじゃないよ」
「は? じゃあ何だよ」
口調が強くなった自覚はある。楓は悪くない。それでも、苛立ちが喉の奥でざらついた。
横を見ると楓の姿が隣にない。無意識に歩幅が速くなっていたらしい。後ろを振り返ると、楓は足を止めて、こちらを見ていた。
「……楓?」
「そんな、よく知らない女の子の告白なんて、受けないほうがいいよって言いたくて」
「なに、急に……」
楓の言葉の意図がつかめず、間の抜けた声が出た。夜気がひやりと頬を撫でる。街灯の光が楓の横顔に落ちて、場違いにも綺麗だと思ってしまう。
そのとき。
「その子より、僕と付き合って」
「……は?」
時間が止まったみたいに、街の音がすっと引いた。
開いた口が塞がらない。楓は視線を外さず、指先だけがカーディガンの裾をぎゅっとつまんでいる。
え、何。どういう状況?
確かに、楓のことはずっと“憧れ”だと思っていた。でも、恋愛の相手として見たことは、一度もない。
他の男や女だったら、きっと舞い上がるくらい嬉しいシチュエーション。でも……。
「……悪い、楓。俺は……お前と付き合えない」
喉の奥がつまる感覚を押し込んで、正直に、はっきりと言った。
「楓はすごくかわいいと思う。みんなのアイドルだし……でも俺、期待に応えられるような男じゃない」
楓はきっと、俺に愛されることを望んでいる。王子様みたいにエスコートして、守ってあげることを。でも俺には、それをやりきる自信がない。過去に付き合った人とも、結局はそれが原因で続かなかった。勝手に理想を押し付けられ、勝手に失望されるのは、もう御免だ。
ああ、もう。誰の期待にも、応えたくない。
「みつは、何か勘違いしてる」
不意に、楓の手が俺の手を握った。さっきまで少し離れていたのに、いつの間にか、その綺麗な顔が目の前にあって息をのむ。
スラリと綺麗な白い指。キラキラ輝く爪先。華奢な見た目に反して、俺の手を握る力は驚くほど強い。
「……楓……?」
触れられた場所が、じんわり熱を帯びる。まるで世界に俺と楓だけしかいなくなったみたいだった。
楓がゆっくりと顔を寄せ、耳元で囁いた。
「みつが無理して周りに合わせてるのも、本当は愛されたがってるのも……僕、ずっと見てたよ」
「……え?」
息が、止まった。 心臓が喉までせり上がってくるような衝撃。どうして、俺が一番奥にしまい込んで誰にも見せなかった願いを、こいつが。
目の前の楓の顔から、人懐っこい笑みは消えていた。そこにいるのは、かわいい「姫」じゃない。いつになく真剣な目つき。熱を帯びてまっすぐに俺を射抜いている。
「僕は、他の人とは違うよ。みつのこと、かわいがりたい。抱きたいって思っているんだけど、ダメかな?」
「なっ……!」
楓の口から飛び出したあまりに直接的な言葉に、反射的に身を引こうとした。だけど、引けなかった。逃がさないと言うみたいに、楓の指が俺の指に強く絡みつく。
「僕なら、みつのこと、ぐずぐずに甘やかして、大切にする自信がある」
いつもの舌足らずとは違う、わずかに低い声。鼓膜の内側を撫でるみたいな甘さに、背筋がぞくりと震えた。
怖いのか。期待してるのか。自分でも分からない。
「僕に……愛されてみない?」
「……」
どうしよう。
突然男の顔を見せた楓に戸惑いと、少し期待してしまっている自分がいる。握られた手を振り払って逃げることだって、できたはずなのに。
俺には、できなかった。
「悪いな、今日は帰るわ」
打ち上げもお開きとなり、二次会を断って俺はふらふらとした足取りで家路についた。
なんだかさっきの話でテンションが下がってしまって一刻も早く家に帰りたかった。帰って、最近ハマっている恋愛ゲームのキャラに癒されよう。そう思った。
現実世界で思い通りにいかない分、最近はゲームの架空のキャラクターとの恋愛に夢中になってしまっている。これは誰にも言えない秘密だ。
特にちょっと意地悪で、クールなくせに、ふいに甘い言葉をくれる男キャラに夢中だった。よくよく考えたら、見た目は甘い顔立ちで楓に少し似てるかもしれない。……身長は、足りないけど。楓の顔を思い浮かべたらちょっと笑えた。
そんなことを考えたときだった。
「待って、みつ!」
不意に背後から声をかけられ、肩がびくりと跳ねた。驚いて振り返ると、そこにはさっき別れたはずの楓がいた。
走ってきたのだろう。頬をほんのり赤らめ、はぁ、はぁ、と肩で息をしている。
「楓? 二次会は?」
「やめちゃった。よかったら、途中まで一緒に帰ろ?」
にっこり笑って、少し首を傾げる。身長差のせいで自然と上目づかいになるのが、羨ましいくらいかわいい。
「……ん」
「やったぁ!」
短く返して、並んで歩き出す。駅までの道を、とりとめのない会話で埋めていく。やっぱりこいつの隣は心地が良いかも……。
「ねぇ、みつ。さっきの話なんだけどさ」
「さっきって?」
「1年生に告白されたってやつ」
「え、なに。楓も興味あんの? 意外」
その言葉で、俺の心はまた一気に冷めていく感覚に陥った。楓は普段、こういう話に深入りしてこない。そういうフラットさが心地よかったのに、なんか今日は様子がおかしい。
「別に。興味があるわけじゃないよ」
「は? じゃあ何だよ」
口調が強くなった自覚はある。楓は悪くない。それでも、苛立ちが喉の奥でざらついた。
横を見ると楓の姿が隣にない。無意識に歩幅が速くなっていたらしい。後ろを振り返ると、楓は足を止めて、こちらを見ていた。
「……楓?」
「そんな、よく知らない女の子の告白なんて、受けないほうがいいよって言いたくて」
「なに、急に……」
楓の言葉の意図がつかめず、間の抜けた声が出た。夜気がひやりと頬を撫でる。街灯の光が楓の横顔に落ちて、場違いにも綺麗だと思ってしまう。
そのとき。
「その子より、僕と付き合って」
「……は?」
時間が止まったみたいに、街の音がすっと引いた。
開いた口が塞がらない。楓は視線を外さず、指先だけがカーディガンの裾をぎゅっとつまんでいる。
え、何。どういう状況?
確かに、楓のことはずっと“憧れ”だと思っていた。でも、恋愛の相手として見たことは、一度もない。
他の男や女だったら、きっと舞い上がるくらい嬉しいシチュエーション。でも……。
「……悪い、楓。俺は……お前と付き合えない」
喉の奥がつまる感覚を押し込んで、正直に、はっきりと言った。
「楓はすごくかわいいと思う。みんなのアイドルだし……でも俺、期待に応えられるような男じゃない」
楓はきっと、俺に愛されることを望んでいる。王子様みたいにエスコートして、守ってあげることを。でも俺には、それをやりきる自信がない。過去に付き合った人とも、結局はそれが原因で続かなかった。勝手に理想を押し付けられ、勝手に失望されるのは、もう御免だ。
ああ、もう。誰の期待にも、応えたくない。
「みつは、何か勘違いしてる」
不意に、楓の手が俺の手を握った。さっきまで少し離れていたのに、いつの間にか、その綺麗な顔が目の前にあって息をのむ。
スラリと綺麗な白い指。キラキラ輝く爪先。華奢な見た目に反して、俺の手を握る力は驚くほど強い。
「……楓……?」
触れられた場所が、じんわり熱を帯びる。まるで世界に俺と楓だけしかいなくなったみたいだった。
楓がゆっくりと顔を寄せ、耳元で囁いた。
「みつが無理して周りに合わせてるのも、本当は愛されたがってるのも……僕、ずっと見てたよ」
「……え?」
息が、止まった。 心臓が喉までせり上がってくるような衝撃。どうして、俺が一番奥にしまい込んで誰にも見せなかった願いを、こいつが。
目の前の楓の顔から、人懐っこい笑みは消えていた。そこにいるのは、かわいい「姫」じゃない。いつになく真剣な目つき。熱を帯びてまっすぐに俺を射抜いている。
「僕は、他の人とは違うよ。みつのこと、かわいがりたい。抱きたいって思っているんだけど、ダメかな?」
「なっ……!」
楓の口から飛び出したあまりに直接的な言葉に、反射的に身を引こうとした。だけど、引けなかった。逃がさないと言うみたいに、楓の指が俺の指に強く絡みつく。
「僕なら、みつのこと、ぐずぐずに甘やかして、大切にする自信がある」
いつもの舌足らずとは違う、わずかに低い声。鼓膜の内側を撫でるみたいな甘さに、背筋がぞくりと震えた。
怖いのか。期待してるのか。自分でも分からない。
「僕に……愛されてみない?」
「……」
どうしよう。
突然男の顔を見せた楓に戸惑いと、少し期待してしまっている自分がいる。握られた手を振り払って逃げることだって、できたはずなのに。
俺には、できなかった。
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