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えっちなお菓子パーティーに招待されたオウジサマ
03 お菓子パーティーの甘い罠
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「みつー、飲み物は紅茶でもいい?」
「……ん、なんでもいい」
キッチンから、楓の甘い声が飛んでくる。俺はクリーム色のソファに浅く腰掛けながら、手持ち無沙汰に自分の髪をいじった。
なぜか俺はいま、楓の家にいる。
遡ること1時間前。大学の講義が終わり、悶々としながら帰ろうとしていた矢先のことだ。ポケットの中でスマホが短く震えた。なんと、楓からのメッセージだった。
『僕の家でお菓子パーティーしよ♪』
『新作のスイーツ、買いすぎちゃった~泣』
画面に表示されたのは、泣きつくような動作のスタンプと、子どもじみたお誘い。一週間も放置しておいて、第一声がこれかよ。ふざけんな、と既読スルーしてやろうと思った。
だけど、さっき食べ損ねたチョコレートの残像と、久々に楓から連絡が来たという事実が、俺の指を勝手に動かしていた。
『お前が変なことしないなら、行く』
せめてもの抵抗として、条件をつける。返信は、一瞬で来た。
『もちろん! 来てきて!』
(あー、もう。どうせ「チョロすぎ」とか思われてるんだろうな……!)
分かっている。どんなに自分が優位に立とうとしたところで、誘いに乗った時点で、もう負けなのだ。送信ボタンを押した瞬間に、勝負はついていた。
せめて文句のひとつでも言ってやるつもりで来たはずなのに。出迎えてくれた楓の笑顔が眩しすぎて、すっかり毒気を抜かれて今に至る。
「おまたせ~。お砂糖いる?」
「さんきゅ。砂糖はいらない」
ことん、となみなみと紅茶を満たしたガラスマグが、テーブルに二つ置かれた。
楓の部屋には友人と何度か訪れたことがある程度だが、DIYしたというパープルカラーの壁にイラストが飾られていたり、一つひとつのインテリアにもこだわりが見える。俺は、この部屋の雰囲気が密かに好きだった。
「みつが来てくれて良かった~。選べなくてたくさん買ったんだ」
そう言いながら俺の目の前には、色とりどりの洋菓子が並んでいく。マカロン、クッキー、フィナンシェ、そして艶やかなチョコレート。
てっきりスーパーでお菓子を買いすぎたのかと思っていた俺は、高級そうな菓子の数々にビビる。
「おいおい……いくらなんでも買いすぎ」
「あはは。今月バイト代がたくさん入ったから、つい♡ でもみつ、甘いもの好きでしょ? 大学だと『クールな王子様』だから、あんまり食べられないかなーって思って」
「っ……」
(……もしかして俺がチョコを食べ損なったのを、見ていたのか?)
だからわざわざ、こんな高そうなお菓子を買ってきた、とか?……いや、流石にそれは自惚れ過ぎか。
「ほら、これ美味しいよ。あーん」
「んぐっ」
思考を遮るように、一粒のショコラが口に押し込まれた。とろりと溶け出したかと思うと、ミルクのまろやかな甘みが口いっぱいに広がる。
(……うま)
「美味しい?」
「ん、美味しい」
楓は俺の素直な感想に、嬉しそうに目を細めた。
「良かった♡ 遠慮しないで、好きなだけ食べてね」
俺を見つめる目が、じんわりと熱っぽいことが気になったけれど、俺はお言葉に甘えて、目の前のお菓子たちを味わうことに集中した。
あまり会話らしい会話はない。けれど、食器にあたるフォークの音や包み紙の音をBGMに、穏やかな時間だけが流れていく。
小さい頃は、素直に甘いものを食べることを楽しめたのに。今では周りの目を気にして欲求に蓋をしていた。でも今は、何も気にせず甘いものを楽しむことを、許してもらえる。
(この居心地の良さが、よりによって楓から与えられたものだというのが……なんか悔しいけど。でも、すげー楽だ)
脳内からはドーパミンが出っぱなしで、お腹も心も、幸福感でパンパンに満たされている。 俺って、つくづく単純な生き物だ。
ただ美味しい甘いものを食べて、だらだらと過ごす至福のひととき。すっかり浮かれきった俺は、警戒心なんて忘れて、このとろけるような時間を享受していた。
──このお菓子みたいに甘い時間が、楓の仕掛けた「罠」だとも気づかずに。
「……ん、なんでもいい」
キッチンから、楓の甘い声が飛んでくる。俺はクリーム色のソファに浅く腰掛けながら、手持ち無沙汰に自分の髪をいじった。
なぜか俺はいま、楓の家にいる。
遡ること1時間前。大学の講義が終わり、悶々としながら帰ろうとしていた矢先のことだ。ポケットの中でスマホが短く震えた。なんと、楓からのメッセージだった。
『僕の家でお菓子パーティーしよ♪』
『新作のスイーツ、買いすぎちゃった~泣』
画面に表示されたのは、泣きつくような動作のスタンプと、子どもじみたお誘い。一週間も放置しておいて、第一声がこれかよ。ふざけんな、と既読スルーしてやろうと思った。
だけど、さっき食べ損ねたチョコレートの残像と、久々に楓から連絡が来たという事実が、俺の指を勝手に動かしていた。
『お前が変なことしないなら、行く』
せめてもの抵抗として、条件をつける。返信は、一瞬で来た。
『もちろん! 来てきて!』
(あー、もう。どうせ「チョロすぎ」とか思われてるんだろうな……!)
分かっている。どんなに自分が優位に立とうとしたところで、誘いに乗った時点で、もう負けなのだ。送信ボタンを押した瞬間に、勝負はついていた。
せめて文句のひとつでも言ってやるつもりで来たはずなのに。出迎えてくれた楓の笑顔が眩しすぎて、すっかり毒気を抜かれて今に至る。
「おまたせ~。お砂糖いる?」
「さんきゅ。砂糖はいらない」
ことん、となみなみと紅茶を満たしたガラスマグが、テーブルに二つ置かれた。
楓の部屋には友人と何度か訪れたことがある程度だが、DIYしたというパープルカラーの壁にイラストが飾られていたり、一つひとつのインテリアにもこだわりが見える。俺は、この部屋の雰囲気が密かに好きだった。
「みつが来てくれて良かった~。選べなくてたくさん買ったんだ」
そう言いながら俺の目の前には、色とりどりの洋菓子が並んでいく。マカロン、クッキー、フィナンシェ、そして艶やかなチョコレート。
てっきりスーパーでお菓子を買いすぎたのかと思っていた俺は、高級そうな菓子の数々にビビる。
「おいおい……いくらなんでも買いすぎ」
「あはは。今月バイト代がたくさん入ったから、つい♡ でもみつ、甘いもの好きでしょ? 大学だと『クールな王子様』だから、あんまり食べられないかなーって思って」
「っ……」
(……もしかして俺がチョコを食べ損なったのを、見ていたのか?)
だからわざわざ、こんな高そうなお菓子を買ってきた、とか?……いや、流石にそれは自惚れ過ぎか。
「ほら、これ美味しいよ。あーん」
「んぐっ」
思考を遮るように、一粒のショコラが口に押し込まれた。とろりと溶け出したかと思うと、ミルクのまろやかな甘みが口いっぱいに広がる。
(……うま)
「美味しい?」
「ん、美味しい」
楓は俺の素直な感想に、嬉しそうに目を細めた。
「良かった♡ 遠慮しないで、好きなだけ食べてね」
俺を見つめる目が、じんわりと熱っぽいことが気になったけれど、俺はお言葉に甘えて、目の前のお菓子たちを味わうことに集中した。
あまり会話らしい会話はない。けれど、食器にあたるフォークの音や包み紙の音をBGMに、穏やかな時間だけが流れていく。
小さい頃は、素直に甘いものを食べることを楽しめたのに。今では周りの目を気にして欲求に蓋をしていた。でも今は、何も気にせず甘いものを楽しむことを、許してもらえる。
(この居心地の良さが、よりによって楓から与えられたものだというのが……なんか悔しいけど。でも、すげー楽だ)
脳内からはドーパミンが出っぱなしで、お腹も心も、幸福感でパンパンに満たされている。 俺って、つくづく単純な生き物だ。
ただ美味しい甘いものを食べて、だらだらと過ごす至福のひととき。すっかり浮かれきった俺は、警戒心なんて忘れて、このとろけるような時間を享受していた。
──このお菓子みたいに甘い時間が、楓の仕掛けた「罠」だとも気づかずに。
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