クールな王子は可憐な姫♂の愛に堕ちる♡

粗々木くうね

文字の大きさ
15 / 20
お姫様になったオウジサマ

02 昔のはなし

しおりを挟む
「俺、ゲームするから。適当にしてて」
「は~い、おっけ~♡」

 翌日。休みが重なった俺たちは、遅めの朝飯を済ませたあと、そのままソファでだらだらと過ごしていた。

 最初の頃は「付き合ってないんだし、長居するのは良くない」なんて、律儀に頑張って帰ろうとしていたこともあったっけ。でも結局、睡魔には勝てずに朝を迎えてしまうし、楓もわざわざ俺を追い出したりしない。(楓も俺の部屋から帰らない) 今ではもう諦めて、この微熱を帯びた心地よい空間に、どっぷりと甘えている。

 楓が隣でスマホの動画に熱中しているのを確認し、俺はゲーム機を起動させた。

「え、みつ、何それ。『ミラクル・クローゼット』? 恋愛ゲーム?」
 
 いつの間にか動画を止めていた楓が、ひょいと横から画面を覗き込んでくる。俺がやっていたのは、通称『ミラクロ』。学園の王子様たちを攻略する恋愛要素はもちろん、何よりアバターの「着せ替え」が自由に楽しめることで人気のゲームだ。画面の中では、俺が丹精こめてコーディネートした女の子のアバターが、メインキャラの「王子」の隣で華やかに微笑んでいる。

「……まぁ。なんでもいいだろ。これ、グラフィックが綺麗なんだよ」

 緻密なデザインに惹かれるのは、建築を学ぶ者の性かもしれない。でも、それだけじゃなくて。 幾重にも重なるフリル、溜息が出るほど繊細なレース。男の俺には縁のない「かわいいもの」を、俺は画面の中のアバターにひっそり託して楽しんでいるのだ。

「むぅ、別にいいけどさ……。なんか妬けるなぁ。すぐ隣に僕がいるのに、画面の中のオトコに夢中なんて」
「変なこと言うなよ。でも、ほら。こいつ、ちょっと楓に似てね? 身長は断然、お前より高いけどさ」
 
 画面の中で美しく微笑むのは、金髪の王子様キャラ。端正な顔立ちや雰囲気が、なんとなく隣にいる楓を連想させる。(別に、楓を意識して選んだわけじゃないからな!)でも楓は不満そうに頬を膨らませて、じっとキャラを見ている。

「えー、僕のほうがかわいくない? っていうか、身長の話はダメだってば!」

 突っ込むところ、そこかよ。意外と気にしているんだな、身長。

「……ねぇ、それより。みつがキャラに着せているその服、すごくかわいいね。ロイヤルブルーのドレス、きっとみつにもすごく似合うんだろうな」

 楓の言葉に、心臓がドキッと跳ねた。この男は、何を言っているんだか。

「……バカ言え。ゴツい男が、似合うわけないだろ」

 自嘲気味に鼻で笑って、俺はゲーム機の電源を落とした。 真っ暗になった画面に映り込んだ自分の顔は、どこからどう見ても、ただの「男」だ。

「そう? でも本当は……こういうの、着たいんじゃない?」

 楓の声が、少しだけ真面目なものに変わる。一瞬、ごまかす言葉を探したけれど、楓には俺の身体の恥ずかしいところを全部見られている。隅々まで知られている彼に、今さら隠し事をするなんて、なんだか馬鹿らしく思えた。

「まぁ……昔は、着たかったよ。でも今は、自分に似合わないってちゃんとわかってるから、もういいんだ」

 ふと脳裏に甦るのは、遠い幼稚園の劇の光景。

「幼稚園の劇で白雪姫をやったんだ。白雪姫の衣装が綺麗な青いドレスで。俺、その衣装が着たくてたまらなかった」

 先生が一生懸命に作ったんだろう。今思えば劇用の、サテン生地の安っぽい作りだったはずだ。けれど当時の俺には、それがどんな宝石よりもキラキラして見えたんだ。

「でも、先生は『光希くんは、こっちだよ』って。……渡されたのは、王子様の衣装だった」

 王子様の衣装も、きらりと光るかっこいいものだったけれど、俺は静かにがっかりしたのを覚えている。結局、俺はステージ上で「王子役」を演じた。みんなは良かったと褒めてくれた。でも、俺が本当にやりたかったのは、優美な青いドレスを着た白雪姫だったなんて、誰にも――親にも、先生にも言えなかった。

「それ以来かな。俺は男らしくなきゃいけないんだ、頼られる側なんだって思い込んだのは。……変だよな、そんなこと引きずってんの」

 言葉にしてしまうと、思い込みの激しいガキの考えで呆れてくる。だけど楓は笑わずに、静かに最後まで聞いてくれた。そして、俺の身体を優しく、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「全然変じゃないよ。話してくれて、嬉しい」
「……っ、離せ。もういいから忘れろよ」
「やだ。絶対忘れない♡ クールでみんなから頼りにされるみつも好きだけど、僕にとってはお姫さまだから。これから嫌っていうほど甘やかしてあげるから覚悟しててね♡」
「……バカ。恥ずかしいやつ」

 窓から差し込む光の中で、ゆっくりと時間が流れていく。楓の腕に包まれたまま、しばらくの間、俺たちはただ互いの体温を分かち合った。

 ほんの数分の、なんてことのない出来事だったかもしれない。けれど、胸の奥でずっと泣いていた幼い頃の俺が、ようやく誰かに見つけてもらえて、救われたような気がした。

「ところで、白雪姫役だった子は、どんな子だったか覚えている?」
「……正直、覚えてないな。でも、すごくかわいい女の子だったはず」
「ふふ、そっかぁ♡」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

ナイショな家庭訪問

石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■ 「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」 「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」 「貴方が好きです」 ■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■ 「前のお宅でもこんな粗相を?」 「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」 ◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆ 表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています http://www.jewel-s.jp/

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...