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お姫様になったオウジサマ
02 昔のはなし
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「俺、ゲームするから。適当にしてて」
「は~い、おっけ~♡」
翌日。休みが重なった俺たちは、遅めの朝飯を済ませたあと、そのままソファでだらだらと過ごしていた。
最初の頃は「付き合ってないんだし、長居するのは良くない」なんて、律儀に頑張って帰ろうとしていたこともあったっけ。でも結局、睡魔には勝てずに朝を迎えてしまうし、楓もわざわざ俺を追い出したりしない。(楓も俺の部屋から帰らない) 今ではもう諦めて、この微熱を帯びた心地よい空間に、どっぷりと甘えている。
楓が隣でスマホの動画に熱中しているのを確認し、俺はゲーム機を起動させた。
「え、みつ、何それ。『ミラクル・クローゼット』? 恋愛ゲーム?」
いつの間にか動画を止めていた楓が、ひょいと横から画面を覗き込んでくる。俺がやっていたのは、通称『ミラクロ』。学園の王子様たちを攻略する恋愛要素はもちろん、何よりアバターの「着せ替え」が自由に楽しめることで人気のゲームだ。画面の中では、俺が丹精こめてコーディネートした女の子のアバターが、メインキャラの「王子」の隣で華やかに微笑んでいる。
「……まぁ。なんでもいいだろ。これ、グラフィックが綺麗なんだよ」
緻密なデザインに惹かれるのは、建築を学ぶ者の性かもしれない。でも、それだけじゃなくて。 幾重にも重なるフリル、溜息が出るほど繊細なレース。男の俺には縁のない「かわいいもの」を、俺は画面の中のアバターにひっそり託して楽しんでいるのだ。
「むぅ、別にいいけどさ……。なんか妬けるなぁ。すぐ隣に僕がいるのに、画面の中のオトコに夢中なんて」
「変なこと言うなよ。でも、ほら。こいつ、ちょっと楓に似てね? 身長は断然、お前より高いけどさ」
画面の中で美しく微笑むのは、金髪の王子様キャラ。端正な顔立ちや雰囲気が、なんとなく隣にいる楓を連想させる。(別に、楓を意識して選んだわけじゃないからな!)でも楓は不満そうに頬を膨らませて、じっとキャラを見ている。
「えー、僕のほうがかわいくない? っていうか、身長の話はダメだってば!」
突っ込むところ、そこかよ。意外と気にしているんだな、身長。
「……ねぇ、それより。みつがキャラに着せているその服、すごくかわいいね。ロイヤルブルーのドレス、きっとみつにもすごく似合うんだろうな」
楓の言葉に、心臓がドキッと跳ねた。この男は、何を言っているんだか。
「……バカ言え。ゴツい男が、似合うわけないだろ」
自嘲気味に鼻で笑って、俺はゲーム機の電源を落とした。 真っ暗になった画面に映り込んだ自分の顔は、どこからどう見ても、ただの「男」だ。
「そう? でも本当は……こういうの、着たいんじゃない?」
楓の声が、少しだけ真面目なものに変わる。一瞬、ごまかす言葉を探したけれど、楓には俺の身体の恥ずかしいところを全部見られている。隅々まで知られている彼に、今さら隠し事をするなんて、なんだか馬鹿らしく思えた。
「まぁ……昔は、着たかったよ。でも今は、自分に似合わないってちゃんとわかってるから、もういいんだ」
ふと脳裏に甦るのは、遠い幼稚園の劇の光景。
「幼稚園の劇で白雪姫をやったんだ。白雪姫の衣装が綺麗な青いドレスで。俺、その衣装が着たくてたまらなかった」
先生が一生懸命に作ったんだろう。今思えば劇用の、サテン生地の安っぽい作りだったはずだ。けれど当時の俺には、それがどんな宝石よりもキラキラして見えたんだ。
「でも、先生は『光希くんは、こっちだよ』って。……渡されたのは、王子様の衣装だった」
王子様の衣装も、きらりと光るかっこいいものだったけれど、俺は静かにがっかりしたのを覚えている。結局、俺はステージ上で「王子役」を演じた。みんなは良かったと褒めてくれた。でも、俺が本当にやりたかったのは、優美な青いドレスを着た白雪姫だったなんて、誰にも――親にも、先生にも言えなかった。
「それ以来かな。俺は男らしくなきゃいけないんだ、頼られる側なんだって思い込んだのは。……変だよな、そんなこと引きずってんの」
言葉にしてしまうと、思い込みの激しいガキの考えで呆れてくる。だけど楓は笑わずに、静かに最後まで聞いてくれた。そして、俺の身体を優しく、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「全然変じゃないよ。話してくれて、嬉しい」
「……っ、離せ。もういいから忘れろよ」
「やだ。絶対忘れない♡ クールでみんなから頼りにされるみつも好きだけど、僕にとってはお姫さまだから。これから嫌っていうほど甘やかしてあげるから覚悟しててね♡」
「……バカ。恥ずかしいやつ」
窓から差し込む光の中で、ゆっくりと時間が流れていく。楓の腕に包まれたまま、しばらくの間、俺たちはただ互いの体温を分かち合った。
ほんの数分の、なんてことのない出来事だったかもしれない。けれど、胸の奥でずっと泣いていた幼い頃の俺が、ようやく誰かに見つけてもらえて、救われたような気がした。
「ところで、白雪姫役だった子は、どんな子だったか覚えている?」
「……正直、覚えてないな。でも、すごくかわいい女の子だったはず」
「ふふ、そっかぁ♡」
「は~い、おっけ~♡」
翌日。休みが重なった俺たちは、遅めの朝飯を済ませたあと、そのままソファでだらだらと過ごしていた。
最初の頃は「付き合ってないんだし、長居するのは良くない」なんて、律儀に頑張って帰ろうとしていたこともあったっけ。でも結局、睡魔には勝てずに朝を迎えてしまうし、楓もわざわざ俺を追い出したりしない。(楓も俺の部屋から帰らない) 今ではもう諦めて、この微熱を帯びた心地よい空間に、どっぷりと甘えている。
楓が隣でスマホの動画に熱中しているのを確認し、俺はゲーム機を起動させた。
「え、みつ、何それ。『ミラクル・クローゼット』? 恋愛ゲーム?」
いつの間にか動画を止めていた楓が、ひょいと横から画面を覗き込んでくる。俺がやっていたのは、通称『ミラクロ』。学園の王子様たちを攻略する恋愛要素はもちろん、何よりアバターの「着せ替え」が自由に楽しめることで人気のゲームだ。画面の中では、俺が丹精こめてコーディネートした女の子のアバターが、メインキャラの「王子」の隣で華やかに微笑んでいる。
「……まぁ。なんでもいいだろ。これ、グラフィックが綺麗なんだよ」
緻密なデザインに惹かれるのは、建築を学ぶ者の性かもしれない。でも、それだけじゃなくて。 幾重にも重なるフリル、溜息が出るほど繊細なレース。男の俺には縁のない「かわいいもの」を、俺は画面の中のアバターにひっそり託して楽しんでいるのだ。
「むぅ、別にいいけどさ……。なんか妬けるなぁ。すぐ隣に僕がいるのに、画面の中のオトコに夢中なんて」
「変なこと言うなよ。でも、ほら。こいつ、ちょっと楓に似てね? 身長は断然、お前より高いけどさ」
画面の中で美しく微笑むのは、金髪の王子様キャラ。端正な顔立ちや雰囲気が、なんとなく隣にいる楓を連想させる。(別に、楓を意識して選んだわけじゃないからな!)でも楓は不満そうに頬を膨らませて、じっとキャラを見ている。
「えー、僕のほうがかわいくない? っていうか、身長の話はダメだってば!」
突っ込むところ、そこかよ。意外と気にしているんだな、身長。
「……ねぇ、それより。みつがキャラに着せているその服、すごくかわいいね。ロイヤルブルーのドレス、きっとみつにもすごく似合うんだろうな」
楓の言葉に、心臓がドキッと跳ねた。この男は、何を言っているんだか。
「……バカ言え。ゴツい男が、似合うわけないだろ」
自嘲気味に鼻で笑って、俺はゲーム機の電源を落とした。 真っ暗になった画面に映り込んだ自分の顔は、どこからどう見ても、ただの「男」だ。
「そう? でも本当は……こういうの、着たいんじゃない?」
楓の声が、少しだけ真面目なものに変わる。一瞬、ごまかす言葉を探したけれど、楓には俺の身体の恥ずかしいところを全部見られている。隅々まで知られている彼に、今さら隠し事をするなんて、なんだか馬鹿らしく思えた。
「まぁ……昔は、着たかったよ。でも今は、自分に似合わないってちゃんとわかってるから、もういいんだ」
ふと脳裏に甦るのは、遠い幼稚園の劇の光景。
「幼稚園の劇で白雪姫をやったんだ。白雪姫の衣装が綺麗な青いドレスで。俺、その衣装が着たくてたまらなかった」
先生が一生懸命に作ったんだろう。今思えば劇用の、サテン生地の安っぽい作りだったはずだ。けれど当時の俺には、それがどんな宝石よりもキラキラして見えたんだ。
「でも、先生は『光希くんは、こっちだよ』って。……渡されたのは、王子様の衣装だった」
王子様の衣装も、きらりと光るかっこいいものだったけれど、俺は静かにがっかりしたのを覚えている。結局、俺はステージ上で「王子役」を演じた。みんなは良かったと褒めてくれた。でも、俺が本当にやりたかったのは、優美な青いドレスを着た白雪姫だったなんて、誰にも――親にも、先生にも言えなかった。
「それ以来かな。俺は男らしくなきゃいけないんだ、頼られる側なんだって思い込んだのは。……変だよな、そんなこと引きずってんの」
言葉にしてしまうと、思い込みの激しいガキの考えで呆れてくる。だけど楓は笑わずに、静かに最後まで聞いてくれた。そして、俺の身体を優しく、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「全然変じゃないよ。話してくれて、嬉しい」
「……っ、離せ。もういいから忘れろよ」
「やだ。絶対忘れない♡ クールでみんなから頼りにされるみつも好きだけど、僕にとってはお姫さまだから。これから嫌っていうほど甘やかしてあげるから覚悟しててね♡」
「……バカ。恥ずかしいやつ」
窓から差し込む光の中で、ゆっくりと時間が流れていく。楓の腕に包まれたまま、しばらくの間、俺たちはただ互いの体温を分かち合った。
ほんの数分の、なんてことのない出来事だったかもしれない。けれど、胸の奥でずっと泣いていた幼い頃の俺が、ようやく誰かに見つけてもらえて、救われたような気がした。
「ところで、白雪姫役だった子は、どんな子だったか覚えている?」
「……正直、覚えてないな。でも、すごくかわいい女の子だったはず」
「ふふ、そっかぁ♡」
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