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第7話

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「一樹さん、ごめん・・・・・
莉佐さんから聞いているのかと・・・」
「なんでですか?西田さん・・・。なんでこんな小さい子が・・・莉佐は知っていたのか?あれが駿くんの最後の楽しみだと・・・最後の願いって・・・」


僕は混乱していた。
2人が話してくれなかったことが悔しかったのもある。
「2人とも全部知っていたのかよ!」

僕は裏切られた気持ちでいっぱいだったんだ。

《斎藤さん?》
「・・・・・・」
そこには、正也や、榊さんも来て・・・・

僕の声に驚いている。

「こんなことなら僕も・・・」
気がついたらそう呟いていた。
そして、僕はある場所に行こうとしていて・・・走ってその場を去った。

「あのバカまさか・・・・」

そして、そんな僕をいの一番に止めたのは紛れもなく莉佐であり・・・
莉佐は、ぼくのうでを強く掴んで離さない。


「離せよ、莉佐・・・!」
「離さない!あなたが逃げていかないように・・・・」

「裏切られたんだ。生きてても仕方ないだろ?」
「違うでしょう?一樹・・・」
「はぁ?違う?何が違うんだよ」
「駿くん言ってくれていたの。私と一樹が幸せになることを願ってるって。2人が幸せになる姿を見れなくて残念。でも、僕の分まで2人には生きていて欲しいって」
「・・・・・・・」
「一樹、あなたも友人に救われてここまで生きてこれたんだよね?だったら生きなくちゃダメなんじゃないの?」
「・・・・わかったよ。手を離してくれないかな?」
腕を掴んだままだ。
「ご、ごめん・・・・」

「いや、お前のおかげで僕の写真のテーマが決まりそうだし・・・・」
「えっ?そうなの?それなら良かった。あっ、でも私のおかげというのは大袈裟よ」
莉佐はホッとした顔になった。
「・・・えっ?」
怒ってないのか?
「撮りたいものが決まるのはカメラマンになる第1歩だもの!凄いわよ」
「・・・・あぁ、ありがとう」
この時、莉佐が初めて僕に笑ってくれた気がした。
しかも褒めてくれたのか?



《心配なかったみたいですね》
「全く人騒がせなやつだ。けど・・・・あいつ・・・・」

「あはは!そうかも」
《・・・・・はい。きっと・・・・》

僕の気持ちの変化にみんなは気づいていたが・・・・、僕自身は全く気づいていなかった。

莉佐がそばに居ることが、当たり前になっていたからだろう。

それとも、莉佐とケンカをするのが当たり前だから?

僕が、【彼女の大切さ】に気づくのはもっと先のこと・・・・


一体いつになるのやら・・・


「《榊さんは?》」
《正也さん、あのラジオいいですね》
「《そうだろ?ぜひ、榊さんには1番のリスナーになってほしくて始めたんだ》」
《そうなんですね。ぜひ、これからも聞きます》


そして、

「【初めまして、僕のハンドルネームは、{ウルトラマン}単純に好きなキャラクターにしてみました】」

パソコンのメールを開いているのは、暁美さん。そして、そのやり取りの相手は、榊さん。

2人はお互い誰かまだ、知らずにいる。

これが2人の【文通】の始まりだった。
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