それぞれの空

藤原葉月

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出会い

第4話

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そう言えば、東條がくれた劇団のチラシを一度も見ていなかったな。
俺は、鞄の中からチラシを出して、読んでみることにした。
東條は、どうして彼らのような人をメンバーにいれたんだろう・・・・


春日部 正也、斎藤 一樹・・・・心に闇を持つシンガー
榊 裕平・・・・聴覚障害のギタリスト
東 大地・・・視覚障害のダンサー 

彼らは、障害を持っているけれど、僕たちと変わらない人間。
生きている人間なんだ
彼等が持つ生まれ持った才能を生かしたいと思って始めた劇団です。
彼らの演技や演奏を最後まで見て、聞いてやってください!


そんな言葉がチラシには書いてあった。
   どうして彼らといられるんだ。
見ず知らずの彼らと・・・・
彼らといても、自分を変えることなんてできないよ 
そう思っていた。
「あっ、これ、宏人の劇団のチラシ?」
「えっ?宏人?」
振り向くと、女の人がいて、にっこりしている。
「あの?あなたは。」
「あなたは、宏人の劇団の人?
見かけないわね・・・もしかして、新しく入る人とか?」
「いや・・・、違います。誘われたけど、たった今・・・」
「今からでもいいわ!見に行きましょうよ!ちょうど練習してるし」
その人は、俺の話を聞いていない・・・
それどころか、
「いいじゃない。どうせ、暇なんでしょ?」
「えっ?」
どこかで聞いた台詞 
「そんなところにいるなんて、忙しそうに見えないわ」
(東條と同じこと言うなよ)
俺は、心のなかで密かに思った。

「あっ!わかった!
あなた宏人のイチオシのひとでしょ?」
「はっ?イチオシ?なんだ、それ」
「それなら、尚更見てもらわなくちゃ」
「俺、見学なら終わったんだけど」
「なら、話は早いわ。見たのね?彼らの演技。」
「いや、見てないけど?」
「だったら、行きましょうよ」
「えっ?でも・・・」
あんなこと言ったあとだし・・
「いいから、いいから」
その人に、腕を掴まれ、強引に連れていかれる。
そして俺はなぜかドキドキしてしまった
それは・・・・
彼女の笑顔が似ていたんだ・・・
面影も・・・・

小屋についた。
「やっぱり、帰る・・・さっき、見学来たし・・・」
「見学に来たのに、彼らの演技をみないなんてもったいないわ。」
「俺は、実は・・・彼らにひどいこと言った・・・
東條にも・・・だから、合わせる顔がないんだ。あっ、だからと言って入る気は・・・・」
「しっ!いいから、見て」
証明が消え、振り向くと・・・驚いたことに、盲目だという彼が踊っている。
しかも、楽しそうなんだ。
「・・・・・・」
しばらく俺は、いつのまにか彼らの演技に引き込まれていた。
耳が聞こえないといっている彼もそれを感じさせず、器用にギターを、引いている。
「どうして・・・」
思わず呟く俺・・・
「どうしてか知りたい?それを知るためには・・・」
彼女は、なにかを言おうとしたが・・・
「別に・・・いいよ、言わなくて・・・やっぱり、帰る・・・」
俺は、暗闇の中を帰ろうとした。
「あなたも、なにかを始めたら?」
「余計なお世話なんだけど・・・。あなたにしろ、東條にしろ・・・」
「あー!なっちゃん・・・と、西田君じゃん」

「宏人・・・」

「げっ」
見つかってしまった。
バレずに帰りたかったのに・・・・
「なぁんだ。西田君、戻って来たんじゃん」
「違うよ!彼女が、勝手に・・・」
「しっ!西田さん?これからが、いいところなの」
「えっ?」
「いいから見てて・・・
きっとあなたも、夢中になる。」
さっきの四人がいなくなり、東條だけになる。
いま、見せていた笑顔とは違い、真剣な表情になる。
「・・・これが、彼の魅力?」
俺は、いつのまにか、彼らから目が離せなくなっていた。
彼女の言う通り・・・夢中になっていたのかもしれない。
そして、改めてすごいと思った。
盲目のダンサー、東さんが現れて、まるで時代劇の敵と戦うように、東條と剣のやり取りをしている。
つまり、斬り合い・・・
俗に言う、「チャンバラ」というものだろうか?
彼が盲目であるということを、忘れるくらいだ。
「これが、彼の生まれ持った才能・・・・」
そうだ。彼はたしか世界を目指すダンサーだと言っていた。
もし、目が見えていたならきっとその通りの道に進んでいただろう。
それとも、別の道を歩んでいたかもしれない・・・
なぜか勝手だがそう思った

と、そこへ、耳の聞こえない榊さんという人が俺の肩をたたき、
「榊裕平です。」
と、書いた紙を渡してくれた。俺が手話がわからないのを、察したのだろう
「最後まで見ててください」
て、なぜか笑顔をくれた。
「ごめん。手話がわからなくて・・・」
と、言ったら・・・
「全然・・・。あなたは、やはり優しいですね」
と、紙に自分の気持ちを書いてきた。
「優しい?俺が?」
そのあと彼は、再び舞台に向かっていった
あんなこといった俺が優しいなんて・・・・・

二人のシンガーのハーモニーが、響く・・・
そして、ダンサーの彼が踊る・・・・
ギタリストの彼が、奏でる・・・・
「ねっ?すごいでしょ?」
東條が、そう言って近づいてきた。
正直その通りだと思ったけど・・・・
「わからない」
と、答えた。
「素直じゃないなぁー。正直な感想を教えてよ。思った通りのこと、伝えてくれればいいから。」
「・・・じゃあ、どうして彼らのような人を?」
「言ったでしょ?彼等も同じ人間だって。いつか死ぬかもしれないけどせっかく生きてるんだし・・・そりゃあ、普通の人に比べたらどこか劣る部分があるかもしれない。
でも、僕は好きなんだ。彼らの人間性が。彼らといる時間を大切にしたいから・・・」

彼らといる時間を大切にしたい。
東條が、そう言った本当の気持ちを知らないでいる俺は、
「そっか」
とだけ言った。
彼は、笑顔見せながらもどこか寂しげだった。
俺は、そんな彼の笑顔に、惹かれてしまったのかもしれない。
「君もさ、なんか得意分野とかないの?」
「えっ?・・んなもんないよ」
「はい」
「はっ?なにこれ」
「フルートだよ。初心者は、これから始めるんだ」
「普通、リコーダーとか、ハーモニカにしない?フルートは、レベル高すぎだろ」
「でも、吹いてみてよ。こっちの方が、かっこいいじゃん」
「(笑)なんだよそれ。音楽隊じゃん」
「あっ!」
「なに?
「初めて笑った・・・」
「えっ?」
「緊張がほぐれた証拠だね」
そう言えば俺はいつのまにか笑うことを忘れてしまっていた。」
「ねぇ、もっと笑ってよ」
「いきなり笑えないよ」
「お願い!もう一回笑って」
「そんなに何度も笑えるかよ。いきなり笑えと言われても、笑えねぇよ」
「じゃあ、僕が宣言するよ。って言うか、予言してあげる」
「予言?」
「君はここにいれば、心から笑えるようになるよ。必ず僕がそうしてあげるから。」
「そんなの予言されても困るっつーの」
「きっとここが君の居場所になる。」
「俺の・・・居場所?」
「とにかくさ、なんでもいいからフルート吹いてみてよ!きっと、楽しいから」
そんな彼は、自分もフルートを吹き始めた。
優しく・・・
リズムよく・・・

そのフルートにあわせて二人のシンガーは歌いだし、盲目の彼もピアノを弾き始め、なぜか演奏会になっている。

彼らのやりたいことがますますわからない。
彼らが楽しそうなのはわかったが・・・
俺はただ、黙ったまま彼らの歌や演奏を聞いていた。
    
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