それぞれの空

藤原葉月

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出会い

第5話

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数日後、午後の授業が終わってからなぜかひとりで窓の外を眺めていた。
「なんか見えるの?」
「・・・東條・・・」
「ここから見えるのは、青い空だけじゃないよね?」
「別に空を見ていた訳じゃ・・・」
「君は、あの雲のように、穴が空いた感じだね」
「そこ、笑って話すところかよっ」
「君の心に穴が空いているって、こと」
「・・・・・・」
「つまり、ガラスのように壊れやすい心を、持ってる。だから、人嫌いになったんだよね?過去に忘れられない事件かなにかあったから」 
「お前に話すことはなにもないよ」
「でもね、西田君。人はやり直せるんだよ?」
「やり直せる?この俺に、やり直せって言うのか?」
「うん。できるよ、きっと。」
「お前のその自信はどこからくるんだよ」
「君の、心の声が聞こえたから・・・
初めてあった時から、君を助けたいって、思ったんだ。
君の心は、やり直したいって、そう言ってるように聞こえた。
「僕にはそう聞こえたよ?」
「俺はそんなの信じない」
「僕が見つけてあげるよ。君の青い空」
「青い空?」
「君が澄んだ青い君を見つけられるように、手伝うから」
「そんなことをしてもらわなくても結構だ」
「ほんとに、意地っ張りだよね、もっと素直になればいいのに。」
「なに?俺にこんなに構うのは、今日も誘おうとしているからだろ?」
「ピンポーン!その通り!よく、おわかりで」
冗談だったんだけど・・・・
「俺は・・・」
「みんながね、君のことを気に入ったみたいなんだよね。
もっと、君のことを知りたいんだってさ。もちろん、僕も君のことをますます知りたくなったよ」
「俺は、あいつらにひどいことを言った。だから・・・」
「そんなの全然気にしてないよ」
「楽器できないし・・・歌も下手だし・・・」
「あははは。そんなの練習次第だよ。誰だって最初からうまい人なんて、そうそういないよ」
「それでも、俺は、ずっと一人が・・・」
「ひとりが好きな人なんていないよ?」
「言っただろ?俺は、もう二度とあんな思いはしたくないんだ。それが、友人であろうとなかろうと・・・
いや、友人なんて・・・もう・・」
「じゃあ、約束する」
東條は、まっすぐに俺を見た。
「僕は、君を裏切らない」
「・・・・・」
「君を、絶対裏切らない。君の笑顔を取り戻したいから。」

・・裏切らない・・・

今まで、その言葉をどれだけ信じて来ただろう。
その言葉でどれだけ傷ついたか。
でも・・・・
東條の瞳は、まっすぐに俺を見ていた。
今まで付き合っていた友達と違って、まっすぐに俺のことだけを見ていた。

彼なら俺を裏切らないのか?
「それでも俺は・・・・・」
「待ってる。君が来るまで・・・
ずっと待ってるから。
じゃあ、練習いくね」

「やっぱり、信じられない。もう、信じられないんだ・・・」今の俺には、誰かを信じることは無理なんだ。
きっと、人を信じることなく生きていくんだろうな。
そう思いながら下を向いていた。
「もうすぐあいつの命日か・・・・」
俺は思わず独り言を、言っていた。
その言葉をまさか、東條が聞いているなんて・・・・

「命日・・・・?」
そう言って振り向いて俺を見た。
だけど、なにも聞かずにその場を去っていったんだ。
俺はしばらくそこにいた。
なにも考えず一人になりたかったからだ。
だけどいつまでもいられないから、帰ることにした。


そしていつもの道を帰ろうとした。
あの二人の歌声が聞こえてきた。
二人のハーモニーは、なぜか学生たちの足を止めていた。
だけど、彼らの歌声を聴いているだけで、その小屋へ向かう人はいなかった。
「いい声しているのに・・・」
そういうだけだった。

彼らがどんな人か知っているのか・・・それとも知らないから見に行きたくないのか・・・・。
「彼、歌っているときは、かっこいいのにね。」
そう呟いている人もいる。

俺もその中の1人かもしれない。


東條が、本当にやりたいことが、わかっていなかったから・・・・。
「・・・・・」
ふと、気になって彼らの舞台をそっと見ることにした。
なんて楽しそうに歌うんだ。
なんて、華麗に踊るんだ。

その光景は、確かに俺の目に焼き付いた。
心に染みたこんな気持ちになるのは久しぶりだ。
俺が、ここに来たのを知られたくなくて、こっそり抜け出し、いつもの道を歩きながら思ったんだ。
東條が、なぜ、俺をあそこに誘うかがまだ、理解できない。
なんせ東條という男を俺はまだよく知らないからだ。
2年も同じ大学にいて、あんな男がいるなんて・・・・。
この俺を裏切らないといってくれた気持ちが本気かどうかもまだ、わからない。

信じていいのか?

すごく時間がかかった。


そして、次の日の日曜日。
父さんに頼まれたものがあって、病院にきた。
俺は、思いがけないものを見てしまった・・・・・

「えっ?東條?なんでここに・・・・」
そう、東條は、1人、病院にいた。
なぜ、俺がここにいるか?
父さんは、ここの医者だから。
「順、悪かったな。せっかくの休みなのに出てきてもらって」
「父さん・・・。はい、カルテ。これで、よかったのか?」
「助かったよ。お前が家に帰っていてくれて。」
「どうせ、暇だから、帰ってたんだよ」
「はい。」
父さんは、コーヒーを、出してくれた。
俺を、ソファーに座らせると、
「どうだ?順。大学生活は。もう、2年目だし、少しは人嫌い直ったか?」

「そんなすぐには、直らないよ」
「そうだな。あんなことがあったんだもんな。でもな順、すべての人が裏切るわけではない。たまには、人を信じてみたらどうだ?きっと道は開けるぞ?いいや、すでに開いていたりしないか?」
「新しい道・・・か」
俺の顔を見て父さんは、
「その反応は、なにかいいことがあったんだな」
「ないよ、なにも」
父さんは、俺と理子が、付き合っているのを知っていたから、俺の心をわかってくれた。
俺の心を最後まで理解してくれている。
もし、父さんが、そばにいてくれなかったら、今頃俺も・・・・。
今の大学を薦めてくれたのは父さんだ。
自分の知り合いが教授をやっているからというのもあるのだろう。
俺の事情を、話しておいてくれたんだ。
俺はいつか、父さんに親孝行しなきゃ。
「順、人生今の時期が一番大切なときだ。
成人になる年と言うのは、大人の第一歩だからな。
いいか?もう一度、心から親友と呼べる友達を作りなさい。1人でもいい。
この人だけはという人を作るのだけでも違うぞ?悩みを打ち明けられる人がいたら楽だろう?そして、自分の夢を見つけるんだ。1度ににとはいわない。少しずつでいいから・・・・」
「夢か・・それは、見つかるかどうかはわからない」
俺は、そう言いながらも、視線はなぜか東條の方をむいていた。

まだ、父さんは、気づいていないようだ。

「やはり、無理か・・・」
「いや、そうでもないかも・・・」
「ん?」
ようやく俺が向いている方向へ向いた父さん。
「彼がどうかしたのか?さっきから、彼を見ていたね。」
「ねぇ、父さん。もしかして、彼を知ってたりする?」
「・・・いや・・知らないなぁ・・・」
「彼・・・どこか悪いのかな・・・」
俺は知らなかった。
父さんは、実は知らないフリを、していたなんて・・・。
「あいつ、同じクラスのやつなんだ。東條って言うんだけど、最近、俺のことをサークルに誘う張本人」
「そうか。この時期はまだ、風邪が流行っているからな。特に今年のインフルエンザは、ただ者ではない。お前も気を付けなさい。」
「ありがとう、父さん。明日は、里子の命日なんだ。父さんもよかったら、参ってあげてよ。きっと里子喜ぶから。じゃあ」

俺は、東條を、気にしながらも、病院を、あとにした。
「そうか・・・・彼が、順の・・・
でも・・・彼は・・・・」
そう、父さんが呟いたのも聞かないまま・・・・。


次の日、俺は、里子の墓の前で手を合わせている東條を見た。
「東條・・・なんでここに?」
「君が毎月ここに来ているのを知っていたから・・・というのは、口実で・・・こないだ君が命日って、呟いてるのを聞いちゃって・・・」
「ふーん」
「あれ?今日は、怒らないの?ストーカーかよっ!って、言われるかと思ったのに・・・」
「もしかして、毎月俺のあとをついていたとか?」
「うん」
確かにストーカー行為だけど・・・・。
「佐々木里子さんって、言うんだ。」
「・・あぁ・・・」
「ごめんね?つらいこと思い出させて。」
「もう、慣れたよ・・というのは、嘘だけど、今日は、命日だから特別・・・・。これは、里子が一番好きな花だったんだ。」

俺は、花瓶一杯のひまわりの花を供えた。
「綺麗だね。もう、こんなに咲いてるの?」
「そうだな。ひまわりは8月に咲くもんな。」
「なっちゃんと同じ名前・・・」
「なっちゃん?」
もしかして、この間の?

「ううん。なんでもないよ。それより、みんなでご飯食べに行くんだけど、一緒にいかない?なんか、雲行き怪しいし、雨降りそうだよ?」
「行きたい・・・って、言いたいところだけど・・・ごめん、今日は、そばにいてあげたいんだ。そうするって決めていたから。」
「そっか。なんかめずらしいね。なんか、いつもと反応違うよ?」
「東條・・・」
「ん?」
帰ろうとする東條にやりたいことが、聞きたいことがあったんだけど・・・・
「その・・・ありがとう。参ってくれて・・・」
そう、俺が言ったら・・・
「ううん。ねぇ?僕も毎日参ってもいい?だって、西田君の大切な人だもん。僕にとっても大切な人にしたいなぁーって・・・。ダメかな?」
「あぁ・・・いいよ」
「えっ?本当?わ~い!!じゃあ、また、明日ね!」
変わらない笑顔で、東條は、行ってしまった。
聞きそびれてしまったな。
彼が、病院にいるのを、見てしまったから。

どうしていたのか。
どこか悪いのかって。
そんな心配をしている自分が信じられないんだ。
そして、その事実は、東條を、知っていくうちに知ることになるなんて今の俺には考えもいないことだった。
彼と過ごす・・・・笑い合う日々が短いだなんて・・・・
考えてもいなかった。





    
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