それぞれの空

藤原葉月

文字の大きさ
6 / 15
出会い

第6話 彼の秘密

しおりを挟む
「おはよう」
教室には、いつもの挨拶が飛び交う。
今日は、朝から大雨だった。
そう言えば、梅雨に入ったんだっけ?
梅雨が明ければ夏だな・・・・。
「おはよう、東條。 」 
「えっ?」
東條は、自分が俺に挨拶されて、すごくびっくりしている。
・・・の前に周りのみんなもびっくりしている。 
「そんな驚くなよ」
「おはよう!西田君。初めて自分から挨拶してくれたね。」
そうやって答えてくれたのは、やっぱり、東條だけだった。 
「挨拶くらいしてみようかなって・・・」
「いいことじゃん?一歩前進だ!」
「からかうなよ」
「からかってないから。」
「わかってる」
「ねぇ、今日こそは、練習見ていってよ。僕の目はごまかせないよ?君がこの間こっそり練習見てたの、僕は知ってるんだから。途中で、抜けたのも知ってるよ。あっ、それにね、ちゃんとなっちゃんのことや、みんなのことも、紹介したいから 」 
「わかったよ。俺も聞きたいことがあるから。」
「何?聞きたいことって」
「いや、ここでは・・・・」
「いいじゃん!友達になったんだし」
「・・・この間・・・」
俺が話を始めようとしたら、抗議が始まるベルが鳴ってしまった。
「ゴホッゴホ・・・・西田君・・・席につこうよ・・・この授業の先生うるさいから・・・・」
「東條?大丈夫か?」
「・・・うん・・・・」
そう言って笑う東條が、なんだか苦しそうな顔をしているように見えた。
案の定。、東條は、そのあとなんだかボーッとしていた。
「東條?大丈夫か?授業、終わってるぞ?」
「あっ、西田君・・・・」
そう言って席を立とうとした東條の体がぐらついた。
「あっ、西田君じゃないよ・・・お前、熱あるんじゃないか・・・熱いぞ?もしかして、朝から具合が悪かったのか?」
「ゴホゴホ・・・なんか、風邪ひいたみたい・・・・」
「この前さ、病院で、お前のことを見かけたんだ。どこか悪いのか?」
「病院?西田君こそ、なんでいたの?」
「父さんに頼まれごとされて・・・」
「西田君のお父さん?」
「俺の父親、医者だから。ってかさ、みんな知ってるけど?お前、俺のこと誘っときながらなんにも知らないんだな。俺の事調べたんだろ?」
「ほんとだ!」
「たまには、練習休んだら?」
「それは、できないよ・・・それに、僕が病院にいたのは・・・・この前の健康診断で引っ掛かっちゃって・・・
再検査しに行ったんだ」
「再検査?」
「うん」
「っていうか、そこは笑顔で言うところじゃないだろ!」
「風邪気味だったから引っ掛かっちゃったみたい・・・ゴホゴホ・・・まだ、治ってなくて・・・」
「とにかく、風邪を甘く見るなよ?父さんも言ってた。悪い風邪が流行っているって。だから、早く治せよ」
「うん、ありがとう。西田君が、心配をしてくれるなんて」
「それだけじゃないよ」
「それだけじゃないって?」
「お前の勝ちだ」
「勝ちって・・・なんか勝負してたっけ?僕たち。」
「お前の粘り勝ちってやつかな。裏切らないって約束守ってくれるならお前のことを信じてみようって思ったんだ」
「ほんとに?」
「あぁ。ウソ言ってどうするんだよ」
「じゃあ、頑張る」
「頑張るって?」
「西田君が、ちゃんと自分を探せるように、青い空を、見つけられるように頑張るね!約束するよ君を裏切らないって。だから、頑張ろうよ、一緒に!」
「・・へんなやつ」
そう言って笑った俺は・・・
「あー!笑った」
「笑ってないよ」
「いいや!絶対笑った!ねぇ、もう一度見せて?」
「嫌だね。前も言ったけど、そんなに何度も笑えないよ」
「お願い!もう一度」
しつこく頼む東條。
「ほんとへんなやつだなお前は。具合、悪かったんじゃないのか?」
「えへへ。治ったみたい」

そして、俺は知らなかった。
このとき、東條が思っていた本当の気持ちを・・。
彼の本当の決意を・・・・。

俺は、彼の笑顔にいつのまにか惹き付けられているようだ。
「あっ、きた!東條さん!」
俺の足音に気づいたのは、なぜか、盲目の彼・・・・

「なんでわかった?」
「ラッキーが、静かだからです」
「ラッキー?」
そうか、彼のパートナーの犬のことか。
「ラッキーというのか。お前にぴったりな名前だな」
「私と同じで人嫌いなところもありますが、あなたのことは好きみたいですね。犬も好き嫌いがわかるみたいです 」
ダンサーの彼は、ラッキーの頭を撫でる。
「ラッキー・・・俺も人嫌いだけど、お前は関係ないもんな」
俺は、ラッキーの頭をそっと撫でると、気持ち良さそうな顔をしてくれた。
「やっぱり。ラッキーは、もともと人が好きでしたから、あなたの優しい心がわかるんですね」
「そうか。」
「あなたもきっと人を好きになれますよ」
「そう簡単にはなれないよ」


「だって、東條さんがつれてきた人だもん。間違いはないよ。」
「えっ?」
彼は・・
東條は、彼らに信頼されているんだな。
「彼と、一緒にいると僕らも生きているって気がするんです」

榊さんは、気を使ったのか紙にそう書いてくれた。
「彼は、言ってくれてるんです。いつも。
たぶん、あのとき、聞いてもらったとは思うんですけど・・・」
「いつも?」
もしかして・・・・
「人からどう思われようと同じ人間なんだから堂々と生きていればいいって。」
「同じ人間・・・堂々とね・・・」
彼は、こうも言っていた。
「彼らといる時間を大切にしたい」と・・・。
まるで自分がいなくなってしまうような言い方だったのが気になるんだ。

「あっ!西田君。来てくれていたんだ」
噂をすれば東條が、やって来た。
「東條・・・どこ行ってたんだよ」
「・・レポートだよ。出すの遅くなっちゃってさ」
「そっか」
「いま、雨止んでるけど、また降りだして嵐になりそうだから早めに切り上げよう。あっ、西田君はここで座ってみていてね。
今日は、お客さんなんだから。」
「どうも。ようこそ。これ、飲み物です」
「あっ、どうも。」
俺はなぜか緊張していた。 
「始めるよ!3、2、1、スタート!!」


彼らは、真剣な顔になる。
そして、静かに演技が始まる。
俺はただ、黙って見ていた。
そんな中、雨がまた降りだして・・・・

「宏人・・・・」
と、呟く女性がいた。
「あ、あのときの・・・」


俺は静かに席を立つと・・・
「あの・・・」
と、話しかけてみた。

「あら、あなたは確か・・宏人のイチオシのひと・・・」
「いや、イチオシかどうかは、わからないけど・・・ちゃんと名前を言ってませんでしたよね?俺、西田順って言います。」
「私は、夏木理子。みんなには、なっちゃんって言われてるわ。」       
「・・・理子・・・」
本当だ。
彼の言う通り、里子と同じ名前だ。
「よし!ここまで」
「あっ、なっちゃん、いらっしゃい。今日は、雨だからテニス部休みなんでしょ?」
春日部さんが、舞台から降りてきてくれた。 
「みんな、お疲れ様。差し入れよ」
「なっちゃん・・・」
この前は、彼女も、東條も笑顔だったのに今日はなぜかお互いよそよそしい感じがする。
「あ、あのさ、話するならどうぞ。俺、すぐ帰るし。」
と言ってみたものの 
「なっちゃん、今日はごめん・・・」
と、なぜか東條が、謝っていた。
「・・じゃあ、みんな、雨降ってきたから気をつけて帰ってね・・・」
そう言って、静かに帰って行った夏木さん。
「・・・・・」
東條は、なにも言わず、舞台の片付けを始めようとしていた。
俺は、正也さんに、聞いてみた。
「あのさ、東條と夏木さんって、付き合ってるの?」
「良いところに気がつきましたね。彼らは付き合ってますよ。そのうち、結婚すると思うんですが、なかなか二人ともそうはいかないみたいで。卒業してからになりそうだなって、僕たちは、思ってます。」
その通りだ。
彼らはなぜかぎこちない・・・・。
気のせいか? 
すれ違っているだけではなさそうだ。
それにさっきの夏木さん、なんだか泣きそうな・・・いや、泣いていた気がする・・・・
「みんな、大嵐になる前に帰るよ?西田君も、手伝って!」
それを知らないフリを、しているのか、東條も平気なフリをしていた。


そして、四人をバスに乗せると送り出した。
「みんな、おやすみ。また、明日ね」
・・いつもと変わらない笑顔で・・・・。
「西田君も、気をつけてね」
そう言って、小屋に戻ろうとしたから、 
「東條は、帰らないのか?雨、ひどいぞ?」
「直さなきゃならない部分があるんだ。」
「よかったら、手伝うぞ?」
「いいよ、大丈夫。」
「そうか・・・。じゃあ、おやすみ・・・」

そう言って、俺もバスに乗り込んだ。
彼は、自分は乗らずにみんなを見送ってくれたんだ。
彼がまさか、あんな風になるなんて・・・・・・。


小屋に戻った東條は、
「ゴホゴホ・・・・・」
東條は、1人、練習場に残り、なにかをやっていた。
時々ひどく咳き込みながら・・・・・。
「もう少し・・・もう少しなのに・・・・」


東條は、苦しそうに壁にもたれた・・・・
「もう少しなんだ・・・・ゴホッゴホッ・・・・」
そう何度も呟き・・・、咳がひどくなった彼はよろめいてしまった・・・。

雨は、激しさを増していた。
ガッシャ~ン

とても苦しそうにしていた彼は、机のものをなにか落としてしまった
誰もいないから音はよく響いていた。
その姿を誰も見ていないと思っていたのだろう・・・・・。
しかし・・・・・


「宏人さん?」
「・・・その声は、東・・・さん?」
東條は、苦しそうに言って、そちらの方を向く・・・・。

ラッキーも、心配そうな顔で近づく。
「大丈夫・・・心配しないで・・・ゴホッ・・・それより、東さんどうして?」
「携帯を忘れてしまって・・・家に帰ってから気がついたんです・・・それより、宏人さん、声に元気がないですよ?苦しいんですか?」
「・・・大丈夫・・・ちょっとめまいがして・・・ゴホッゴホッ」
さらに咳き込む東條

「東さんの携帯は・・・・これだっけ?」
探し当てた東條は、東さんに携帯を、渡そうとしたが・・・
彼の体はぐらつき・・・・
「東條さん?」
咄嗟に東さんは、東條を、抱き止めた。
「・・・・ごめんね、東さん・・・雨ひどいのに、一緒に帰ってあげれなくて・・・・」
「東條さん?大丈夫ですか?」
「・・・うん・・・・」
東條の意識は、だんだん朦朧としている。
しかし、東さんは、これ以上どうすることもできずにいる。
何が起こっているのか全然わからない東さんだが、それでもしっかり彼の体を支えている。
「東條さん?しっかりしてください!」
熱で体が熱くなっている。

しかし、彼は盲目でなにもできない。こうして彼を支えることしかできない・・・

「東さん・・・大丈夫・・・ただの風邪だし・・・ゴホッ」
「何をいってるんですか?最近倒れてばかりだし・・・これも演技だっていうんですか?今日の宏人さんの声はいつもより元気なかったし・・・・」
「・・ごめん、東さん・・・」
「僕の方こそ、なにもできません・・・。どうすれば・・・・」
「・・・大丈夫・・・大丈夫だから・・・・」
「いいですか?宏人さん!!僕はあなたの声があったからいま、生きているんです。あなたが生きろって言ってくれたから・・・・。あなたがいたからこうして光の世界にもう一度これたんです。だから、恩返ししたいんです。僕の闇の世界に一筋の光を与えてくれたのは、宏人さんだから・・・・」
「・・・ありがとう・・・東さん・・・」
そう言うと彼は、意識を失ってしまった。

「宏人さん?しっかりしてください!宏人さん!」
「・・・・・」

東さんの呼び掛けにも答えなくなってしまった。

「ラッキー、お願いだ。誰か、呼んできて!近くにいる誰かを・・・・誰でもいい・・・このままじゃ、東條さんが、死んじゃうよ!!」  
「ワン!!」
ラッキーは、東さんの言葉を理解したように降りしきる雨の中を走り出した・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...