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第一章
公爵令嬢ロベリア
しおりを挟む「ところでお前、何で俺の名前を知ってる」
「私の未来の破滅を回避する為にクレイを探せと御告げが来たからです」
声と共に木洩れ出る息ですら、俺の鼻腔を膨らませる。いかんいかん、無心だ。
「妄想を話せと言った覚えは無いが?歳はいくつなんだ」
「10歳です、よろしくお願いします。"暴食"のクレイさん」
側から聞いたら何の事かわからないだろう。
だが身に覚えがある暴食というワードに一抹の恐怖を煽られた。
「……どこまで知ってるんだよ」
「人払いしてくれるならお答えしますわ」
そう言って微笑むこの少女は本当に10歳なのか疑うレベルには空気も読めるし、頭も回る。
「オイ、そこのアホタレ。暗殺者かもわからん小娘を拾って来た罰だ。秘書のマッキーに会ったら自分で今回しでかした事を報告しろ、下がれ」
「すいませんでした……」
スキンヘッドの阿保を部屋から追い出してマッキーの補佐官に就任したカリューイさんにも指示を出す。
「今から応接室で尋問するから、カリューイさんはギルド長室で来た奴等を追い返せ。良いな?」
「かしこまりました」
そう言ってカリューイさんが応接室へのドアを開けてロベリア・タンジーを招き入れる。
「ロベリア・タンジー様、どうぞこちらへ。菓子は用意出来ませんが、後でお茶をお持ちします」
「ありがとうございます、頂けるだけありがたいですわ」
立ち振る舞いや姿勢は粗野な貧民とは違って洗練されているように見えた。
「さて、それではお話致しましょう。1ヶ月前、このアムネシア王国の王子、エリック・ワン・アムネシアと、タンジー公爵令嬢である私ロベリアの婚約が締結してしまった事から始まります」
「消すにも消せないご身分じゃねぇか……面倒な」
「婚約締結の日、私の生家であるタンジー家に代々伝わる夢占いでこの婚姻に関する予知夢が降りました。夜伽も無いのに子が産めぬ脳しかない石女と蔑まれ暗殺される未来です。しかし予知夢が降りたのは幼い私本人で、周囲の人間は考え過ぎだと否定するのです。
協力を得られないと判断した私は未来の破滅を回避する為に更なる予言を求めました。新たな夢は魂の霊園でホーリースライムを従えた、死肉を貪る男を写しました。
そこからツテで魂の霊園の担当墓守を調べて、貴方に行き着いた」
「……俺に消されるとは、思わなかったのか?」
「どうせこの先厳しい妃教育と白い結婚、無慈悲な死しか待っていないなら、その時が少し早くなるだけですよ。消しますか、私の事?」
そう言って俺と瞳を交わすロベリアは齢10歳とは思えない気迫、覚悟を見せた。
……いや、これは気迫じゃ無い。俺の意識にベタベタと纏わりつく何かがある。
ロベリアの首をソファの背もたれへ絞めるように押しつける。
「俺の頭に何しやがった。怯むとでも思ったか?」
首を絞められながら口を動かすロベリア。苦しいのか喉をゼロゼロと言わせながら、彼女は話し始めた。
「ヒュ、少しでも協力的になって、ゼェ、欲しかったのですが、残念です。殺すなら、ゲホッ、痛くないのをお願いしたいですけど、ね」
そう言った彼女は震える手で俺の腕を撫でる。
「もしかしたら、死だけが救いだという御告げだったのかも、しれません」
そう言って金色の睫毛を下ろすと目から涙がポロポロと零れた。あ~エゲツナイほどの美味そうな匂いがする~~。
手から力を抜き、堪らず涙を手で掬い舐め取る。
「ゲホッゲホッ……何を……」
「っうま?……はぁ、おいロベリアとやら取引だ」「え?」
「涙でも血液でも、最悪鼻水でも構わない。お前の体液を寄越すなら考えてやる」
我ながらかなり変態のような発言であるが、摂取した涙ですら肉を食ったかのような旨味がある。それだけでロベリアの価値は計り知れなかった。
「それだけで、良いのですか?」
「涙でこの旨味ならアンタそのものがこれまで食った人間の中で一番美味い。あぁ、女子供は極悪人じゃない限り食わないから、まだ安心しとけ。ホーリースライム、回復魔法って使える?」
ウサギマフラーから半透明の白いスライムがぬるりと現れてフルフルしながらロベリアの首に張り付く。
スライム曰く魔法は使えないが該当箇所に触れると治癒力が高まるらしい。
「ありがとう、ございます……!!」
いくら大人びていても、まだまだ10歳。今まで澄ました顔してたのがおかしいぐらいだ。しゃがれた声で泣くロベリアの目からポロポロと大量の涙が出てくる。実に勿体ない。
「勿体ないから舐めるぞ」「っどうぞ……っふ」
許可も得たので頬に伝う涙を舐めとる。否舐めとらずにはいられない。頭を撫でながら、背中を軽くトントンと叩いてロベリアの涙がより溢れるように細工する。
「俺に舐めとられるのが嫌なら、さっさと泣き止め。ロベリア」
「いいえっ、いいえ!!本当に、ありがとう……!」
そう、これは細工なのだ。俺がそうと言ったらそうなんだ。
嬉し泣きするロベリアを見たって、美味そうに見えるだけなんだ。だからやるんだ。
いつの間にか、自分自身にそう言い聞かせている気がした。
スライムが無言でマフラーに戻った事も、カリューイさんがお茶を入れてノックをする音にすら気が付かないぐらいに。
「失礼しま……した」
カリューイさんが空気を読んでドアを閉めた後、今までの自分の行動が恥ずかしくなった。
「クレイさん、もう大丈夫、です」
「あ、その、スマン。余りにも美味くてつい、……あー、そうだロベリア。さっき俺の思考に纏わりついたアレは何だ?どうやるんだ?」
苦し紛れの話題変換だったがロベリアは乗ってくれるらしい。
「あれは私のスキル、《支配者》と言って、人々を統率するのに優れたスキルです。……もしかしてスキルそのものを知らないのですか?」
「全くわからない。魂の霊園で生まれてからこの盗賊ギルドまで、ずっと忙しくてな」
「それなら後で冒険者ギルドに行ってスキルを見てみましょう。……それと、詳しいお話、今度はクレイさんから聞かせていただけませんか?」
「分かった、長くなるから茶を持ってこさせる。待ってろ」
応接室のドアを開けてカリューイさんを呼ぶととても冷めた目で見られる。
「いや、幼児趣味とかじゃ、ないし。うん。お茶、お茶を頂けますか……?」
「……かしこまりました」
絶対誤解されてーら……。
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