【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

文字の大きさ
5 / 72

5話 知らない事は罪で有る。

しおりを挟む


「あー。まあ、大体は理解できたよ………」

かなり端折られては居るが、ツバサの話を聞いてミライは頭を抱えていた。

「えっと、とりあえず大分話こんじゃったね。あの、一度着替えに戻らない?」

ツバサが起きてからすでに時計の針は二度回っている。18時過ぎを指す時計に目をやり、ツバサがそろそろ一度着替えに戻らないかと提案する。それにミライも頷いて、一時解散となった。

「う、うん。じゃあ、まだ話足りないし、確認したい事もいっぱいあるし、着替えたら外の店で集合で良いかな?」

そうミライからも提案したので待ち合わせは【外の店】だ。軍学校の敷地内には食堂以外にも食事が出来る店がいくつかある。一応は校舎外なので皆【外の店】と呼んでいる。喫茶店やファーストフード店だ。食堂の方が値段は安いが、晩御飯は外の店で食べる生徒も多い。一度、寮に戻り私服に着替えるとミライは急ぎ足で外の店へと向かった。

(あ、もう来てる。はや)

ツバサは制服に着替えて、すでに待っていたので気持ち早足で近づく。

「ツバサ君、待たせてごめんね」

「え?あ、私服に着替えてきたんだ?大丈夫だよ。僕が早すぎただけだし。寮まで戻ってたなら、時間がかかっても仕方ないよ」

「ツバサ君は寮に戻ってないの?」

「うん、更衣室に行っただけだよ。………制服でごめんね。」

「え?別にいいけど、こっちこそごめん、着替えて来たから、待たせちゃった………」

じーっとこちらを見てくるツバサに少し居心地が悪い。

「どうかした?」

「え?いや、その、私服だと雰囲気変わるね、あはは、に、似合ってるよ」

「あ、ありがと?……とりあえず適当にどこか店に入ろっか?」

なんだか変な雰囲気になりそうだったのでとりあえず店の中へ入ろうと促す。

「あ、うん。何か食べながら話そうか。………、」

ツバサは少し頬を染めていた。

(変なの………)





◇◇◇◇◇◇







ファーストフード店に入って食事を頼んで奥の席へと向かい、ツバサと対面で座る。

「こほん、えっと、色々と詳しく質問しても良いかな?」

咳払いをして、ミライがそう告げると、キラキラした目でツバサが答える。

「もちろん、なんでも聞いてくれて良いよ。僕で答えられる事なら、だけど」

へニャリと笑うツバサの顔に、ミライは複雑な心境になる。

(あー、マジで中身が違うんだ。やっぱ中身が違うと、同じ見た目でも、こんなに別人になるんだなぁ。印象が全然違うよ)

今のツバサにアニメのツバサ・ブラウンの面影は無い。同じ顔形でもこうも、変わるのかと内心思う。

「あ、そうだ。僕からも質問したいんだけど、それは大丈夫?」

ツバサが少し不安げに聞いてくる。

「うん、こっちも答えられる事だけなら答えるよ」

「あの、………じゃあ園田さんは転生する前はどんな人だったの?」

「え?私、私は………あれ?」

そこまで言って頭が真っ白になる。思い出せないのだ、前世の名前や歳を。それ以外なら思い出せるのだけど。何故か名前や歳には靄がかかったかのように思い出せない。

(あれ?あれ?なんで………え………)

ミライの顔から血の気が引いて、ぎゅうっと手を握り込むとツバサが焦ったように声をかけてくる。

「あ‼︎ごめん。話したくないなら別に大丈夫だから………」

「あ、ちがくて、その、別に話したくないわけじゃないの。あー、えっとね。元日本人の女で多分成人はしてたと、思うんだけど………うーん………」

歯切れが悪くなるミライに、ツバサは複雑そうな顔でこちらを見ていた。

「大丈夫?」

「あ、大丈夫、大丈夫。なんかあんまり………ハッキリとそこだけ思い出せなくて」

「無理しないで………、ごめんね」

心配そうな顔でこちらを見るツバサに少し申し訳なくなる。

「あはは。ほんと平気だから、こっちこそごめん。覚えてる事だけ、話すね?」

質問には答えられなかったが、とりあえず鮮明に覚えている自分の死んだ時の状況を話すことにする。ミライが話終えるとツバサは目を丸くしていた。

「え?園田さんは生まれ変わったわけじゃないの?」

「うーん、多分ね。だって、私が自分の意識持ったのって、ほんとに今日の午前中だし、それまでの記憶は探ればわかるけど、なんか他人目線で映像を見てるみたいな感じなんだよねー、こっちで生まれ育った記憶は無いよ」

「へえー、そうなんだ。不思議だなぁ」

まじまじと不思議そうにツバサはミライを見ている。少し居心地が悪い。

「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど」

ミライがそう苦笑して告げると、ツバサは顔を真っ赤にして慌てていた。

「わぁ‼︎ご、ごめん‼︎」

「ほんと、【ツバサ】とは、全然違うなぁー」

ミライがポツリとつぶやいた言葉に、目の前のツバサは不思議そうな顔をした。

「えっと?ツバサと違うって、どう言う意味?」

「え、だって全然違うじゃん、イチローさんって。ツバサっぽく振る舞ったりしないし」

「?」

「だって、もし自分が主人公になれたら少しは真似したりしない?」

疑問を投げかけてみるもツバサは頭に疑問符を浮かべていた。

「主人公って、どういう意味?」

その、本当に意味がわからないと言うツバサ一郎の顔を見て、色々感じていた違和感や疑念が濃くなる。

「あーその、イチローさんって【オワセカ】って知ってる?」

「なにそれ?オワセカ?」

本日3度目、ピシリと固まってしまうミライであった。


薄々感じてはいた。何かがおかしいと。多少はツバサの中身が転生者と言うので納得できた部分もあった。
ストーリーを知って居ても、中身が違うなら少しは流れが変わるのも仕方ないかなーと、そんな風に考えた。しかしまさかのアニメ知識ゼロとはどう言う事?!だって主人公だよ?しかもその主人公がこの世界の運命を左右するのに?!何の為に転生したの、この人?!そう一瞬で考えて、固まるミライの頭の中は今や大荒れだった。



……さん‼︎………田さん‼︎………園田さん!!

ハッとするとツバサが心配そうにこちらを眺めていた。どうやら、何度も呼ばれていたようだ。

「あ、ごめんちょっと………考え事してた」

「えと、そのオワセカだっけ?知らなくてごめんね。何か大事な事なのかな?」

おずおずと尋ねて来るツバサにミライは頭を切り替える。

「あー、うん。まあ。結構大事な事なのかなぁ。あー、ちゃんと説明するから、落ち着いて聞いてね」

息を整えてこの世界がアニメで、ツバサが主人公だと言う事を、このツバサにちゃんと説明することにした。ミライが話し出すと、だんだんツバサの顔色が悪くなっていく。

「………と、言うわけなんだけど」

この世界の簡単な説明とアニメのあらすじ。それから本来なら今日が、そのアニメ1話に該当する日でヒロインとのイベントが起こる筈だった事までを説明した。

「えーと、ごめん。ちょっと、待ってくれる?」

ミライに手で話を止めるように合図してからツバサは頭を抱えて。あーとかうーとか小さく唸っていた。暫くそうしてから、観念したように、こちらに視線を戻す。

「僕がこの【オワセカ】って言うアニメの主人公で、この世界の命運は僕にかかってるって、園田さんはそう言うんだね?」

「うん、そうだよ」

ミライがキッパリと答えるとツバサはまた、いや、とか、でも、とか口の中でモゴモゴしていた。

「はっきり言うとね。ツバサ君。君が頑張らないと、この世界は滅びる。ちなみに期限は後2年くらいかな?」

追い打ちをかけるミライに、ツバサは机の上に崩れ落ちる様にうつ伏せになった。











しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...