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5話 知らない事は罪で有る。
しおりを挟む「あー。まあ、大体は理解できたよ………」
かなり端折られては居るが、ツバサの話を聞いてミライは頭を抱えていた。
「えっと、とりあえず大分話こんじゃったね。あの、一度着替えに戻らない?」
ツバサが起きてからすでに時計の針は二度回っている。18時過ぎを指す時計に目をやり、ツバサがそろそろ一度着替えに戻らないかと提案する。それにミライも頷いて、一時解散となった。
「う、うん。じゃあ、まだ話足りないし、確認したい事もいっぱいあるし、着替えたら外の店で集合で良いかな?」
そうミライからも提案したので待ち合わせは【外の店】だ。軍学校の敷地内には食堂以外にも食事が出来る店がいくつかある。一応は校舎外なので皆【外の店】と呼んでいる。喫茶店やファーストフード店だ。食堂の方が値段は安いが、晩御飯は外の店で食べる生徒も多い。一度、寮に戻り私服に着替えるとミライは急ぎ足で外の店へと向かった。
(あ、もう来てる。はや)
ツバサは制服に着替えて、すでに待っていたので気持ち早足で近づく。
「ツバサ君、待たせてごめんね」
「え?あ、私服に着替えてきたんだ?大丈夫だよ。僕が早すぎただけだし。寮まで戻ってたなら、時間がかかっても仕方ないよ」
「ツバサ君は寮に戻ってないの?」
「うん、更衣室に行っただけだよ。………制服でごめんね。」
「え?別にいいけど、こっちこそごめん、着替えて来たから、待たせちゃった………」
じーっとこちらを見てくるツバサに少し居心地が悪い。
「どうかした?」
「え?いや、その、私服だと雰囲気変わるね、あはは、に、似合ってるよ」
「あ、ありがと?……とりあえず適当にどこか店に入ろっか?」
なんだか変な雰囲気になりそうだったのでとりあえず店の中へ入ろうと促す。
「あ、うん。何か食べながら話そうか。………、」
ツバサは少し頬を染めていた。
(変なの………)
◇◇◇◇◇◇
ファーストフード店に入って食事を頼んで奥の席へと向かい、ツバサと対面で座る。
「こほん、えっと、色々と詳しく質問しても良いかな?」
咳払いをして、ミライがそう告げると、キラキラした目でツバサが答える。
「もちろん、なんでも聞いてくれて良いよ。僕で答えられる事なら、だけど」
へニャリと笑うツバサの顔に、ミライは複雑な心境になる。
(あー、マジで中身が違うんだ。やっぱ中身が違うと、同じ見た目でも、こんなに別人になるんだなぁ。印象が全然違うよ)
今のツバサにアニメのツバサ・ブラウンの面影は無い。同じ顔形でもこうも、変わるのかと内心思う。
「あ、そうだ。僕からも質問したいんだけど、それは大丈夫?」
ツバサが少し不安げに聞いてくる。
「うん、こっちも答えられる事だけなら答えるよ」
「あの、………じゃあ園田さんは転生する前はどんな人だったの?」
「え?私、私は………あれ?」
そこまで言って頭が真っ白になる。思い出せないのだ、前世の名前や歳を。それ以外なら思い出せるのだけど。何故か名前や歳には靄がかかったかのように思い出せない。
(あれ?あれ?なんで………え………)
ミライの顔から血の気が引いて、ぎゅうっと手を握り込むとツバサが焦ったように声をかけてくる。
「あ‼︎ごめん。話したくないなら別に大丈夫だから………」
「あ、ちがくて、その、別に話したくないわけじゃないの。あー、えっとね。元日本人の女で多分成人はしてたと、思うんだけど………うーん………」
歯切れが悪くなるミライに、ツバサは複雑そうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫、大丈夫。なんかあんまり………ハッキリとそこだけ思い出せなくて」
「無理しないで………、ごめんね」
心配そうな顔でこちらを見るツバサに少し申し訳なくなる。
「あはは。ほんと平気だから、こっちこそごめん。覚えてる事だけ、話すね?」
質問には答えられなかったが、とりあえず鮮明に覚えている自分の死んだ時の状況を話すことにする。ミライが話終えるとツバサは目を丸くしていた。
「え?園田さんは生まれ変わったわけじゃないの?」
「うーん、多分ね。だって、私が自分の意識持ったのって、ほんとに今日の午前中だし、それまでの記憶は探ればわかるけど、なんか他人目線で映像を見てるみたいな感じなんだよねー、こっちで生まれ育った記憶は無いよ」
「へえー、そうなんだ。不思議だなぁ」
まじまじと不思議そうにツバサはミライを見ている。少し居心地が悪い。
「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど」
ミライがそう苦笑して告げると、ツバサは顔を真っ赤にして慌てていた。
「わぁ‼︎ご、ごめん‼︎」
「ほんと、【ツバサ】とは、全然違うなぁー」
ミライがポツリとつぶやいた言葉に、目の前のツバサは不思議そうな顔をした。
「えっと?ツバサと違うって、どう言う意味?」
「え、だって全然違うじゃん、イチローさんって。ツバサっぽく振る舞ったりしないし」
「?」
「だって、もし自分が主人公になれたら少しは真似したりしない?」
疑問を投げかけてみるもツバサは頭に疑問符を浮かべていた。
「主人公って、どういう意味?」
その、本当に意味がわからないと言うツバサの顔を見て、色々感じていた違和感や疑念が濃くなる。
「あーその、イチローさんって【オワセカ】って知ってる?」
「なにそれ?オワセカ?」
本日3度目、ピシリと固まってしまうミライであった。
薄々感じてはいた。何かがおかしいと。多少はツバサの中身が転生者と言うので納得できた部分もあった。
ストーリーを知って居ても、中身が違うなら少しは流れが変わるのも仕方ないかなーと、そんな風に考えた。しかしまさかのアニメ知識ゼロとはどう言う事?!だって主人公だよ?しかもその主人公がこの世界の運命を左右するのに?!何の為に転生したの、この人?!そう一瞬で考えて、固まるミライの頭の中は今や大荒れだった。
……さん‼︎………田さん‼︎………園田さん!!
ハッとするとツバサが心配そうにこちらを眺めていた。どうやら、何度も呼ばれていたようだ。
「あ、ごめんちょっと………考え事してた」
「えと、そのオワセカだっけ?知らなくてごめんね。何か大事な事なのかな?」
おずおずと尋ねて来るツバサにミライは頭を切り替える。
「あー、うん。まあ。結構大事な事なのかなぁ。あー、ちゃんと説明するから、落ち着いて聞いてね」
息を整えてこの世界がアニメで、ツバサが主人公だと言う事を、このツバサにちゃんと説明することにした。ミライが話し出すと、だんだんツバサの顔色が悪くなっていく。
「………と、言うわけなんだけど」
この世界の簡単な説明とアニメのあらすじ。それから本来なら今日が、そのアニメ1話に該当する日でヒロインとのイベントが起こる筈だった事までを説明した。
「えーと、ごめん。ちょっと、待ってくれる?」
ミライに手で話を止めるように合図してからツバサは頭を抱えて。あーとかうーとか小さく唸っていた。暫くそうしてから、観念したように、こちらに視線を戻す。
「僕がこの【オワセカ】って言うアニメの主人公で、この世界の命運は僕にかかってるって、園田さんはそう言うんだね?」
「うん、そうだよ」
ミライがキッパリと答えるとツバサはまた、いや、とか、でも、とか口の中でモゴモゴしていた。
「はっきり言うとね。ツバサ君。君が頑張らないと、この世界は滅びる。ちなみに期限は後2年くらいかな?」
追い打ちをかけるミライに、ツバサは机の上に崩れ落ちる様にうつ伏せになった。
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