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31話 名探偵ミライ。
しおりを挟むミライが教室に入ると、ツバサの姿はまだ見えなかった。
(ちょっと早く着いちゃったかな?ん?)
ふわりと、甘ったるい匂いがした様な気がして鼻を擦る、クンクンしてみても今度は何も感じない。
(気のせい………?昨日の匂いが鼻についてたのかな?)
そう思っていると肩が誰かとぶつかった。教室の入口近くに居たので邪魔だったのだろう。
「あ、ごめんなさい」
反射的に謝って横を見れば、ぶつかったのは黒いローブの男。キモいミシェルだったようだ。一瞬体が固まったが、昨日は挨拶して逃げられたし今日も、もう一度同じようにしておこうとにこりと笑って挨拶する。
「おはよう」
そう告げるとミライの考え通りに、またミシェルは微かに震えて走り去って行った。やっぱりこの対処法で正解か、とホッとした。ミシェルが去り際に、ボソリと呟いた声はミライには聞こえなかった。
暫くして扉の開く音に目をやるとツバサとユアンが入って来た。
「あ、おはよう園田さん、ごめんね、待たせちゃったかな?」
「おはよう、ミライ。朝から君に会えて嬉しいよ」
「おはよう二人とも、大丈夫だよ、ツバサ君。そんなに待ってないよ」
ミライは二人まとめて挨拶する。するとニコニコとユアンが近づいて来た。そして満面の笑みで
「ふふ、今日も僕がツバサに雄っぱい揉んで貰ったらいいのかな?」
と言った。
教室の後ろの方でガタガタ聞こえた気がした。
「え?」
「それとも今日は僕がツバサの雄っぱい揉む方が良い?」
ガタガタガタ
(ん?何の音?)
間違いなく後ろで音がして居る。気になってミライは振り返る、よく見るとさっきは気づかなかったが、誰かがずっと居たようだ。
艷やかな黒髪に、何故かはち切れているブラウス、その胸元から覗く白い肌。潤んだ瞳の【桜志穂】がそこに居た。音の主は桜だろう。そう思ったミライだったが桜は、今は静かにこちらを見ていた。
(そう言えばエリカちゃんが、桜志穂は朝早いって言ってたっけ、ずっと居たんだ?気づかなかったな………)
ミライが声をかけようと思ったら、また入口から誰かが入って来た。
(あ………。)
入って来たのは、くたびれた白衣に継ぎ接ぎの肌。黄緑がかったミディアムヘアがところどころハネている男だった。
担任の【ジョーンズ】先生だ。
ミライは勿論知っている、ストーリーには特に絡まないキャラだが担任だけあって、出番は多い。性格は、ガサツで常に欠伸をしている。所謂不真面目教師キャラだ。設定上はかなり強い筈である。だが残念ながら、アニメでは彼が戦う事は無いのだ。ジョーンズは入ってくるなりズカズカと、ミライに近づいて来て、上から下までジロジロと見てから舌打ちした。めっちゃ嫌そうな顔だ。
「チッ………、お前が園田ミライか?」
「あ、はい」
ミライがそう返事すると、興味を無くしたように次はツバサに近づいて言った。ツバサからアイコンタクトが有ったけど、とりあえず見守ることにする。
ジョーンズはツバサに近づくとまたもや、ジロジロと上から下まで眺めて、それから何故かペタペタと体を触りだした。いやらしい感じではないのだが、ツバサもミライも謎のスキンシップに驚いた。
後ろからガタガタガガガっと凄い音がする。
(桜さん?なんなのさっきから、この音………)
ミライは首を傾げた。
ジョーンズは、暫くツバサの体を触って満足したのか、二度頷いてから教室を出ていった。本当に何がしたかったのか、謎だ。
そして何故かミライの横で桜志穂が五体投地していた。
◇◇◇◇◇◇◇
(なっ、何?え?)
謎のイベントの連続で、今ミライの脳は情報を処理しきれずに固まっていた。わずか5分ほどの間に情報過多すぎである。桜はずっと五体投地している。と言うか泣いているみたいに背中が震えている。
ユアンとツバサがオロオロしているので、そろそろミライは我に返ることにした。
「あ、あの大丈夫ですか?」
とりあえず五体投地を続ける桜に優しく声を掛けてみた。すると震えが止まってゆっくりと顔が上がり、桜志穂はその濡れた瞳にミライを映した。それから
「尊い」
と告げたのだった。
(は?)
ミライがそう思ったのも束の間、桜から凄い速さで両手を握られた。両手握手だ。
「はぁー!!なんですか?今の‼︎凄すぎじゃないですか?!先生と生徒禁断の恋ですか?!ユアン様と取り合いですか?!奪い愛ですか??!!とおとい~~!!!!はぁークソ萌えます!!!ありがとうございますありがとうございます」
そう一気に言われた。
(え?………ええ?)
アレ?おっとりヒロイン?おっとり?おっとりって何?
衝撃にミライが固まっている間に、また桜は五体投地の姿勢になってトオトイトオトイと鳴き声をあげている。妖怪かよ。
「あの、え………?」
ミライがガチ困惑してると、エリカが現れた。
「あら?早速仲良くなったのね!!良かったわ。志穂も楽しそうね‼︎」
(え?何?エリカちゃん?なんでそんなに普通なの?………楽しそう?これが………)
エリカと私で見ている物違うの?私、幻覚攻撃受けてる?そう思って、ミライは慄いた。
トオトイトオトイ鳴く生き物と化した桜を、優しい目で見てエリカは頷いている。
化け物とロリ。ジ○リに有りそうな絵面で有る。その時名○偵コ○ン。並みの閃きがミライを襲った。そして昨日と今朝のエリカの台詞を思い出す。
『わ、私には良くわからないけど、そう言う男の人同士って言うのが好きな人も居るって知ってるわ、だから、えっと、ね、私は、気にしないわ………、これからも友達よ‼︎』
『そういえば、昨日志穂がミライに会うの楽しみにしてるって言ってたわよ?きっと、二人は気が合うと私は思うわ』
(あ゛ーーーなるほど?なるほどー!!!気が合うってそう言う事かー!!!!)
謎が全て解けて。ミライは白目を剥いた。
◇◇◇◇◇◇
ツバサは途方に暮れていた。今目の前では、混沌としか言えない状況が繰り広げられている。
だけど、何故か隣のユアンは楽しそうだ。
解せぬ。
(あ、園田さん、白目だ。………大丈夫かなぁ?)
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