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43話 幻惑魔法と紳士

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カレーを食べると、マロンは待ちきれないように、ツバサの手を引いて、奥の部屋へとぐいぐい引っ張る。

「ちぃあにさま。こっち。はやく」

「わあ、わかったよ。ちゃんと行くから。落ち着いて?」

ツバサは、マロンの勢いに押され気味だ。

その様子を見て、安藤は一つため息を吐いて立ち上がると、その後を追った。







◇◇◇◇◇◇





奥の部屋へと消えて行く三人を見送って、ミライは今、ブランと洗い物をしている。ブランが洗って、ミライがそれを拭くのだ。

「ミライは行かなくて良かったのか?」

「あ、はい。多分、私は行っても出来ること無いですし、あと、カレーをご馳走になったので、片付けくらいは手伝いますよ」

後から結果だけ聞こうと思って、ミライはこっちに残ることにしたのだ。

「そうか」

ふと、ミライはブランの瞳が気になった。ルージュ兄妹は気分で色をころころ変えているのだが、昨日今日は二人ともお揃いで藍色をしていた。視線に気づいたブランは首を傾げた。

「なんだ?」

「あ、えっと、……や。瞳、色変わるんですか?」

「ん?ユアン達から聞いたのか?まあ、そうだな。私と姫は、自由に変えることが出来るぞ」

ブランの瞳の色が赤色に変わるが、すぐに藍色に戻る。

「おー!!すごいですね。藍色がお気に入りなんですか?」

「姫が藍色にしているからな」

ブレないブランだった。





片付けが終わると、ブランはお茶を出してくれた。何故か大量の分厚いアルバムが机に積み上げられている。

「ふ、片付けを手伝ったミライには、ご褒美をやらねばな」

(あ、これあかんやつ……)

全てを察したミライは顔が引き攣った。

ブランは、イキイキした顔で、延々とマロンの写真を見せて来る。ミライは必死に褒めつつ、相槌を打つしかなかった。ご機嫌なブランの後ろでは、今日も薔薇エフェクトが絶好調である。ブランは楽しそうに、延々とマロンがいかに可愛いか説明している。ミライはひたすら相槌を打つ機械と化している。

そして、いきなり、ぬん!!とブランは立ち上がった。

「ミライ!!お前は素晴らしい奴だな。昨日は本当に、失礼な事をしてしまった。詫びとして、素晴らしい物を見せてやろう」

ミライに対して好感度が上がったブランがそう言うと、足元からブワリと、花びらが巻き起こり、そして、部屋の中には5人のマロンが現れていた。

皆、満面の笑顔だ。

「あにさまー、すきー」
「あにさまーだいすきー」
「あにさまー」
「あにさまー」
「あにさまーかっこいい」


(キッショッッッ)

ミライは鳥肌が立ったが、笑顔で頷いておくことにした。


ブランの幻惑魔法の中のマロンはブランの理想なのだろうか。絶対本人がしない顔と言動をしている。引き攣った顔で頷くミライを見ながら、ブランも満足そうに頷いていた。











◇◇◇◇◇◇











ツバサ達が奥の部屋に入ると、中は病院のような、雰囲気の部屋だった。壁の棚には薬や、何かのホルマリン漬けも入っている。簡素なベッドが2つと、その近くにはシンクも有る。本棚には分厚い本が並べられている。特に機材らしい物は見当たらないが、部屋の最奥の床に魔法陣の様な物が描かれていた。

「ちぃあにさま。ここ。ねて」

ベッドへと誘導されてツバサは素直に横になる。マロンはうんうん頷くと、今度は安藤の手を引っ張って、ツバサの右手を握らせた。マロンは左手を握った。ツバサは二人から手を繋がれる形になった。

「おねがい」

マロンが安藤へと告げる。

「おー、どんくらい必要だ?」

「ん。すこし、じかん、かかる」

「そーかよ」

ツバサは少し不安そうな顔で二人を見た。

「ツバサ、ちょっとキツイが吐くんじゃねえぞ」

安藤が、そう言うと、ぐにゃりとツバサの視界が揺れた。体の中を何かが這いずりまわり、体の表面も何かにおぞましく、撫でつけられる感覚に、吐き気も覚える。ちらりと安藤に目をやると、ツバサよりも辛そうな顔が目に入った。

「あ、安藤君。大丈夫?無理しないで」

「あー?うっせ。俺は魔力があんまねえから、仕方ねんだよ」

口調とは裏腹に、安藤は青い顔でブルブル震えている。マロンは、平然とした顔で何かを考えている。

「おい、まだか……」

「あと。すこし。ごめん、それから。ありがと」

マロンは真剣な顔だ。暫くして、ツバサの体から、フッとすべての不快感が消える。

「安藤君、大丈夫?」

「………おう」

安藤は汗だくで床に座り込んでいた。

「待ってて」

マロンはシンクに向かって行くと、ビーカーに水を入れて安藤とツバサに差し出してくれた。

怪しげなビーカーに入った水に、ツバサは一瞬躊躇したが、安藤が普通に飲んでるので、水を飲んだ。

(良かった。普通の水だあ)

「なんか収穫あったか?」

「ん、きょうはむり。でも、あしたには、できるよ」

「あ、安藤君。こっちに座りなよ」

ツバサは安藤をベッドへと座らせる、未だに安藤は青い顔で震えている。対するツバサとマロンは、けろりとした顔だ。それに安藤が顔を顰めた。

「ちっ、情けねえ」

「ちがう。かぜあにさま。すごい」

(かぜあにさま?)

どうやら、かぜあにさまとは安藤のことらしい

「ふつう。むり。ひとのまりょく。コントロール。むずかしい。……それに。ぜんぶ。わたしの、ふたん。ひきうけてくれた……」

そう言ってマロンは微笑んだ。

「えーと?なにをしてたの?」

ツバサの問いに少し顔色が戻った安藤が答える。

「俺の魔力で、お前の体ん中の、核っつーの?それをマロンに解析して貰ってたんだよ」

「ん。ふつうはむり。わたしだけでやると、おたがいぼうそうする。ばくはつ、しさん」

「ば、爆発四散?へ、へー!!凄いね。安藤君!!それに、マロンちゃんが、辛くないようにしてたんだ?紳士だね」

「は?うっせ」

マロンとツバサから笑顔を向けられた安藤は顔を横に向けている。目元がほんのりピンクである。意外にも照れている様だ。

「とりあえず。これつけて」

マロンがどこからか銀色の腕輪を取り出して、ツバサへと差し出す。

「これは?」

「ちぃあにさまになじませる。ちぃあにさまのまりょくは、そとにでる。ちからがない。とじられてる。だから、コレをかわりにする」

「え、えっと?」

よく分からず、ツバサが安藤に視線を向けると、安藤は、なるほどなと相槌を打っている。

「よーするに、魔力の出口がねえんだよ。あー、簡単に言うとだな、扉に鍵かけられてんだよ。お前。だから、そいつで隣に新しい扉を作るってわけだな」

「あした。もいちど。そしたらもう。まほうつかえる……よ?」







暫くして、安藤の顔色が完全に戻り、落ち着いたので、隣の部屋に戻ると、何故かミライがブランに肩を組まれていた。

ツバサは何故かイライラして二人を引き剥がす。

「ねぇ、園田さん。終わったよ。説明するから、こっち来て」

「え?あ、うん。ツバサ君?どしたの?なんか怒ってる?」

困惑するミライに少しイライラした声でツバサは告げた。

「……別に怒ってないよ?」

お約束の台詞である。


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