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51話 裏切り者

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(あれ?そう言えばツバサ君は?)

ふと、ツバサはどうしたのかと思い、周囲を見ると、ツバサの事をエリカが必死で引き止めていた。

「だめ。だめ。お兄ちゃん。だめ。行っちゃ、だめ」

「え?エリカちゃん?なんで手を掴んでるの?お土産は?」




(クソッ!!裏切り者めっ)

ミライがギリギリしているとユアンが何か貰って戻って来た。

ユアンの手には、めっちゃ首がカタカタ揺れてるこけしが握られていた。

「ふふふ、これ。少しだけミライに似ていると思わない?」

唐突にディスられてミライは唖然とした。そして初めてユアンに殺意が湧いた。

「ほほう。確かに」

ダンディーな声が肯定する。ミライは笑い袋を握り潰しておいた。


その後も、ライアンからの圧により、受け渡しは行われ、ライアンは満面の笑顔だが。皆はションボリしていた。

「はーい。ここで終わり。あら、ツバサちゃん。ごめんねぇ?ちょおっと、お土産足りひんかったねえ」

ツバサ大勝利である。

(ツバサ君、ずるい。主人公補正?あーあ、皆もご愁傷様)

安藤とエリカは、アフリカのお面の様な物を手に持っていた。ブランは、メキシコの帽子みたいなのを被っていた。サングラスとマッチして普通に似合ってて、ミライはイラッとした。マロンはひょっとこのお面を顔に着けている。かわいい。

(はあ…、癒やし)

志穂は謎のミイラを選んでいたが、熱心に上から下まで眺めてから、満足そうに、うんうん頷いている。脳内変換でもしているのだろうか?珍妙丸も木彫りのよくわからん物を持っていた。

(いやホント、なにそれ?なんか瘴気出てない?)


「……感謝する」

「……あー。一応礼は言うぜ」

「……ありがと」

などと皆、青い顔で告げている。大人である。


ふと、にゃん子を見ると、勝ち誇った顔で綺麗なボトルを持っていた。

(は?あんなのあったっけ?)

「ありがとうなー、無くなりそーやったから、助かるしー」

「ほんなら良かったわぁ。フフ。ちゃあんと髪の毛、お手入れ出来てるみたいやねぇ」

ライアンが、にゃん子にそう声をかける。ミライが不思議そう見ていると、ライアンがそれに気づいて苦笑しながら説明してくれた。

「あんねぇ、にゃん子ちゃん。入学当初は色々酷かったんよぉ。毛玉のおばけかと思ったわぁ」

話によると、髪ボサボサ。制服もシワシワだったのをライアンが整えてあげたらしい。

にゃん子は顔を赤くして、あわあわしている。

「や、やめやー!!!その話はもう昔の事やしー」

(いや、結構最近では?)

「もー、にゃん子ちゃん。女の子やのに、ほんま、びっくりしたわぁ。前髪も私が切ってあげたんよぉ?」

何故かライアンは嬉しそうに笑っている。ライアンは、世話焼き気質で、人を着飾ったりするのが好きみたいだ。

「今は自分で、切ってるしー」

にゃん子が叫んだ。

「ふふ、そうやね。ふふふ。……ほんならそろそろ、私は先生達の所にも、お土産持っていくさかい、また後でねぇ」

残った紙袋を持ってライアンが部屋を出て行こうとする。先生へのお土産は最初から分けていたみたいだ。袋の口からチラリとお菓子の箱が見えて、そっちが良かったとミライは思った。

「あ、ライアンさん。今日午後からは、座学の授業らしいですよ」

「あらー?そうなんありがとうな。座学かあ、めずらしなぁ。ほな一度、寮に戻るから次は授業で、やね」

ライアンは手を振って、部屋を出て行った。珍妙丸と志穂も部屋から出ていくみたいだ。

「治すことは出来ませんが少し、影憑きを拝見させて貰えますかしら?」

「うむ。では、場所を変えるか」





◇◇◇◇◇◇




エリカがミライへと近づいて来た。

「ふー、やっと帰って来れたわ。私も直接、こっちに来たから、一旦寮に戻る事にするわ。だから、また後で教室でね」

そう告げて去って行った。去り際に、ブランに、なんでサングラス?と聞いていたが無視されていた。

(うんうん。普通に気になるよね)

ブランは今メキシコのおじさんと化している。ボディーガードから進化したのだ。


「僕も、ちょっと呼ばれていてね。名残惜しいけど、また後で」

本当に名残惜しそうな顔で、ユアンも去って行く。

なんだかんだと皆居なくなって行く。ツバサと安藤も何やら話をしている。

(むっ、私は仲間外れ?)

少し寂しいなと思っていると、今井先生が来た。

「ルージュ兄妹。こちらへいらしてくださいますか?任務でございますのよ」

(指名任務かな?)

どうやらブラン達も出て行く様だ。

「ミライ。寂しいだろうが、すぐに帰ってくるので。心配はいらんぞ」

何故かブランは優しくミライの手を握り、指でサワサワと撫でてくる。なんかやらしい。ミシェルか?コイツ?



「あー、うん。いってらっしゃい」

「いってきます。あねさま」

マロンとブランは今井先生と一緒に出て行った。ひょっとこのお面と、サングラス&帽子の格好で。

(まさか任務も、そのまま行くの?)

ミライは遠い目になった。

結局、安藤とツバサは男二人だけで行く、と言って道場に向かって行く。やっぱり仲間外れだ。にゃん子もいつの間にか居なかった。

(あ、ぼっちだ。とほほ)

ミライは少し泣いた。

「一人ではありませんぞ」

ダンディーな声がした。握り潰しておいた。




◇◇◇◇◇◇



(はー、暇だなー)

仕方が無いので、ミライは中庭で日向ぼっこをすることにした。要するにサボりである。


ベンチに座ると暖かくて、眠くなる。ウトウトとして、ふと、なんか温かくて柔らかいな、気持ち良いと、横の何かに擦り寄って、ハッとした。おかしい、ミライは一人の筈なのに、隣に人の温もりが有る。

驚いて目を開けたミライを、赤くて濁った目が至近距離から見つめていた。

「びゃああああ????!!!!」

女子にあるまじき悲鳴が出た。だがミライは気にせず叫んだ。目の前には、死んだ魚のような赤い目玉が一つ有るのだ。体面を気にしている場合では無い。

(一つ目の化け物っ?!)

ミライはその場から、飛び退こうとしたが、腰が何かに、がっしりと掴まれて動けなかった。

「な、なに?……は?」

落ち着いて良く見ると、1つ目では無く、片目が前髪で隠れた男がミライの隣に座っていた。

見覚えがありすぎる。ミライの頬を冷や汗が伝う。

西園寺 椿

要注意人物である。濃い紫のウルフカットに、レイプ目の、この男は、クラスの中で唯一仲間を殺すのだ。それも自分の従兄弟を。


(そのキャラが、なんでここにいるの?!)

寝起きの頭をフル回転させて、なんとか状況を確認する。ミライは、寝ぼけて西園寺に擦り寄っていたみたいで、その西園寺の腕がしっかりと、ミライの腰に巻き付いている。傍から見たら、仲の良いバカップルだ。

(はあ?!なんなのっ?!いつからここは乙女ゲームになったの?)

ミライは焦っていた。あと普通にビビっている。 相手は人殺し予備軍だ。

この西園寺と言うキャラは、アニメでは、あまり出番は無い。ほとんど任務に行っている設定だ。アニメの最後の方で、あるミッションが成功すれば、主人公を犠牲にしなくてもマザーを殺せると言う話が出る。これに何故か、伊吹虎と西園寺が二人で、行くことになる。

ミッションの内容は赤い宝石、通称【神の流した涙】を、とある遺跡へと持って行くと言うものだ。

遺跡内部に有る台座に、宝石を置けば、全てが終わる。そんな最後の最後、あと数センチで、宝石が台座へと触れる瞬間。西園寺は後ろから伊吹虎を撃つのである。そして、即死では無かった伊吹虎も反撃して、相打ち。宝石は破壊されて遺跡も潰れるのだ。

「何故……だ、つばき……、お前、まさか……」

伊吹虎の、その匂わせセリフで、出番終了である。西園寺が裏切った理由も一切語られないのだ。だから情報が少ない。設定もだ。

だが、この二人は特定のファン層には大人気だった。志穂わかるな?



その男が、何故かピッタリと寄り添ってミライの顔をガン見しているのである。

(ひえ。…なんで?)

西園寺の意図が全く読めない。その濁った瞳は、瞬き1つせずに、ただじっと虚な瞳でミライを見ている。まるで目を開けたまま寝ている様にも見える。しかし、腰に回された手は微かに動いているので、意識は有るのだろう。

(だ、だれか助けてー!!!)








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