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52話 バッドコミュニケーション
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ミライが固まって居ると不意に腰の手が、怪しく動き出した。
もみ。もみ。もみもみ。
(あ゛ーー!!脇腹揉まないでー!!!)
西園寺は何故か執拗にミライの脇腹を揉み始めた。
(な、っちょっ?!痴漢?ひゃ……)
西園寺に怯えていたミライだったが、5分揉まれ続けて、今は頭の中は怒りでいっぱいだった。
(お、乙女の脇腹をなんだと思ってんだコイツ……。その面、ぶっ叩いてやろうか?訴えたら、こっちが勝つぞ!!)
物騒な事まで考えたその時、救世主が現れた。
「椿!!何処へ行ったのだ?」
伊吹虎が西園寺を探しに来たのである。
ミライはこちらの世界に来てから一番大きな声を出した。
「助けてください!!この人痴漢ですっ!!」
お手本の様なセリフだ。まさか自分がこのセリフを言うとは、思いもしなかった。ミライの声でこちらに気づいた伊吹虎は、ミライ達を視界に入れて、口を開けてポカンとしていた。
(早く助けて!!)
「な、何をしているのだ?む。そこの女子は、園田ミライではないか?」
伊吹虎は、何故か普通に話だした。しかもそのまま隣に座って来た。
(挟まれたんだがっ?!)
ミライはパニックである。コイツは救世主じゃなかった。
「ああ、紹介がまだであったな。ワタシは伊吹虎、京介である!!そこで腹を揉んでるのは、ワタシの従兄弟の西園寺、椿だ」
(おーい!!揉まれてるの見えてるんかい、助けんかい?!)
「あ、あの?やめさせて貰えませんかね?コレ」
そう言われて、伊吹虎は不思議そうな顔だ。
「ん?好きで揉まれているのでは無いのか?」
(そんなわけあるかーっ!!)
ミライはすっかり頭から抜けていた。伊吹虎、京介は天然なのである。
「ん?うむ!!そうか!!そうだったのか!!」
不意に伊吹虎は大きな声を出すと、納得がいったと言うように頷いている。
「誰の彼女かと思っていたが、椿の彼女であったか!!なるほど、盲点だったのである!!灯台下暗しとはこの事だな!!」
そう言うと伊吹虎は、ミライの背中をバンバン叩く。
バンバン!!もみもみ、バンバン!!もみもみ。
「だ、だれか助けてぇー!!!!」
ミライは叫んだが、誰も来なかった。
暫く二人から、バンバンもみもみされていると声が聞こえた。
「君達!!やめないか!!女性にそのように気安く触るものではないぞ」
声はミライのポケットからだ。
(わ、笑い袋さんっ!!!)
とりあえず握り潰しておいた。
「ん?!なんだ?今の声は!!」
伊吹虎はキョロキョロしている。
(よっしゃバンバンが止まった。……笑い袋さん貴方の尊い犠牲のおかげです)
ミライは心の中で、手を合わせた。なーむー。
◇◇◇◇◇◇
漸く飽きたのか、西園寺の手も止まった。だが、ガッシリ掴まれたままだ。
(さっきは怖くて話しかけられなかったけど、今なら最悪、何か起きても、伊吹虎がなんとかしてくれるかな?)
西園寺と意思疎通をはかろうとミライは試みる。
「……あのー?」
一応顔は笑顔だが、先程の怒りは忘れてないので、ミライの額には青筋が浮かんでいる。
「あの、手を腰から離してもらえますかね?」
ミライがおずおず告げると、西園寺はじっと、ミライを見ている。
「…………わかった」
(キェェェ喋ったァァァァ!!!!)
ミライは驚いた。このキャラはあだ名の単語しか喋らない筈なのに、普通に喋った。
しかし、ここは、ある意味では現実だから、さすがに喋るんじゃないの?と思い直す。ミライが知っているのはアニメの一幕だけなのだし、実は喋っていてもおかしくは無い。
「あー、じゃあ、離してもらっても?」
離して貰えるのなら、まあ問題ないなと、ミライが西園寺に問えば、またもや
「……うん」
と返って来た。そして手も離れた。自由って素晴らしい。
(なーんだ。やっぱり流石に意思疎通は出来るよね。はあ、やっぱアニメと、同じに考えすぎるのも駄目だなぁ)
そんな風に考えて、ふと横を見ると、顎が外れそうな程口を開けた伊吹虎が居た。
「あ……今、椿が喋ったのか…?……?!」
伊吹虎は、ゆらりと立ち上がり、西園寺の肩に両手を置く。
「椿!!!言ってみろ、京介と!!きょうすけだぞ!!!!俺の名前を言ってみろ!!!」
何やら聞いたことあるようなセリフを言いながら、伊吹虎は西園寺の肩を激しく揺らしている。一人称が変わる程に、伊吹虎は動揺しているようだ。
(いや、そんなにガクガク揺らしてたら、言えないんじゃないですかね?)
西園寺の首が、ガックンガックンなっている。ブレて顔が見えない。
ミライは今の内に逃げよう!!と思った。
(よし、今だっ!!!)
タイミングを測り、腰を浮かして走りだそうとしたら、ガッと腕を伊吹虎に掴まれた。
「………何処へ、行くのだ?」
なんかめっちゃ怖い顔で言われた。解せぬ。
「一体、これはどう言う事なのか説明して貰えるだろうか!!」
伊吹虎はミライの腕を掴んでそう言う。伊吹虎から解放された西園寺は座ったまま、虚空を見つめて居た。
「や?いや、なにがですか?」
「椿が!!意味のある言葉を話すのは10年ぶりなのだっ!!!君は何をしたのだ?園田ミライ???」
伊吹虎の言う事が本当なら、西園寺の設定はミライの知るアニメ通りだった。
(ええ?)
伊吹虎は尚もミライへと詰め寄る。
「ちゃんと意味が双方通じていたではないか?!なぜなのだっ??なにをしたのだ?」
グイッと顔を寄せられてミライは背を反らす。
「な、なんのことだかわかりません。何したって……、あえて言うなら、私が痴漢されてましたっっっ!!」
ミライはヤケクソで、伊吹虎に負けじと大きな声で言った。
「なにっ?何故それを早く言わないのであるかっ?」
(言いましたけどっ?!)
伊吹虎はもう一度、西園寺に向き直った。
「……ワタシがわかるか?椿?」
「…………眼鏡」
(アレ?なぜに?)
伊吹虎はウ~ンと唸ると、ミライを指差した。
「彼女はわかるか?」
「………ガチョウ」
先程と違って、西園寺は、妙なあだ名しか口にしない。
「ふむ。なるほど……。んー?どう言う事なのだ?」
伊吹虎は首を傾げている。
ミライもガ、ガチョウ?なんで?と首を傾げていた。
「ん?ああ、君がユアンに料理をねじ込まれていたからだろう。ワタシ達も、食堂に居たのだ」
(あ、フォアグラ……)
ミライはスンッとなった。
「よし、ミライ!!!協力してくれ。先程と同じ状態にしてみるのである!!」
いきなりの呼び捨てである。
「は?……え?」
やっと解放されたのに、再びミライは自由を失った。
◇◇◇◇◇
「あのー、さっきはこんなに密着してなかったですけど?」
今ミライは、西園寺に両腕を回して抱きついて、密着している。コアラの様だ。更に伊吹虎がグイグイ押して来る。
(やめろぉ)
抵抗しつつ、西園寺の様子を伺うと、相変わらず目は死んでいたけど口元が微妙に微笑んだ。
「ファッ?!」
「なに?椿!!!お前、今、笑ったのか?!」
伊吹虎は間にミライを挟んだまま、西園寺へと詰め寄る。
(ぐぇー!!!!ぐるじぃ!!!)
イケメンにサンドイッチされてるのに全くトキメキが無い。
(うぐーっ。ギブギブ……、あ、だめだ、これ…)
ミライは気絶した。
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