【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

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53話 京介と椿 ※挿絵有り

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ワタシの従兄弟の椿は、昔は良く笑う普通の子供だった。ワタシが10歳。椿が8歳。

いつも椿は、ニコニコして、ワタシの後ろを着いて来ていた。

あの日もそうだった。

「ねー、きょうにぃ。ここは、入っちゃだめなんだよ?」

椿が泣きそうな顔で言う。

「うむ!!なんだ?怖いのか?つばき?」

京介が尋ねると、椿は、怖くないもんっ!!と部屋の奥に走っていってしまった。

(あ、しまった)

今、京介達は、親族揃って山奥に保有している別荘に遊びに来ていた。親達は街に買い物に出掛けていて、京介達はお留守番。暇だったので、別荘の中を探検中だった。そして、ふと悪戯心が湧いて、京介は親達から絶対に子供だけで入るなと言われている部屋を、少し覗いて、椿を揶揄うだけのつもりだったのに、椿が入って行ってしまった。慌てて、椿の後を追いかけるが、中は思ったよりも複雑で広い。唯の物置だと思ったのに、ドンドン奥へと道が広がっている。

「つ、つばきっ?どこにいる?」

京介は怖くなって椿を呼んだが、椿からの返事は無かった。

(うう…、どこにいるのだ?つばき?)

泣きそうになった時、奥の方から音がした。凄い音だった。

「つばき?!」

京介は走った。走って走って、血塗れの、椿を見つけた。

床に大きな穴が空いていて、椿はその下に倒れていた。そこから落ちたのだろう。

「つばき!!!」

必死に椿の名を呼ぶが、反応が無い。それに、恐怖心がソレを見せているのか、黒いモヤが、椿の周りをぐるぐると回っていた。

「お、大人を呼んでくるっ!!待っていろっ!!!」

京介は走った。車や自転車なんて無かったから、ただ走った。山を抜けて、こちらへ帰って来ている親達を見つけた時は、京介もボロボロだった。すぐに親達に説明したら、皆、青い顔で、何処かに連絡していた。その後はあまり記憶が無い。

暫くの間、椿に会わせて貰えなくて、もしかして、椿は死んでしまったんじゃ?と言う恐ろしい考えに震えていた。だが熱を出して寝込んでいるからだと、言われたので、ホッとした。

(良かった。生きているのだな。……つばきに会えたら、ちゃんと謝らないと……)




だが、数ヶ月後。久しぶりに会った椿は、感情を失っていた。笑わない。話さない。泣かない。たまにポツリと零す言葉も意思疎通は出来ない。意味不明の単語だけだ。指示した事は黙々とこなす。

(これでは、まるで人形だ)

大人は、頭を打った後遺症だと言っていた。ワタシの好きだった、【つばき】は居なくなった。


だが、変わってしまっても、椿は椿だと切り替えて、償いの気持ちから、ワタシは椿と一緒に居る道を選んだ。一生側で、サポートして行くつもりだった。だが、椿は日常生活も、戦闘も、指示さえあれば問題ない。軍学校へも一緒に入学出来た。

(椿、いつか昔のように、戻ってくれるだろうか?なあ椿?)

時折、そんな事を考えてしまう。

(だが……、今の゛コレ゛は本当につばきなのか?)

あの時見た、黒いモヤが脳裏に浮かんだ。







「ぅゔ…ぐるじぃ、、」

そう言ってミライが気絶して、伊吹虎はハッとした。

(しまった。取り乱して、ミライには酷い事をしてしまったのだ!!!)

我を忘れて、間にミライが居るのに、椿に詰め寄ってしまった。伊吹虎が焦っていると、椿が、気絶したミライを抱えて、ベンチに座り、膝枕をして、頭を優しく撫でていた。

笑顔とは言えない程の微笑を浮かべている目の前の椿と、子供の頃のつばきが重なった。

(ああ、まだ、そこに居たのだな。つばき)












◇◇◇◇◇◇








(何?この状況……)


今、ミライの前で伊吹虎が土下座している。謝っているわけでは無い。頼み事をしているのだ。

(最近よく土下座されるなー)

そんな事を思いながら、ミライは、伊吹虎をぼーっと眺めた。





~~回想始め~~








ミライは飛び起きた。頭の下にほんのりとした温もりを感じる。

「な、なに?!微妙に固いっ!!……え?膝枕?」

西園寺に膝枕されていたのだと、気づく。

「む!!起きたか。すまなかったのである!!!何処か、辛いところは無いか?」

伊吹虎が心配そうな顔でミライの体をペタペタ触って来た。そう、触って来たのである。

「あ゛ーー!!!痴漢ーー!!!!?」

バッチーーン!!!

ミライは思わず全力でビンタした。 それから、ハッとした。

「あ、すみません」

「………いや、ワタシが悪い。すまなかった」

伊吹虎の頬には立派な紅葉がついている。メガネも曲がっていた。




その後、状況をしっかり把握してから、ミライと伊吹虎は、西園寺の事について話した。

「何故かミライに触れていると、椿の感情が出るのである」

そう、何故かは、わからないが、ミライが触ると西園寺は微かに微笑んだ。抱きついてみると、喋った。喋ると言っても、うん。とか、ねむい。とかだが。

ミライは何か既視感を感じた。

(……マロンちゃん味が有る……。と言うより、幼女?)

「うむ、ワタシは接地面が鍵だと思うのだが、どうだろうか?」

「どうだろうかと言われましても」

今も、伊吹虎に無理やり、西園寺と抱き合わされている。西園寺も進んでギュッとしてくる。




「……あったかい」

「あー!!!また喋りましたよ!!」

「ふむ、やはり、身体の接触が多いほど良いのか?」

妙齢の男女が抱き合い、その横で男がふむふむ頷いている酷い絵面である。


「とりあえず、一旦離れていいですかね?」

ミライは、実は内心ドキドキしていた。こんなに男性と肉体的に接触するのは前世合わせても初めてなのだ。しかも、推しでは無かったが、一応西園寺も、好きなアニメのキャラだ。

(うう…、凄く恥ずかしいよぉ)

ミライはツバサをどうこう言えない程のピュアだった。

「うむ、では少し休んで、それからキスも試してみるか」

ニッコリ笑顔で伊吹虎が言った。ミライは二度見した。

「は?今、なんて言いました?」

「ん?キスだ。接吻の事である」

(それはわかってるわっ!!!)

じゃなくて

「な、な、なんでキスぅ?!」

「なんで?こういう時のお約束と言うものでは無いか?キスで、呪いが解けるのだ。まあ、椿の場合は呪いでは無いのだが、愛の力でどうのこうのと言うやつである!!!」

力いっぱい伊吹虎は言う。

「あ、愛?!そんなん無いですけどっ!!!!」

ミライも力いっぱい返す。

すると

「頼むっ!!この通りだ!!試せることは全て試したいのだ!!傷物になるのを恐れているのなら、責任はワタシが取る!!嫁に貰うのであるっ!!」

土下座された。

(しかも、なんか変な事言ってる。この人)




~~回想終了~~








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