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59話 モヤモヤ
しおりを挟む救急セットを買い、ミライが急いで戻って来ると、意外にも、執事は膝にクマを乗せてお行儀よく待っていた。
「すみません!!お待たせしました」
肩で息をするミライを、執事は変な顔で見ている。
「何故、そんなに急いでいるのですか?」
ミライは、また驚いた。
「いや、なぜって……、早く手当てしたいからですけどもっ?!」
「何故、私の手当てを、そんなに急いでまで、したいのですか?」
本当にわからないと言うように、執事は尋ねて来る。
(はあ?なんなの、この人?)
「いいから、じっとしててくださいね!!」
どうにも話が噛み合いそうに無い。無駄な会話をしている場合ではないのだし、とりあえず、執事の質問は無視して、ミライは手当てを始める。
救急セットと共に買って来た水で、ガーゼを湿らせて傷を拭く。動くなと言われた執事は身じろぎもしないで、されるがままだ。
(変な所は素直なのに……)
細かい傷全てを浄めたら、消毒して目立たない傷テープを貼っていく。大きい傷にはガーゼをテープで貼り付けていく。痣には軟膏を塗り込んでおいた。
一通り手当が済んで、ミライはホッと息を吐いた。
「はい、終わりましたよ。よく我慢できましたね」
そして執事の頭をよしよしした。
(ん?)
ハッとして、よしよしした笑顔のまま固まる。
(しっ、しまった!!ついやってしまった!!)
昼間に、長くユアンによしよししていたので、つい体が勝手に動いてしまったのだ。
撫でられた執事はポカーンと口を開けていた。
(・o・)←この顔である。細目の目も全開だ。
(や、ヤバい!!なんとか誤魔化さねば!!いや、謝ったほうが良い?!)
焦るミライが口を開く前に、執事が口を開いた。
「手当てをしたら頭を撫でるのですか?」
「へえ?……あ、そうです!!って……あぁ……」
ミライは咄嗟の事に全力同意してしまった。そんなミライの言葉に執事は、コクンと頷いた。
「そうですか」
(えー!!今ので納得したのっ??やっぱり変な人……)
「……では、こちらをどうぞ」
そして何でも無い顔でクマを差し出して来た。
ミライがクマを受け取ると執事はそのまま去って行った。
「ええ?なんだったの、今の……。はあ……一回帰ろうかな」
とりあえずクマを寮に置きに戻る事にする。丁度マロンに貰ったピンクのクマも居るので、その隣に置けば良い感じになるはずだ。
「うん。やっぱり、なかなかいい感じ」
寮に戻り、クマを並べると、結構良い感じだ。
(………くれた理由は、よく分からなかったけど、まあ、いっかぁ……。このクマ、良い匂いもするし……)
青いクマは、洗いたてなのか甘い匂いがする。
「よし、んー、この後どうしようかな?」
道場は追い出されたので行けない。
(それなら………よし……)
伊吹虎を探すことにしよう。さっき、任務には行ってないらしいと小耳に挟んだ。何処かに居るはずだ。
分厚い本を手にミライは意気揚々と出掛ける事にした。
ミライが部屋を出た後、風も無いのに青いクマが倒れた。
◇◇◇◇◇◇
「くそぉ……何で何処にも居ないの?」
意気揚々と、出掛けたものの、伊吹虎の姿は何処にも無かった。
(しょんぼり……)
目的を果たせず、トボトボ歩いていると志穂と数人の女生徒が居た。
(志穂達だぁ……)
せっかくだから声をかけようと近づくと、向こうも気づいてくれたようだ。
知らない女生徒が手を振り、こう言った。
「あ、ミライ神様。こんにちは」
ミライはズッコケた。
ズコーッ
それから志穂にアイアンクローをしかけた。
「ああ!!痛いですのよ!!!」
ギチギチギチと音が鳴る。
(クソ巨乳めっ!!!何、他の人にまで吹き込んでんだ!!!)
ミライと志穂のやり取りに、周りの女生徒は引いてた。
思う存分アイアンクローをして、気が済んだので、ミライはニッコリと女生徒達に笑いかけた。
「こんにちは、『普通』の園田ミライです」
「「「こ、こんにちは……普通の園田さん」」」
(それでよし!!)
「何してたの?」
志穂に尋ねると
「今流行の、イケメン図鑑を皆様と見ていたのですわ。……いたた」
(イケメン図鑑とな?)
他の女生徒も頷いている。
チラリと見ると、確かに手に開いた本を持っている。覗き込んでみると、そこにはきらびやかなイケメンが笑顔を浮かべて写っていた。
(ほー。なるほど)
ちなみに女生徒は
ミレさん
ユリさん
ソラさんだ。
3人共ミライと似たような焦げた茶髪の地味フェイスだ。
(やはりモブゥ)
「1番イケメンってどの人?」
「わたくしは、アルテ様だと思いますわ!!」
ソラが言う。彼女が開いたページには、金髪縦ロール、碧い目のベル○らに出て来そうな男が載っていた。まつ毛が凄い。
「わたくしは、ミカエル王子殿下だと思いますわぁ!!」
ユリが頬を染めて言う。開かれたページには、ピンクがかった金色の波打つ髪で、瞳もピンクの色っぽい美青年が載っていた。色気がダダ漏れのイケメンだ。
「わたくしはユアン様だと思いますわぁ」
ミレがうっとりと呟く。開かれたページには、ユアンが居た。
ミライは速攻本を閉じた。
(えー?!何これ!!ユアン載ってんの?マジかよ)
ミライはパニックになった。しかし、考えてみれば、そりゃそうかとも思う。
(そうだよね。ユアン、イケメンだもの)
しかも御三家だ。
「………へー、他にも、うちの学校で載ってる人いるの?」
「いいえ、ユアン様だけですわ」
ミレが言う。
なんでも家柄も大事らしい。あと実際の人気投票で掲載が決まるそうだ。
「ふーん」
(それなら、納得。ユアンって有名だろうし、………やっぱ人気なんだなー)
ミライはなんだか、モヤモヤした。
◇◇◇◇◇◇
(はあ…………)
志穂達と別れて、一人徘徊するミライだったが、やっぱりなんの成果も無かった。伊吹虎は何処にも居ないし、それ所か、すれ違う人もどんどん、減って行く。
放課後になったのだ。
(………寂しい)
ベンチに座って黄昏れる。片手には缶ジュース、空は夕暮れ近く少し赤い。哀愁が漂っている。
「はあ、独りぼっちだ」
俯きポツリと呟いて、ふと視線を感じた気がして、目線をそちらにやるとローブ男、ミシェルが居た。木の影に隠れるように突っ立っている。
(あんな所で何してんだろう?立ち○ョンかな?)
ミライは下品だった。
暫くぼーっとミシェルを眺めて居ると、ミシェルがこちらに向かって来た。
(げ……。こっち来た……。まあ、暇だし、たまには相手してやっか……)
「……、、、、、」
近付いて来たミシェルは、何かモゴモゴ言っているが良くわからない。
ミライはとりあえず愛想笑いをした。
「どーも」
(どうせ、また逃げるんでしょーよ)
なーんて考えていた。
だがミシェルはその場で尚もモゴモゴ言っている。
「?」
(何?聞こえないんだけど、もう少しハッキリ喋って欲しいなぁ)
暫くモゴモゴして勝手に満足したのか、ミシェルは何処かへ行ってしまった。
「変態にすら置いてかれた……」
ミライはしょんぼりと肩を落とす。
「帰るか………」
(ツバサ君達は、何してるんだろう)
◇◇◇◇◇◇
「だいぶ避けれるようになって来たな」
「うん、なんとかね」
安藤の竹刀を避けながら、ツバサは答えた。特訓の成果が出て来て、竹刀をなんなく躱せる様になって来た。
「それに、意識的に行動すれば、余り疲れないんだ僕。初めて気づいたよ」
ツバサは声を弾ませた。実際、汗だくの安藤に対してツバサは涼しい顔だ。
「はあ、マジ、チートってすげぇな」
「これなら、なんとかなりそうだね!!」
「浮かれんな、ばーか。こっちは身体強化無しなんだよ」
だが、そのセリフに反して、安藤も嬉しそうだ。
「よし、ちょっと早いがもう良いだろ。
おい、おっさんもこっち来い」
安藤が珍妙丸を呼ぶ。次のステップに進むようだ。
「よっしゃ。ツバサ、これからは二人がかりで行くから、また死ぬ気で避けろよ?」
「うん!!頑張るよ!!」
その日、道場は夜遅くまで電気が着いていた。
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