【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

文字の大きさ
63 / 72

59話 モヤモヤ

しおりを挟む



救急セットを買い、ミライが急いで戻って来ると、意外にも、執事は膝にクマを乗せてお行儀よく待っていた。

「すみません!!お待たせしました」

肩で息をするミライを、執事は変な顔で見ている。

「何故、そんなに急いでいるのですか?」

ミライは、また驚いた。

「いや、なぜって……、早く手当てしたいからですけどもっ?!」

「何故、わたくしの手当てを、そんなに急いでまで、したいのですか?」

本当にわからないと言うように、執事は尋ねて来る。

(はあ?なんなの、この人?)

「いいから、じっとしててくださいね!!」

どうにも話が噛み合いそうに無い。無駄な会話をしている場合ではないのだし、とりあえず、執事の質問は無視して、ミライは手当てを始める。

救急セットと共に買って来た水で、ガーゼを湿らせて傷を拭く。動くなと言われた執事は身じろぎもしないで、されるがままだ。

(変な所は素直なのに……)

細かい傷全てを浄めたら、消毒して目立たない傷テープを貼っていく。大きい傷にはガーゼをテープで貼り付けていく。痣には軟膏を塗り込んでおいた。

一通り手当が済んで、ミライはホッと息を吐いた。

「はい、終わりましたよ。よく我慢できましたね」

そして執事の頭をよしよしした。

(ん?)

ハッとして、よしよしした笑顔のまま固まる。

(しっ、しまった!!ついやってしまった!!)

昼間に、長くユアンによしよししていたので、つい体が勝手に動いてしまったのだ。

撫でられた執事はポカーンと口を開けていた。

(・o・)←この顔である。細目の目も全開だ。

(や、ヤバい!!なんとか誤魔化さねば!!いや、謝ったほうが良い?!)

焦るミライが口を開く前に、執事が口を開いた。

「手当てをしたら頭を撫でるのですか?」

「へえ?……あ、そうです!!って……あぁ……」

ミライは咄嗟の事に全力同意してしまった。そんなミライの言葉に執事は、コクンと頷いた。

「そうですか」

(えー!!今ので納得したのっ??やっぱり変な人……)

「……では、こちらをどうぞ」

そして何でも無い顔でクマを差し出して来た。

ミライがクマを受け取ると執事はそのまま去って行った。

「ええ?なんだったの、今の……。はあ……一回帰ろうかな」

とりあえずクマを寮に置きに戻る事にする。丁度マロンに貰ったピンクのクマも居るので、その隣に置けば良い感じになるはずだ。

「うん。やっぱり、なかなかいい感じ」

寮に戻り、クマを並べると、結構良い感じだ。

(………くれた理由は、よく分からなかったけど、まあ、いっかぁ……。このクマ、良い匂いもするし……)

青いクマは、洗いたてなのか甘い匂いがする。

「よし、んー、この後どうしようかな?」

道場は追い出されたので行けない。

(それなら………よし……)

伊吹虎クソ野郎を探すことにしよう。さっき、任務には行ってないらしいと小耳に挟んだ。何処かに居るはずだ。

分厚い本を手にミライは意気揚々と出掛ける事にした。


ミライが部屋を出た後、風も無いのに青いクマが倒れた。









◇◇◇◇◇◇


「くそぉ……何で何処にも居ないの?」


意気揚々と、出掛けたものの、伊吹虎の姿は何処にも無かった。


(しょんぼり……)

目的を果たせず、トボトボ歩いていると志穂と数人の女生徒が居た。

(志穂達だぁ……)

せっかくだから声をかけようと近づくと、向こうも気づいてくれたようだ。

知らない女生徒が手を振り、こう言った。

「あ、ミライしん様。こんにちは」

ミライはズッコケた。

ズコーッ

それから志穂にアイアンクローをしかけた。

「ああ!!痛いですのよ!!!」

ギチギチギチと音が鳴る。

(クソ巨乳めっ!!!何、他の人にまで吹き込んでんだ!!!)


ミライと志穂のやり取りに、周りの女生徒は引いてた。

思う存分アイアンクローをして、気が済んだので、ミライはニッコリと女生徒達に笑いかけた。

「こんにちは、『普通』の園田ミライです」

「「「こ、こんにちは……普通の園田さん」」」

(それでよし!!)

「何してたの?」 

志穂に尋ねると

「今流行の、イケメン図鑑を皆様と見ていたのですわ。……いたた」

(イケメン図鑑とな?)

他の女生徒も頷いている。

チラリと見ると、確かに手に開いた本を持っている。覗き込んでみると、そこにはきらびやかなイケメンが笑顔を浮かべて写っていた。

(ほー。なるほど)

ちなみに女生徒は
ミレさん
ユリさん
ソラさんだ。

3人共ミライと似たような焦げた茶髪の地味フェイスだ。

(やはりモブゥ)

「1番イケメンってどの人?」

「わたくしは、アルテ様だと思いますわ!!」

ソラが言う。彼女が開いたページには、金髪縦ロール、碧い目のベル○らに出て来そうな男が載っていた。まつ毛が凄い。

「わたくしは、ミカエル王子殿下だと思いますわぁ!!」

ユリが頬を染めて言う。開かれたページには、ピンクがかった金色の波打つ髪で、瞳もピンクの色っぽい美青年が載っていた。色気がダダ漏れのイケメンだ。

「わたくしはユアン様だと思いますわぁ」

ミレがうっとりと呟く。開かれたページには、ユアンが居た。

ミライは速攻本を閉じた。

(えー?!何これ!!ユアン載ってんの?マジかよ)

ミライはパニックになった。しかし、考えてみれば、そりゃそうかとも思う。

(そうだよね。ユアン、イケメンだもの)

しかも御三家だ。

「………へー、他にも、うちの学校で載ってる人いるの?」

「いいえ、ユアン様だけですわ」

ミレが言う。

なんでも家柄も大事らしい。あと実際の人気投票で掲載が決まるそうだ。

「ふーん」

(それなら、納得。ユアンって有名だろうし、………やっぱ人気なんだなー)

ミライはなんだか、モヤモヤした。




◇◇◇◇◇◇





(はあ…………)


志穂達と別れて、一人徘徊するミライだったが、やっぱりなんの成果も無かった。伊吹虎は何処にも居ないし、それ所か、すれ違う人もどんどん、減って行く。

放課後になったのだ。


(………寂しい)

ベンチに座って黄昏れる。片手には缶ジュース、空は夕暮れ近く少し赤い。哀愁が漂っている。

「はあ、独りぼっちだ」

俯きポツリと呟いて、ふと視線を感じた気がして、目線をそちらにやるとローブ男、ミシェルが居た。木の影に隠れるように突っ立っている。

(あんな所で何してんだろう?立ち○ョンかな?) 

ミライは下品だった。




暫くぼーっとミシェルを眺めて居ると、ミシェルがこちらに向かって来た。

(げ……。こっち来た……。まあ、暇だし、たまには相手してやっか……)

「……、、、、、」

近付いて来たミシェルは、何かモゴモゴ言っているが良くわからない。

ミライはとりあえず愛想笑いをした。

「どーも」

(どうせ、また逃げるんでしょーよ)

なーんて考えていた。

だがミシェルはその場で尚もモゴモゴ言っている。

「?」

(何?聞こえないんだけど、もう少しハッキリ喋って欲しいなぁ)

暫くモゴモゴして勝手に満足したのか、ミシェルは何処かへ行ってしまった。

「変態にすら置いてかれた……」

ミライはしょんぼりと肩を落とす。

「帰るか………」


(ツバサ君達は、何してるんだろう)




◇◇◇◇◇◇




「だいぶ避けれるようになって来たな」

「うん、なんとかね」

安藤の竹刀を避けながら、ツバサは答えた。特訓の成果が出て来て、竹刀をなんなく躱せる様になって来た。

「それに、意識的に行動すれば、余り疲れないんだ僕。初めて気づいたよ」

ツバサは声を弾ませた。実際、汗だくの安藤に対してツバサは涼しい顔だ。

「はあ、マジ、チートってすげぇな」

「これなら、なんとかなりそうだね!!」

「浮かれんな、ばーか。こっちは身体強化無しなんだよ」

だが、そのセリフに反して、安藤も嬉しそうだ。

「よし、ちょっと早いがもう良いだろ。
おい、おっさんもこっち来い」

安藤が珍妙丸を呼ぶ。次のステップに進むようだ。


「よっしゃ。ツバサ、これからは二人がかりで行くから、また死ぬ気で避けろよ?」

「うん!!頑張るよ!!」

その日、道場は夜遅くまで電気が着いていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...