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60話 不穏の兆し
しおりを挟むミライが部屋に帰ると、青いクマが倒れていた。
「あれ?置き方が悪かったかな?」
またきちんと起こして、ピンクのクマの横に置く。その時、違和感を覚えた。
「ん?匂いが消えてる?おかしいなぁ」
あれ程していた甘い良い匂いが、今は全くしなかった。
次の日、ミライの前には欠伸が止まらない二人が居た。
「ふぁー。ん、ごめん、園田さん。僕達寝不足で………」
「………気付いたら朝方まで修行しててよぉ」
安藤もツバサも、目の下の隈が凄い。
「えっ、朝までって……。大丈夫?」
「ん、わりぃけど、昼間はちょっと寝る」
安藤は既にフラフラしている。眠気が限界のようだ。
(んー、そっかぁ。……昨日は伊吹虎達の事を相談出来なかったし、今日しようと思ってたんだけどなぁ)
チラリとツバサを見るとコックリコックリとツバサも船を漕いでいる。
(また、後でいっか)
今日も相変わらずの自習だ。安藤とツバサは机に突っ伏して寝てしまった。ピクリとも動かない。
(仕方ないか……。またぼっちかぁ……。誰か居ないかな?)
ミライがキョロキョロしていると伊吹虎がこちらに近づいて来た。
ミライは分厚い固い本を用意した。
「おはよう、ミライ!!今、時間は大丈夫か?」
伊吹虎は満面の笑顔だ。ミライも笑顔を向ける。
「む?何故、笑顔で本を握っているのだ?………ぐぬぁっ!!」
ミライは伊吹虎の顔目掛けて本を投げた。クリティカルヒットだ!!
(ざまぁ!!昨日の事は、これで許してやんよっ!!)
「おはようございます。伊吹虎さん、どうしましたか?」
「むむむ………」
鼻を抑えながら、伊吹虎は解せぬと言う顔をしている。だが、ミライの怒りを察したのか、文句は言わない。
「……うむ、昨日の事なのだか、一時保留でお願いするのである」
「え?」
てっきりまた、変な事をさせられるかと思ったミライは、肩透かしを食らった。
「うむ、実はな。なにやら魔物が活発化しているようで、これからすぐに任務に行かねばならんのだ。ワタシも椿も暫くは忙しくなるのである!!なので落ち着いたら、椿の事をちゃんと相談させて欲しいのだ」
伊吹虎は申し訳なさそうに言う。
(魔物の活発化?そんなの、アニメでは無かったのに……)
ほんの少しだけ、嫌な予感がした、だけど気のせいだと、ミライは首を振った。
◇◇◇◇◇◇
午後になって、やっと二人が起きたので、朝の事を相談する。
「活発化ぁ?」
安藤は首を傾げている。
「はい、アニメでは、そんな言葉は無かったけど、ここは一応現実でもあるので、そういう物も有るのかなって……安藤さんはどう思いますか?知ってます?」
「あー?どうもこうも……。まあ、何年かに一度は有ったような気もするぜ?金田に調べさせとくから、あんま心配すんなよ」
安藤はミライの頭をポンポン叩いた。余りにもミライの顔色が悪いからだ。
「……ありがとうございます」
「大丈夫、園田さん?」
ツバサも不安そうだ。
(やっぱり気のせいだよね……)
その後は特に悪い事も起きず、数日が経った。ユアン達の任務は、もう少しかかるらしいが、特に悪い話は入って来ていないので、そちらも何も問題はなさそうだ。一度ブランとマロンが帰って来たが、また、そのまま別の任務へと出掛けて行った。ちなみに、マロンはひょっとこのお面を気に入ったみたいで、ずっと着けているらしい。ブランも相変わらずグラサンだ。あの、メキシカンな帽子は被っていなくて、ミライはホッとした。流石にあれは無い。マロンは可愛いから許す。
「久しぶりだなミライ。寂しくて泣いていなかったか?これを私だと思え、では、名残惜しいが、また行って来る」
去り際にブランにお揃いのグラサンを渡された。
(私にも、コレをかけろと?)
だが断るっ!!!
ツバサ達も相変わらず、修行に明け暮れて居る。だが、何故かミライは道場から追い出されるのだ。
(解せぬ)
そして、一度だけ安藤も任務に行っていた。
(皆、なんだかんだ、忙しいよね。良いなぁ。暇で死にそう………はぁ)
ミライは試験が終わるまで、特にやる事が無い。今日も道場を追い出されてフラフラしていると、また、執事さんが歩いて来た。
「こんにちは」
「………こんにちは」
「………………」
何故か執事さんは、挨拶の後は何も言わずに、じっとこちらを見ているだけだ。
(あれ?顔の傷が無い?回復魔法を受けたのかな?)
手当をしたと言っても流石にアレは数日で治る様な傷では無かった筈だ。ミライが不思議そうに見ていると、執事が手をミライの前に出した。良く見ると、手首から腕にかけて血が出ている。
(ファッッ!!!?)
「えっ!!ちょ!!また、怪我してるじゃないですか?どうしたんですか?」
ミライが聞くと執事さんは、少し迷うように視線を彷徨わせてから
「……自分でやりました」
と言った。
(えっ?……Mなの?!)
ミライは震えた。ミライが震えていると執事は不思議そうに首を傾げている。
「手当てをしないのですか?」
(えぇ?なんなのぉ?どう言う事?)
執事の言葉にミライは困惑した。だが、そのままにもしておけないので、また、近くのベンチで座って待っていて貰う。
幸いにも、此処は寮の近くだったので、この前買った救急セットがすぐ取りに行ける。
戻ると早速手当を開始する。執事さんの腕の傷は、思ったほど深くなくて、ミライはホッと息を吐いた。
(………良かった。これなら、すぐに治るよね)
軽く消毒して包帯を巻いて行く。執事は、じっとその様子を見ている。
「あの、終わりましたよ?」
「………」
「………あの?」
手当が終わり、声を掛けるが、執事は、じっと、ミライを見ている。そして、口を開いた。
「頭は、……撫でないのですか?」
「はあ?」
ミライはポカンとしたが、直ぐに思い出す。この間、手当の後に頭を撫でると言った事を。
(え?!この人、あの時の事を本気で信じてるの?!素直かっ!!)
だが、今更、違うなんて言えず、ミライが震える手で頭を撫でると、執事は立ち上がり、そのまま去って行った。
「……ホントに、なんなのあの人?」
◇◇◇◇◇◇
「うし、そろそろ、ちょっと休憩しようぜ。あちぃ………」
安藤がツバサへと声をかける。安藤は汗だくだ。
「うん。………どうかな?安藤君、僕、少しは進歩したかな?」
水を飲みながらツバサは不安そうに安藤へ尋ねた。
「おー、まあ、避けるだけなら及第点って所か?それだけじゃ駄目だけどな……」
今のツバサは、身体強化した安藤と珍妙丸二人を相手にして、全て避けられる程になっている。かなりの進歩だ。
安藤の言葉にツバサは首を傾げる。
「それだけじゃ駄目なの?どうして?」
「あー?お前の場合は試験で【俺つえー】つーのをしねえといけないからな。一応【佐助】もあるが、アレは有る意味、邪道だ。勝つって言う結果だけ欲しけりゃ問題ないが、見学してる大佐に気に入られる為にはイマイチ、押しが足んねぇ」
安藤は顎に手を当ててなにやら考えている。
「だからよぉ、次は派手に行こうぜ?」
安藤のイイ笑顔に、ツバサは後退る。嫌な予感がしたのだ。
「は、派手って?」
いつ手に取ったのか、抜身の真剣を構えた安藤はツバサへと刀を向けた。
「お前、俺に斬られろや。だから避けんなよ?」
「えー???どう言う事っ?!」
ツバサはサアっと血の気が引く。
(え?もしかして安藤君、怒ってる?僕、なにかしたかな?ハッ?!まさか、こないだ安藤君のプリンを食べたから?いや、それともシュークリーム?いや、あの時のケーキ?それとも………?)
結構やらかしているツバサは、ブルブルと震えた。見当違いな勘違いをして震えるツバサに安藤は苦笑する。
「何、変な勘違いしてんだ?オメェ。………斬られてもぶっ倒されても死なねぇ、何度も立ち上がって来る、そんな男に、興味持たねえ男は居ねえよ。だから、最悪勝たなくても良い。大佐の興味を引けりゃ、それで良いんだからなぁ」
だから、斬られ慣れろ、死なねえんだから、楽勝だろ?と安藤は言う。
ツバサはゴクリと喉を鳴らした。
(死ぬ事は無いけど……、でも斬られたら痛いよ。うぅ……)
そう、傷は治るが痛みは感じるのだ。恐ろしくない訳が無い。
(でも、………)
今はここにいない、ミライの事がツバサの頭に浮かんだ。
(園田さん……)
そして覚悟を決める。
「うん。わかったよ。安藤君」
「はっ、良い顔すんじゃねえか。歯あ食い縛れよ?」
安藤達が青春して居るその時、ミライは中庭で沢山の女生徒に囲まれていた。通常クラスの生徒も混じっている。
「きゃあ、ミライ神様よ!!」
「わあ。この方がそうなのね」
「いつも、尊さの供給ありがとうございます!!」
きゃあきゃあと黄色い声を上げる女子達に、拝まれる。
少し離れた所では、志穂が親指を立ててこちらを見ている。
(後でしばく)
ミライは心に誓った。
彼女達は、志穂から色々と話を聞いた同志達らしい。最近は特別クラスの校舎に来る通常クラスの女生徒も多い。別に来ても良いが今までは怖くて近寄れなかったそうだが、今は安藤やツバサやユアンの絡みを見たいらしい。
「安藤様が、イメチェンをしたのは、ツバサ様が原因って本当ですか?ミライ神様は二人の恋のキューピッドなんですよね?」
「安藤様とユアン様でツバサ様を取り合っているんですよね?萌えー」
「安藤様とジョーンズ先生も……怪しいですわよね。……うふふ」
キャーキャー言ってる女生徒達を見て、ミライは思った。
(安藤死ねっ!!)
完全なる八つ当たりだ。
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