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62話 あれ?また、俺、何かやっちゃいました?

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「お前ら、俺は、ここで見てるから勝手にやりあえ。こっから見てれば、お前らの実力は大体わかるからな」

面倒くさそうなジョーンズ先生の言葉で、実技の試験が始まった。ジョーンズは試験場の上の通路から、怠そうに見下ろしている。

試験場の中は何もない広い空間だ。今は、数人の男子生徒が集まっている。その中にツバサと安藤も居た。バトルロワイヤル形式らしい。試験結果はジョーンズが、各々の戦闘を観察、そして最終結果を踏まえた上で決める様だ。






◇◇◇◇◇◇




実技試験は散々だった。

ツバサが開始早々一人で転けて気絶したのだ。緊張で足が縺れたのだろう。顔面から、地面に突っ込んで行き、動かなくなった。

(嘘やろ?!ツバサ君?!………終わった……詰んだ)

見学していたミライは、額を抑えて天を仰いだ。

頼みの綱の安藤は、何故か他生徒から、執拗に狙われていて、ツバサのフォローまで、手が回っていなかった。

安藤を狙っている生徒は口々にブツブツと呟いている。

裏切り者めっ!!!

イケメン死ね‼イメチェンとかしやがって!!

安藤クン、スキッ♡カッコいいー(野太い声)

その中の一人からは、違う意味で狙われているようだ。

数人から、狙われ続け、安藤は思うように動けず、そして結果は散々。

試験が終わり、二人とも、しょんぼりして戻って来た。

「こりゃ、駄目だな」

げんなりとした顔で、安藤が言う。

「ご、ごめんねっ、ひっく、ひっく、折角修行も付き合ってくれてたのに……、僕……ぼく……ごめんね……。これじゃ、ストーリー通りなんて、無理だよね、……うぅ」

ツバサはボロボロと涙を溢している。

(あーあ、確かに、これじゃ、トリトンは来ないよ。どうしよう)

安易な慰めの言葉は口に出来ない。今回は、間違い無く大失敗なのだから。

ミライが途方にくれていると、遠くの方から誰かがこちらに走って来た。

薄い金髪の前下がりボブ。しかし後ろ髪は長く、少量の髪が尻尾の様に束ねられている。体は細身でシュッとした均等の取れたスタイルだ。そんな青年が、パリっとしたスーツを着て、手を振りながら駆け寄って来る。

「ツバサクーン!!何故、泣いているんデスカー?」

(は?マジで?え?)

ミライは二度見した。それは、今回のターゲット。トリトン大佐その人だった。

目を擦り、もう一度見た。間違いなく、トリトンだ。

チラリとツバサを見ると、ツバサは涙を袖で拭いながら、呟いた。

「ひっく………アレ?ボブさん?どうして?」

(誰だよ?!ボブさん???え?この人、トリトンじゃないの?いや……そんな、まさか)

ミライがあ然としていると、駆け寄って来たトリトンは、ツバサの背中を撫でている。

「ドコか、痛いデスかー?ツバサクン、大丈夫?」

(ええ?どゆこと?)

ミライは震えながらトリトンを指で指す。

「ツ、ツバサ君?その人って?」

「ん?ボクはツバサクンの大親友だヨ!!」

答えたのはトリトン(ボブ?)だ。続いてツバサも満面の笑みになり、

「うん。友達のボブさんだよ」

と言った。

(だから、誰だよ!!ボブさんって?!)



◇◇◇◇◇◇




その日ツバサは一人で出掛けていた。安藤は任務に行き、ミライも見かけなかったので、それなら、少しモールに足を運ぼうと思ったのだ。

(なにか、あの二人にお礼したいなぁ。日頃の感謝のプレゼント。………物を買って、友達に渡すのなんて僕初めてだなぁ。なにか良い物が有ればいいなぁ。………えへへ)

そんな風に浮かれながら歩いていると、数メートル先で、一人の青年がキョロキョロと辺りを見渡していた。そして、通行人の何人かに、声をかけているが、全て無視されている。

(なんだろう?あ……もしかして、何か困っているのかなぁ?どうして皆、無視するんだろう?………よーし)

「どうしたんですか?何かお困りですか?」

ツバサが声を掛けると男は勢い良く振り向いた。

その男の見た目は、丸い瓶底眼鏡に、頭にバンダナ、指ぬきグローブにチェックシャツ。開いた胸元から可愛い女の子の絵が覗いている。そして背中にはリュックだ。

(わあ。お洒落な人だなぁ)

「oh!!やっとヒトに声かけて貰えました!!タスケテください!!迷子デス!!この辺りは、アマリ来たコトがナイのデス……」

(あ……。やっぱり、困っていたんだ。ふふ。勇気を出して声を掛けて良かった)

「はい、もちろん良いですよ。そのつもりで声を掛けたんです。それで、どちらに、行きたいんですか?」

にっこりとツバサが笑うと、男は感激したように震えた。

「なんて優しいおカタ!!ボク、感激デス!!」

両手を握られてブンブンと振り回される。

(ふふ。この人、なんだか、園田さんみたいだなぁ)

この場にミライが居たら、一緒にするなと、しばいてる所である。

「えっと、それが地図ですか?」

男は手に地図らしき物を持っているが、濡れたのか、字が滲んでしまっていて、肝心な所が読めない。

「そーなんデス!!ウッカリ飲み物をこぼしてしまいマシテ」

男はしょんぼりと肩を落とした。

(うーん。これだと、僕にもちょっとわからないかも……あ、でも)

地図をよく見ると、特徴的なイラストが書いてある。

「うーん?なんだろう?これって女の子の絵ですよね」

「うぅ、スミマセン……。知りマセンよね。……一人で探しマス」

また、男はしょんぼりと肩を落とした。

「いえ、二人でなら、きっと、もっと早く探せます。僕、急ぎの用事が有るわけでも無いですし、最後まで付き合いますよ」

「な、なんてお優しい………」


結局ツバサが、通行人に聞き込みをしたら、すぐに、目的地が分かった。ちょっとした有名なお店だそうで、地図に乗っていた絵を見た人が教えてくれたのだ。

折角だからと店まで着いていくと、店の中には女の子を模した人形や、女の子の絵が色々飾ってあって、ツバサは、マロンちゃんやエリカちゃんみたいだなぁと和んでいた。

そして何故か今、ツバサは男と食事をしていた。

「お礼デスから、遠慮セズ、いっぱい食べてくだサイ!!ツバサクンは命の恩人デス!!」

テンション高く、ボブと名乗ったその男は、楽しそうにハンバーガーを齧っている。

「それに、限定のフィギュアも二つも買えまシタッ!!ソレもコレも、全てツバサクンのお陰です!!」

マロンに似た幼い女の子の人形に頬ずりをしながら、ボブは頬を染めている。

(ふふっ、ボブさんも、子供好きなのかな?)

ツバサは和んだ。

ツバサ気づけ、その好きはお前の好きとは違う。

「このお人形を買う為に来たんですか?」

「いえ、……ちょっとした用事のついでデスヨ」

「へー、そうだったんですね。……あ、そう言えば、そのお人形、僕の友達に似てるんです。ほら」

ツバサは最近撮った、エリカとマロンとツバサのスリーショット写真をボブに見せる。その瞬間、また両手を掴まれた。今度は先程よりも握る力が強い。

「ツバサクン!!ボクの親友になってくだサイ!!」

そしてそう叫ばれたのだった。


そうしてツバサとボブは友達になった。

ボブは別れ際に、

「ツバサクン!!きっと、またすぐに会えマス!!困ったコトがあったら、次はボクが助けマスよ!!」

と言った。




◇◇◇◇◇◇



「と、言うわけなんだ。あれ?どうしたの、園田さん?」

ツバサの前には、目が死んだミライが居た。

チラリとトリトンを見る。トリトンは、ツバサを心配しながら、何かを探すようにキョロキョロしている。トリトンは心なしか鼻息が荒い。

(こいつ………。マロンちゃんとエリカちゃんを探してるな?)

ミライはそう思った。

「o!!ツバサクン。そう言えば、実はボク、嘘ついてマシタ。本当は名前、ボブ違いマス。本当の名前はトリトン・ウル・咲城言いマス。ボブはペンネームデス」

トリトンはツバサにウインクしながら言う。

「え?トリトン……!!そ、そうなんですね。ペンネームって?」

ツバサが尋ねるとトリトンは下手くそな幼女らしき絵が描かれた紙を出した。

「絵を描くトキの名前デス。ドウデス?可愛く描けているデショウ」

(なんてこった……)

ミライは頭を抱えた。安藤はポカーンとしてる。

(これが大佐?マジで?嘘ぉ……。トリトンってこんなキャラだっけ?)

「それよりも、ツバサクン。あの、写真のお友達は?」

トリトンは辛抱できなくなったのか、自分から話題を振って来た。

「ああ、エリカちゃん達なら、今任務でいないんです」

「oh……そうですかぁ、ソレはとっても残念デスね。でも、ツバサクンに会えたので大満足デス」

そう言ってトリトンはニコニコしている。

(え?ツバサ君も守備範囲なのっ?)

ミライは震えた。

(っと……それよりも今は)

とりあえず、ミライはツバサにアイコンタクトする。ツバサはそれに気づいて頷いた。

「それよりも、ボ……トリトンさんは、どうしてここに?」

「お仕事デス」

「な、なるほど………」

結局その後は、少し談笑したらトリトンは仕事に戻ると言って去って行った。

ただ最後にツバサに連絡先を渡して

「いつでも連絡して下サイ。何かあれば、今度はボクが、絶対にオタスケしますよ」

そう言ってウィンクしていた。





◇◇◇◇◇◇




今、道場は沈黙に包まれている。ちゃぶ台を囲んで無言の三人を、珍妙丸が少し離れた所で心配そうに見ていた。


30分静寂が続き、安藤が動いた。

「おい、なんだアレ?」

素直な疑問である。

「…さ、さあ?」

ミライもわからない、と言う顔で答える。ツバサも頭をひねっている。

「あー?結局、これで良いのか?」

「一応、助けは得られる関係性になりましたよね。ただ、アニメでのトリトンは、あんなオタクでロリコンじゃ無かったはずなんだけどなぁ……」

ミライはうーんと唸る。そう、アニメのトリトンは、もう少しまともだった。

「キミ、凄く面白いデスねー?ボクとも勝負しませんカ?」

と、いきなり登場して、主人公と戦闘して、引き分けて

「hahaha!!素晴らしい!!早く軍に来てくだサイ。待ってマスよ。ツバサ」

と言って去っていくのだ。アニメでは。

「まあ、結果オーライか?それとも、これも強制力か?それなら、放っといても、今後も上手く行くんじゃねーの?」

安藤の言葉にミライは、眉を顰めた。

「そうなんですかね?でも、周りくどすぎる気がしません?……今回はたまたま、上手く行っただけで、楽観視は危険ですよ」

「まあ、たしかになぁ……」

悩む二人にツバサは、あっけらかんと言う。

「まあ、終わった事だし、それより次の話に進まない?」

(図太くなって来たね。ツバサ君)

ミライは遠い目になった。


次は、5、6、話だが回想が多い回だ。まず、試験が終わり7月になると、申請すれば長期休暇が貰える。所謂夏休みだ。

主人公はヒロイン達。エリカと志穂、それとメイドのリリンの3人を連れての夏休みドキドキ修行回だ。昔、ツバサが老剣士と修行した山に行って過去を回想しながら、時々ラッキースケベを交えつつ、必殺技を会得するのである。要するに主人公達のキャラ掘り下げと、ヒロインとのサービス回だ。


ノートを見ながら相談しつつ、三人は思った。これってどうするの?と

「………要するに、修行すりゃ良いのか?場所は?」

「いや、ただの背景森だったんで、場所は、わかんないですね」

「これはパスしても良さそうじゃね?」

そう安藤は言う。

「確かに。本筋にはあまり関係ない。過去の掘り下げとヒロイン達とのサービス回みたいな物ですからね……」

確かにそれなら、パスしても、良さそうではある。

「それじゃあ、どうするの?その次までには結構、期間が空くよね。夏休み……。何もしないの?」

ツバサの言葉に安藤が口を開いた。

「あー……それじゃ、うち来るか?」









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