もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング

文字の大きさ
6 / 42

SCC開幕!

しおりを挟む
 変化のないように思えた春風も、四月の初めとは違う色を含んで吹き始めた頃。

 小牧の大会初参加の門出を祝うような好天の下、当の小牧は蟹江と会場への道のりを歩いていた。



「蟹江さん。着いてこなくてもよかったんですよ」



 隣を歩く蟹江に遠慮の口ぶりで言った。



「お前が道に迷うとといけないから、会場まで歩いて案内することにした。お前に無駄な気を回させたくないからな」

「親切にしてくれて嬉しいですけど、蟹江さん会場で仕事とかあったんじゃないんですか?」

「仕事があってないようなもんだからな。大会前の準備は師匠が一人で済ませたっていうから、俺の仕事はほとんど答え合わせの時だけだな」



 ほんとかな、と小牧は師匠がわざわざ自分に都合を合わせてくれたように思えて、蟹江の横顔に表情に目を注いだ。しかし、出会って日が浅い小牧は、横顔から師匠の心づもりまで察することができない。

 しばし会話が途絶えて、小牧が何か話してほしいなと蟹江に目を向けようとした時、ふいに蟹江が道路を挟んだ向かいの建物を指さした。



「あれが会場の刈谷メモリークラブの入っているビルだ」



 交差点の横断歩道を渡った先に建っているテナントビル。その三階の窓には『KMC』とカラフルに描かれた三文字のアルファベットと、その横に『刈谷メモリークラブ』のローマ字表記の円環を、ソフトな線描の象が潜っている横断幕が垂れている。



「輪っかを潜ってるの、ゾウですよね」

「ゾウは記憶力が良い動物らしい」

「記憶力競技のモチーフに最適ですね」



 感心するような気持で、小牧は横断幕の中の象を見上げた。

 横断歩道の信号機が青に灯り、二人は横断幕から目を外して道路を渡った。

 テナントビルの入り口傍にはSCC受付は三階休憩室、という立て看板が立て掛けられている。

 蟹江は小牧とともに休憩室に向かい、受付の知り合いに刈谷の居場所を訊くと、会場にいるというので大会前の挨拶をしと小牧の紹介を兼ねて会場に向った。

 会場のドアを開けると、壁掛けのホワイトボードの前で、赤マーカーで席割りを記入している刈谷健が二人の入室に気付き振り向いた。



「やあ、蟹江君。今日は進行補佐をしてくれるんだよね。仕事の内容は昨日伝えた通りだから」

「あっ、あの時の人!」



 蟹江の背後から刈谷を見た小牧が、驚きに口を開け刈谷を指さした。

 突然自分を指さし驚いている少女に目を向けて、刈谷はしばし眉を寄せて記憶を探った後、ああ、と合点がいき少女に微笑みかけた。



「君は前回のSCCで会った子だね?」

「はい。そうです」



 小牧が頷くと、やっぱりかと刈谷は自身の記憶の正確さを誇りたくなった。



「SCCに来てくれてありがとう。それで君は今日、出場するのかい?」

「はい。初心者ですけど、出場するつもりで来ました」

「それは嬉しい。ところで不躾を承知で聞くんだけど、蟹江君とはどういう関係で?」



 小牧から視線を外して、隣の蟹江に目を向ける。



 答えようとする小牧より先に、蟹江が言葉を返す。

「師匠。この子は俺の弟子です」

「弟子。はあ、蟹江君にも弟子が出来たか」



 さも驚いたことを人にわからせるためか、わざとらしく目元を緩めた。

 思うより師匠の反応が薄く、蟹江は確かめるように尋ねる。



「師匠。ほんとに驚いてます?」

「そりゃもちろん」

「でもそのわりには、たいした声も上げないじゃないですか」

「いつかは訪れることだと予想はついていたからね。しかし、あの時の少女が蟹江君の弟子になっていることは全くの予想外だったけどね」



 ははは、と気楽に笑う。そして小牧に水を向ける。



「君はどうして蟹江君の弟子になろうと思ったんだい? やっぱり日本記録保持者だからかい?」

「あー、それも理由の一つにはありますけど、でも弟子になろうって決めた理由は、その……」



 小牧は答えかけて、急に言葉に詰まった。

 照れるようにちょっと首を竦めて、



「格好良かったからです。その前のSCCでスピードカードしてる時の師匠が」



 格好いいか? と蟹江は小牧の答えに、自ら疑問を感じずにいられなかった。蟹江にはトランプを繰って、頭の中だけでプレイスにイメージを貼り付けるのに没頭している人にしか見えない。

 刈谷はふと壁の時計を見た。

 SCC開始の三十分前で、出場者が増える時間帯だった。



「そろそろ準備を急がないと。二人の話はまた暇がある時に聞くよ」



 刈谷はそう告げて、二人が来るまで記入に勤しんでいたホワイトボードに向き直った。 

 準備の邪魔をするわけにはいかず、蟹江と小牧はひとまず休憩室に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

処理中です...