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仮面の宴 ~君のためのマリオネット~
しおりを挟む私は、羽毛のような柔らかさと繊細さを持つ、この店オリジナルの雛人形が好きだ。
だから毎年二月下旬となると、岡山県真備町にある「吉備人形店」に雛人形を見にくるのを楽しみにしている。
申し遅れたが、私の名前は、
多田かおり
倉敷文化大学に通う二年生の女の子。
ちょうど一ヵ月ぶりに、実家へと戻ってきたんだけど、
実は本音は、このお店の人形目当てなんだよね。
それを人に話すと、笑われそうだけど、でもそれでいいのだ。
そんな密かな楽しみの一つや二つ、誰しも持っているはずだから。
そう、それが乙女というものです。
井原線「備中呉妹駅」で下車し、蓮華の咲く並木道を通った私は、
「吉備人形店」の前で、愕然とした。
なんと、ショーウィンドーには、雛人形が飾られているんだけれど、
お店の出入り口のシャッターが閉まっていたからだ。
最低、どうしてよーっ。
せっかく帰省してきたっていうのに!
中にある、オリジナルの雛人形、見れないんだ!
だけど、ショーウインドーに飾られた雛人形が、風格と気品を漂わせてくれているだけでも、マシですかな。
でも、駄々っ子の私は、どうしても納得がいかない。
だけど、だけど、
まっ、これを見ただけでもいいことにしよ~う。
そう言いながら、「喜」と「怒」の表示のある感情メーターの針を、
スマイル度0の位置まで戻した。
そして、明るい顔を取り繕い、実家へと向かうことにした。
時折、口笛を吹きながら。
付近には古墳も存在している歴史の趣きの深いこの町の道路を二〇分ほど歩く、
歩く。
すると、ようやく大きな屋根瓦と、松の木の植えられてある私の実家が見えてきた。
「ただいま帰りました」
開ける度にガラゴトと、
行き交う電車音にも似た音を周囲へと響かせる、
愛嬌たっぷりの門扉を開け、玄関へと入る。
すると、即座に祖父母の手厚い出迎えが!
そう、この瞬間こそ、自分がこの屋敷の姫。
それもかぐや姫であることを実感させてもらえる至福の時なのである。
実際、この町のタケノコって有名だしね。
そしてその夜、六〇を過ぎた今でも、
吉備美人である祖母の手料理にもてなされた私は、飢えかけていた愛の補充をしっかりと済ませて、その夜はそのまま床に就くことにした。
そして、翌二月二十六日の日曜日も「吉備人形店」へ足を運ぶことにした。
「あら、ららら」
昨日は確かにそこにあった、ショーウィンドーの中の人形たちが姿を消し、
ひな壇の壇だけがそこに展示されていた。
でもよく見ると、中央に、0(ゼロ)と書いた用紙が置かれている?
とうとう店じまいをするのかな?
私は一瞬、肩をすくめた。
そして、翌二十七日。
吉備人形店の前を通った母親から、
「かおりちゃん、あそこの店の人形ね、今日は飾られていたみたいよ」
とのメールを、
ドイツ語の講義中に受け取った。
そして、早速、帰りに寄ってみることにした。
ホント、雛人形好きな私。
「なっ、なによ、これぇ」
色に例えると、灰色のような色気も何もない声を上げてしまった私は、
眼鏡を掛けなおし、ショーウィンドーへと足を一歩踏み出す。
店は今日も閉店中なのだが、
ウィンドーの中のひな壇には、
妙なことに、白いTシャツを着た男雛と女雛だけが並んでいた。
「んっ、男雛の着ているTシャツに、
何か書いてある。
これはアルファベットのKだわ。
じゃあ、この女雛の胸に書いてあるロゴの方はAね。
でも、どうしてこんなロゴ入りのTシャツなんかをお雛様の服に」
二つの雛のTシャツの胸元部分に記されていた文字を見て、
それがアルファベットの
K
と
A
だと確信した私は、何とも不思議な気持ちのまま、その場へと立ち尽くしてしまった。
そして、その翌日の二十八日も、
学校帰りにお店へと立ち寄った私は、また不思議な光景を、
吉備人形店のショーウィンドーの中に発見してしまった。
まず、ひな壇の上へと置かれている二体の人形の置かれている位置は、昨日と同じだが、
K
と
A
と書かれたそのTシャツの
襟元部分だけ、昨日と色が違っている。
そう、Tシャツの色は二体とも白いが、何故か襟元だけが、二体とも黒色に変わっている。
もちろん、汚れなどではなく、着色された色のようだ。
これは何かあるのでは?
そう思った私は、今日こそ店主へと聞いてみようと、
南にある玄関の方へと回り込み、煤の溜まっている呼び鈴を押してみた。
しかし、まったく応答がない。
仕方ないか、今日のところは帰ろう。
ため息をつき、そのまま退散することにした。
翌三月一日。
「何よ、これって恐怖映画」
私のテンションは急速に、チェンジアップしていく。
そう、今度はなんと二つの雛の姿は消えて、その代わり、
ひな壇の中段付近、
ちょうど私の側から見た左手に、
三人官女と思われる三体の人形と、その隣に満月の模様の描かれた
大きめの絵皿が一つ、
そしてその右隣に、同じく三人官女の人形が置かれてあった。
つまり、月の描かれた絵皿を中心に、
左右対称に三人官女が並んでいるといった構図だ。
だけど、この不思議な配列は、それだけではなかった。
なんと左右に、
三体ずつ並ぶ三人官女の顔には、
お面が付けられていたのだ。
それも和風の物ではなく、西洋の仮面が。
これは新種の雛人形なのだろうか、
私は腕を組んだまま首を傾げた。
「だけどこの仮面って、どっかで見た覚えがあるんだけどな、でも、どうしても思い出せない……」
この不可解な雛人形を前に、混乱状態……。
ううぅん。
思考停止寸前の頭。
それを思いっきり横に振り、一呼吸を置いて、
青空を見上げた。
「よし、多田かおり二〇歳
この桜色の脳細胞を駆使して、この謎を解いてやろう! 」
だけど、そう勢いたったのだったのもつかの間。
謎を解くために必用な思考能力が、
二乗分は足りないことに、数時間後に気付いた。
そんなわけで、早急にダウンなのだ。
でも就寝前にはね、
開き直り指数の目盛りを、百度まで上げてから、
そのまま素直に寝ちゃうことにした。
ああ、駄目な私。
翌三月二日。
学校帰りに、
白壁の町「倉敷駅」前の美観地区入口でバスを降り、
コンビニでサンドウィッチを二つ買うと、
メビウスの輪を描くようなスキップをしながら、駅の方へと向かった。
商店街を潜り、駅ビルへと続く地下街をずんずんと進んでいく。
ムンムンと臭ってくる、おじ様たちの体臭の漂う迷路をすり抜けながら。
しばらく進んだ先に見えた階段を上がり、
「探偵センセッ、いるかな」
そう、つぶやく。
そして、ほんの気持ち程度、駆け足になる。
超お気に入りマークのスニーカーも、可愛い音立ててくれてるしね。
商業ビルの階段を三階まで上がり、
エレベーターフロア前まで行った私は、
そのすぐ斜め左に立てかけた「新世紀探偵館」という看板前で足を止めた。
「すみませ~ん」
店の扉を開き、
デスクに腰かけていた
白馬小路三世先生に一礼。
そうここは探偵事務所。商業施設にあるのも珍しいけれど、何でもここのビルの社長がこの先生のファンらしく、ここに出張所を設けて、特にここ数か月は、滞在してほしいと頼まれたんだって。
う~ん、凄い探偵さんなんだね。
でも、実はよくは私も知らない。
それに三世って何よ?
まぁ、そんな身の上話はいいか。
「かおり君じゃないか。
先月の東海道新幹線事件の時、君がいたことで、犯人逮捕までがスムーズにいったし、
あの時は、助かったよ。
ありがとう」
新幹線事件。
車内で切り裂き魔が現れた時に、
とっさに、皆に、手持ちバッグを、犯人めがけて投げつけろと、この探偵先生が呼びかけ、それで犯人の動きを封じた、とっさの素晴らしいアイデアで、逮捕。
さらに、その後、その犯人が、逮捕後に逃走した時に、その行方を推理され、
動機まで解き明かした、本当にびっくりな事件でした。
「ところで、今日は、何用かな?
寮内で、揉め事でもあったのかい」
「いえ、
ちょっとお尋ねしたいことがあるんです」
「さては、
恋煩いとか、かな?」
背後のジョン・レノンのポスターと似たような髪型に、胸に六芒星のペンダントを身に付けた
白馬小路探偵は、
腕に抱くシャムネコのリルケを撫ぜた。
「違いますよ。そんなことなら、探偵先生には相談しませんて」
「確かに、そうだね?
では、話を聞こうじゃないか」
「はい、よろしくお願いします」
私は、吉備人形店で目撃した不可思議な人形のことを話し始めた。
「なるほど。
吉備人形店のウィンドー内に並ぶ人形の謎か。
面白そうだね。
それじゃあ、今から、一件、長電話で応対する仕事があるから、
それが終わり次第、
真備町へ出かけようか」
「ホントですか」
「あぁ、では目安一時間か一時間半には、終えるようにするから、
屋上駐車場で待ち合わせよう。
いいかい」
先生の言葉に対して、即座に返事をした私は、大好きなラテン調のリズムで椅子から立ち上がると、いったん探偵事務所を出て、
地下街にあるファースト・フード店へと向かった。
しばらくし、
ポテトもバーガーも胃の中で満足マークを描き始めた頃、
そろそろかなと、屋上を目指した。
大学の入学祝の際におじい様に買ってもらったブルガリの腕時計に目線を落とし落とし、
探偵先生の到着を待つ。
んっ、少し足が冷えてきたわ。
「待たせたね」
エレベーターの方から声。
その声の方に向かう。
足が冷え始めていたことも忘れて、探偵先生の白いロータス・ヨーロッパという古い外車へと乗った。
さぁ、ミステリーツアーのスタートだ。
んっ、ちょっと違うか?
倉敷駅を後にしたロータスは、
旧チボリ公園跡北側へ回り、
そのまま清音方面へ向かう。
何だか、とっても乗りにくいこの外車でのドライブ中、人形店で観たここ数日の雛人形の異変を、探偵先生に説明することにした。
なるほど、なるほどと、
相槌を打って聞いていく先生。
そして、時々、首を傾げては、窓の外を見つめていた。
そろそろ清音駅に近付いてきた。
駅の近くを左折。
西へと進んだ私たちは、
真備町の看板に出迎えられながら、さらに西へと進路を取った。
「探偵先生、いえ、白馬小路先生、その先の十字路を右折してください」
「了解」
先生は、素直に私のナビに従ってくれた。
そのまま数十メーターほど進んだ辺りでブレーキを踏んでもらうよう、私はジェスチャーで伝える。
ちょうど鼻詰まりが襲ってきたもので。
クション、ズズ、ズ。
藤棚模様のハンカチで鼻を抑えながら
「白馬小路先生、あそこです」
一瞬、ガラモンみたいになった私の声が、天井まで響く。
でも私の指示も虚しく、この通りは駐車禁止だったので、店を過ぎた先の曲がり角を右折後すぐに見つけた空地横へと、探偵先生は、車を停めた。
急速に体温を失っていく私の肩に、
持ち合わせていたコートを掛けてくれた。
優しい。と、思わず、声が出る。
そして、吉備人形店の方へと向かった。
時刻は午後八時。
店の周囲には人気がなく、
ただ北風だけが、私たちの足元に落ちている木の葉をブランコのように揺らしているだけのようだ。
店の前で足を止めた私は、
次の瞬間、一歩、後ずさりをした。
そう今度は、ここから見た左手に、
仮面を被った二体の太鼓持ちと、
同じく仮面を被った一体の台笠が、昨日と同じひな壇の中段付近に並び、
少し幅を開けたその右手に、同じく仮面を被った一体の立笠と、二体の太鼓持ちが並んでいた。
そして、妙なことに、
台笠の持つ笠の先と、立笠の持つ笠の先が、お互いの顔を向けながら、
まるでアルファベットの
X
を描くようにクロスして置かれていた!
ゾッ!
背筋に寒気が走る。
んっ、
Xの下
なんだ、
山盛りの御膳がある。
「白馬小路先生、わたし、恐いです」
寒さと恐怖で、眉が震える。
そして私は、ここへ来たことを後悔してしまった…。
「大丈夫だよ。
第一、そもそもここへ私を誘ったのは誰だったかな?」
「私……です」
「素直でよろしい。
でも確かに恐いね。
だけど、これは明らかに人為的なものだ。
ほら、ショーウィンドーに明かりが灯っている。
やはり、これは何かを示す信号かもしれないね」
「信号ですか。一体何の」
「それはまだ不明だね。
だけど、ファジーながらも、おぼろげな感覚はつかめそうな予感はしてるんだが。
でも現時点ではまだ何とも言えないね。だけどあの仮面を、君は見た記憶があるって言っていたけど、まだ思い出せないかい」
「う~ん、そうですね。でも少し考えてみることにします」
私はしばらく考える人のポーズを取り、思考の掃除をした。
その間、白馬小路先生は携帯していたデジタルカメラを、ひな壇へと向け始めた。
「先生、思い出しました、
あれはクロノスの仮面です。
十年ほど前、この人形店に飾ってあったのを見た時、店の人に名前を聞いたら、
『これはクロノスだ』って、
店主のおじさんに教えてもらいました。
あれっ、でもクロノスって、何ですか?」
「ギリシャ神話に出てくる『時間の神様』だよ。
だけど、クロノスの仮面を、何故に雛人形に……」
先生がそう口にしたと同時に、ふっと私は突然の眩暈に襲われてしまった。
「大丈夫かい」
「せ、先生、私もう限界みたいです」
寒さと恐怖でふらついた私を、先生は優しく抱きかかえてくれた。
「今日はもう帰ろう」
先生の言葉にうなずき、車へと戻って行くことにした私たちは、
野球帽を被る一人の中年男性とすれ違った。
ここに来て初めてすれ違った人のせいか、妙にその姿が脳裏に焼きついた。
だけどもう、今夜は眠りたい。
翌三月三日。
大学の講義も終わった頃、白馬小路先生から電話が入った。
「かおりくん、わかったよ。
バラバラに散りばめられていたモンタージュは今、全てクロスした」
先生の声が、いつもながらに弾んでいる。
すぐ電話を切り、大学から百メーター先にあるコンビニで待ち合わせた私は、先生のロータスで真備町へと向かった。
「先生、クロノスの謎が解けたって、本当なんですか」
「ああ、詳しいことは、到着後、説明するから」
私は、涼しげな顔でそう言う先生の横顔を、信じることにした。
真備町へ到着後、昨日車を駐めた場所と同じ場所にロータスを駐車した先生は、車のドアを開閉後、人形店の方角へ向け、ゆっくりと足を踏み出した。
「まず、君が最初に見た日の白シャツの文字からいこうか。
あれはね、KとAで、おそらく『か』を指していたんだよ」
唐突に先生は唇を動かし始める。
「そして、その翌日の襟の汚れだけど、あれは素直に襟に注目しろと言うことを指しているから、
そのまま『えり』と読むのさ。
そして問題のクロノスの仮面を被っていた二セットある三人官女だが、
あれの意味はね、左右に三体と、三体あるから、三と三でいいのさ。
そして真ん中に何があった」
「月の描かれた絵皿でしたが」
「それを続けて読んでごらん、三と月と三で、三月三日とならないかい」
「あっ」
私は声を上げた。
「そう、そして、昨日見た左側の二体の太鼓持ちと一体の台笠も、
数字の三と解釈し、同じく右側の三体も三と解釈する。
で、今度は三と三の間にクロスした笠が入るから、
まあ笠と言っても長槍のみたいに長いから、このクロスをXではなく、算数の掛けると解釈する。
つまり×だ。これを続けて読むと、
三×三で九。
そして、これらの人形は、
時を象徴するクロノスの仮面を被っているから、
九時と解釈。
そして最後に、振り出しへと戻り、
君が二月二十六日に見たひな壇の上に、
一つの人形も置かれてなかった、あのひな壇をゼロと解釈し、さらに、それを強調するかのように、
〇
と書いた用紙が置かれていたはずだ。
だからね、
○
これを数字読みすると、
オーと読めるだろう?」
「はい!」
「では、これを続けて読んでみると、どう読める?」
続きは、
コチラで。
↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VG8SXY6
しかし、また、ここでも公開予定です!
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