6 / 55
サマー・ベジタブル
めざめ(その5)
しおりを挟む
再び、あの悪夢が現実のものになろうとしていた。
巨大な影。
もうその存在は知っている。
ニンゲンたちだ。
そのニンゲンたちが、あの死を予感させる刃を手に、天を覆っている。
「……覚悟を決めろよ親友」
これから何が起きるのか。
そのことについて、事前に親友が教えてくれていた。
これは必要なことなのだと。
だが、理解と感情は別だ。
「……ああ」
答える声が震えるのを堪えることはできたと思う。
恐怖はある。
だが、動揺はしない。
吾輩は誇り高く生きると決めたのだ。
それは親友も同じだろう。
声が強張っているのには気づいたが、それを指摘するようなことはしない。
親友には目的があり、ここで死ぬわけにはいかないことも知っている。
応援したい気持ちはあるが、それを口に出すことはしない。
親友は親友の意志で生きているのだ。
他人がそれに口を挟むのは無粋というものだろう。
ジョキン……ジョキン……
一瞬だった。
祈りを捧げる暇さえない。
上半身と下半身を切断され、吾輩と親友は天に向かって持ち上げられていく。
かつて、子分たちが見たであろう景色。
だが、これから見るであろう景色は、子分たちとは違う。
そのはずだ。
『今日は接ぎ木をするぞ』
ニンゲンどもの声が空気を振るわせ、踏ん張るための下半身を失った吾輩は、ただ揺れることしかできない。
『わかりました』
様々な方向からやってくる空気の振動に翻弄される。
切断面から力が抜けていく。
しばらくは手で光を浴びて創り出すエネルギーで生き延びることはできるだろう。
だが、しょせんは焼け石に水だ。
このままでは、やがて干乾びることは明白だ。
ぴとっ……ぐいっ……
浮遊感に包まれたかと思うと、吾輩は何かに括り付けられ、固定された。
無様に大地に倒れ込むことは無くなったが、自分の足で立っていない不安定さに、無力感が心を満たす。
まるで、はりつけにされた罪人のような気分だ。
「よう……親友……」
弱々しい声が聞こえてきた。
そちらを見ると、親友が吾輩と同じように、はりつけにされていた。
弱ってはいるが、ぎらついた表情は変わらない。
「どうやら……生き延びることができたらしい……」
親友は欠片も絶望していないようだ。
だが、楽観できる状態でないのは間違いない。
「このざまでか?」
吾輩も親友も瀕死といった有様だ。
こういってはなんだが、強がりにしか聞こえない。
それは吾輩も同じではあるが。
「足元を見てみな」
親友の自信は、ただの精神論ではなく、根拠があるようだ。
「足元?……これは!」
言われるがまま、視線を移動させる。
切断された下半身には、代わりのように別の下半身が繋げられていた。
同族の下半身のようにも見えるが、微妙に違うようにも見える。
どちらにしろ、他人の下半身であることには違いない。
当たり前だが下半身の感覚はない。
当然だ。
切って繋げただけで身体を取り換えることができるわけがない。
「これでオレたちは、より強くなれる」
だが、この下半身こそが親友の自信の源のようだ。
「こんな死体の下半身に乗せられただけでか」
疑うわけではないが、弱々しい声で強くなれると言われても、素直に納得はできない。
「今は自分の身体だという自覚はないだろう。だが、いずれこれがオレたちの身体と融合される」
自覚がないのは、その通りだ。
だが、融合とはなんだろう。
「融合?」
なんの捻りもなく、そう尋ねる。
「ああ、オレたちにはその能力がある。もっとも、この弱った状態を乗り越えられたらの話だがな。試練ってやつだ」
身体の一部を他と入れ替えるなど、信じられない話だ。
だが、信じるしかない。
ニンゲンどもも馬鹿ではないだろう。
吾輩たちの生死を支配しているのだ。
意味のないことはしないだろう。
「試練か。望むところだ」
今はただ信じるしかない。
だが、信じるのはニンゲンどもではない。
親友の言葉だ。
「そのいきだ。この下半身はオレたちの元の身体より頑丈だ。今までよりも力強く大地を踏みしめ、水や養分を吸収することができる。さらに、病気にも強いと至れり尽くせりだ」
それは、吾輩たちにとってはメリットだ。
だが、下半身の元の持ち主にとっては逆だろう。
「あらゆる面で、吾輩たちより優秀な生命体ではないか。なぜニンゲンたちは吾輩たちではなく、そいつらを生かさないのだ」
それを考えられずにはいられない。
自殺願望はないが、弱肉強食は自然の摂理だ。
「さあな。やつらの考えることは分からん。だが、オレたちに都合のいいのは確かだ。せいぜい、それを利用させてもらうとしよう」
さすがに、そこまでは親友も知らないか。
なにかしら、吾輩たちの方を選んだ理由はあるとは思うのだが。
「そうだな。結論の出ない疑問を考えるより、そちらの方が建設的か」
犠牲の上に生かされているというのは気が引けるが、明日は我が身かも知れないのだ。
同情はしない。
吾輩にできることは、犠牲になったものたちを無駄にしないように、生き抜くことだ。
ニンゲンが吾輩たちの何に価値を見出しているかは分からないが、その価値を高めることが生き残ることに繋がるのだろう。
それを突き止めよう。
そして、それの一番になろう。
吾輩の目的は決まった。
一番になって、吾輩の価値を認めさせてやる。
巨大な影。
もうその存在は知っている。
ニンゲンたちだ。
そのニンゲンたちが、あの死を予感させる刃を手に、天を覆っている。
「……覚悟を決めろよ親友」
これから何が起きるのか。
そのことについて、事前に親友が教えてくれていた。
これは必要なことなのだと。
だが、理解と感情は別だ。
「……ああ」
答える声が震えるのを堪えることはできたと思う。
恐怖はある。
だが、動揺はしない。
吾輩は誇り高く生きると決めたのだ。
それは親友も同じだろう。
声が強張っているのには気づいたが、それを指摘するようなことはしない。
親友には目的があり、ここで死ぬわけにはいかないことも知っている。
応援したい気持ちはあるが、それを口に出すことはしない。
親友は親友の意志で生きているのだ。
他人がそれに口を挟むのは無粋というものだろう。
ジョキン……ジョキン……
一瞬だった。
祈りを捧げる暇さえない。
上半身と下半身を切断され、吾輩と親友は天に向かって持ち上げられていく。
かつて、子分たちが見たであろう景色。
だが、これから見るであろう景色は、子分たちとは違う。
そのはずだ。
『今日は接ぎ木をするぞ』
ニンゲンどもの声が空気を振るわせ、踏ん張るための下半身を失った吾輩は、ただ揺れることしかできない。
『わかりました』
様々な方向からやってくる空気の振動に翻弄される。
切断面から力が抜けていく。
しばらくは手で光を浴びて創り出すエネルギーで生き延びることはできるだろう。
だが、しょせんは焼け石に水だ。
このままでは、やがて干乾びることは明白だ。
ぴとっ……ぐいっ……
浮遊感に包まれたかと思うと、吾輩は何かに括り付けられ、固定された。
無様に大地に倒れ込むことは無くなったが、自分の足で立っていない不安定さに、無力感が心を満たす。
まるで、はりつけにされた罪人のような気分だ。
「よう……親友……」
弱々しい声が聞こえてきた。
そちらを見ると、親友が吾輩と同じように、はりつけにされていた。
弱ってはいるが、ぎらついた表情は変わらない。
「どうやら……生き延びることができたらしい……」
親友は欠片も絶望していないようだ。
だが、楽観できる状態でないのは間違いない。
「このざまでか?」
吾輩も親友も瀕死といった有様だ。
こういってはなんだが、強がりにしか聞こえない。
それは吾輩も同じではあるが。
「足元を見てみな」
親友の自信は、ただの精神論ではなく、根拠があるようだ。
「足元?……これは!」
言われるがまま、視線を移動させる。
切断された下半身には、代わりのように別の下半身が繋げられていた。
同族の下半身のようにも見えるが、微妙に違うようにも見える。
どちらにしろ、他人の下半身であることには違いない。
当たり前だが下半身の感覚はない。
当然だ。
切って繋げただけで身体を取り換えることができるわけがない。
「これでオレたちは、より強くなれる」
だが、この下半身こそが親友の自信の源のようだ。
「こんな死体の下半身に乗せられただけでか」
疑うわけではないが、弱々しい声で強くなれると言われても、素直に納得はできない。
「今は自分の身体だという自覚はないだろう。だが、いずれこれがオレたちの身体と融合される」
自覚がないのは、その通りだ。
だが、融合とはなんだろう。
「融合?」
なんの捻りもなく、そう尋ねる。
「ああ、オレたちにはその能力がある。もっとも、この弱った状態を乗り越えられたらの話だがな。試練ってやつだ」
身体の一部を他と入れ替えるなど、信じられない話だ。
だが、信じるしかない。
ニンゲンどもも馬鹿ではないだろう。
吾輩たちの生死を支配しているのだ。
意味のないことはしないだろう。
「試練か。望むところだ」
今はただ信じるしかない。
だが、信じるのはニンゲンどもではない。
親友の言葉だ。
「そのいきだ。この下半身はオレたちの元の身体より頑丈だ。今までよりも力強く大地を踏みしめ、水や養分を吸収することができる。さらに、病気にも強いと至れり尽くせりだ」
それは、吾輩たちにとってはメリットだ。
だが、下半身の元の持ち主にとっては逆だろう。
「あらゆる面で、吾輩たちより優秀な生命体ではないか。なぜニンゲンたちは吾輩たちではなく、そいつらを生かさないのだ」
それを考えられずにはいられない。
自殺願望はないが、弱肉強食は自然の摂理だ。
「さあな。やつらの考えることは分からん。だが、オレたちに都合のいいのは確かだ。せいぜい、それを利用させてもらうとしよう」
さすがに、そこまでは親友も知らないか。
なにかしら、吾輩たちの方を選んだ理由はあるとは思うのだが。
「そうだな。結論の出ない疑問を考えるより、そちらの方が建設的か」
犠牲の上に生かされているというのは気が引けるが、明日は我が身かも知れないのだ。
同情はしない。
吾輩にできることは、犠牲になったものたちを無駄にしないように、生き抜くことだ。
ニンゲンが吾輩たちの何に価値を見出しているかは分からないが、その価値を高めることが生き残ることに繋がるのだろう。
それを突き止めよう。
そして、それの一番になろう。
吾輩の目的は決まった。
一番になって、吾輩の価値を認めさせてやる。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
行かないで、と言ったでしょう?
松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。
病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。
壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。
人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。
スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。
これは、春を信じられなかったふたりが、
長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる