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サマー・ベジタブル
であい(その2)
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夜。
ウトウトとしながらも、肌寒い空気のせいで、どうも熟睡できないでいた。
浅い眠りの中、微かな声が聞こえてくる。
くすん……くすん……。
すすり泣くような声だ。
怪談のようなシチュエーションに背筋がひんやりする。
眠りたいという想いに反して、意識がはっきりとしてくる。
「くすん、くすん」
どうも小娘が泣いているようだ。
幽霊などではなかったらしい。
さて、どうするか。
「ぐす……」
泣いているのを放っておくのは趣味ではない。
だが、昼間のやりとりを思い返すと、声をかけるのが躊躇われる。
しばらく泣き声に気づかないふりをしていたが、一度気づいてしまうと、そのまま無視して寝ようにも気になって眠れない。
「泣いているのか?」
仕方なく話しかける。
「!」
小娘の反応は劇的だ。
「な、なんでもないわよ」
慌てたように言葉を返してくる。
「なんでもないなら泣くな、うっとおしい」
正直に今の心情を語る。
「うっとおしい!? この、わたしが!」
本当のことを言っているのに、なぜか小娘は不満そうだ。
「安眠妨害だ。夜中くらい静かにしろ」
ご近所トラブルというのは、こういうところから始まるのかも知れないな。
「安眠妨害!? 悪かったわね! 静かにするわよ!」
静かにすると言ったわりに、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
だが、先ほどのような心細そうな声ではない。
ふむ。
先ほどは気になって眠れなかったが、今はただうるさいだけだ。
ちょっと我慢すれば、眠れそうだ。
「ちょっと聞いてるの? ねえ!」
気になったことが解決されて、忘れていた眠気が襲い掛かってきた。
「……ぐぅ」
そのまま吾輩は夢の世界に落ちていった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「ふあぁ」
光を感じて夢の世界から帰還し、思いっきり空気を吸い込む。
昨晩は、よく眠れた。
眠り始めは小娘の声が気になったが、その後は快眠だ。
朝の運動とばかりに手足を伸ばす。
そこで、ふと視線を感じて横を見ると、小娘が恨めしそうな表情でこちらを見ていた。
「……おはよう」
朝から辛気臭い声で、朝の挨拶をしてくる。
「うむ、おはよう」
こちらも挨拶を返す。
それにしても、どういう風の吹き回しだろう。
小娘の方から挨拶をしてくるとは。
だが、いいことだ。
挨拶は大切だ。
近所付き合いも挨拶から始まると言っても過言ではない。
「昨晩はその……夜中にうるさくして悪かったわね」
ふむ。
少しは礼儀をわきまえているらしい。
ならば、昨日のことは水に流してもいいだろう。
「ん? 夜中にメソメソしていたことか?子供がホームシックになったくらいで、目くじらを立てる吾輩ではない。気にするな」
そう言ってやる。
大人としては、器の大きさを見せねばなるまい。
「メ、メソメソしてないし! ホームシックでもないし!」
ムキになって否定してくる。
ようするに、この小娘はまだ子供なのだろう。
そう考えると、子供が大人ぶっているようで、微笑ましい。
昨日の無礼な態度も許せるというものだ。
生暖かい目で見守ってやろう。
「だいたい、女の子が泣いていたら、普通、慰めるものじゃないの? いえ、泣いてないけど!」
話が支離滅裂だ。
これが感情的に話をする子供特有の思考か。
「しかし、泣く子は育つというしな。無理に泣くのを止めさせるというのは、違う気がするのだ」
長い目で見守ってやろう。
それが、大人の役目というものだ。
「そんな小さな子供じゃないし! いえ、泣いてないけど!」
自分で自分のことを子供じゃないというのは、子供であることの証明だ。
だが、それは別に治さなければならないものでもない。
子供の特権だ。
「まあ、年頃の娘が泣くのというのも、青春っぽくていいではないか」
せいぜい、今を満喫するといい。
青春というものは、一度通り過ぎれば、戻ってはこないものなのだから。
「うぐぅ……まあ、いいわ。わたしが花も恥じらう乙女というのは事実だから。合格にしておいてあげる」
なんだか良く分からないことを言う小娘。
まあ、これも思春期特有の思考から出てくる言葉か。
「それはどうも」
なにが合格なのかは知らないが、そう応えておく。
なんとなく態度も軟化したようだし、良しとしておこう。
あいかわらずツンツンしているが、昨日のように取り付く島もないというほどではない。
やはり、ご近所さんとの付き合いというのは大切だ。
これから長い付き合いになりそうだし、ぼちぼちやっていこう。
ウトウトとしながらも、肌寒い空気のせいで、どうも熟睡できないでいた。
浅い眠りの中、微かな声が聞こえてくる。
くすん……くすん……。
すすり泣くような声だ。
怪談のようなシチュエーションに背筋がひんやりする。
眠りたいという想いに反して、意識がはっきりとしてくる。
「くすん、くすん」
どうも小娘が泣いているようだ。
幽霊などではなかったらしい。
さて、どうするか。
「ぐす……」
泣いているのを放っておくのは趣味ではない。
だが、昼間のやりとりを思い返すと、声をかけるのが躊躇われる。
しばらく泣き声に気づかないふりをしていたが、一度気づいてしまうと、そのまま無視して寝ようにも気になって眠れない。
「泣いているのか?」
仕方なく話しかける。
「!」
小娘の反応は劇的だ。
「な、なんでもないわよ」
慌てたように言葉を返してくる。
「なんでもないなら泣くな、うっとおしい」
正直に今の心情を語る。
「うっとおしい!? この、わたしが!」
本当のことを言っているのに、なぜか小娘は不満そうだ。
「安眠妨害だ。夜中くらい静かにしろ」
ご近所トラブルというのは、こういうところから始まるのかも知れないな。
「安眠妨害!? 悪かったわね! 静かにするわよ!」
静かにすると言ったわりに、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
だが、先ほどのような心細そうな声ではない。
ふむ。
先ほどは気になって眠れなかったが、今はただうるさいだけだ。
ちょっと我慢すれば、眠れそうだ。
「ちょっと聞いてるの? ねえ!」
気になったことが解決されて、忘れていた眠気が襲い掛かってきた。
「……ぐぅ」
そのまま吾輩は夢の世界に落ちていった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「ふあぁ」
光を感じて夢の世界から帰還し、思いっきり空気を吸い込む。
昨晩は、よく眠れた。
眠り始めは小娘の声が気になったが、その後は快眠だ。
朝の運動とばかりに手足を伸ばす。
そこで、ふと視線を感じて横を見ると、小娘が恨めしそうな表情でこちらを見ていた。
「……おはよう」
朝から辛気臭い声で、朝の挨拶をしてくる。
「うむ、おはよう」
こちらも挨拶を返す。
それにしても、どういう風の吹き回しだろう。
小娘の方から挨拶をしてくるとは。
だが、いいことだ。
挨拶は大切だ。
近所付き合いも挨拶から始まると言っても過言ではない。
「昨晩はその……夜中にうるさくして悪かったわね」
ふむ。
少しは礼儀をわきまえているらしい。
ならば、昨日のことは水に流してもいいだろう。
「ん? 夜中にメソメソしていたことか?子供がホームシックになったくらいで、目くじらを立てる吾輩ではない。気にするな」
そう言ってやる。
大人としては、器の大きさを見せねばなるまい。
「メ、メソメソしてないし! ホームシックでもないし!」
ムキになって否定してくる。
ようするに、この小娘はまだ子供なのだろう。
そう考えると、子供が大人ぶっているようで、微笑ましい。
昨日の無礼な態度も許せるというものだ。
生暖かい目で見守ってやろう。
「だいたい、女の子が泣いていたら、普通、慰めるものじゃないの? いえ、泣いてないけど!」
話が支離滅裂だ。
これが感情的に話をする子供特有の思考か。
「しかし、泣く子は育つというしな。無理に泣くのを止めさせるというのは、違う気がするのだ」
長い目で見守ってやろう。
それが、大人の役目というものだ。
「そんな小さな子供じゃないし! いえ、泣いてないけど!」
自分で自分のことを子供じゃないというのは、子供であることの証明だ。
だが、それは別に治さなければならないものでもない。
子供の特権だ。
「まあ、年頃の娘が泣くのというのも、青春っぽくていいではないか」
せいぜい、今を満喫するといい。
青春というものは、一度通り過ぎれば、戻ってはこないものなのだから。
「うぐぅ……まあ、いいわ。わたしが花も恥じらう乙女というのは事実だから。合格にしておいてあげる」
なんだか良く分からないことを言う小娘。
まあ、これも思春期特有の思考から出てくる言葉か。
「それはどうも」
なにが合格なのかは知らないが、そう応えておく。
なんとなく態度も軟化したようだし、良しとしておこう。
あいかわらずツンツンしているが、昨日のように取り付く島もないというほどではない。
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