美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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サマー・ベジタブル

いとなみ(その5)

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 あれから本格的に暑くなってきた。
 だが、不快ではない。
 どうも、吾輩は暑さに強いようだ。
 そして、それは小娘も同じらしい。
 吾輩と小娘は子宝にも恵まれ、充実した日々を送っていた。
 なにも不満はない。
 そんなときに思い出すのは、昔のことだ。

「今頃、どうしているのだろうな」

 かつて共に過ごし、夢を語り合った親友のことだ。
 もはや会うことは叶わない。
 忘れたわけではないが、寂しさに押しつぶされないように、考えないようにしていたのは確かだ。

「誰のこと?」

 独り言のつもりだったのだが、聞こえたようだ。
 まあ、別に隠したかったわけではない。
 二人でいるのに一人で物思いに耽るのも相手に対して失礼か。

「もしかして浮気!?」

 それに放っておくと、変な方向に行きかねない。

「昔のことを思い出していただけだ」

 軌道修正しておく。

「元カノ!?」

 だが、失敗した。

「親友だ」

 もう一度、軌道修正しておく。

「ふぅん」

 疑わしそうな視線を向けてくる小娘。

「嘘は言っていないぞ」

 言い訳でもなんでもなく、事実としてそれを伝える。
 第一、移動できない身で、浮気もなにもないだろう。

「別に……夫の浮気を気づかない振りするのも、良い妻の条件だと思うし」

 それに対して、小娘は理解のある妻といった反応だ。

「だから嘘じゃないと言っているだろう」

 本当のことを言っているだけなのに、なぜか浮気の言い訳っぽくなってしまう。

「冗談よ。でも、なんだか……すごく優しい顔をしてたから」

 そうか。
 そんな顔をしていたか。
 親友のことを思い出すとき、もっと違う表情をしているかと思ったのだが、時の流れが感情を別のものに変えてくれたのかも知れない。

「大切なひとだったのかなって思って」

 小娘がそんなことを言ってくる。

「まあ、それは間違いではないが」

 親友が大切なのは事実だ。

「やっぱり浮気!?」

 だが、どうも小娘に上手く伝わっていないようだ。

「違う! 全然冗談と思っていないではないか、まったく」

 そう思って反論したのだが、次の瞬間には小娘の表情が、ぱっと変わる。

「あはは」

 どうも、からかわれたようだ。
 最近、小娘の思考も読みづらくなってきた。
 昔はもっと単純で読みやすかったのだが。
 大人になったということだろうか。

☆★☆★☆★☆★☆★

「親友は子孫を自由の世界に解き放つのが夢でな」

 小娘がねだるので、親友の話をしてやっている。

「好き好んで子供を厳しい環境に送らなくてもいいと思うけど」

 まあ、そういう考え方もあるだろう。

「今思うと、親友は自由に憧れていたのではないかと思う。せめて、子供に自由を与えたかったのではないだろうか」

 昔は過去を振り返るのは女々しいものだと考えていた。
 しかし、過去を思い返すと、新たに見えてくるものもある。
 自分では分からないが、吾輩も大人になっているのだろうか。

「共感はできないけど、否定もできないわね。世界はわたしたちが思っている以上に広いのは知っているもの。それを見たいと思う気持ちは、理解できなくもないわ」

 話を聞いた小娘の感想はそれだった。

「そうか」

 自分は共感できるのだが、小娘はそうではないらしい。
 だが、それを悪いことだとは思わない。
 未知の世界に対して、憧れを感じるか、恐怖を感じるかは、それぞれだ。
 それに、否定しないと言ってくれただけでも、嬉しい。
 理解と感情は違うからな。

「親友は夢を叶えることができただろうか」

 今にして思うと、当時考えていたよりも、はるかに困難な夢のように思う。
 こうして子供を残していると分かる。
 ニンゲンたちは吾輩たちを管理してくれるが、それは自由がないということでもある。
 恩は感じている。
 だから、それを不満とは思わないが、親友の夢にとっては障害になり得るとも思う。

「無理じゃない?」
「……」

 小娘の感想は正直だ。

「無理だと思うわよ」
「……難しいとは思うが」

 そして容赦がない。

「可能性は低いでしょうね」

 吾輩も薄々そうは思っているが、そんなにはっきり言わなくても。

「第一、まだ季節が早いわよ」
「……そうか」

 可能性があるだけ良しとするか。

「それにね」
「ん?」

 だが、小娘の言葉には続きがあった。

「叶わない方がいい夢もあると思うわよ」

 小娘の言葉とはいえ、それには反論したい。

「夢は本人の希望……望みだ」

 それを否定はできないだろう。

「それを否定するつもりはないわよ」

 そう答えてくれたことに安心した。
 だが、だからこそ疑問だ。

「なら、叶えて問題あるわけがないだろう」

 それが分からない。

「本人にとってはね」
「……」

 その言葉に答えが詰まる。

「本人は満足でしょうね。でも、残された子供はどうなるのかしら?」
「それは……」

 確かに吾輩は親友のことは考えていたが、その子供のことまで考えることができていただろうか。

「そもそも育つこと自体が難しいとは思うけど……仮に育ったとして、自分たちを自由だと感じるかしら」

 だから、答えに詰まった。

「自由の意味も知らないまま、わたしたちのいる環境に憧れを抱く可能性もあるんじゃないかしら」

 そういう観点もあるか。
 親友を知る吾輩は夢を応援したいとは思う。
 しかし、その夢が叶った後のことまでは考えていなかった。

「でも、それも子供たちしだいね。だから、わたしの言ったことも、あくまで考え方の1つよ。もしかしたら、自由と感じる可能性もなくはないと思うわ」

 そうだな。
 夢が叶った方がいいか、それとも叶わない方がいいか。
 それは親友と、その子供たちが決めることだろう。
 吾輩はただ良い結果になることを祈るだけだ。
 できれば親友と子供の両方にとって良い結果になればよいが。
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