美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

文字の大きさ
21 / 55
サマー・ベジタブル

いとなみ(その4)

しおりを挟む
「春か」

 これは吾輩も体験済みのはずだ。

「寒くも暑くもない、すごしやすい気候ね」

 確かに、そういう時期はあった。

「すごしやすい気候か」

 体験しているとイメージしやすいな。

「ええ」

 ここまでの説明は納得だ。

「……」

 続きを待つ。

「……」

 もう少し待つ。

「……他には?」

 待ちきれずに続きを催促する。

「……そのくらいかしら?」

 まあ、すごしやすいというのは重要なことではあるが。

「違うのよ! 他にも知ってはいるの! でも、それを説明しようとすると他のことも説明しなくちゃいけなかったり、わたしたちには想像しづらいことだったりして!」

 別に疑っているわけではない。

「大丈夫だ。分かっている」

 言い訳のように必死に言い募る小娘。
 吾輩は安心させるように言葉をかける。

「……ほんとに分かってる?」

 疑り深そうに、小娘が聞いてくる。

「ああ、無論だ」

 誰でも苦手なことはある。
 そういうことだろう。

「こほん! そして、次に来るのが夏よ」

 吾輩の返事に納得したのか、小娘が説明を次に移す。
 そうだ。
 もともとは、これが知りたかったのだ。

「暑い季節だな」

 ここまでくれば吾輩にも予想はできる。

「夏には台風が発生することが多いわ!」

 今度こそは、といった感じで小娘が知識を披露する。
 だが、ここで少し疑問が発生する。

「ちょっと、いいだろうか」

 説明を邪魔するつもりはないのだが、言葉を挟む。

「なに?」

 なんでも来いとばかりに、小娘が質問を受け付ける姿勢を取る。

「少し前に台風が来たよな? であれば、台風は春に発生するのではないか?」

 素朴な疑問だ。

「……」

 答えを待つ。

「……」

 もう少し待つ。

「……えっと」

 今度は吾輩が待ちきれなくなる前に、小娘が口を開く。

「うむ」

 答えを期待する。

「春にも台風は発生するわ」

 なるほど。

「そうか」

 そこまでは分かった。
 続きを待つ。

「……」

 もう少し待つ。

「……」

 もう少しだけ待つ。

「……それに、わたしたちは夏に強いから、暑いと感じるのが、ニンゲンより遅いのかも?」

 吾輩がしびれを切らす直前に答えが来た。

「なるほど。ニンゲンの体感で暑いのが夏か」

 矛盾はない。

「ええ」

 確かに、矛盾はない。

「そうか」

 矛盾はないので、それに反論はない。

「……」

 ないのだが……

「……」

 しばし、沈黙が訪れる。
 まあ、特に説明に不満はないが。
 なんとなく、もやっとする。

「ま、まあ、ここまでは、わたしたちも体験したり、今まさに体験している季節ね!」

 気を取り直すように小娘が説明を再開する。

「次が未知の季節である秋よ」

 どうやら小娘は、夏の先も説明してくれるようだ。

「秋……最後の季節だな」

 最初に季節は4つと言っていた。

「ええ。実りの季節と呼ばれているわ」

 それが特徴か。

「実り……」

 花の後につける実のことを指しているのだろう。
 それは予想ができる。
 吾輩と小娘も実を付けている。
 だから、それは分かるのだが。

「吾輩たちは、すでに実をつけているのだが」

 それが、疑問だ。

「あれ!?」

 またもや予想外の事実が判明したようだ。

「えっと……」

 まあ、博識な小娘と言えど、知らないことはあるだろう。
 説明が不十分だからと言って責めるつもりはない。

「まあ、ニンゲンが考えた定義だろう。なにか吾輩たちが知らない違いがあるのかも知れないな」

 そう納得しておいた。

「そうね」

 なんとか小娘が落ち込む前にフォローできたようだ。

「それに、わたしは……」

 だが、小娘の言葉が続く。

「ん?」

 なんだろう。
 なんだか、小娘の表情が暗い気がする。
 フォローに失敗しただろうか。

「ううん、なんでもないわ。秋は春と同じで、すごしやすい季節らしいわ」

 気のせいだったのか、次の瞬間には、小娘の表情はいつも通りだった。

「そうか、それを聞くだけでも、秋になるのが楽しみだな」

 だから吾輩は素直な感想を口にした。

「……そうね」

 だが、それに対する小娘の反応は、どうもよくない。

「?」

 小娘の意見を肯定したつもりだったのだが、なぜか小娘は寂しそうな表情を見せる。
 気になるが、なにを尋ねればよいかも分からない。
 何か気に障ることでも言ってしまっただろうか。

「秋かぁ……」

 憧れ?
 寂しさ?
 どうも表情が読み取れない。

 少しもやもやしたが、夏の心地よい陽射しを浴びるうちに、それも薄れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

『☘ 好きだったのよ、あなた……』

設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。 嫌いで別れたわけではなかったふたり……。 数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで 見つけ、声をかける。 そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。 お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。 そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。 「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」 真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...